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2:クリスタルの導くままに 「それで……ラフェリアの秘密ってなんなんですか?」  煌びやかな繁華街を持つ大きな街を後にし、鬱蒼と背丈の高い草が生い茂る林道をクリスタルの光を頼りにひた進む2人の女性。1人はそのクリスタルを手のひらでかざし、進むべき道を自分の背より高い草をかき分けワイルドに突き進んでいく背の低い彼女……。肩まで伸びる燃えるような赤い髪を隠すように薄汚いマント付きフードを被り、小柄な体躯に似合わない様々な重そうなガジェットを詰め込んだリュックを背負っている彼女は後ろから付いてくるエルフの女性に“レファ”と呼ばれていた。 「あぁ……あんたは確認していなかったんだっけか? ヤツの残していった血痕を……」  先頭を猪のように突き進むレファのおかげで道なき道に道が出来、その作られた道を悠々と歩いてついて行く背の高いエルフの娘。彼女はレファとは対照的に弓と矢筒と小さなカバンだけという軽微な装備を背負い、腰まで届くブロンズのきれいな髪を長い1本のポニーテールにまとめ緑地に黒い縁取りがされた簡素な衣類をまとって彼女のすぐ後ろをついて行く。 「あぁっ!! ほらまた“あんた”って言った!! 私の名前は“エリシア”だって言っているでしょう! いい加減覚えてくださいっ!!」  レファの装備が防御力に優れた重装備と呼ぶとするなら、エリシアの装備は機動性に優れた軽装備と表現されるだろう。  腕を動かしやすくするため肩から二の腕にかけての袖を無くし、脚の動きを阻害しないために短めのズボンを着用しその大人の色気を醸し出すような太腿も惜しげもなく晒した格好をとっている。 「あぁ……悪かったよ。ついつい癖でな……ちゃんと名前は覚えているぜ? エリッサだろ?」 「エ・リ・シ・ア・で・す!! ふざけるのも大概にしてくださいっっ!!」 「じょ、冗談だって分かるだろ? そんなに怒るなよぉ……」 「もうっっ!! で? その血痕とやらがどうかしたんですか?」  クリスタルの光が彼女たちの宿敵……淫魔の女王であるラフェリアが居るとされる教会へと導いてくれる。しかしそのラフェリアの反則気味な生命力の高さを目の前で見せつけられたエリシアは、再び対峙したとしても彼女を倒しきるという自信を持てない。だから、何かしらの突破口を見出したというレファに事の真相を訪ねている次第だ。 「確かに私の水銀の弾丸はアイツの眉間にめり込ませた……なのにヤツは何事もなかったかのように起き上がって不死身であるような態度をとっていた……」  エリシアの問いかけに回りくどく説明を加え中々核となる話にたどり着かない彼女の話口調に、エリシアは言葉にはしないが苛立ちを頬を膨らますことで表現する。 「水銀弾は淫魔の特殊な血液を強制的に固まらせる効果を持った貴重な弾丸だ。でも、ヤツの血液は一切固まらなかった……」 「水銀が淫魔の特殊な血を固まらせる?? 初耳ですね……その情報……」 「今までの雑魚淫魔で実証してきた事だから間違いはない。奴らの全身をめぐっている血液はそれ自体にも催淫効果が持てるよう多量のマナが流れ込んでいる。だからあいつらの吐く息や汗……愛液なんかにも催淫効果がもたらされている」 「血が全身に巡っているから……あらゆる箇所から出る体液から催淫ができる……と?」 「そうだ。そしてそのマナは奴らの脳内と心臓から生成される特殊なマナだ……淫魔特有のエロい魔力ってやつだな……」 「エ……エロ? うぅ……あの変態たちの頭の中なんて……知りたくもありません!」 「その特殊なマナを凝固させることができるのがこの水銀弾……。こいつが体内に入り込めばたちまちに血液は固まり、淫魔は死を迎える……」 「えっっ!? で、で、でも! その水銀弾……効かなかったじゃないですか! あの淫魔に……」 「そう! だからおかしいと思ってヤツの飛び散った血液とあんたに浴びせられた淫液を採取しておいたんだ……」 「い、淫液っっ!? ちょっっ!! そんな恥ずかしいこと大声で言わないでっっ!!」 「お前さんのじゃないよ……あの淫魔のだよ……」 「あっ……またお前って言った……」 「とにかく! ヤツの血液を調べてみたところ……大変な事実が分かっちまった……」 「大変な……事実??」 「あぁ。ヤツの血液は樹木の樹液……ヤツの淫液はただの水だったってことが分かった!」 「樹液っっ!? 水っっ!!? な、な、何ですかそれは!! どういう事です?」 「水銀が効かなかったという事実とヤツの体液は樹液と水だった……そこから導き出せる答えは……」 「答えは……?」 「お前さんの前に現れたラフェリアという淫魔はただの“樹木”だったという事さ」 「樹木っっ!? 木っ!? ど、どう言う意味ですか? 全く意味が……」 「ヤツの能力の一つに“遠隔搾取”があることは伝えただろう?」 「えっ? は、はい……。たしか……本人がそこに居なくても集めた餌は魔法によって好きな場所に送られるって……」 「そうだ。それが一つの答えさ……」 「遠隔……搾取が?」 「つまりはこういうカラクリだ……ヤツはあの場には居なかった。代わりに自分の姿をかたどった木を操って、さも自分がそこにいるかのように振舞った……。そして集めた体液はあの搾取台から奴が魔法で飛ばしていたんだ……奴らの本拠地へ……」 「えっ!? で、でも! 見た目にも触られた感触も人と変わらない感触でしたよ? それに……肌の体温も感じられましたし……」 「あんたは最初からヤツの催淫と誘惑(チャーム)に掛かってたんだよ。恐らくあの祠の入口にはヤツの体液が染み込ませてあったんだろう……」 「入口に? あの祠の入口にあいつの体液が?」 「いくら淫魔の魔法に耐性のあるエルフでも、入口にそんな罠があるなんて思わないだろう? だから無警戒に入っちまったがゆえ知らず知らずのうちにヤツの催淫にかかっちまっていたのさ……」 「確かに……淫魔が居ると知っていたから……耐性を高めるのは対峙したときと考えていましたけど……」 「催淫された捕食者は催淫者の都合のいいように惑わされちまう……だから、ヤツの肌の触感や触られた刺激もラフェリアの思い通りに表現させられた……」 「じゃあ……私は……木の枝か何かに嬲られて……あんな…はしたない姿を晒してしまっていたのですか?」 「まぁ、そう悲観しなさんな。あんたのお姉さんはそれすらも知らずに琥珀化しちまったんだろ? それだけ強力で危険だってことさ……ヤツの催淫は……」 「そう……ですが……」 「ただの樹木がヤツの仮の姿だった……だから水銀弾が効かなかった……。これがあの時のヤツの不死身のカラクリだ……」 「ただの木に……村の人は殺されたんですか? たったの数日で……村の人の半数は……」 「最初は本人が出向いてきた可能性は高い……最初だけ本人が餌集めして、途中からその餌を元手に村の近くの木々にマナを仕込んでいって身代わりを作っていった……って考えるのが妥当さ……」 「ふざけてる……。村の人たちの命から集めたマナを……自分の分身に当てて搾取の続きをさせるなんて……」 「まぁ、でもヤツはその分身をも自分の所にテレポートさせた。これは明らかに悪手だ。私達を下に見ていたであろうあいつの油断ってやつだ」 「た、確かに……。使い捨ての分身であればその場に捨ててもいいはずなのに……」 「それはあんたの体に密着していたあの分身があんたのエロい体液を吸っていたからってことだろうな……」 「え、エロって!! こ、言葉は選んでいただけますか? それに私は……」 「多分……捨てていくのは勿体無いと判断して転移させたんだろうが……その狡猾さこそが今回は仇となるだろうな」 「私は……エリシアです! もうっ! 何度言ったら……」 「エリシア!」 「は、はひっ!? なんです急にっ!!」 「この薮を抜けたら目的地はすぐそこだ! 着いたらまずやる事……覚えてるよな?」 「わ、わかってますよ……。現場の確認と聞き込みでしょ?」 「そうだ。絶対に一人で突っ走ってくれるなよ? ここまで来てまた逃げられるなんてシャレにならないからな……」 「十分に理解し・て・ま・すぅ! そう何度も釘を刺さなくても分かってますよ……」 「あんたが一番見境なく突っ込んでいきそうだからな……何度でも釘は指させてもらうよ」 「むぅぅぅ! 何ですか偉そうにぃぃ!! 私よりも年下のくせにぃぃ!!」 「人生経験に年なんて関係ないさ……こと淫魔との戦闘経験においては私の方が先輩なんだからな♪」 「くぅぅっっ! そのしたり顔……いつかへこましてあげますからね!!」 「あぁ……やれるもんならやってみろってんだ♪ っと、薮を抜けるぞっ! そしてこの崖の下には……」  先の見えない長身の草薮を抜け、現れた眼前の切り立った崖。その崖の麓には一際目を引く白亜の教会を中心にポツリポツリと三角屋根の家々が立ち並ぶ小さな村が見渡せた。  人の往来を妨げるかのように草薮と崖に囲まれたその村の名はメルデリカ……  レンズを通して見なくて見えないほど地図には小さく記されたその村は、村の中央を流れる川を水源に田畑で作物を作り家畜を飼育してはその村だけで消費するという昔ながらの牧歌的な暮らしをそこに住む村人は旨としていた。 「……一見、平和そうに見えますけど……本当にこんな所にラフェリアが?」  丁度夜明けとともに薮を抜け……朝日によってその村の全貌が眼下に収まったエリシアは、そのどう見ても平和そのもので淫魔が荒らしまわってり風には見えないその村に自分たちの村と比較するにあたり違和感を感じずにはいられなかった。 「いや、アレこそがヤツの狡猾な所なんだよ……」  違和感を感じたエリシアとは逆にレファは「やっぱり」と言葉をこぼして息をつく…… 「私が何年もかけて探し回ってもヤツを見つけられなかった理由は、ヤツの存在自体が世間に殆ど知られていなかったってところにある」 「ほとんど知られていなかった?」 「そう。ヤツはあれだけの魔力を持ちながら息を潜めてやがったのさ……絶対に見つからないように……」 「見つからないように? でも私たち村には本人が……」 「アレはヤツの餌場に過ぎない……だからいつでも捨てる事もできた……。でも研究所を構える本陣はそうもいかないのさ……そこを追われれば不老不死の霊薬が作れなくなる……だから派手な行動はしないようにしていたってわけさ……」 「あの派手な性格からは……想像がつきませんね……。そんなにずる賢い性格なんですか? 彼女は……」 「多分……ヤツだけの知恵じゃない。恐らくその側近の……ミゼル司祭が知恵を貸しているはず……」 「ミゼル……司祭?」 「ヤツは自分をそう名乗っていた……。私達の霊薬研究所をラフェリアと同時に襲ってきた得体の知れない女だ……」 「人間の司祭が淫魔に協力をしていると?」 「あの魔力の量は人間かどうかも怪しい……。だから私なりに彼女の事は調べてみたんだ」 「…………」 「彼女が人間として司祭を務めた場所は確かにココ……メルデリカの教会である事は記録として残っていた」 「ココの教会が……最後?」 「あぁ……その後の彼女の活動記録は法王庁には一切記されていなかった……現場の職員の話では今もあの教会で司祭を勤めている事になってる」 「れっきとした司祭だったその方が……なぜあんな淫魔の仲間に?」 「わからねぇ……そもそも本人がそう名乗っただけで本人である確証はどこにもない。私はただ……ミゼルという司祭の足取りを追っただけなんだからな……」 「じゃ、じゃあ……本当のミゼル司祭は死んでいて……今は別の人物が本人に成り代わっているという事もあるってこと……ですか?」 「そうかもしれんし……もしかしたら淫魔の誘惑(チャーム)で無理やり仲間にさせられているのかも……」 「という事は……あの村へ着いたら……まず手始めに――」 「そうだ。ミゼル司祭の詳しい足跡は、外界から隔離されたようなこの小さな村の人間に聞いてみなくちゃ分かんねぇ。だからまずは聞き込みだ。ミゼル司祭がなぜ淫魔と手を組んだのか……もしくは全くの別人なのか……調べてみなくちゃならねぇ」 「分かりました……」  切り立った崖の先端でレファとエリシアは自分たちが過ごしてきた村よりも遥かに小さいその村の姿を眼下に収める。  白亜の教会を囲むように小さな家々や田畑が連なるその光景は……まるで城下町を彷彿とさせ、教会が頑強な城であるかのようにも錯覚を起こす。 2人は朝日に照らされていくその村を見ながらゴクリと息を飲み、無言で村へと降りられる道を探す。 山の間から差し込んだ朝日が2人の歩く影を長く後路に映し出す。 片方の影は妹を心配するかのように早足を…… もう片方の影は知ることとなる事実を予見しているかのように重い足取りを……。

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