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8:淫魔と司祭の秘密 「最後の依頼は成功したのか失敗したのかは定かではありません……。なにせ……そのシルフォンという村はその直後に……」  神妙な面持ちで言い辛そうに言葉を紡ぐマリナに、エリシアは小さく「大丈夫、知っているから……」と声をかけ話の続きを促していく。 「依頼の成否は報告されていませんでしたから正確には分かりませんが……ただ、村を調査した記録によると……地下に幽閉されていたであろうマドレアの琥珀は“割れていた”と記されていました……ので……」 「――琥珀が割れていたのでしたら……成功したのでしょう……」 「そう……なりますよね?」 「逆に……母様が琥珀化から解放されてから村が襲われたっていう線の方がしっくりきますね……」 「つまり……こういう事ですか? マルカスという男がミゼル司祭に琥珀化の解除を依頼し……依頼が成功した瞬間村を滅ぼした……と?」 「滅ぼしたのはラフェリアの方だと思うぜ? あの男にエルフの村を滅ぼす力や財力なんてない……」 「っという事は……ラフェリアを召喚したのは……マルカスという事になりますか?」 「召喚した? アイツが?? ただ……出会ってつるんだって訳じゃないってのか?」 「はい。私……気になって“ラフェリア”という淫魔についても調べてみたんです……」 「…………」 「彼女は変癖種という変わった性癖を持った淫魔で、通常の淫魔よりも魔力が強いとされています……」 「それは……本人から聞いたわ。くすぐって笑わすのが好きな変態だって……」 「えぇ……ですので、淫魔界でも異端の存在であり……その強大すぎる魔力を恐れた同族は彼女を“永劫霊獄”という牢獄へと幽閉したそうです」 「永劫……霊獄?」 「未来永劫……霊体にでもならない限り誰もそこからは逃れられない事からそう名付けられた淫魔界いちの牢獄……。そこへ捕らえられ、魂が尽きるまでそこで一生を過ごすことを強いられた彼女ですが……」 「まさか……ヤツがそこから解き放ったってのか? あの淫魔を……」 「いえ、彼女の肉体はまだその牢獄の中に有ります……」 「どういう事? じゃあ……今、ラフェリアがこの世界に居るっていうのは矛盾が……」 「これは推測ですが、その男はラフェリアの意識体だけを召喚したのだと思います……」 「意識体……だけを?」 「彼女の魔力は現在の淫魔の女王をも凌ぐと言われています……ですから例えば……意識体だけでも寄り代に憑依させることができれば……」 「淫魔の女王って……彼女以外にもいたんですね?」 「ラフェリアは自分で女王だと勝手に名乗っているだけです。恐らく自分の力が女王よりも優っていると知っているから……」 「だから幽閉されたんだろうな……女王の脅威になるかもしれない奴だから……」 「えぇ……詳しくは分かりませんが恐らくは……」 「待って! って事はその意識体を召喚した寄り代って……」 「これも実際に記録には載っていないので想像の域を出ませんが……。そのマルカスという男は琥珀化の解除を見届けた段階でミゼル司祭を犠牲にしてラフェリアを召喚したのではないかと思います……」 「ミゼル司祭を犠牲に??」 「意識体をこの世界に留まらせるには寄り代となる肉体が必要となります。女性という性質上男性を寄り代に出来ないとするならば……必然的にその場に居たであろう女性は二人だけです」 「解放された母様か……ミゼル司祭か……って事ね?」 「はい。しかし、エルフの巫女でもある貴女の母親は魔に対しての耐性が備わっています……ですので実質憑依できるのは……」 「ミゼル司祭だけってわけか……」 「そうです。私はミゼル司祭と面識はありませんでしたので、どのようなお姿をされていたのかは存じていませんが……」 「じゃあ、今……ミゼル司祭を名乗っているあの女は……」 「母様の可能性が……高いということですか……やはり……」 「やはり? お前……分かってたのか?」 「いえ……レファさんの話を聞いていて何となくそう感じてました……」 「私の話?」 「転移魔法を3人に使ったというあの話……それを聞いた瞬間、嫌な予感はしてました……」 「さっきのあの話か? 人間じゃ……不可能だって言った、あの……」 「えぇ。うちの母様の得意魔法だったんです……転移魔法……。3人くらいなら瞬間移動させるくらい造作もないかと……」 「成程……だとするならしっくりくるな……。あの化け物じみた魔力は人間でなくエルフ……お前の母ちゃんだった……」 「そして、今……ラフェリアの精神はミゼル司祭の体を借りている……」 「まだ仮説の段階ですが……恐らくそういうカラクリなのではないかと……」 「じゃ、じゃあ……今まで私たちが見てきたあの淫魔らしき姿をした身体は……」 「それはさっきも言っただろ? あの身体はただの樹木だったって……。つまりは……自分の寄り代が人間であり弱くて脆いという事を悟っているから代わりを作って操っているのさ……ただの樹木に誘惑(チャーム)をかけ続けて周りには淫魔の姿に見えるように……な」 「ずっと……チャームを掛け続けている? ずっと……ですか?」 「そうまでして自分の身を安全な場所に留めておきたかったんだろう……よほど牢獄へ戻るのは嫌なんだろうぜ? やつも必死なのさ……」 「遠隔搾取……が出来るということは、遠隔でチャームをかけ続けることも……可能というわけですか……」 「あぁ。だからミゼル司祭とやらの本体は誰にも見つからない所に隠してあるはず……」 「その本体を探し出さないと……ラフェリアは討てない……と……」 「成程……いい情報を貰ったぜ。さすがうちのお姉だ……あんたを脱出させて正解だったってもんだ!」 「あ、あの! そのお姉さんですが……」 「ん?」 「多分……今……まずい状況に晒されていると……思います……」 「は? まずい……状況??」 「私を逃がしたあと、ミゼル司祭……ではなくてエリシアさんのお母様に見つかってしまって……」 「なっっ!? じゃ、じゃあ……なんであんたは無事に出てこれたんだよ! 見つかったんだったら……すぐに引き戻されるはずじゃ……」 「それは……よく分かりません……。とにかく必死に逃げてきたので……」 「いや! あの狡猾な淫魔があんたをただで逃がすとは思えねぇ! 私の時だって呪いという名の監視装置を――」 「……? レファ……さん? どうしました?」 「監視……装置……。そうか! あんたは逃げられたんじゃなくて……ワザと逃がされたのかもしれねぇ!」 「えっ!? えっっ!!?」 「あんた……ちょっと服を脱げ!」 「は、はいっ!? な、何をっっ!!」 「背中だけでいい! 背中を見せろっ!!」 「きゃっっ! ちょっっ! なんでそんな乱暴に……」 「――っっ!? や、やっぱり……」 「レファ……さん? 一体彼女に何が……」 「蜘蛛の呪い……言い換えれば監視装置……。奴はあんたにもつけておいたんだ……いずれは逃がして泳がしておくために……」 「泳がせる?? それはどういうことで――」 「奴は私たちが何か小細工をして、監視装置から逃れるかもしれねぇって考えて……あんたを泳がせたんだよ! 私たちと接触させるためにっ!!」 「っっ!?」 「えっ!? じゃ、じゃあ……今こうして会っていることを彼女は……」 「知っちまっただろうな……。くそっ! 迂闊だった……」  「ど、ど、どうするんですかレファさんっっ!! この村に私たちが居ることがバレたってことでしょ?」 「バレちゃしょうがない……。もう作戦とか考える暇もねぇ! 踏み込んでヤツの本体を暴いて討つ! それだけだ……」 「そ、そんな力押しで大丈夫なんですかっ!? 妹は……アイネは殺されたりしないでしょうね?」 「そんな暇を与える前に討つさ! だから、マリナさんだっけ?」 「は、は、はいっ!?」 「教会の見取り図をくれ! 特に地下の方を詳しく描いてあるやつだ!」 「あ……はい! それなら教会の書庫にあったはず……」 「よし! とにかく急いで教会に向かうぞ!」 「あ、あの……このお酒のお会計は誰が……?」 「私は金を持っていない! だからそれはエリシアお姉様が払ってくださる! そうだよな? な?」 「な? じゃないでしょっ!! 後で請求しますからね!!」  ドタバタと酒場を後にする3人……。  彼女たちが向かうのは村の中央に立つ白亜の大教会……。  小さな村にそぐわないほど立派にそびえ立った教会から正午を告げる鐘の音が響いてくる。  その鐘の音はあまりにも美しく……あまりにも透き通る音色であったが、彼女達には開戦の狼煙を上げているかのように聞こえた。  実際……ラフェリアは彼女たちがこの村まで来ることを予見していた。  シスターマリナと出会わなくとも何時どのタイミングでこの教会へ辿り着かれてもいいようにと準備を整えていた。  教会の扉が開かれるとき……その用意された最初の罠が彼女達を襲う。  獲物の到着は今か今かと待ち侘びていた無数の血に飢えた赤い眼……淫魔の使い魔たち……。  扉が開かれた瞬間……それらは有無を言わさず襲ってくる。 今や2人となった……淫魔の狩り人達に……。

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