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4:風俗街リムシェル 「うはぁ♪ ウチ、本物のエルフちゃんを見たんは初めてやわぁ~! ホンマに美人さんなんやなぁ♥」  威圧感さえ漂う見上げなくてはてっぺんすらも見えない巨大な壁。その身長の何倍もあるかのような壁に囲まれた産業都市こそが悪名高き風俗街リムシェルという街である。その高い壁に似合うかのような巨大な鉄の扉……その横に隣接した、人が一人通れる普通の木扉をくぐってレファと共に髪の長い“いかにも”な女性がエリシアを見るなり子供のように目を輝かせて彼女の手を強引に握り取った。 「あっ、えっ? あ、あの……」  まるで往年のファンかなにかであったかのように手をブンブンと降って会えたことに喜びの感情を爆発させる彼女だが、村以外の人間と関わる機会の少なかったエリシアには、その馴れ馴れしい挨拶にどう答えていいか分からず顔を引きつらせオドオドとレファに助けを求めるような視線を送る。 「な? ちゃんと本物を連れてきただろ? ほら、耳だってちゃんと尖ってるんだぜ?」  女性を連れてきたレファは手を頭の後ろに組んでどうだと言わんばかりの顔をし、困惑するエリシアを助けるどころかもっとよく見ろと女性を焚きつける。 「ホンマやぁぁ~~っっ!! 肌の色もしろぉて手もあったかくて柔らかいわァ♥ やっぱ、本物は違うなぁ!」  独特のイントネーションと独特の早口な喋り口調で喜びを表現するその女性はレファの言葉に甘えるかのように必要以上に手を触ったり顔を近づけたりしてエルフの体を堪能する。 「ちょっっ! な、な、何ですか貴方はっっ!! 一体何者ですかっっ!!」  見知らぬ他人にベタベタと触られ、好奇な目で体を見られたことが不快感を与えたのかエリシアは掴まれた手を振りほどき体を腕で庇いながら警戒するように後ずさって距離を取る。 「おんやぁ……レファ? あんた説明したんとちゃうの? ウチのこと……」  振りほどかれた手が名残惜しいのか、空中で握手の形をとったままになっていた手をニギニギと開いたり閉じたりしながら顔を傾けてレファをその女性。一方のレファはヤレヤレといった息を吐いてすっかり目を細め切って警戒しているエリシアに言葉を交わす。 「さっきここに来る道中で説明しただろ? この子が私の幼馴染のルマーシャだよ……」  目を細めて警戒していたエリシアはその名前を聞いてキョトンとする。そして改めてその女性を見て「あぁ……貴女が?」と小さく声を零す。   「なんや美人のエルフちゃんは天然さんやったんかいなぁ? アハハ、可愛い~なぁ~~♥」  警戒を解いたエリシアにスッと近づき改めて挨拶を交わすかのように手を差し出すルマーシャ。エリシアはその差し出された手に困惑しながらも自分の手を差し出し挨拶の握手を交わした。 「あ、あの……呪いを肩代わりしてくださる方と伺っていますけど……間違いありませんか?」  握手を返してくれたのが嬉しくなったのかまた子供のようにブンブンと振り始めたルマーシャに対し未だ困惑の表情を崩せないでいるエリシアがこの街へ至る道中で聞いたレファの話の確認を行う。その問いにルマーシャはニカッと笑顔を返して握っていた手をギュッと強く握り直した。 「そう! それや、それっ! なんやレファがおもろい呪いにかかっとるんやろ? プレイの内容聞いて想像だけでゾクゾクしたで♪ 是非是非ウチにも移植してぇ~や♥」 「あ、あの……この呪いはプレイという訳じゃないのですけど……」 「夜な夜なこしょばされて無理やりイかされるんやろ? ええやん、ええやんっ! ウチ……そんな特殊なプレイを受けてみたかったんや♥」 「いや、ですから……プレイじゃなくてですねぇ……」 「あぁ、無理無理。コイツはドMでド変態だから、そういう性的な拷問めいた行為は全部“プレイ”だと認識しちゃってるんだわ……だから、いくらキツイとか辛い呪いだって説明しても悦ばせちまうだけで時間の無駄なのさ……」 「ド……エム?」 「言っただろ? 世の中にはこういう“身体を虐められる行為”に悦びを感じる馬鹿人間だっているんだ……それがコイツなんだよ。理解できなくていいからさっさとこいつを移してやってくれ……」 「そうやで♥ うち変態で馬鹿やから――って、馬鹿は余計やろ! 馬鹿はっっ!!」 「それが……ドエムという人種の方なのですか……な、なるほど……」 「それはええから! ほら、その転移魔法とやらでウチの背中に移植してくんなまし♥」 「は、はぁ……」  世間の情事や風俗に疎いエリシアには自分を苦しめるであろう呪いを受けたがるという心情がどうしても理解できない。もしかすれば友人のために我慢して受け入れようとしているのでは? と話を聞いていた中では思ってはいたのだが……ルマーシャの好奇心の塊を体現するかのような輝く瞳を目の当たりにすると、そのような考えも改めざるを得なくなる。どこかあのラフェリアに似た情事を好む目にも似ていて、レファの語った特殊な変態という意味がそこはかとなく理解できる。 「わ、わかりました……では良いのですね? この呪いが永続的なものであれば術者のラフェリアを倒したところで消えてくれない可能性だってあるんですよ?」 「ええよ♥ そん時はまた時々レファに移し替えてくれたらいいんやし♥」 「は、はぁ!? ずっとお前が背負えよ! 私はお前のような変態じゃないんだからなっ!!」 「そうは言うても……ウチのお仕事はほら……夜から始まるやん? 殿方との情事中に自分のことこそばし始めたら……絶対変な人って思われるんとちゃう?」 「お前は生まれた時からずっと変な人だよ……何で今更それを気にするんだ……」 「うわっ! ひどっっ!! ま、まぁほら……どちらにしても仕事に障りが出てまうやろ? そうなったら仕事にならんくなる……別にあんたがウチを養ってくれるんならええんやで? 食事の世話から性処理の相手まで手伝ってくれるっちゅうんなら……」 「い・や・だ! 絶対に、い・や!」 「せやろ? やったら……仕事をやる時くらいは交代してくれへんと……ウチ、こう見えても人気者なんや・か・ら♪」  薄緑色でウェーブのかかった長い髪をサラリと手で撫で、一瞬妖艶な女豹のような目でレファを見たルマーシャにエリシアは同性ながらドキリとさせられた。  先程までの明るくカラカラとした表情を向けていた彼女が不意に仕事で見せるのであろう女を纏った視線をしたものだから、彼女がその道のプロであることを嫌でも悟らされる。 「ま、まぁ……レファさんの予想が当たっていて、術者が遠隔操作しているっていうタイプの呪いであれば術者を倒せれば呪いも消えると思いますので……」 「レファ~? その予想……ホンマに当たっとるんやろうなぁ?」  目にかかった前髪をソっと横に掻き分けながらルマーシャはジリジリとレファに迫っていく。身長差のある友人に威圧的な声を出されながら迫られ、さすがのレファも唸り声を小さく上げて後ずさってしまう。 「ま、間違いない! これでも呪いの形態は一通り調べ尽くしたんだ! あいつさえ倒せれば呪いは消えるっ!!」 「ホンマにぃ~? 絶対かぁ~?」 「だ、だ、大丈夫だ! 間違いないからっっ!!」 「分かった、信じたろ♪ だったらあんたらがその人倒すまでお店はお休みにするで♥」 「お、おう! 私達がヤツを倒すまでの辛抱だ、世話かけるが少しの間我慢してくれ……」 「ええっって事よ♥ その代わり……さっき言った条件もお忘れなく……な♥」 「あ、あぁ……」 「……? 条件って?」 「あ、いや! な、なんでもない! 何でもないからっッ!!」 「アハ♥ 楽しみやわぁ♥ レファが相手してくれるなんて……天地がひっくり返ってもありえへんと思っとったんやから♥」 「あ、相手??」 「あぁもう!! いいからさっさと移しやがれ!! お前は何も知らなくていいからっ!!」 「あぁ! また“お前”とか言いましたね? 私の名・前・は――」 「わ、分かってるって! エリシアちゃん! エリシアさん! エリシア様っ! ほらコレでいいだろ? だから頼むから早くやってくれっ!」 「んむぅぅ! 何ですか、わざとらしい……」  頬を膨らましながらもエリシアは早くしてくれと急かすように向けているレファの背中に優しく手のひらを当てる。そして何やら人語とは異なる呪文を詠唱し始めその手のひらに光を集めていった。  集まった光はやがて手のひらに収まる程の小さな光の玉を形作りレファの背中を熱く焦がし始めた。 「あちっっ!? 熱ちっちちっっ!!」  その熱は火傷を負うか負わないかのギリギリ位の熱量で、レファは思わず背中を反らしてその熱から逃げようとしてしまう。 「逃げないでくださいっ! もう少しですから我慢なさい!!」  反射的に避けようとするレファに怒声を上げるエリシア。その声に驚いたレファは言われるがまま姿勢をピンと正してその場に留まる。  大人しくなったレファに息を零し更に手のひらに集中していくと、その光は黄色から赤へと色を変え始める。 そしてエリシアが手のひらをレファの背中からゆっくりと離していくと赤い光が呪いの紋章を包み込み、やがてその紋章に馴染むように張り付いていく。そこまで呪文を詠唱し終えると空いていた片手をルマーシャの背中へ向け今度は別の呪文を唱え始める。 すると赤い光に包まれた紋章は引き剥がされるようにレファの背中から離れ、誘導されるように反対の手のひらが向いたルマーシャの背中へと瞬間移動した。 「あっっつ!!! 背中、あっつっっ!!」  紋章が移動し終えるとルマーシャの背中に痛烈な熱が浴びせられ、その熱に驚いたルマーシャは背中を抑えながらその場にゴロゴロと転がってコミカルで大袈裟なリアクションを取った。   「おぉ! おぉぉぉっっ!! 消えたっっ!! 呪いが消えたぞぉぉ! やっほいっっ!!」  地面を転がる友人を眼下に見ながらレファは自身の背中に呪いの紋章がなくなっと事を手で触って確認し子供のように喜び始める。一方のルマーシャは背中を抑えながらいまだゴロゴロと地面を転がり続けていた。 「はぁ、はぁ……どうやら……成功したみたいですね? っということは……やっぱりその呪いは物質的な受容体ということに……なるのですね?」  息を切らせ膝に手を当てて呪文を使った疲労に俯くエリシアは転移が成功したという事実を目の当たりにし、それがレファの仮説通りの結果となった事に素直な驚きを見せる。 「あぁ、呪文に見えていたものは呪文にあらずだったってわけさ……遠隔操作する為のただのオモチャってやつだな……」  熱い熱いと叫びながらいまだに転がり続けるルマーシャを見つつ2人は街とは反対の遠い景色に目を向ける。そして言葉を交わさず同時に頷き、決意を宿した目で同じ方向を見つめた。  2人は気づいていないが、たまたま見つめていた方向はあろうことかラフェリア達の居る教会の方を向いていた。  そしてその教会の中では、アイネの責めに気を取られているラフェリアに勘付かれないよう……新たな動きを起こす人物が現れていた。 「な、なぁ? そろそろ……ウチの事止めてくれへん? ずっと転がり続けているんやけど……」  その人物が起こした動きは……結果自分自身を苦しめる結果になるのだが……彼女自身ははまだその事を知らない。 「おぉ~~い。お二人さ~ん? ウチの事無視せんといてぇ~~。お~~い」

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