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2:エルフの巫女と淫魔の狩り人 「なぁ……なぁってばよ! おい! 人の話を聞けよ、エルフのねーちゃん!」  アイネが捉えられた教会の地下研究所から何十キロ離れているのか……いや、大陸を跨いで何百キロも離れているかもしれないし実は何キロも離れていないかもしれない……言い換えるならば未だアイネが何処に捉えられているのか検討もついていない姉エルフのエリシアは、自分を助けてくれた恩人の言葉など聞く耳も持たずに脱ぎ捨ててあった巫女装束を羽織直し草履も履き直して祠の出口を目指し早歩きをしていた。 「私の名前はエリシアです! ねーちゃんなんて名前ではありません!」 「あぁ……じゃあ、エリシアさんよぉ……このまま勢いで外に出てどうやってあんたの妹さんを見つけようって言うんだ? どこに連れ去られたかなんて分かってないんだろ?」 「うくっっ! 分かってます、そんな事! でも……居てもたってもいられる訳がないじゃないですか!!」 「だからよぉ……説明するって。私が突き刺したあのナイフの意味を……」 「もう聞きました! 貴女に刻まれた呪いの刻印……それを逆利用して『呪いが送られた場所』を特定できるよう細工を施したのでしょ?」 「あぁ……だからこの呪いは……」 「夜になると発動する……そう言いましたよね?」 「ん? あぁ……まぁ……そうだな……」 「だったら昼間の今の時間少しでもその場所へ近づいておくのが懸命だと思いますが? 一刻も早くアイネを救出しないとなりませんし!」 「いやいやいや! そんな闇雲に歩き回っても正確な位置が分からないと意味ないだろ? もしかしたら逆の方角に進んじまうかもしれんし!」 「それでも夜までのほほんと待つほど私は我慢強くはありません! 運がよければ4分の1くらいの確率で正しい方角に進めるかもしれないじゃないですかっ!」 「あんた……見かけによらず無茶苦茶なこと言うんだな……。東西南北だけで4分の1とか言ってるだろ? そんな単純な運任せの進み方は絶対に失敗するぞ?」 「い、いいから貴女は黙って付いてきてください! 私のアイネを思う気持ちが必ず導いてくれます! 必ず……」 「あぁ……あんたは絶対ギャンブルとかしないほうがいいタイプだな……」 「はぁ? なんですかっ!! 馬鹿にしているんですか?」 「いいか? どちらにしてもだ! もしもあんたの言う勘が当たって奇跡的に居場所を突き止めたとしよう。それで? どうやって妹さんを助け出すんだ?」 「そ、それは! わ、私の……魔法とか……」 「あんたさっき言ってただろう? 魔法を逆利用されたって……。だったらあんたが魔法を使うことを想定して研究所の方も対策は練っているはずだぜ? あの狡猾な色ボケ魔族の事だから……」 「うぐっ! うぅぅ……それなら力づくでも……」 「それが通用しないから策を練らなきゃなんねぇんだろ? それくらい理解してるだろうに!」 「うぐぅぅぅぅっっ!! で、でも! アイネが……今すぐに助けないとアイネが……」 「あぁ、もう! そんなに妹を溺愛しちゃってるのかよっ! 気持ち悪ぃなぁ!!」 「う、うるさいですっっ!! そんな事貴女には関係ないでしょ!」 「いいか? この背中に付けられた呪い……これは恐らく搾取だけを目的にした呪いなんかではないんだ……」 「……? 毎晩アホみたいに自慰をさせてあのサキュバスに餌を提供させるための呪いじゃ……なかったんですか?」 「うくっ、ア、アホみたいって言うな! 確かに餌の供給も主たる目的ではあるだろうけど……本当のところはこれは私が今何処にいるのかを察知するための監視装置のような役割だと思ってる」 「監視装置?」 「今までは追いかけても追いかけても一歩手前で逃げられ続けていたんだ……だからそういう目的で付けられたのかもしれないって考えるようになってね……」 「じゃあ……今追かけて……仮に近づけたとしても……向こう側には察知されてしまうということですか?」 「そう! だから居場所を特定できても……返り討ちに合うかまた逃げられちまうことになる……」 「だったら貴女は付いてこないでください!! アイネを助けられなくなってしまいます!」 「いいのか? 奴のことだから地下とか空中とか訳分からんところに住処を作っているかもしれないんだぞ? 場所に近づけたとしても正確な場所がわからんとそれこそ何日も無駄に過ぎちまうことになるぜ?」 「うくぅぅぅ……じゃ、じゃあ……どうしたら?」 「その説明をしようとしてたから“待て”って言ったんだ」 「…………くぅ……」 「いいか? まずこの呪いだが……恐らく夜になると自動的に発動するタイプの呪いというわけではないらしいってのは分かってる」 「自動的に発動しているわけではない??」 「そうだ。全部勝手に自動的に発動する呪いならば決まった時刻に決まった分だけ責め立てるっていうお決まりがある。でも私へかけられた呪いはいつも気まぐれなんだ……まるでアイツの意思を投影しているかのように……」 「気まぐれ?」 「大体の時間は同じだが毎晩数分のズレを生じて発動するし、発動する長さもその日によってまちまち……更には責め立て方も日によって変わるんだ。ヤツが『今日はどんな風に責めてあげようかしら?』って言わんとするようにな……」 「だったらそれは意思を持つ呪いなのでは? 自我があって自分の責めたいように責める自律的な……」 「いや、そういう呪いは一時的に使うんだったら良いかもしれないが、数ヶ月にわたって刻印し続けるモノではない。維持させるためのマナは膨大な量になるし……そんな非効率的な呪いをヤツは好まない」 「じゃ、じゃあその呪いは一体……」 「私はコレを一種の感応物質なんじゃないかって考えてる……」 「感応……物質?」 「そう。ヤツの得意技の一つに『遠隔搾取』っていう能力がある。そいつは自分の餌を自分が直接行かなくても搾取できるって能力で、それをヤツは毎晩私にかけてきているんだと思う」 「遠隔搾取?」 「あぁ……。行為によって溢れさせた淫液を自分のもとにテレポートさせたり仲間の所へ送ったりできる能力。それが遠隔搾取……」 「自分が行かなくても……餌を得られたり餌を送ったりできる……?」 「この背中の呪いは、その遠隔搾取の魔法を感知して体内で活動を始める呪いなんだ。だからヤツが魔法を送ってこない限りは活動することもない……」 「魔法を……送り込む?」 「魔法が送り込まれればこの呪いは私の運動神経を体内で乗っ取って私の自由を奪う。そしてヤツの思うがままに私の体を私自身に責めさせてヤツの餌を自分から送りつけることとなる……」 「嫌な呪いですね……あいつが操っていると考えると……寒気がします……」 「遠隔魔法を発動させるにはそれを受容する器……つまりはこの呪いの刻印の場所を把握していなくてはならない。それはすなわち……」 「呪いの刻印を持つ者が今何処にいるのか……彼女には分かっているということなんですね?」 「そうだ。だから、私が移動すればどこに移動したかはすぐに察知されちまう……」 「厄介ですね……それは……」 「だから、今回は私がそれを逆利用してやった」 「逆利用??」 「このクリスタル……コイツと同じものがあのナイフの刃の芯に埋め込まれている」 「小さくて青いクリスタル? それは……一体?」 「こいつは特定の魔力の波長を感知するクリスタルでね……私はこのクリスタルに、毎晩送られてくる遠隔魔法の波長を覚え込ませた」 「遠隔魔法の波長を……覚え込ませた?」 「そして手に持ってるクリスタルはナイフのクリスタルが魔力を感知すると引き合うよう細工してある」 「えっ!? 細工って……貴女が?」 「そう、私の本業はこういう魔道具を作る仕事をしていたからね……対魔法に関するガジェットを作るのは得意なのさ……」 「へ、へぇ……とてもそうには見えないのですが……人は見かけによらないものですね……」 「うるせぇ! まぁ、とにかくだ……アイツが遠隔魔法を使えばその場所にこのクリスタルが導いてくれるって寸法になってるんだ。だから……」 「夜まで待てと? 嫌です!」 「まぁ待てよ。どっちにしてもコレがなきゃ正確な場所は分かんねぇ……場所がわかっても居場所がバレてちゃ対策されちまう……っていう八方塞がりな状態なわけなんだ……」 「やっぱり貴女を置いて探しに行ったほうがてっとり早い――」 「時にあんた……転移魔法は使えるか?」 「――っ!? は、はい??」 「いや、恐らくあんたが一人で乗り込んだところで返り討ちにされるのは目に見えてる……」 「んなっ!? し、失礼な……」 「私の水銀の銃弾が致命傷を与えたのに奴が平然としていたっていう謎もまだ解けてもいないだろ?」 「うぐっっ……そ、それは……」 「どっちみち私の協力は必要さ……なにせ私はその謎……何となく想像はついているんだから……」 「な、なんですって!? だ、だったら教えてくださいよ! なんですぐに教えてくれないんですかっッ!」 「まだ確証がないからだ。ちゃんとヤツの住処に行ってみないとなんとも言えない……」 「うぅ……」 「すなわち、私もあんたと一緒についていく。私がついていくとなればこの呪いをどうにかしなくてはならない……そういう事になるだろ?」 「……まぁ、そう……なりますかね?」 「だったら一度隣町のリムシェルっていう所に行かなくちゃならない」 「隣町の……リムシェル?? あの風俗街とまで言われた不浄な街に……何をしに?」 「……そこの風俗店の1つに馴染みの女がいてね……そいつにお願いしなくちゃならない……」 「はい? こ、この非常時に風俗店で遊ぼうって言うんですかっッ!? 何を考えて……」 「これも大事な事なんだ! 妹を助けたけりゃ黙ってついてきな!」 「うぐっっ!! な、なんですか偉そうにっッ!!」 「んで、改めて聞くが……」 「……?」 「あんた……物質の転移魔法は使えるのか? それとも使えないのか?」 「……使えますよ? 完全に習得しているわけではありませんから……ほんの数メートルくらいしか転移できませんけど……」 「十分だ……これで手間が省けるってもんだな。じゃあ早速その街に行く準備をしにあんたの村へ戻るぞ!」 「えっ? ちょっっ! 転移魔法って言っても人は飛ばせませんよ? せいぜい小物や手のひらに乗るようなものくらいしか……」 「いいんだ。別に“私をその街へ飛ばしてくれ”とか言うつもりじゃないんだからな……」 「じゃあ……その魔法で何を?」 「それは街まで行く道中で説明する。とにかく今は時間が惜しいんだろ? さっさと村へ戻るぞ!」 「あ、ちょっと!! 手を引っ張らないでっ!! 自分で歩けますっっ!」 「時は金なりだ! 日が暮れる前に街に着いとかなきゃな!」 「わ、分かりました! 分かりましたから手を掴まないで! それにっっ!!」 「あん?」 「私の名前はエリシアだと言ったでしょう? ついて来るって言うんでしたら私の事は名前で呼んでくださいっ! これからは“あんた”は禁止です!」 「わかったよ……。それじゃあ出発しましょうか? エ・リ・シ・ア・さん?」 「うぅ……なんか……言い方がさっきよりも他人行儀になったような気がするんですけど……」 「ほら足元に気をつけて、エ・リ・シ・ア・さん! 転ばないように歩くんだぞ? エ・リ・シ・ア・さん♪」 「くぅ……わざとだ……絶対わざと言ってる……」 「これからよろしくな? エルフの巫女のエ・リ・シ・ア・さん♥」 「むぅぅぅ~~~~っっ!!」

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