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21:乗っ取られた心 「アイネっ!! どうしてしまったのです? アイネっっ!!」  惚けた目……涎の垂れた口元……火照りきった頬…… ラフェリアの操る樹木と共に歩み出してきたアイネは、しっかりした末っ子という印象からかけ離れた……だらしのない表情を作って姉達の前に姿を現した。 「アハ……お姉様だぁ♥ お姉様ぁ~♥」  まるで淫欲に溺れたラフェリアの顔を見ているかのよう……。まさか自分の妹にそんな顔をさせるとは想像もつかず、エリシアはしばし言葉を失ってしまう。 「まさか……妹ちゃんを巻き込むような魔法を放ったりなんてしないわよね? 優しい……エルフのお姉さん?」  最初の一撃ですっかり焼け焦げてしまい……もはや幻術も頼りにならないくらいに炭木と化してしまったラフェリアの偶像……。しかし彼女の声はその焦げた樹木から発せられている。 「ちっっ! あの目……アイネはチャームに支配されちまってるっっ!!」  様子の違うアイネを見てレファはそのようにエリシアに伝えるが、彼女は信じられないという顔で妹を見ていた。 「さぁ……その、魔法を詠唱しかけてる手を下ろしなさい……。いや……逆ね。手をそのまま“頭上高く”上げ続けておきなさい♥」 「えっ!? 」 「ほら……妹ちゃんの命がどうなってもいいの? 黙って従いなさい……さもないと……」  アイネの首元に突き立てられていたラフェリアの長細く尖った爪が、彼女の首筋を僅かに引っ掻き細い傷を作り血を流させる。それを見たエリシアは「だめっ!」と慌てて声を出し言われた通り魔法の詠唱を放棄し、マナを集めていたその両手を黙って頭上へ上げていった。 「アハハ♥ そう……いい娘ね♥ 大人しく言うことを聞けば……彼女に危害は加えないわ……♥」  エリシアが手を降参するように万歳させると、ラフェリアを模した炭木はゆっくりアイネの首から爪を離し彼女の背中をポンと一度だけ押してあげた。 「…………??」 「彼女に危害は加えないけど……彼女“が”貴女に危害を加えるかもしれないわよ……ね? アイネちゃん♥」 「……ほへ? ラフェリア……しゃま?」  アイネはなぜ押し出されたのか分からず顔を横に傾けて頭の上に疑問符を浮かべるが、彼女の次の仕事が何であるかはすぐさまラフェリアの声で伝えられ徐々に納得を示していく。 「ほら……目の前には貴女のお姉さんが悔しそうに奥歯を噛みながら両手をバンザイしてるでしょ?」 「……はい……」 「貴女のお姉さんは……私の事を倒そうとする悪いお姉さんなの♥ だから……懲らしめてやらないと……ダメででしょ?」 「ラフェリア様を……倒そうと?」 「そう……。悪いお姉さんには……反省してもらわないと……いけないわぁ♥」 「悪い……お姉様? 反省……」 「さっき……私にしたようにしてあげなさい♥ 今度は足裏じゃなくて……あの袖のない服から晒されてる……ワキに……ね♥」 「さっきしたように……。さっき……した……ように♥」  そこまで誘導されるとアイネはニヤリと口元に妖しい笑みを浮かべる。  そして両手の肘を曲げ前に出し……意味有りげに指をワキワキさせて実の姉に近づいていく。 「ま、まさか……アイネに……あれをやらせる気っっ!? ふ、ふざけないでっっ!!」  アイネが理解したようにエリシアもこれから何をされるのか悟り手を下ろそうとしてしまう。しかし、アイネのすぐ後ろをついて歩くラフェリアの偶像が爪を再び首後ろに突き立てたためエリシアは手を下ろせなくなってしまう。 「もしも……手を降ろしたら……この子の首をザックリ突き刺しちゃうから♥ だから……絶対下げちゃダメよ? 分かった? お姉ちゃんエルフさん? クフフフ♥」  さも楽しそうに……さも憎たらしく笑みを浮かべるラフェリア……。そして自分の命が脅かされているというのに嬉しそうな笑みを浮かべて近づいてくる妹……。エリシアはこれほど頭が真っ白になるくらいの混乱を覚えた試しがない。  手を下ろせばアイネは殺されてしまう。  しかしそのアイネ自身は嬉しそうにラフェリアの命令通りに動こうとしている……。  恐らく……いや、間違いなくアレをやらせるつもりだ。あの淫魔のやらせようとする事だ……手を下ろせないよう釘を打ったのだから後にやる事といえば“手を下ろしたくなるような刺激”を与えることに他ならない。 それを命が脅かされているアイネ自身にさせようとするなんて……狂っている。 自ら自分の首を絞める行為を妹にさせようとしていること自体が狂っている……。 「さぁ……アイネちゃん? もうやる事は……分かっているわよね?」  首筋に鋭い爪の先を当てラフェリアの半焼した傀儡がニヤリと笑みを浮かべる。 「お姉ちゃんは……この通り、貴女のために手を下ろさないようにバンザイしてるからぁ……。ほら、がら空きになっているでしょ? 綺麗な……綺麗な……お姉ちゃんの“ワキ”の部位が♥」 「はい♥ お姉様の……スベスベの“ワキ”……がら空きです♥」 「そのまま……手を伸ばしなさい♥ 悪いお姉ちゃんを懲らしめてあげましょ?」 「悪いお姉様を……懲らしめる……悪いお姉様を……この手で懲らしめる……」 「ひっっ!? や、や、やめて! アイネっっ! 正気に戻って!! 言うこと聞いちゃ……だめっっ!!」 「お姉様は悪いことをした……お姉様はラフェリア様に……悪いことを……した♥」 「そうよぉ♥ さぁ……お姉ちゃんのワキに……手を添えてあげなさい?」 「はい……ラフェリア様ぁ♥」 ――ピト、ピト、ピト♥ 「あひっっ!? や、やめっっっ!! やめて!! アイネっっっ!!」 「添えた手をどう動かしたらいいか……分かるわよね?」 「はい♥ ラフェリア様……」 ――ソワ♥ サワ♥ サワサワ、サワサワ♥ 「うひっっっ!!? や、やめなさいっっっ!! アイネっ! そんな触り方しては……ダメっっくふっっ!!」 「イイわぁ♥ その調子よ……次は爪を立てて腋の窪みをモミモミしてあげなさい♥ モミ……モミって♥」  「こう……ですか? モミぃ……モミ?」 「ふひぃぃぃぃっっっ!!? はひっっっ!! や、だっっっっくくくくくくくくくくくく!! くす……ぐったいっっっひっっ!!」 「そうそう……上手よぉ♥ じゃあ次はぁ~~ワキの少し下の方を握って?」 「……? こう……ですか?」 ――ガシ。ガシ…… 「いひっっっ!!? ちょっっっそこはっっっ待っ――」 「それじゃ、そこも……そのまま……モミモミ~~ってしてあげなさい♥」 「ここも……モミモミ~♥ こんな感じですかぁ? モミモミぃ~~♥♥」 「うぎひぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!? 胸の横はだめっっっ!! そこは……揉んじゃ……だめっっっっっ!! うくくくくくくくくくくくくく……」 「イイわぁ♥ もう少しで笑いそうよ? 頑張って、アイネちゃん♥ そこは弱いみたいだからとことん責めたげましょ♥ ほら……もっと強くモミモミしちゃいなさい♥」 「待っへ! これ以上はダメっっっへっっ!?」 「強く……モミモミモミぃ~~♥」 「ぴギっっっ!!? エひっっ!? ひっっっっっ!!!!」 「もっと強くモミモミよぉ♥」 「はぁ~い♥ もっと強くぅ……モミモミぃ♥♥」 ――コリコリコリコリコリ♥ 「ぷっっっぶはっっっっ!! ぅはぁぁぁぁっっっははははははははははははははははははははははは!! はひゃぁぁははははははははははははははははははははははは、やめへっっっ!! そこはやめへっっっっ!! いひぃぃぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!!」 「ほ~ら、お姉ちゃん……我慢できずに笑っちゃった♥ そこがとっても弱いみたいだから……もっと虐めてあげましょ♥」 「お姉様が笑ったァ♥ 私のコチョコチョで……お姉様が笑ったァ♥♥ アハハハハ♥」 「いぎぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、アイネ゛ぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへ、やめでぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへアイネぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」 「お姉様ぁ? 足をジタバタさせて暴れてはいけませんよぉ? コチョコチョしにくくなっちゃうでしょ……ほら……暴れないでください♥」 「えひっっひひひひひひひひひひひひひひ、フギャアァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、だっへぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへ、だっへ……こんなの無理ぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、耐えられないっっ!!」 「コチョ……コチョ♥ コチョ……コチョ♥ お姉様のワキ……とっても綺麗です♥ コチョコチョするの……とっても楽しい♥」 「ウフフ……そうでしょ? 楽しいでしょ? もっと楽しみなさい♥ ほら……今ならワキの窪みも敏感になったハズだから……上に手を戻してたっぷりコチョコチョしてあげなさい♥」 「はぁ~~い♥」 「わ、ワキ!? 今……ワキっっ!? ま、待って!! ちょっと待って!!」 「ほ~ら、お姉様ァ……笑ってください? こ~ちょ、こちょ、こちょぉ~~♥♥」 「ひぎっっっ!!? うひっっ!? うひひゃぁぁぁぁぁははははははははははははははははははははははははははははははははははは、待っててばぁぁ! フギャアァァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」 「モミモミ……コチョコチョ……♥ モミモミ……コチョコチョぉ~~♥♥ どうですかぁ、お姉様ぁ? アイネのこしょぐりはくすぐったいですかぁ?」 「ガハッッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハっっくしゅぐったいっっっひひひひひひひひひひいっひひひひっひひひひひひひひひひひひひ!! くしゅぐったいからぁぁぁははははははははははははははははははははは、やめて、やめてぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」 「嬉しい♥ あのお姉様が私の指に笑ってくれるなんて……。真面目なお姉様が私のくしゅぐりにゲラゲラ笑って下さるなんて……嬉しい♥」 「アイネちゃん、ほら見て? お姉ちゃんもとっても喜んでると思うわよぉ? 嬉しそうに笑ってるでしょ? お姉ちゃんも妹にくすぐられてとっても嬉しかったんじゃないかしら♥」 「ち、ち、違っっははははははははははははははははははは!! 違っっふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ、うひっっひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!! 嬉じぐないぃぃぃひひひひひひひひひひひひひひひ、嬉じぐないぃぃぃぃぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」 「あらあら……お姉ちゃんは素直じゃないのねぇ? アイネちゃん、素直じゃないお姉ちゃんに罰を与えてあげましょ♥」 「はひ? 罰ですかぁ?」 「そう♥ 脇腹モミモミこちょこちょの刑を執行してあげて♥」 「ワキバラぁ?」 「ひっっっ!! こ、今度は脇腹っっ!? や、やめ……だめっっっ!!」 「ワキバラは……ここかなぁ?」 ――ガシッ! 「うひっっ!! 待って、アイネっっ!! 待って!!」 「脇腹を……モミモミぃ~~♥♥」 「いひっっっ!!? うひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ、く、くすぐったいぃぃぃぃぃひひひひひひひひいっひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」 「脇腹をコチョコチョ~~♥♥」 「へぎっっひひひひひひひひひひひひひひひひ、いひゃあぁぁははははははははははははははははははははははははは!! うははははははははは、へひっえひぃぃっっ!! くるひっっ!! 脇腹はくるひぃぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」 「またモミモミぃ~~♥」 「くはっっはははははははははははははははははははははははは、やめでぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへ降ろしちゃうっっふふふふふふふ、手が降りちゃうっっっふふふふふふふふふふふふ!!」 「ダメよ♥ 手をおろしちゃダァ~メ♥ ほら……しっかり挙げなさい! それ以上降ろしたら……ズブリとイっちゃうわよ?」 「かひっっっひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、だめっっっ!! 刺さないでぇぇへへへへへへへへへへへへへへへっっ!!」 「またコチョコチョコチョ~~♥♥」 「くひぃぃぃぃっっひへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、フギャァァァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、えひひひひひひひひひひひひ、いひっっくひっっっっっっ!!」 「ほらぁ! また降りてきてるっ!! ダメでしょ? アイネちゃんが死じゃうわよぉ~? いいのぉ?」 「そうだよぉ、お姉様ぁ……私……死んじゃうよぉ? 死んでもいいのぉ?」 「そ、そ、そんにゃぁぁはははははははははははははははははははは、アイネぇぇへへへへへへへへへへへへ、目を覚ましてっっへへへへへへへへへへへへ、この手を止めてぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへ!!」 「ンフフ……やだ♥ こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ~~♥♥」 「うはぁっっっははははははははははははははははははははは、うひっっひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!! たしゅけてっっへへへへへへへへへへへへへへへへ!! もうダメッっへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」  「ほらぁ! 手を上げるっ! 下げちゃダメって言ってるでしょ!」 「だってぇぇへへへへへへへへへへへ、もう限界っっひひひひひひひ、もう限界ィィひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」 「脇腹もこちょこちょ~~♥ ワキもこちょこちょ~~♥ 肋骨の間もコリコリぃ~~♥」 「もうやだぁぁははははははははははははははははは、もう嫌っっ! もう嫌ぁぁぁははははははははははははははははははははははは!! うはぁぁははははははははははははははははははははははは!!」 「あぁ、楽しい♥ お姉様を私の手で笑わせていると考えるだけで……アイネはとても楽しい気分になっちゃいましゅ♥」  「アイネぇぇへへへへへへへへへへへ、もうやめでぇぇぇへへへへへへへへアイネぇっっ!! お願いっっひひひひひひひひひひひひひひひひ!! ンハァァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」  エリシアの悲痛な叫びは惚けた目をしたアイネには届かない。ただただ責め欲に従うだけ……脳内に直接届く指示に従うだけ……そして、姉を無様に笑わせているという優越感に浸り快感を得続けるだけ……。    アイネは心身共に奴隷に成り下がってしまっていた。  そんな操り人形と化した聡明だった妹に姉の言葉はいつまでも届かない……。叫べば叫ぶほど彼女は悦んでしまう。自分のくすぐりが、あの凛とした姉の像を崩し無様すぎる叫びを上げさせられているという成果に悦びが隠せない。  彼女が勝手に抱えていたコンプレックス……意識の奥の奥に引っ込ませて、決して表には出さないよう気をつけていたアイネの負の感情……。  決して姉には敵わない……魔力も美貌も……力も……知性も度胸も……全て自分にはなく、これからも得られることはないかもしれないという不安……そんな不安が、彼女の奥底には眠っていた。  今まで決して表には出さず従順な妹エルフという立場を守って生活してきた……。そのような負の感情を持ってはいけないのだと自分に言い聞かせてこの感情は押さえ込んでいた。  しかし、ラフェリアの強烈なチャームはそんな負の感情を存分に引き出し責め欲へと変えてしまう。  これまで押さえつけていた分だけくすぐりの手は強く早く意地悪に責め立てる。  かつてこのように意地悪な顔を浮かべるアイネは見たことがない。  このように意地悪な責めを繰り出すアイネを想像できた事もない。  彼女のコンプレックスが……彼女のくすぐりを強くする。  自分が殺されるかもしれないという状況を理解せず……ただひたすらに無防備な姉の上半身をまさぐって笑わせ続ける。 「ぶはっっっはははははははははははははははははははははっは、いひっっひひひひひひひひ!! そこだめっっっ!! アイネっっへへへへへへへそこだめぇぇぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」 「ココれすかぁ~? お姉様ァ? 肋骨の間をクニクニされるのが弱いのれすかぁ? ねぇ、お姉様ァ♥♥」 「や、や、やめでっへへへへへへへへへへへへへへへ!! ひっ!? ヒギャアァァァァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! 耐えられないっっひひひひひひひひひひひひヒヒヒ、そこはダメだってぇぇぇへへへへへへへへへへへへ!!」 「ダメなら……いっぱい意地悪してあげましゅ♥ ほ~~ら、コリコリコリコリコリ~~♥♥」 「エギャアァァァァアァァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! ホント無理ぃぃひひひひひひひひひひ、ほんとに無理なのぉぉぉほほほほほほほほほほほ、ヒギャアァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」  もはや腕を上げ続けるという行為を行えているかと言われれば疑問が残るくらいにエリシアの肘は曲がり腕は下がっている。  それでも、必死にワキの部位が開くように頑張って掲げようとする姿はアイネの後ろで見ているラフェリアを大層興奮させ、熱い息を零させるのに一役買っている。  身体をくねらせ、上げ続ける限界を迎え腕を何度も下ろそうとしては自分の意志で上げ直し……でも、すぐに下げようとしてしまう……。そのような“努力をしようと必死に足掻く者”をくすぐって邪魔をする光景というのがラフェリアの大好物である。 完全に拘束して苦しめるだけというのも嫌いではないが、こうして心理的な鎖で縛って拘束して……ジワジワと意志の力をくすぐりで削り取って最終的に屈服させる……そんな行為に倒錯的なエロティシズムを感じてやまない。ラフェリアとは……そういう淫魔なのである。 「くそっっ! 人質が取られていては手が出せねぇ……後ろに回って不意を突こうにも……視界に私も入っている以上妙な動きはすぐにバレちまう……。どうすれば……」  レファは周りを見渡し自分の状況を整理する。  手に持ったリボルバーには後、弾が2発……。予備の弾はない。  ベルトに装備していたワイヤーフックも、先ほどの奈落の罠でエネルギーを使い果たし使い物にはならない。  後は護身用の水銀のナイフをリボルバーとは逆の手に持って構えているだけ……。  体はラフェリアの奥義によってズタズタに切り裂かれ……特に脚は動けども素早く走り込むことは叶わない。  そもそもあの痒み成分を含んだ粘液が今だに痒くてたまらい! 立っていても足裏を地面に擦り付け、太腿をナイフの柄で掻いてどうにか痒みを和らげてるが、それを少しでもやめるとまた痒みがぶり返してくる。狂おしいほどの痒みが……。 「ちっっ! どうにかしないと……どうにか……」  レファがそのように焦りながら周りを見渡していると、奥の扉がガチャリと開く音が部屋の中に入れられる。 「んっ?? 誰か……入ってきた??」  奥の扉は薄暗くて視認することはできない。しかし、誰が入ってきたのかは背中越しで見えないはずのラフェリア自身の口から解がもたらされる。 「フフ……やっと完成したみたいね? ドクターメリッサ♥」  カツンカツンとヒールを響かせ歩く音が部屋の光源が届く範囲まで鳴り響くと、薄暗い闇の一片から白衣姿のメリッサの顔が浮かび上がる。 「お姉っっ!!?」  自分の姉が視認できたレファはすぐさま彼女に声を上げるが……メリッサは虚ろな目で不敵に笑い実の妹に返事も返さずラフェリアの背後へと歩み寄った。 「はい。ラフェリア様……。マルカスより伝えられたレシピ通りの配合を行い……ついに完成させました……」  メリッサの手には薄紫色の薬液が入った小さなガラスの小瓶が握られており……それが、あの“完成させてはならないハズの”霊薬であることをラフェリアに伝える。 「……やっと……私の悲願も達成されるわね……。コソコソ隠れる必要は……これで無くなるんだわ♥ “あの肉体”を不老不死にしてしまえば肉体が死ぬことを恐れる必要もなくなる……」  メリッサから受け取った小瓶を繁繁と眺め、うっとりした目でメリッサを見返すラフェリア……。小瓶を彼女に返すと軽く指を差し次の命令を口からこぼす。 「じゃあ……この薬を……“わたし”に飲ませてあげて? ほら……そこに拘束されているから……」  指を差した方には2つの十字架が立っていた。ひとつは先程までアイネが拘束され責め苦を与えられていた台……。そしてもうひとつは、今だに自分が召喚した蔦に全裸で拘束されたままになっている……彼女の意識が乗り移った本体。  黒い長髪を腰まで伸ばし、聖母のように美しい顔を淫欲に歪めながら熱い息を零している……ラフェリアの意識体が乗り移った本体の人間……。  彼女はリアと名乗ったが、彼女の本名はリアではない。  彼女こそがこの教会の司祭であり、マドレアを解き放った……ミゼル司祭その人だったのである。  それを知る人はこの中にはいない……。  ミゼル司祭と直接顔を合わせたのは、マルカスとマドレアだけだったのだから……。  偽名を名乗った本人ですら彼女の本当の名前は知らなかった。否、どうでもよかった……彼女にとって宿主の名前など、取るに足らない過去の固有名詞でしかないのだから。 「これで……牢獄に幽閉されている私の身体を取り戻せるっ! 不老不死の肉体にしたからには私のマナも無制限につぎ込めるっっ!! もう彼女の体を中継する必要もなくなるわ! 私は自由になるのよっッ!! 自由にっっ!!」  メリッサはそこに意思が宿っていないような目で、完成した薬液を手に持ちながら彼女のもとへ運ぶ。   「やめろっっお姉っっ!! そいつを渡しちゃダメだっっ!!」  レファは震える脚でしっかり地面を踏み直し、拳銃を両手で構え照準を歩いていく姉の手元に向ける。  しかし、手元は震え銃口はうまく定まってくれない。  そうこうしているうちに足の痒みも強まり余計に集中力を削がれていってしまう。 「あはぁ♥ させないっっ!! 絶対に……邪魔はさせないわよぉ!!」  アイネの首筋から爪を離したラフェリアの傀儡は、素早く羽根を広げ飛行の準備を整える。  レファの構えた銃口は未だしっかりとは姉の手元を狙いきれていない。 「くそっっ!! 集中できねぇっっ!! こんな時にっっ!!」  メリッサの歩はリアの……いや、ミゼル司祭の拘束されている十字架の裏に差し掛かろうとしていた。あと数歩進めば十字架の陰に隠れてしまい狙えなくなってしまう。そうなればもう遅い……届けられてしまう! あの薬を。 「レファしゃんっっ!! あの人がラフェリアですっっ!! あの拘束されているのが本物のラフェリアですっっ!!」  銃口が揺れ照準が定められないレファに、意識を取り戻したアイネがすかさず声を上げる。  ラフェリアの意識がレファに向き、チャームの効果が薄らいで意識を取り戻せたアイネはすかさず治癒魔法をレファの足元に詠唱する。皮肉にも姉を責め、淫欲を満たしたことによって僅かながらマナが蓄えられ最後の魔法を繰り出せた。その魔法はあまりにも微弱で脆弱……僅かなマナに比例するように僅かな治癒しか行えなかったが…… 「助かったぜアイネっ! 痒みが収まったっっ!!」  傷は治らなかったが、痒みや痛みは一時的に収まった。秒を争う戦いに挑んでいたレファに、その効果はてきめんだった。 銃口が安定し、照準がピタリと吸い付くようにメリッサの手に狙いがつく。 次に手を前に出した瞬間……その瞬間を息を止め僅かに待ったあと、勢いよく引き金を引くと…… ――パンッ!!  銃口から硝煙と発火した発火した光と破裂音が一斉に放出される。  そして光の帯を纏った一閃が狙い通りメリッサの差し出そうとしている手のひらに向かって伸び…… ――バスっっ!!  鈍い音と共に彼女の手のひらを打ち抜いた……と、思ったが……。 「っっ!!?」 「ざァ~んねんでしたァ~~♥」  弾丸はメリッサの手に届く前に、飛び込んできた淫魔の身代わりの胸を撃ち抜いてしまう。  撃ち込まれた弾丸は枯木の作用をすぐに発揮し、焼け焦げていた彼女の体をバラバラと崩させていく。  しかし、崩れゆく身体とは裏腹に、彼女の顔はなんともいやらしく笑い……霊薬を握っていたメリッサの手のひらを撃ち抜けなかったレファの絶望した顔を眺めながら最後に崩れ去っていった。 「くそっっ!! くそっっっ!!」  レファは崩れ去ったラフェリアの虚体の先にもう一度銃を構えなおすが……そこにはもうすでにメリッサの姿はなく、狙うべき標的はすでに十字架の影へと隠れてしまっていた。  そしてしばらくの沈黙が辺りを包み……不気味な静けさが僅かな間訪れる。 エリシアは手を挙げた間抜けな格好をやめ、十字架の影に目を凝らす。  レファは銃を構えたまま静かに狙いを定め……アイネは怯えるような目で十字架からはみ出ているリア(ミゼル司祭)の体を見入る。 「今まで身代わりとなって動いてくれて……ありがとう……木偶人形の私……」  静寂が静かな低い声で破られる。その声は重々しく……何かが地の底から生まれ出るような迫力を帯びていた。 「これからは……もう……隠れたりしない……。不死身になったこの身体に……本体を転移させて完全に成り代わってしまえば……後は……」  彼女の身体を拘束していた蔦が、1本1本潮が引くように彼女から離れていく。    全ての蔦が離れきると、フワリと地に足を付け……ラフェリアの意識体を入れたミゼル司祭がクククと笑いを零し3人の方をゆっくりと振り返る。 「淫魔界の女王に君臨し……この世界を私の餌場にしてあげるわ♥ あの霊薬を使って……死ねない人間から永遠に餌を搾り取って淫魔の世界を作り上げるの♥ どう? とっても楽しみでしょ? 笑顔の絶えない……絶対に笑顔の絶えない面白可笑しい国になると思うわ……クフ♥ クフフフフフフ♥ アハハハハハハハハハハハハ!!」  振り返ったリアの……ミゼルの目はすでに燃えるように真っ赤な目に変わっていた。  最初の部位転移がソレであることを象徴するように……不気味に、ひたすら不気味に赤く血走った目がそこには現れていた。

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