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7:休息という名の…… 「はっっくっっっんんっっっ!!! んぐぅぅぅぅっっっ!!」  レファやエリシアの居る酒場から数十メートル程の距離に隣接するドルシア教会……。その教会の聖堂から更に数十メートル地下へ降りると彼女の居る“懲罰室”へと辿り着く事ができる。 「ウフフ♥ ほら……まだ触ってすらいないのよ? そんなに悶えていて大丈夫? この先実際にこの羽根に触られたら……悲鳴を上げるだけじゃ済まなくなりそうだけど……」  固く閉ざされた鉄製の扉は彼女たちの声を外部に漏らさぬよう隙間なく閉じており、その重厚感を見るに人間の手足で蹴ったり殴ったりしたところでビクともしない造りになっているのは言うまでもない事だ。 「くっっっ!! ふざけて……ないで……ひと思いに……やりなさいよっっ!!」  扉の冷徹で寒々しい雰囲気を壊さぬよう室内は無骨な石造りの壁に石造りの床……そして大理石を切り抜いたかのような巨大な柱が部屋の屋根を支え、見るものに威圧感さえも与えるようそびえ立っている。 「えぇ~いいのぉ? 触っちゃってもいいの~? もしかして焦らされて堪らなくなっちゃったかしら? 皮膚に触るスレスレの所をこんな風にコソコソされて……昂ぶっちゃったの? 早く触って欲しいって……思ってくれちゃったりしてるの? うん?」  部屋の中央にはX字を型どった薄オレンジ色の琥珀の結晶で作られた拘束台が備え付けられており、その拘束台の上に裸にひん剥かれた体を仰向けに寝かせ拘束されている女性が先程までの馬鹿笑いを口元に収め今度は酷く苦しむような唸り声を上げて彼女の責めを耐え忍んでいた。 「わ、私は……貴女のような変態じゃないんだから、そんな願望があるはずないじゃないっっ!! 単純に羽根の動きを見るのが気色悪いからやめろって言ってるのよっっ!!」  自称淫魔の女王は、X字の形通りに大きく手足を広げて拘束された彼女の無防備な腹部にまたがって膝立ちの格好で反抗的な女性の目をまっすぐに見、その爬虫類のような赤い目をギラつかせながら両手に持ったホネクジャクの羽根を動かしていやらしい笑みを浮かべている。 「じゃあ……羽根を目で追わなければいいじゃない♥ 目を瞑って……視覚をシャットアウトしちゃえばイイんじゃないの?」  彼女の操る羽根は先端の尖った部分をクネリクネリとさも触ってやるぞと言わんばかりに怪しく動かし、しかし決して肌には触れないよう距離を保ちつつ焦らす行為を続けている。 「くっっ!! 目が……離せない……見てはいけないって分かっているけど……目が離せない……。ど、どうせ……貴女が……何かしているんでしょ?」  羽根が触りそうで触らない動きを続けている箇所は、彼女の大きくバンザイさせられ無防備に晒されてしまっているワキの部位。くすぐりという刺激に絶望的に弱いとされるその皮膚の表皮上を……先程から獲物を狙うハゲタカのようにゆっくり旋回して品定めをしている。 「フフ♥ 随分と魔法が効きやすくなるまで弱ってくれているじゃない♥ ご明察……。今は単純にこの羽根の先端を目で追うように軽い暗示を貴女にかけてあるの♥ チャームっていう魔法よ? 知っているでしょ? 当然……」  刺激を敏感に感じる腋の神経が通う皮膚のすぐ真上を羽根のこそばそうな先端が上下に……クネクネ……クネクネと動いてくすぐるフリをする様は見ているだけでむず痒くさせられる。刺激を想起してしまい想像だけで寒気を帯びてしまう。  あの柔らかそうな毛の先端が腋の窪みに少しでも触れてしまったら……。あのしなやかで反発力のある羽根の芯にゾワリと引っ掻かれれでもしたら……。そんな想像が止まらない。想像すればするほど神経は刺激に過敏になってますます刺激されることを恐るようになってしまう。  見ないほうがいい……せめて羽根を目で追うことをやめた方がいい……。そのようなことは分かっているのだが……彼女の言う誘惑(チャーム)の魔法がそれを強要する。目を瞑って抵抗するという手段を選ばせてくれない……。  だからこの焦らしのプレイを延々と目で負わされる。限界以上に皮膚の神経が敏感になってしまっていたとしてもなお……。 「はっっくっ! んくぅぅぅ!! 羽根を動かすなぁ!! そよぐ風が……空気の動きがこそばいのよっ!!」  肌が敏感になり過ぎたせいか、メリッサの腋は羽根が動いたときに生じる空気の僅かな動きに対しても敏感に反応してしまう。  羽根先が右に動けば止まっていた空気が右に流れるさまが神経に伝わり動いていく様子が触覚でも感じられる……。触られてもいないのに……まだ責められてすらいないのに……。 「もう少し我慢なさい♥ もうすぐ彼女が戻ってくるはずだから……。戻ってきたら死ぬほど笑わせてあげる♥ この焦らしまくったワキをこの羽根で滅茶苦茶に掻き毟って……息を吸うのも困難になるくらい爆笑を強いてあ・げ・る・わ♥」  ラフェリアの威圧的な目を見てしまうとメリッサは強気な言葉が勝手に引っ込んでしまう。それは単純に動物的本能が彼女に危険を知らせてやまないからだ……。これ以上強気に振舞っても彼女の責め手を強くさせていくだけで自分に何の得も生まれない。だから下手に言葉で刺激してはならない……従順なフリをして油断させるほうが先決だ……っと頭では理解している。しかしこの羽根の刺激を知っている彼女はそれがどのように自分を狂わすか半分理解できているため恐怖が募ってやまない。あの羽根がどんなに意思とは無関係に自分を笑わせてしまうのか理解できているから恐ろしい……。  そして理解できていない半分……それは、足裏とは違って腋に触れられるのは初めてであるから……どのような責め苦を味わうか想像ができていない。刺激の質は理解できていても……自分がどれだけワキが弱いか……どれだけ刺激に耐えられるのかという部分が想像し難い。  不安な想像は次々に浮かんでは来るが……それは想像でしかない。実際に触られるまでは分からない。それも怖い……怖くて怖くて……恐怖に押し潰されてしまいそうなほどだ。  だからメリッサは本当は見たくない。淫魔の目も……彼女の操る羽根の先端も見たくなどない……。しかし見ることを強要されてしまっている。彼女の……得意の魔法で……。 「はっ、はひ、んはっ、はぁ…はぁ…はぁ……んあぁっっ……はっ……くぅ……」  もう、いっその事ひと思いに触って貰った方がマシのなのではないだろうか? 先程までの嵐のような笑いの応酬を経験しているからこそ、この不安だけを煽る焦らされ方は精神的な疲労を極限まで引き出してやまない。  羽根の刺激を味わっているからこそこの焦らし責めは笑わされるよりも別のベクトルで苦しい。  ミゼル司祭が戻ってくるまでのあいだの僅かな休憩……とラフェリアは彼女に伝えたが、彼女にとっては肉体を責められるよりよっぽど負担は大きい。精神を蝕むようなこの不安と恐怖を植え付け続ける責めはウイルスが徐々に肉体を犯していくかの様に彼女を内面からジワジワと追い詰めていく。もうすぐ想像通りの刺激を与えてやるぞと……言わんばかりに。 ――ギギィ……ギギギギギ……  焦らしだけで額に脂汗を浮かべていたメリッサの顔がこの重々しい金属扉の開く音にギクリと強ばってしまう。 「あは♥ お帰りぃ……待っていたわよ~♥」  羽根が肌に触れないようにとじっくり羽根先を見つめていたラフェリアが部屋へと戻ってきたミゼル司祭の方へ顔を向けると、僅かに……ほんの僅かに羽根の毛先がワキの窪みにコソっと触れてしまった。  刺激を散々焦らされていたメリッサはその羽根が触れた瞬間―― 「っっひギゃああぁぁぁ!!?」  膝立になってまたがっているラフェリアを突き上げんばかりに浮き上がった身体が雷でも受けたかのようにビクビクと震え、開いた大口からは今までにあげた事のないような悲鳴が吐き出された。 「おや……。こちらの方は随分と……出来上がっているご様子で……」  開いた扉からスッと音もなく部屋へと入ったミゼル司祭は、その叫び声を聞いて口角を上げながら怪しく嗤う。 「フフ♥ そうでしょ? もう……メリッサちゃんは風が吹いただけでも笑いそうな勢いまで弱々になっちゃったわ♥」  浮き上がった体を内太腿で挟んで元に戻すまいと悪戯するラフェリアは、ミゼル司祭同様口角を大きく上げ妖しい笑いをメリッサに見せつける。 「あ、あ、あっ……ひっっ! はひっっ!! や、め……離し…て……」  思いがけない僅かな刺激で大声を出し反応してしまったメリッサは改めて絶望と恐怖を内に宿していく。  羽根が触れた瞬間……くすぐったいと思う暇さえもなく身体は電流を流されたかのように痺れ、勝手に浮き上がり、そして悲鳴を吐き出させられた。もう……本能が怯えてしまっている。あの刺激は自分の肉体も精神も壊してしまう刺激なのだと理解してしまったから……。 「ウッフッフ♥ 自分の身体の変化にも気付いているみたいだし……じゃあ改めて聞かせてもらおうかしら……」  焦らしの行為自体の結果もそうだが、ラフェリアは誘惑(チャーム)の魔法とともに身体の神経を敏感にさせていく魔法も掛けていた。蚊が口針を刺しただけで“痛い”と感じてしまうくらい……風が揺らいだだけで“こそばゆい”と感じてしまうくらいに……敏感に、とことん敏感になるよう感覚変化の魔法を掛け続けていた。  その結果があの大げさな反応である。否、大げさと言うよりは刺激に対する正直な反応と言うべきか……。拘束されている体を無理やり持ち上げてでも拒否反応を示さなくてはあの負荷を発散することはできない。脳が瞬時にそう判断したのだから仕方がない。 「今の貴女の弱々になりすぎたワキは……この狂おしいほどのにくすぐったい羽根のコチョコチョ攻撃に……どれだけ耐えられそうかしら? 5分? 10分? 1時間? それとも……1日は頑張れたりするのかしら? ウフフ……クフフフフフフフ♥」  メリッサの顔は血の気が引いて真っ青に染まり直す。  自分の敏感になったワキの感覚と、羽根が触れたあのどうしようもないこそばゆさを思い起こすたびに胸を押しつぶすくらいの不安に苛まれてしまう。 ラフェリアのあの質問に……あえて答えを返すなら…… メリッサは光彩を失った絶望の目をラフェリアに向け心の中で回答を返す。 あの羽根に責められて……正気を保てる自身は……もはや無い。 5分? いやいや……。 1分であっても耐えきる自信はない。そのような自信は……もう持てなくなってしまっている。 ラフェリアはメリッサの心の声をその凍りきった表情で読み取り、内太腿に挟んでいた体をゆっくりと降ろしていく。 そして……もう2度と彼女がこのように大げさに体を海老反らさないよう……無情にも上腹部に追加のベルトを無言で巻いて彼女の体を拘束台に完全に固定させていく。 この無言の拘束はメリッサにとって絶望のメッセージとなった。 どんなに暴れたくても……今後は身体を浮かすことも許さない……。その意思を無言の拘束から読み取ることができるのだから。 溢れ続ける不安と恐怖はメリッサの心臓を締め付けて潰さんとするように圧力をかけていく。 吐き気さえ催してしまいそうになるその絶望は……メリッサから言葉を奪っていく。 見て、聞いて……それがどのような責め苦なのかは頭では理解していた。理解してはいたが頭の隅の方では“くすぐりなど行き着く先は所詮、児戯”という甘い油断が彼女にはあった。 油断があったからこそ自信があった。妹が助けに来てくれるまでの数日間……それくらいなら耐えられるとタカをくくってリスクを犯してでもマリナを助けた。これも必要なことだと判断して牢から逃がしてあげたのだ……。 しかし今……彼女は確信を持って言える。 妹が助けててくれるまで耐えきるなど……もってのほかだったと。 それどころか、僅か1分1秒でも……耐えきる自信など……無い……と。

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