AIイラストのためのCLIP STUDIO超入門 ③最重要ポイント『AI瞳』をレタッチしよう (Pixiv Fanbox)
Content
こんにちは、スタジオ真榊です。手の修正を紹介した「第2回」に引き続き、今回もCLIPSTUDIOを使った『AI瞳』の加筆修正についての特集です。メインキャラクターの瞳は、イラストを見た人が最初に視線を送る最重要ポイント。目の描き方は「画風」にも繋がるので、絵やキャラクターの個性を出しやすくなり、ここを簡単に描き直せるようになると、イラストの表現がぐっと広がります。
AIイラストのためのCLIP STUDIO超入門
▶【第1回】プランとペンタブ選び、初期設定、おすすめ素材まで
▶【第3回】最重要ポイント『AI瞳』をレタッチしよう
AIイラストはキャラの瞳孔がぼやけて溶けてしまうことがよくあり、NovelAI時代から「AIイラストかどうかを見分けるポイント」と言われていました。最近はモデルも急激に進化して、大きく描かれた瞳であればかなりきれいに描写することもできるようになってきましたが、それでも注目して見るとまつげが尖っていなかったり、視線がおかしかったりと、瞳孔以外にもおかしなポイントが見つかることは多いです。目はキャラクターに演技をつける上で非常に大事な場所なので、「まつげの描き方」「眉毛の描き方」「視線の動かし方」など、いくつかの要素に分けて詳しく書いていきたいと思います。
今回のテーマイラストはこちら。1536x3072pxで生成したそのままの画像を2枚並べて、目以外のおかしいところを簡単に直してあります。なぜ抱きまくら風なのかって…?そういう気分だったから…
目次
【序】目の構造を確認しよう
1.「催眠目」を描こう!
2.瞳孔を描き直そう(初級編)
3.瞳全体をレタッチしよう
・白目を塗りつぶす
・「クリッピング」機能を使って黒目を描く
・「合成モード」機能を使って影を描く
・黒目の線画を描く
・ベースカラーB(暗)を塗ろう
・ハイライトを入れよう
・瞳の映り込みを描こう
・印象的なカラーを置いてみよう
・「色調補正」で魅力をさらにアップ
4.完成図
終わりに
【序】目の構造を確認しよう
さて、まずはキャラクターイラストの瞳がどんなふうに描かれているか確認しましょう。もちろんAIモデルによってデフォルメ度は大きく違いますが、基本的にはこのような構成で描かれていると思います。
【黒目+白目=瞳】
この記事では、黒目と白目を合わせて「瞳」と呼びます。パキっとしたアニメ塗りの場合、黒目は明るいベースカラーAと暗いベースカラーBで塗られることが多いですが、複数色が混在したり、グラデーションしたりすることもあります。黒目の大きさや瞳孔の大きさ、視線の向きによって同じキャラクターでも印象をがらっと変えたり、演技をつけたりすることができるため、自由に黒目を描けるようになると表現の幅が大きく広がります。
実際の人体とは少し違いますが、黒目に放射状の模様が「虹彩」として描かれることが多いです。ほかにも、ベースカラーとは異なるカラフルなカラーや光をちりばめることで、リッチにみせることができます。
【ハイライト】
黒目の中央には濃い色の瞳孔が描かれますが、その近くに「ハイライト」と呼ばれる光が踊ることが多いです。キャラクターを照らす光が反射してきた一番大きいハイライトをこの記事では「大ハイライト」と呼ぶことにしますが、大ハイライトのほかにも小さなサブハイライトをいくつか入れて瞳を輝かせる手法もよく見ます。最近はハイライトを小さく、たくさん、色々な色で入れるのが流行してきているようですね。
ハイライトは向かって左上に入ることが比較的多いですが、他にもさまざまなパターンがあります。ハイライトのない瞳は虚ろに見えるので、「催眠目」「レ◯プ目」「虚ろ目」などと呼ばれます。
【まつげ】
まつげは省略されたりデフォルメされたりすることが多い個性ポイント。上まつ毛と下まつげにセパレートしていることもありますし、リアル調に近づくと目尻部分でくっつくことが多いです。下まつげを省略したり、「ちょんちょん」だけで描くことも多いようですね。
イラストにおいて目の輪郭をつくるまつげは、タレ目、つり目を表現する部位でもあり、時代によっても描き方に大きな流行り廃りがあります。
まつげは本当は何十本も生えているわけですが、イラストではせいぜい3~7本程度、大きな尖った三角形にデフォルメされて描かれることが多く、目尻に大きな三角が張り出すことが多いです。黒一色で描かれるだけでなく、まつ毛にもハイライトを入れたり、描き込みで毛流れを表現したり、赤や肌色をグラデーションのように入れることで、いきいきした透明感のある瞳に見せる手法も見られます。
▲ポン出しの「AI瞳」の例
【影】
平面に描かれてはいますが、目は実際は球体で、その上下をまぶたという立体物で覆われているわけですから、さまざまな位置に影ができます。最近は白目を二色に塗り分け、上半分をグレーに塗る手法がよく見られます。
下まつげの下に暗い影を落とすと、ぐったりと弱っている(病んでいる)雰囲気を出せたりもします。
【まぶた】
目頭の上のところに一本横線を入れて、二重(ふたえ)を表現することもよく行われます。ぱっちりした瞳の印象になりますし、目を細めてまぶたの線を半円状にすると、いわゆる「ジト目」にすることもできます。一本線だけで表現する場合もあれば、その線に影を入れてより立体的に見せることもあります。
瞳やその周辺の構造は、ものすごくざっくり書くとこのようなつくりになっています。デフォルメ度合いによっては一部省略されることもありますし、画角が変わるとそれぞれの形は変化しますが、おおむね上記のようなルールで描かれていることを前提に、さっそくレタッチ方法を見ていきましょう!
1.「催眠目」を描こう!
というわけで、まずは表題のイラストを催眠に掛かった感じの虚ろな瞳にしていきましょう!
いやいや、ふざけているわけではなく、瞳のレタッチの基本講座は「ハイライト消し」から始めるのが大変オススメなのです。まずは前回やったように、AIイラストのレイヤーに間違えて描きこまないよう「🔒」アイコンでロックを掛け、「新規ラスターレイヤー」で新しいレイヤーを作ります。このレイヤーの名前は「瞳」としておきましょう。(この説明で作業内容がわからない方は、前回の記事をもう一度ご参照ください)
こちらのイラストの瞳をレタッチしていきます(▼)。こう見ていただくと、このイラストはベタ塗りのアニメ画像ではなく、少し水彩や油絵に近いイラストタッチ寄りの絵であることがわかるかと思います。
これからハイライトを消すのですが、フラットなベタ塗りではないイラストに「ベタ塗りペン」でレタッチするとその部分だけ浮いてしまうので、なじませるために「エアブラシ」を使っていきます。「塗りつぶしたい部分の塗りがフラットでないときは、ベタ塗りでなく柔らかいブラシを使う」とおぼえておきましょう。
エアブラシのツール画面を開くと、このようにいろいろな種類がありますが、ここでは比較的固めの「ハイライト」で塗りつぶしました。もっと柔らかく消したいときは「柔らか」を使うとよいでしょう。上のイラストで言うなら、肌の赤み(blush)を消して肌色を一色にしたいときは「柔らか」で塗りつぶすとうまくいきます。
はい、このように白く光っている丸いハイライトを雑に塗りつぶしました。色は前回説明したスポイトツールで、すぐとなりの紫色を拾ってきただけです。雑塗りなのでアップだとやや変に見えるかもしれませんが…
引きでみれば、バッチリ「催眠目」になっていますね。
これは誰にでも一瞬でできる最も簡単な加筆方法であり、どんなレタッチもこの延長線上にあると言えます。また、ほんのわずかな範囲を塗っただけでイラスト全体の印象が大きく変容したこともわかるかと思います。瞳はイラスト全体から見ればごく小さな範囲ですが、少しの変化で非常に大きな効果があるので、レタッチしていて最も楽しい部分ではないでしょうか。
とはいえ、上のアップの画像でみると、まつげや瞳孔などまだまだ変な部分がたくさん。順番に直していきましょう。
2.瞳孔を描き直そう(初級編)
今度もめちゃくちゃ簡単。瞳孔を塗り直しましょう。先程と同じ画像ですが、このように瞳の中央の一番暗い部分がぼやけてしまっていますので、中央の濃い色を拾って、ベタ塗りペンでできるだけ丸く塗りつぶしてみます。
現在瞳孔らしきものがある場所からできるだけずれないように塗っていきます。さきほどはエアブラシを使いましたが、そうすると瞳孔のふちがはっきりしないので、ここでは塗りつぶしツールを使ってぐりぐりと塗り潰しています。向かって右の目は、もとの崩れた瞳孔が少しはみ出してしまっていますね。ここは別のレイヤーをすぐ下に作って、エアブラシで紫に塗りつぶして消してしまいましょう。
はい、このようにはみ出た部分をきれいにしました。瞳孔の位置・大きさは非常に重要で、少しでも正しい位置からズレてしまうと、焦点がずれているように見えてイラストの魅力を毀損してしまいます。アップで見ていると視線のズレに気づけないので、何度も引きの絵で確認し、ずれていると感じたら「移動」ツールや「ゆがみ」ツールで位置を調整しましょう。
<ちょっと脱線:瞳孔の描き方いろいろ>
ここでは瞳孔をただ雑に塗りつぶしただけですが、キャラクター絵の目は瞳孔ひとつとっても無数の描き方があります。例えば、瞳孔を真っ黒でなく、中央を白で塗る方法もあります。
最近流行したマクドナルドCMのキャラクターはこういう特徴的な瞳孔をしていましたね。瞳孔が大ハイライトも兼ねたようなマンガ寄りの表現になっています。
瞳孔が開いている、つまり驚いている表情をつけるときにもこういう表現は使えそうです。
瞳孔を尖らせたり、細らせたりすると、冷たい瞳を演出することもできます。ちょっと魔族っぽい感じになりますね。このあとで触れますが、瞳孔だけでなく黒目全体の大きさも印象を大きく変えるので、いろいろ試していきましょう。
3.瞳全体をレタッチしよう
さて、ここまでは初級編でしたが、いよいよ本格的なレタッチ方法に入っていきます。次は黒目と白目を含めた「瞳全体をレタッチする」フェーズです。
・白目を塗りつぶす
さきほどはこのように瞳孔だけを直しましたが、周囲の紫色の部分は低劣なもやもやしたグラデーションになってしまっており、黒目のふちどりもきれいなラインになっていません。これを直すため、瞳全体を塗りつぶしていきます。
やり方は簡単。新たに「瞳全体」レイヤーを作り、そこに白目の色を拾ったベタ塗りペンで瞳全体を塗っていくだけです。白目にも影が落ちていますが、明るい方の色を拾ってすべて塗りつぶしてしまいます。
これはやや目頭を広く塗りつぶしてしまった感がありますが、あとで修正できるので気にしないこと。塗り残しがないか、AI絵レイヤーを消してみるなどしてしっかり塗りつぶしましょう。まつ毛へのはみ出しも注意。
はい、両方塗ることができました。影がなくなってしまいましたが、あとで簡単に塗れるので気にしなくてOK。このとき、白目は完全な「真っ白(#FFFFFF)」で塗りつぶさないことをおすすめします。「それ以上白くできない白」にすると、あとで加工がしにくくなるためです。AIイラストの白目を塗っていた色を拾えば安牌かと思います。
・「クリッピング」機能を使って黒目を描く
ここから少し難しくなります。今度は黒目を自分の手で描きましょう。
「瞳全体」レイヤーのすぐ上に「黒目」レイヤーを作り、ベースカラーA(明るい方)一色で黒目の形に塗ってしまいます。元のAI絵と同じ位置でよければ、「瞳全体」レイヤーの不透明度を調整します。このように透かして本来の黒目の位置がわかるようにしましょう。
さてこのとき、色塗りをするときに超便利な機能「下のレイヤーでクリッピング」を使います。この位置にあるアイコンをクリックすると、「黒目」レイヤーの横にこのようなピンクの縦線が入りました。
これは何を意味しているかというと、すぐ下のレイヤーでなにかが描かれている場所にだけ、このレイヤーには絵を書くことができるというルールを課すことができるのです。つまりこのケースでは、「瞳全体」レイヤーで白く塗った白目部分以外にはみ出して何かを描くことはできなくなったということです。
もし「クリッピング」をせずに黒目レイヤーで塗るとこのようになってしまいますが、クリッピングをONにすると…
白目からはみ出していた部分を綺麗に隠すことができました。子供の時の塗り絵を思い出してみると、「塗りのはみ出しを機械的に防げる」って神ですよね…
この機能はこのあと影をつけるときにも大いに活躍するので、仕組みをよく覚えておいてください。レイヤーパレットのアイコンで「新規ラスターレイヤー▶︎下のレイヤーでクリッピング」の順にカチカチと押すだけ。いつでも無意識に出せるようにアイコンの位置を覚えておきましょう。
<超便利!透明ピクセルをロック>
ちなみに、わざわざ別レイヤーを作らずに同じレイヤー内ではみだしを防ぎたい場合は、ここにある「透明ピクセルをロック」アイコンを使います。
左の緑色に塗ったレイヤーの「透明ピクセルをロック」して、エアブラシで影を塗ったのが右です。このように、緑色で塗られた黒目部分以外の「透明ピクセル」に描き込みができなくなるので、ささっと影やハイライトを入れることができます。
ちなみに、ここではAIイラストの黒目の大きさをそのまま採用しましたが、黒目のサイズや位置は瞳のレタッチにおいて最重要と言って良いほど大切な要素です。
黒目を大きくするとより「萌え」な絵に近づき、小さくするとより「リアルで元気」な絵になります。ほとんど白目がない絵は可愛く見えますが「どこを見ているかわからないのでぼんやりした表情」に、ほとんど白目の絵は「眼力が強すぎて怖い表情」に見えるので、やりすぎは禁物です。
また、視線の向きを元絵から変更したい場合も、ここで黒目の位置を調整します。あとから黒目の位置を動かすこともできますが、劣化は避けられないので、この時点でしっかり黒目の位置を確定させることをおすすめします。
・「合成モード」機能を使って影を描く
今度は、同じクリッピング機能を使って瞳に影をつけてみましょう。黒目レイヤーの上に、さらに「瞳の影」レイヤーを作り、このようなレイヤー構造にします。
・↓「瞳の影」レイヤー:「下のレイヤーでクリッピング」ON
・↓「黒目」レイヤー:「下のレイヤーでクリッピング」ON
・「瞳全体」レイヤー:上の二つのレイヤーはこの範囲にしか描画されない
そうしたら、おもむろに塗りつぶしペンを開き、濃い目の灰色でザッ!と瞳の上半分を塗ってしまいます。
このようになっていればOK。このままだとピンクの黒目部分が塗りつぶされてしまっていますが、「瞳の影」レイヤーを選択した状態で、こちらの「通常」と書かれたプルダウンメニューをクリックして「ハードライト」に変えてみましょう。
するとこのように、影がちょうどよく白目にも黒目にも干渉して、ちゃんとした影らしくすることができました。影の濃さは不透明度で調整できます。
この機能は「合成モード」と言って、そのレイヤーの色の扱いを下のレイヤーに対してどのように影響させるかを決められる重要機能です。「通常」だと塗られた灰色の通りに絶対的に表示されていましたが、「乗算」や「焼き込みカラー」「ハードライト」「オーバーレイ」などにすると影色のように変化させてなじませることができます。他にも「加算(発光)」を使うと、明るい色で塗った部分が光を発しているように合成できるなど、非常に多用な使い道のある機能です。
AI絵のレタッチをしていく上で、今連続で紹介した「クリッピング」と「合成モード」の二つは欠かせない基本機能ですので、できるだけ早めに仕組みや使い道を理解しておきましょう。
・黒目の線画を描く
さて、ここまでは機械的作業でしたが、いよいよ瞳を自分の手で描いていきます。いまはこのようにピンク一色になっている黒目ですが、ここにもとのAI絵を参考にして、ふちどりをつけていきます。一番上の階層に「瞳線画」レイヤーを作りましょう。
使うペンは自由ですが、細くて入抜き(太い/細い)のある線を引きたいので、Gペンや線画ペン、「濃い鉛筆」などがよいでしょう。暗めの色をまつげなどから拾ってきて、さっそく縁取りと瞳孔を描いてしまいます。
コツは、線の太さを一定にせず、丁寧に描くこと。白目部分へのはみ出しが気になる場合は、ピンクの黒目部分に「クリッピング」すればOKです。
さきほどは瞳孔を「ベタ塗りペン」で塗りつぶしましたが、このように鉛筆風に塗ってみるのも面白いです。油彩平筆などを使ってみるのも良いですし、ここからは自由にブラシや色を選んで塗ってみて下さい。手塗りらしいタッチを残したいか、アニメらしいフラットな塗りにしたいかによって使い分けると良いと思います。
ちなみに、引きでみるとこのような感じです。現時点ではベースカラーAのみの塗りなので、まだちょっとクォリティは低めですね。
・ベースカラーB(暗)を塗ろう
さらにクォリティを上げていきます。最初の項目で説明した「ベースカラーB」を塗っていきましょう。これは、黒目の中の暗い部分のベースカラーです。「黒目」レイヤーのすぐ上に「ベースカラーB」レイヤーを作り、黒目レイヤーにクリッピングして、濃い紫色で塗っていきます。ブラシは自由ですし、形も自由ですが、基本は「M」の形に塗っていく方法がメジャーなようです。
黒目の下半分にバナナのような形にベースカラーAが残るイメージです。黒目の上半分にはまぶたの影が落ちていることをデフォルメ的に示しつつ、球体の下半分から瞳の色が透けて見える印象を、暗部を「M」の形に塗ることで表現しています。
ここは柔らかい消しゴムツールも駆使して、描きすぎたら削り、描きすぎたら削りを繰り返して自然なカラーをさぐりましょう。
右は雑ですが(スミマセン)わざとパキっとした塗りを入れようとしているところ。グラデーションがあるとないではだいぶ印象が変わることがわかります。
このように、さきほど少し触れた「虹彩」のようなものを描き込んでみても面白いです。これは、ベースカラーBを消しゴムで削ることで、下のベースカラーAを透けさせています。
引きでみるとこのような感じ。左右で印象が違いますね。
ここでは、このような形にしてみました。クリッピング機能のおかげで周囲にはみ出すことはないので、ブラシと消しゴムを使い分けながら思う通りの形に塗っていきましょう。
<ちょっと脱線:M字塗りでなくグラデーションもあり>
さきほどは筆で塗りましたが、ベースカラーBをグラデーションさせる方法も簡単できれいになります。
ベースカラー大きめの「エアブラシ(柔らか)」で、濃い紫色を選んでさっと一吹きするだけなのですが、実はやってみると問題が生じることがわかります。
あれ?確かに「黒目」レイヤーにクリッピングして塗っているはずなのに、なぜか白目にスプレーがはみ出してしまっていますね。
レイヤー構成を見てみましょう。まず、白目を塗った「瞳全体」に「黒目」がクリッピングされているのはOK。その黒目にいま「グラデーションカラー」をクリッピングしたはずなのですが、クリッピングレイヤーにクリッピングしたため、実質的にはその下の「瞳全体」にクリッピングした扱いになってしまっています。黒目レイヤーにだけクリッピングするにはどうしたらいいのでしょうか。
それはこのように、ペアにしたい「黒目」と「グラデーションカラー」のレイヤーを両方選択した状態(✓をクリックすると複数レイヤーを選べます)で、右クリックから「フォルダーを作成してレイヤーを挿入」を選びます。
するとこのように、二つのレイヤーがフォルダーでまとめられます。「クリッピング」を示すピンクの縦線が無効になっていることを確認してください。
そしたら、「下のレイヤーでクリッピング」ボタンを操作して、このようにします。
これはどういう意味かというと、まず「瞳全体」にフォルダー1がクリッピングされています。フォルダー1の中身のレイヤーはどれも、白目の範囲を超えて描写ができません。まず、黒目レイヤーが既に完成しており、「グラデーションカラー」レイヤーはそれだけにクリッピングされているため、さきほどのように白目部分に塗りがはみ出すことがなくなるのです。
ここではちょっと面倒な方法で「クリッピング」しましたが、さきほど解説したアイコンで「透明ピクセルを保護」すれば、もっと簡単に一つのレイヤーでグラデーションさせることができます。ベースカラーAとBの形は、瞳の印象を大きく変える要素の一つですので、いろいろ試してみてください。
・ハイライトを入れよう
さて、ここまで「催眠目」を引っ張ってしまいましたが、いよいよハイライトを入れてイラストに命を吹き込みます。「ハイライト」レイヤーを新たに作り、ここでは前回も使った「投げ縄塗り」ツール(『図形』の中にあります)を使って、明るい白で「円」を書き込みます。
オリャッ
最初の状態(▼)と見比べると、この時点で随分きれいに整えることができました。
まだ途中ですが、レイヤー構造はこのような感じになっています。特に「クリッピング」を使っている部分は順序が重要なので、間違えて動かさないように気をつけましょう。
【小技1:合成モード「加算(発光)」を使う】
ここでちょっと小技紹介。私はこのように、メインハイライトのほかに小さなサブハイライトを入れて不透明度を70%くらいに下げるのが好きなのですが、より輝いて見せるために、ハイライトのレイヤーの合成モードを「加算(発光)」に変えます。
するとわずかな差ですが、このように瞳が発光しているようなエフェクトを盛ることができます。特に右下のハイライトを上と見比べると違いがわかるかも。メインハイライトとサブハイライトを別レイヤーにして、明るさを変えても面白いです。
【小技2:色の入った「セカンドハイライト」を入れる】
これはさいとうなおき先生「技の書」直伝のテクニックで、メインハイライトの下に彩りの強い「セカンドハイライト」を入れることで、目の魅力をさらに上げる手法です。
方法はごく簡単で、紫なら補色の関係になる黄緑や水色あたりの色をメインハイライトの脇に重なるように置くだけ。
画面上部のメニューから「フィルター▶ぼかし▶ガウスぼかし」を使って、水色のハイライトをぼかしても面白い効果が出ます。
このように、ぼかし度合いを調整することができます。ぱきっとした色で置いてもよいですし、光の拡散のようにぼかしてみても印象的なので、好みでいろいろ試してみてください。「ガウスぼかし」を使ったぼかし調整は今後もいろいろな場面で使うので、覚えておくとよいでしょう。
・瞳の映り込みを描こう
ハイライトに似ていますが、ちょっと違うのは「瞳の映り込み」。強いライト照明が瞳に入ってカメラ方向に反射しているのがハイライトですが、こちらは瞳自体に他の風景が映り込んでいるのをデフォルメ的に表現しています。瞳の情報量は多いほどキラキラしますし、カラー要素も多いほど深みのある瞳にできます。ただ、野放図に盛りまくっているとごちゃごちゃになってしまうこともあるので、バランスが重要ですね。
ここでは水色を選択して、前回紹介した「角ペン」(四角い線が描けるペン)を使ってこのように描きこみました。「ソフトライト」の合成モードにして、不透明度も調整してちょうどよい透明感を出しています。さきほど紹介した方法で「黒目」レイヤーにクリッピングしてあるので、白目部分にはみ出しません。
これは何をデフォルメしているかというと、例えば窓の形が少し瞳に反射して映り込んでいるようなイメージですね。さほど深く考えすぎず、ハイライトと別に構造物らしき形を入れるとカワイイ!くらいに考えています。
瞳は球体なので、「ゆがみツール」で少し歪ませてみるのもよいですね。絵心がないのでうまくゆがませられなかった笑 【数カ月後の賢木より:ここは移動系でなく膨張系のゆがみツールを使えば曲面が表現できるところですが、数カ月前の賢木はアホなので逆方向に歪ませて凹凸が逆になっています】
・印象的なカラーを置いてみよう
こちらはベースカラーABとは別方向の色(オレンジ)を瞳の下部に置くことで、より深みのある瞳にしてみた例。「ハードライト」で不透明度を高めにして投げ縄塗りしています。
さらに、「ハードライト」で柔らかい白エアブラシを上から少しだけ吹くことで、瞳の下半分に透明感を出すことができます。
「瞳線画」で書いた縁取り部分をごらんください。これも小技ですが、硬めの消しゴムで放射状に消したり、柔らかく大きいサイズの消しゴムでふんわりぼかしてみています。黒目の縁取りに濃淡が出て、さらに瞳の透明度が増したように見えますね。
・「色調補正」で魅力をさらにアップ
さて、ここまでいろいろな色を置いて瞳の描写を増やしてきたわけですが、なにぶん我々は絵の素人なわけですから、いつの間にか色がくすんでいたり、没個性なカラーリングになっていることがあると思います。そういうときは「色調補正」を使ってより魅力的な色を模索してみましょう!
これは、瞳の中で広い範囲を占める「ベースカラーB」のレイヤーを選んで「色調補正」してみたもの。全体に見たときにミナちゃんの特徴である「紫の目」がちょっと弱いなと感じたため、より紫に寄せています。
具体的には、「編集▶色調補正▶色相・彩度・明度」の画面から、彩度と色調を操作しています。一度塗り終えた色を操作したいときに、この「色相・彩度・明度」はとても有用なツールです。
このように、色相を動かすと色合いを大きくずらすことができ、彩度を上げることでその色の鮮やかさをアップさせることができます。3つのバーを動かして、より魅力的な色合いを探っていきましょう。パッと見では何が魅力的なのか分からなくても、リアルタイムに動かしていると、素人でも「ストップ!」と言いたくなる瞬間があるんですよね笑 これもまさに好みの世界なので、いろいろ楽しんでみましょう。
色調補正はレイヤーごとにできるため、さきほど紹介したセカンドハイライトや映り込みの色もいろいろと試して魅力的なカラーを見つけるのがよいと思います。特に映えるのは「補色」の関係にある色。例えば「黄色と紫」「オレンジとブルー」「グリーンとピンク」のような、互いに引き立て合うカラーのことですね。ここで詳しく説明はしませんが、興味のある方は調べてみて下さい。
完成図
こちらが完成図。下が元画像です。
引きの絵でみるとこんな感じです。色々なカラーを入れたことで、紫系統のみだった当初よりも印象的な目にできたかな?と思います。何より、この作業はほとんど自分で線を引かなくてよいので、絵心がまたも関係ありません。色のセンスは求められるかもしれませんが、単純にピンクやオレンジ、水色といったビビッドな色を入れてみよう、くらいの感覚でも十分だと思います。
今回は「瞳」部分についてのみ触れましたが、次回以降はさらにまつげや表情の付け方についても触れていきたいと思います。
終わりに
さて、こちらは全体にレタッチを施した完成イラストです。左のイラストと同じ印象になるよう、右も瞳をレタッチしてみました。既にやることとカラーが決まっているので、こちらの作業時間はほんの5分程度でできます。
白目の塗りつぶしなど飛ばせる作業は飛ばしており、具体的には「黒目をベースカラーAで塗りつぶす」「黒い鉛筆ブラシで縁取り」「瞳孔をベタ塗りペンで描く」「黒目にベースカラーBを塗る」「オレンジのカラーと水色の映り込みを載せる」「ハイライトを入れて終了」という感じ。いったんこれを「ミナちゃんの目の塗り方」として決めてしまえば、今後統一感をもって描いていくことができると思います。
5分ほどあればキャラクターの統一感を出すことができるのであれば、無理やりAIで同一キャラを出すよりもずっと効率が良いですね!(もちろん目以外の容姿がそこそこ似ていれば、という条件付きですが)
そんなわけで、「AIイラストのためのCLIP STUDIO超入門」第三回は「最重要ポイント『AI瞳』をレタッチしよう」でした。目は絵でもっとも難しい部位なはずなのに、AIとクリスタを使えば素人でもいろいろ遊べることが伝わるといいな、と思っています。瞳だけで一回を使ってしまいましたが、次回は目の印象をもっと動かせるまつげについて書いていきたいと思います!
それでは、今日はこのへんで。スタジオ真榊でした。