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4:酒場にて 「あ、あの……もしかしてですが……貴女が妹さん……ですか?」  村へと到着したレファは情報集めの一環として村で唯一の娯楽場である小さな酒場へと入り、席に着くなり大きなジョッキの酒を頼んで豪快にそれを飲み始めた。こういう場に慣れていないエリシアは警戒するようにキョロキョロと回りを見渡しながらも頭を隠すように下げながらレファの隣にちょこんと座る。そんな対照的な2人の姿を見たフードを被って顔を隠した一人の女性が突然声をかけてきた。 「あん? 妹? って……私のことか?」  レファはほんのり顔を赤く染め、絡むようにその女性の顔を下から覗き込み、彼女の言う“妹”というフレーズが自分のことなのかを確認する。下から覗き込まれドキリとしてしまうその女性だったが、レファの言葉を聞き何度も頭を縦に振って“そうだ”という返事を無言で返す。 「私を“妹”であると思ったって事は……あんた……うちの“お姉”の事を知っているってことだよな?」  レファの据わった目が彼女を睨み、怯えそうになっているその女性を更に怖がらせるように睨みを強める。 「あ、あ、あの! メリッサ……さんに……私は助けられまして……その……妹さんを見つけたら情報を伝えるようにと……言われまして……」  まだ一口しか酒を入れていないにもかかわらず泥酔して酔っぱらいのように絡む目を向けているレファに恐れを抱きつつも、その女性は自分がなぜ彼女に声をかけたのかを自信なさげに説明し始める。 「お姉が……あんたに? ふぅ~~ん。流石は私のお姉だな……敵地に居ながら無茶しやがる……」 酒に弱いのなら戦う前に酒を飲むな! と嗜めるのがエリシアの役割であっただろうが、エリシアも慣れない場所に気が動転し水と間違えてレファの酒を一口飲んでしまっていた。その酒があまりに度数が高く、エリシアは「きゅぅ~~っ」と彼女らしくもない情けない声を上げて椅子から床へと転倒してしまう。床に倒れるなり意識を失うように眠ってしまった彼女を介抱もせずレファは真面目な顔を取り戻しつつ彼女……マリナと名乗ったその女性の言葉に耳を傾けることとした。 「私は逃してもらったあと教会の記録を探って“ミゼル司祭”について調べておりました……」   「司祭を? なぜ?」 「貴女のお姉さん……メリッサさんに……調べて貴女に伝えるよう言われたのです……」 「成程……お姉はミゼル司祭の方も脅威だと考えたんだな? まぁ……私も同じ意見だったが……」 「メリッサさんは仰ってました。彼女は……人間ではない……と……」 「……あぁ……そんな気はしてた……。得体が知れないが人間味もない……そんな存在だったもんな……彼女。んで? 調べて何か分かったことはあったのかい?」 「はい。記録には15年前にこの教会に赴任した所から4年前の“最後の依頼”までが詳細に記載されていまして……その時まで司祭の仕事を全うする素晴らしい人物であることが記されていました……」 「それまでは普通の人間だった可能性は高いってわけか……」 「はい……この依頼のあと……司祭の記録は一切残されなくなりました……彼女は教会に戻ってきたのに……」 「記録は自分で報告書として提出して残してきていたんだろ? だったら……今のミゼル司祭は……報告書を書かなくなった……もしくは報告を行うことを知らないって事になるよな?」 「そうです。我々教会の人間は自分の行った仕事を必ず記録として残すよう義務付けられています。しかしミゼル司祭はここへ戻ってからその義務を果たしてはいません」 「って事は……その“最後の依頼”ってやつに……秘密がありそうだよな?」 「……えぇ。いちお……調べてはあります……」 「教えてくれ……。その依頼ってのは何処で何をやってきた仕事なんだ?」 「……依頼者はマルカスという男性で――」 「んなっっ!? ま、ま、マルカスだって!?」  レファはマリナの発した依頼主の名前を聞いて思わず椅子から立ち上がった。そしてマリナの服の襟を掴みブンブンと体を揺すりながらその名前が自分の知る男の名前なのか問い正す。 「マルカスって……まさか、マルカス・エンフィードの事かっ!? あのイカレ研究者のっっ!!」 「は、は、はい……確かそのような名前だったかと……」 「そいつはうちの霊薬研究所から追放処分になった危険思想の持ち主だ! まだ生きていたのか! どこかでのたれ死んでいたと聞いていたが……」  青い顔をして驚くレファの声に目を覚ましたエリシアだったが、彼女の声量よりも彼女の叫んだ名前に目を見開いて驚きの声を上げた。 「マルカスっっ!? マルカス・エンフィードと言いましたか? 今……」  レファに続きエリシアの口からもその名が溢れマリナのみならずレファ自身も驚き彼女の方を振り向く。 「お、お前……知ってるのか? マルカスの事を……」  酒の残った体をフラフラと立たせながらテーブルに手をつくエリシア。その手は彼女の許しがたい心情を表すかのように強く拳が握られていた。 「えぇ……忘れたくても……忘れることは出来ませんよ。……なんせ……」  震える声……震える拳……そして震える口から出てきた言葉はレファを大いに驚かせた。 「私たち姉妹が……村を追われた元凶を作った……男なのですから!」 「なっっ!? なんだってっっ!!?」  しばしの沈黙……。  その後エリシアの口からその男の素性が少しずつ語られる……。

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