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6:繋がりゆく忌まわしき追憶 「う、嘘だろ? あのマルカスとお前の母ちゃんが……恋人関係になってただって??」  酒場の一角から吐かれる怒鳴り声より大きな驚き声……それを発したのは若干飲んだ酒で酔いの回ってきていたレファだった。 「嘘じゃありません。彼と何処で知り合ったのかは定かではありませんが、母様は確かにあの男と関係を持つようになってしまわれました……」  レファの声に圧倒されるもエリシアは負けずに声を張りその男が絡んだ経緯を自分の知っている限り彼女たちに伝える。 「あの男が人間であり、何か良からぬことを企んでいるというのは母様以外誰でも感じていました。しかし母様は巫女の家計であるという地位を利用してその男との交際を村の人々に承認させてきたのです」  エリシアの言葉が重々しい口調に変わったのを察知したレファは一転して言葉を引っ込め、彼女の語りの邪魔をしないようにと相槌だけをうって内容に聞き耳を立てた。 「しかし……ある事をきっかけに事態が急変してしまいます……」  語りを邪魔しないようにしているレファとは対照的にマリナの方は話の続きが早く知りたいのか、言葉の一部をオウム返ししつつ語りの続きを催促する。エリシアはその催促につられゆっくりではあるが重い話の続きを話し始めた。 「母様とマルカスとの間に子供が出来てしまったのです……」  その話を聞くやレファも口を開くのが我慢できなくなり語りの間に言葉を挟んでしまう。 「そ、その子供が……まさか……アイネなのか?」  エリシアの口から聞かされたアイネがハーフエルフであるという事実……。それがまさか自分の知っている男とのあいだに生まれた子供の話と繋がるとは思わず、レファは目を白黒させながら驚いた。 「えぇ。うちのエルフの村では巫女の力を拠り所にしていた節もあり人間の血を混じらせることを禁忌としてました……だからその事実は村の人には口外せず一族の秘密としてエイレーヌお姉様が口止めをなされたんです」 「で、でも……バレちまったんだよな? だからお前らも追い出されたんだろ? 村を……」 「はい。それもあの男があんな事を仕出かしたせいで……」 「……仕出かした?」 「あのマルカスという男……母様を利用して村のエルフ達の体液を集めさせようと企んだのです……」 「っっ!? エルフの体液って……ま、まさか……」 「そう。不老不死の霊薬……あのラフェリアが言っていた薬を作るための材料としてそれが必要だと……」 「あいつ……まだその考えを捨ててなかったのか! そのせいで研究所を追い出されたっていうのにっ!!」 「最初は私たち姉妹の体液をよこせと迫ってきました……そうでなければ村長に母様と交わったことをバラすと脅しをかけて……」 「くっっ! その横暴さ……何一つ変わってなかったんだな……施設の外に追いやられても……」 「仕方なしに私とエイレーヌお姉様は彼の為に汗や唾液を提供しましたが……しかし彼はそれで満足はしてくれませんでした……」 「……足りなかったってことか……その程度では……」 「えぇ。足りないと分かった彼は村の幼い子供を離れの小屋に連れ込み……縛って拘束して……暴力を振るい……流した血や汗や涙を回収するという凶行に走りました……」 「ひ、ひでぇ……」 「しかし……その悪行はすぐにバレ……村の者に捕まったあの男はあろうことか母様との関係を暴露して敵意をこちらに向け自分だけでも罪を逃れようと画策しました……」 「クズどころの話じゃねぇな……ド・クズだ……人間の風上にもおけねぇ……」 「そのせいで母様は琥珀化を強要され……結局逃れられなかったマルカスはエルフ族に伝わる呪いの槍にて処刑され私たち姉妹と幼いアイネは村から追い出されるという結果となりました……」 「ちょ、ちょっと待て! 処刑された? 殺されたのか? マルカスは……」 「はい。私たちの目の前で刑は執行されたのでそれは間違いないかと……。腹部の3箇所を貫いた後目と心臓にも一突きずつ……並の人間であれば生きてさえいれないはずです。もし奇跡的に生きていたとしても……呪いのかかった槍が傷をふさぐことを阻害するので……2日と生きてはいれないはずです……」 「じゃ、じゃあ……マルカスは確実に死んだんだよな? だったらさっきこの嬢ちゃんが言った依頼者ってのは……」 「嬢ちゃんじゃありません! マリナです!」 「あぁ……マリナちゃんが言った依頼者ってのは……偽者とかそういう類のやつか? 死んでいるんだったらそういう事になるよな?」 「えっ? いえ、それは違うと思います……。教会への依頼は基本的に無報酬で行いますがその代わりに身分の証明が行えない者の依頼は断る決まりになっています。だからこの依頼書を書いた人物は間違いなくマルカスという男のはずです」 「馬鹿なっ! 死んだ男がどうやって!? って……いや! あのずる賢い男の事だ……何かしらトリックを打ってその処刑から生きながらえたって考えるのが妥当か……」 「そんなはずはありません! だって……私たちの目の前で……」 「あんたは知らないかもしれんがな……あいつは霊薬研究所に勤めていた時も相当にずる賢くて打算的な男だったんだ」 「それは……なんとなくわかりますけど……あと、私はあんたじゃありません! エリシアですっ!」 「奴の不老不死の霊薬への執着は相当なもんだった……。施設の研究費を全部自分の部署へ回せと言い張ったり、その薬を売ればどれだけ金が手に入るのかっていうのも計算し尽くして提出してきた……」 「……お金の……ためですか……」 「そう! ヤツはそれが全てだった。金さえあれば他は何もいらない……薬を作るためなら人間は愚か他種族さえも犠牲にすることも厭わない……。最終的には金で身売りしているエルフを買うとか言い出したもんだからうちのお姉の堪忍袋が切れてな……奴の研究資金を根こそぎ没収して早々に施設から追い出す処分を下したんだ」 「……身売りのエルフをっ!? たかが薬を作る為だけに?」 「まぁ……研究所では出来なかったが、不運にもお前の母ちゃんが奴に思い入れちまって……結果としてもっと悲惨な結果を招いちまったってわけだ……」 「母様……」 「それだけ執念深いヤツのことだ……何かしら策を練ってその凶行に走ったに違いない……」 「死んで……なかったとしたら……その依頼……一体どのような内容だったのですか?」 「……えと、詳しい事情は分かりませんが……先ほど言われていた“琥珀化”ですか? それが関係しています……」 「えっっ!!? 琥珀化が……関係しているっっ!?」 「エリシアさん……でしたっけ? 貴女が追い出された村……もしかしてシルフォンという村ではありませんか?」 「な、なぜその名前を貴女がっ!!? 確かに……そうですけど……」 「おいおい……嫌な予感しかしないが……まさか……」 「えぇ。恐らくこの話は全て繋がっていると思います……なんせこの依頼は……」 「……依頼…は?」 「貴女の母……マドレアの琥珀化を解除してくれというものだったのですから……」 「なっっ!!? なんですってっっ!!?」

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