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14:奈落への罠 ――ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ! ンゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ……  やはりと言うべきか、当然と思うべきか……レファの予感は寸分の違いなく罠という牙を無防備な彼女に向けた。    出来れば予感が外れていればどんなに楽だったか……そう思っていてもその罠は止まってはくれない。この床の抜けた横壁を足先と指先だけで体を支え渡ろうとしているレファに容赦なくソレは襲い向かってくる。 始めは、横壁の溝に入れ込んでいた足の指に違和感が走ったことでそれが罠であったと悟らされた。 靴を脱がないとその溝に足先が入らない……穿いていた靴下も脱がないと足が滑って体が支えられない……。そういう理由から危険であることは百も承知していながらも彼女は靴を脱いで素足となった。 その素足の指先……。  溝の僅かなスペースに足指を踏ん張らせ、体重をメインで支えているその足指の先に……最初、ムズっとした違和感が彼女に伝えられた。  何か……細い棒の先端のようなものが僅かに親指の先に触れたかと思えば、次に反対の足の小指の横を撫でられるような感触を感じ始める。  そしてそれを感知し罠が発動したと感じた瞬間、足の甲に何かが複数乗っかるような刺激を受ける。まるで虫か何かが乗ってきたかのような感触……その想像は後に姿を見ることで“正解”であったと答え合わせがなされる事となる。 「くっっひっっっ!? な、なんだ? 足が何かに触られて……ムズムズするっっ!?」  彼女の足の甲に乗っているモノ……それはハリガネムシという魔界の妖虫である。  体は蟻のように小さいが生えている脚や手は針金のように固く細い……。そのためその虫が皮膚の上を歩き回るたびに独特の痛痒い刺激を生み、耐え難いむず痒さを与えてくる。  それが1匹や2匹ではなく複数匹……いや、レファには見えていないが数え切れないほどのハリガネムシが横溝には潜んでおり、彼女が足を差し込みに来るのを待っていた……ラフェリアのチャームによって命令付られた“とある行為”を行うために……。 「あひっっ! な、何匹いるんだよっっ!! この虫達はっっ!!」  ハリガネムシは次々にレファの素足に登り、トコトコ……トコトコ、と足の甲上を歩き回って彼女に不快な感触を与えて回る。  そしてある程度歩き回った虫は、その細い脚をレファの足の皮膚に突き刺し体を固定しその場に留まりはじめる。  蚊の針が刺しても痛みを発しないのと同様……このハリガネムシの足先は非常に細く尖っていて、刺しても痛みを感じる神経に感知されることはない。それをいい事に虫達は思い思いの場所に細い足を刺していき次々に体を固定させていく。 「くっっそっ!! 離れろっっこのっっ!!」  レファは堪らず片足を溝から抜いて足をブンブンと振り回して振り落とそうと試みる。  しかし、突き刺した足の頑丈さは想像以上で不安定な足場での足振りごときでは1匹たりとも振り落とす事など出来はしない。逆に指にかかる負担が大きくなりすぎてその足振り自体も危険だと彼女に悟らせる結果となる。 「くっっっ!! 急いで向こう岸につかねぇと……」  振り落とすことが困難だと理解したレファは、次々に足の甲に張り付いてくる虫たちに嫌な予感を過ぎらせ慌てて横移動を早めようと手に力を入れる。しかし、次の瞬間…… 「くひっっ!? ちょ、ちょっと待て!! 嘘だろっっ!!」  足の甲全体が一斉にムズムズムズっと痒くなり始め、レファの勢いを止めるのに一役買ってしまう。 「はっっひっっ!? ちょ! や、やめろっ!! くすぐったいっっっ!!」  虫達は足で体を固定した後、自由になっていた針金のように細い手でカリカリと足の甲の皮膚を引っ掻き始める。その明らかに固くてしなやかな爪楊枝のような物に引っ掻かれる感触は恐ろしくこそばゆく……レファは思わず再び足を引き抜いてその刺激から逃れようと足を振ってしまう。 「あっっはっっっひ!? はひぃぃぃ!! やめろやめろっっ!! そういう刺激……一番嫌いなんだよっっ!! くそっっっ!!」  勿論虫が離れることはなく、足を振っている瞬間すらもその虫はしつこく彼女の足の甲を責め立ててくる。  さすがに体重を支える指への負担が大きくなりすぎ、仕方なしに足を横穴に差し戻すレファだが……そんな彼女の足に溝の奥に待機していたハリガネムシ達が有無を言わさず群がり始める。 「っっひっっっっ!!? ま、待て!! まだ居たのかよっっ!! お、おいやめろっっっ!! こっちは無防備なんだぞっっ!!」  足の指先から登り……足の甲や足の側面をトコトコと歩き回って……徐々に足の横端へ進路をずれていき……そしてその虫達は彼女が今もっとも触られたくないであろう箇所へと回り込んでいく。    足指しか乗せられない横溝からはみ出し……宙に浮くように晒されている……足の裏へ。 「ば、ば、ばかっっ!! ソコはやめろっっ!! 力が抜けちまうっっ!! やめろってばっっ!! ソコは触るなっっ!!」  レファが青い顔をして嫌がっても、魔法の命令を受けている虫達は辿り着くことをヤメはしない。  1匹……2匹……と足裏をなぞって歩き回り、指定された箇所へと歩を進めていく。  その這い回る感触も耐え難くこそばいのに、あの細い手でなぞられると想像したら……レファは不安が先行し三度足を振ってそれをの逃れようと試みる。しかし、足を溝から抜いた瞬間手の力が抜けバランスを崩しそうになったためその抵抗を諦めざるをえなくなる。足指でしっかり踏みしめて体重を支える手の補助をしっかりしないと落ちてしまいかねない……。  だから諦めざるをえない……。 例えこの先どういう刺激が与えられるか分かっていたとしても……。  4匹……5匹……6匹……7匹…………。沢山のハリガネムシがレファの無防備な足裏に這い回る。  自分の位置を確認するかのように……責める箇所を間違えないように見定めるかのように……。  その小さな点で刺すように様々な箇所を刺激して回る虫の動きは、さしずめ足ツボや神経を刺激し敏感にして回る本番のための前準備行っているかのよう……。レファはこのむず痒い刺激にすでに口元が波立つように緩んでしまっている。 「はぁ、はぁ……やめろっっ!! こんな所でやる意味ないだろっ! お前の大好きな搾取だってこれじゃ出来ないぞ!! 無駄なことはやめてここを通してくれ!! 正々堂々と勝負しろっっ!!」  この声を聞いているとは思えないが、レファは必死にラフェリアに向かって声を上げる。このままいいように弄ばれればやがて力が尽きて落ちてしまう可能性だってある……そうはなりたくない! だから必死に語りかける……ここを黙って通せと……。  しかし、意志疎通の取れない虫達はレファの言葉を聞こうともせずに着々と準備を整えていく。  定められた箇所に細い脚を指して体を固定し……そして自由に動かせる手の部分をレファの足裏の皮膚に押し付けていき……そして一斉に…… ――カリカリカリカリカリっッ!! カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリっっっ!! 「えぎひっっっっっ!!? ぶはっっ!!」  足裏のあらゆる箇所を針のように細い腕を皮膚に触れさせ上下に擦らせて刺激を加え始める!  虫の細い腕でもその触られる感触は針金の先でガリガリと引っ掻かれているかのように確かな刺激感を受け取ってしまう。  針金のようにしっかりした硬さで細さだが、樹脂で出来ているかのようにしなやかで反発力も兼ね備えている。それはまさにこそばゆさを引き出すために作られた腕であるかのよう……。そんな腕に足裏の土踏まずや拇指球の膨らみやカカトや指の付け根なんかを同時に引っ掻かれたものだから、レファは堪らず…… 「ブッヒャッッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!!! あひゃああっぁぁぁぁははははははははははははははははははははははははははははははははははは、やめろぉぉぉほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほ、こそばいっっひひひひひひひひひひひひひひ、本当にこそばいってっっ!! ナハァッッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」  命懸けの場面であるにもかかわらず爆笑を強いられてしまう。 「ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ、バカぁぁははははははははははははははははははははははははははは、ズルいぞっっ!! そんなのずるいィィひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」  足裏全体を襲う“モゾ痒い”こそばし感……。特に体重を支えている足指の間や、つま先立ちをしているのに等しい格好であるため反り返るように張った拇指球の膨らみ部分をカリカリと刺激されると堪らない!  手の力が抜け体を支えられなくなったら死んでしまうという場面で、延命の要である体重を支える足をこのような刺激で嬲るなど非道にも程がある。  狡猾なラフフェリアの事だからこのような罠が張られているは分かりきっていたが……レファに選択肢など用意されていなかった。  どんな罠であろうとも乗り切るしか先はない……。責められている姉を一刻一秒でも早く助けるには迷っている時間などなかったのだから……。 「ぐ、ぐぞっっ!! こんな虫に負けてられるかっっ!! 渡らなきゃっっ!! ここを渡らなきゃっっ!!」  新たに靴を履かされたかのように素足に群がる虫の数はもはや数えられない。  しかし、彼女はこんな所で引き返すわけには行かない。進まなくてはならない……先へ……。 「はひっっ!? くくくっっんくくくくくくぅ!! ま、負け……らんねぇぇぇ!! 絶対……負けらんねぇぇぇ!!」  笑いを無理やり我慢し口を震わせながら無理やり自分を鼓舞し、1歩1歩溝だけで出来た道を少しずつ渡っていくレファ……。そんな彼女の頑張りに、水を差すかのように今度は上の溝から違和感が伝えられる。 「んくっっ!? う、う、うぞ……だろ?」  足同様体重を分散するように支えている手の指先……。溝の淵を指の力だけで掴んでいるその指に何かが乗っかるような感触を受ける。  その感触は紛れもなく……あの虫。ハリガネムシの脚が指先の皮膚をトコトコと登ってきている感触だった。 「くっ、はひっっ!! ま、待てっっ!! 手の方からも登ってくるなんて……聞いてないぞっっ!!」  右手の中指の上に乗ったハリガネムシはレファの声を聞くや否や手の甲に移り、力を込めているため血管の浮き出たその手の甲の上を自由に歩き回る。 「はひっっ!! やめろっっ!! 手の力が……抜けちまうっっ!! んっくふっっ!!」  足裏の刺激だけでも筋力の弛緩を招いているというのに、今度は手の力さえも抜かせようとしてくるハリガネムシ……。その意地悪な意思が実行されるのを証明するかのように、レファ指に次々に別のハリガネムシが這い上がってくる。  一瞬その次々に登ってくる虫のおぞましさに手を放してしまおうかと考えが過ぎってしまうが、すぐにその考えは撤回される。足とは違い手を放せば間違いなくバランスを崩して彼女は奈落へ落ちてしまう。そのイメージがレファには簡単に想像できたからだ。  手の甲のみならず手首や手のひらまで……満遍なく這い回って数を増やしていく虫たちにレファは足同様抵抗など何もできない。 されるがまま……為すがまま……やられるがまま……なのである。 「あひっっ!? ひゃめっっろ!! あひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! こそばいっっっ!! 手もこそばいぃぃぃぃぃっっっっひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!! だはぁぁーーっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」  必死に体のバランスを保とうと力を込め続けているレファの手に、無情な刺激が虫たちによって送り込まれる。  足裏のように強くガリガリと引っ掻く様な刺激ではなく、こっちはひたすらフェザーに……  いやらしさすらも感じるくらい手の先で皮膚の表皮を優しく撫でるその責めは、レファに思わず手を引かせたくなるようなおぞましい刺激だった。  手の指の間……指の横側……手の甲……親指や小指の横……そして手のひら……手首……。普段握手などで人の手同士で触ることはあれ、この様な柔らかい刺激を与えられ続けるという経験は皆無に等しい。ましてやこんな力を込めさせられている場面で撫でられるなど……今後も有り得ないことだろう。  経験がなかったからこそ、この刺激は耐え難い! 手を放せない状況だからかこそ耐え難くて仕方がない!  緊張した場面でこの力を抜かす責めがどれほど辛いものか……レファはそれを痛いほどに痛感する。 「や、やばいぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひ、マジで力が入んねぇぇっっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! 早ぐっっふふふ、早く渡らなきゃっっはははははははははははははは!!」  焦れば焦るほどにこそばゆさは増していく。  足裏への引っ掻きがレファの笑いを誘い、手への撫で上げが支える力を弛緩させていく。  もうこれ以上はジッとなどしていられない。早急に対岸を目指さなくては…… そう思っていた矢先、手を撫でていたハリガネムシの一部があらぬ方向へと歩みを始めた。 手の甲を通り過ぎ……手首の上を歩き進め……腕の内側へと回り込みそこを走る血管の筋に沿ってトコトコと数匹が縦一列になって下っていく。 「お、おひっっ!? まさか、嘘だろっっ!! そっちは……行ぐなっっ!! ダメだぞ!! 絶対……ダメ……そんなトコ行かせねぇぞっっっ!!」  虫たちが目指す場所に嫌な予感が走ったレファは顔を横に振って拒否感を強める。しかしそんな拒絶する彼女の事などお構いなしに虫たちは肘の裏を通り過ぎいよいよ二の腕まで歩みを進めた。  二の腕の柔肌を徐々に降りていくハリガネムシの数匹……。それらが目指している箇所は、背伸びをするように万歳して頭上の溝の淵をどうにか掴んでいる腕の根元……。  戦闘のために自分で袖を雑に切ったため切り口がバサバサになってしまっている袖口から見えている……“ワキ”。  袖口から天を突くかのように伸ばしきっているワキの部位を、その虫たちは狙って降りて行っている。わざわざ焦らすように腕の上を経由しながら……。   「やめろっっっ!! そこは反則だぞっっ!! そんなトコ引っ掻かれれば……」  仮に虫たちが到着し、足裏を責めている虫たちのように強い引っ掻きを行われたら……レファは耐えきる自信が持てない。  足裏ならともかく……伸ばしきったワキの柔肌をあのように強く引っ掻かれれば、どれほどくすぐったいか容易に想像ができる。 「い、い、急いで……早く対岸にっっっ!!」  虫たちが辿り着く前に対岸に着いてしまわなくてはならない。最低でも対岸を視界に収めるておかないと耐えきる自信はない。そのように気が急いてしまったレファは慌てて足と手を横にずらし壁を渡ろうとする。しかし、その焦りを汲み取った虫たちは彼女の行動を阻害するために責め手を強めていく。 「ひぎっっひひひひひひひひひひひひひひひひひ!? だひゃああぁあははははははははははははははははははははははははははは、ちょ、待てっっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! そんなに強く引っ掻くなぁぁはははははははははははははははははははははははははは!!」  足の裏を引っ掻くムシの手……その動きが素早さを増し、足裏の筋をこそばゆい刺激で埋め尽くしていく。  まるで樹脂製のブラシでゴシゴシと擦られているかのような刺激。その刺激にレファは改めて顔を天に向けながら大笑いを強いられ足を止めてしまう。  思い立って数歩の距離……レファの体は未だ対岸の見えない横壁の途中までしか進めていない。  戻りたくてももう戻るには随分来てしまった距離……進もうにも後どれくらい進めば対岸が現れるのかも分からない。 レファは後悔した。やはり考えなしに罠へ突っ込むのは……やめておくべきだった……と、深く後悔した。  そうこうしていると、虫の先頭を歩いていた1匹がついに腕の付け根へと辿り着く。正確には内側から肩へと進路を移しその肩の上を歩き始めたのだが……ここで、レファは少しの油断をしてしまう。  ラフェリアに限ってそのような希望を与えるとは思えないのは十分に承知していたが、絶望に染まる前に少しの光を見出してしまう。 「も、もしかして……狙いは……ワキじゃ……ないのか?」  次々に肩の上へ登っていく虫達の動きについついそのように思いを巡らせてしまったレファは、まだ責め場所が決まったわけでもないのにフゥと安堵の息を吐いてしまう。  しかし……やはりそこはラフェリアの操る虫……。彼女が安堵したのを見計らって、いやらしく方向転換を始める。 「へっ!? ひっっ!! う、うぞっっ!!?」  肩で止まるかと思っていた虫たちはそれぞれ様々な方向からレファのワキの部位へと回り込んでいく。  肩の回りをぐるっと回るように侵入したり、一旦服の袖に潜って胸の裏側から回り込んできたり、二の腕に引き返して今度は直接ワキの窪みへと降りてきたり……。それぞれが1点に集中して集まるように様々なルートを経てワキの窪みへと集結する。  希望を持った矢先に絶望へ落とされたレファは顔を真っ青に染める。  安堵し緊張も和らいでしまった彼女のワキに次々にこそぐり虫達が陣取っていく。  右も左も……どちらの腋にもビッシリと黒い虫たちが埋め尽くしウゾウゾと蠢いている。  もうそれだけでこそばゆさを感じてしまうレファだが、本当のこそばゆさはそのすぐ後に彼女に送られる事となる。  手を放せば絶望の奈落……。手の力が抜ければ闇の底へと転落してしまう……そんな危機的な状況でレファは笑い狂う事となる。  無情なる……ハリガネムシ達の責め苦によって……。

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