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4:淫魔の狩り人 「お嬢ちゃん……その琥珀の中のエルフはあんたの家族か何かかい?」  村の集会所の地下に移された姉エイレーヌの琥珀体を泣きそうな表情で見つめていたアイネに、いつの間にか忍び込んでいたマントに身体を包んだ旅人が不躾に声をかける。  気配も何も感じなかったその旅人に小さく「ひっ!」と悲鳴を上げるアイネだが、その旅人は彼女の様子を気にすることなく琥珀の前に立ちコンコンと拳で軽く表面を叩いて琥珀の硬度をマイペースに確認し始めた。  「そ、そうですが……貴女は?」  無礼な振る舞いをする旅人に驚きを禁じ得ないアイネであったが、彼女が女性である事を感じ取った事と自分に対して敵意を向けてこなかった事を安堵の材料とし、恐る恐る素性を尋ねる質問を口から零した。 「あぁ……こんな格好で申し訳ないね。私はレファ……。レファ=アンブレインって言うんだ、よろしくな……」  深々と被っていたフードを脱ぎ、真っ赤に燃えるような髪を肩に降ろしてニコリと笑ったその女性は自身の名前をレファと名乗った。  荒々しい言葉遣い同様、顔は砂埃まみれで汚れており見た目にも薄汚く見えてしまう。しかし顔のパーツは目が大きく口もバランスをとるかのように大きくて風貌の割に幼くも見える。汚れを落せば可愛い顔が現われるだろう……と勝手に想像したアイネは、差し出された汚い手袋姿の手を握り返し自分の名前は「アイネ」であると彼女に伝え挨拶を行った。 「っで? このねーちゃんは……何で琥珀化しちまったんだい? 誰かに襲撃されたとか?」  レファのぶっきらぼうな言葉に眉をしかめるアイネだが、恐らく話しても害はないだろうと判断し事の起こりと今の状況を彼女に話した。  途中“淫魔の女王”という言葉に何度も過剰に反応し、その淫魔の女王が赤い目であったかどうかを問いただす場面が見られたが、エリシア同様ラフェリアを見ていないアイネにはその質問には答えられず、レファもそれを信じ大人しく事の顛末を最後まで聞いた。 「淫魔の女王か……。あいつがそう名乗っている可能性は……高いな……」  村に起きた事件を聞き終えたレファはそのようにポツリと呟く。 「名乗っている……とは……どういう事でしょうか? 何か知っているのですか? あのサキュバスの事を……」 「あぁ……まぁ……私が探しているのは赤い目をしたサキュバスなんだが……もの凄く性格が悪くて……かなりの自信家でね。もしかしたら自分の事をそう名乗っていてもおかしくはないなぁって思っただけさ……」 「先程から言われている……赤い目のサキュバスに何か……されたのですか?」 「あぁ……まぁ、家族を……ちょっとね……」 「家族を……?」 「うちの家族は、王都の外れの霊薬研究所で職員をやっていたんだが……奴に襲われちまってね……」 「霊薬……研究所?」 「自分の為に“とある霊薬”を調合しろって要求された母ちゃんとお姉はその要求を断ったのさ……。そしたら母ちゃんは殺されて、お姉は捕えられ、私は呪いをかけられちまった……って訳さ……」 「の、呪い??」 「まぁ、私の事は良いんだ。それよりも捕まったお姉の方が心配でね……」 「お姉さんの方……ですか?」 「あぁ……。うちの研究所で最も高レベルな秘薬を調合できる腕を持っているのがうちのお姉だったんだ……」 「高レベルな……秘薬?」 「もしも、お姉がサキュバスの為に霊薬を調合し始めたら……どんな薬でも作ってしまいかねない……」 「お姉さんは……そのサキュバスの為にクスリを調合……すると?」 「分からねぇ……。でも、そのサキュバスが求めた霊薬がヤバいんだ!」 「……えっ?」 「不老不死の霊薬……」 「ふ、不老不死??」 「そう……。もしもそういうクスリを調合出来る材料が揃って、お姉が協力しちまったら……不死のサキュバスが出来上がっちまう! それは……本当にヤバい事になりかねない……」 「そ、そんなクスリが作れるんですか? 不老不死なんて……子供のおとぎ話でも聞かない話ですよ?」 「わからねぇ……ただ、サキュバスは去り際にこうも言ったんだ……」 「……?」 「材料は私が集める……。お前はそれを不老不死の薬になるよう調合すればいいだけだ……。って……」 「材料は……集める? どういう意味ですか?」 「どうもこうもないさ……。恐らく何かしらのヒントを見つけたんだろう……そうでないと、あんな行動には出ない!」 「あんな……行動?」 「奴は村を一つ消しちまったのさ……。エルフの住む集落を……」 「っッ!!? え、エルフの……集落っッ!?」 「確か……シルフェンっていう村だったと思うが……」 「シルフェンっっ!? そ、それは……私達の……住んでいた……村……」 「えっ? そうだったのか……すまない。気を遣ってやれなかった……」 「な、何でっ? 何で私達の村を!」 「たぶん……あんたの村だったから襲った訳じゃない……」 「……えっ?」 「どうやら、エルフを捕まえたかったらしいんだ……。奴は……」 「エルフを? 何で?」 「分かんねぇ……。分かんねぇが、この村を襲った犯人が赤い目のサキュバスならハッキリするだろう……奴はエルフを狙って襲いに来ている……」 「私達を狙って……村を襲撃したというのですか? 気紛れとかではなく?」 「このねーちゃんは村の巫女だったんだろ? その情報は私にも届いていた……」 「はい……私達は、住処を追われた際この村の住民に助けられました……。だから、エイレーヌお姉様がこの村で巫女をやると申し出たんです……」 「住処を追われた? エルフの集落からか?」 「はい……私達は村を追い出されたのです。母の不始末によって……」 「母の……不始末?」 「母は村の禁を犯して人間の男と交わってしまったのです……」 「交わった……? って、えっと……」 「子を産んでしまったのです……人間との間に……」 「ダメなのか? 人間と……その……交わるのは……」 「はい。禁忌とされていて……母はその責任を取らされ強制的に琥珀化され……私達姉妹は村から追放……人間の男も殺されてしまいました……」 「そっか……エルフの集落では人間を忌み嫌う習慣が根強いからな……」 「行く宛を見失った私達は行き倒れる寸前でこの村の方々に助けてもらいました……」 「それで……この村を守るために巫女に?」 「はい。エルフの村でも私達の家系は代々巫女をやっていました。巫女の家系は魔力も高くその魔力を持って村を外敵から守って来たのです」 「成程……その巫女たちが居なくなったから……エルフの村は簡単に落ちちまったって訳か……」 「この村も守れる筈でした……しかし、お姉様の力を上回るサキュバスが襲ってきて……」 「それが淫魔の祠に居る自称“淫魔の女王”と名乗っているサキュバスか……」 「はい……」 「だったら、尚更そのサキュバスは赤い目のサキュバスかもしれないな……」 「えっ?」 「お前の姉をも凌駕した魔力……それはお前さんたちの故郷のエルフたちを吸って得た力かもしれない……」 「吸って……得た力?」 「淫魔は餌とした者の魔力をも吸い取って自分のモノに出来る。だから、エルフの精気を吸ったサキュバスがお前のねーちゃんの魔力を上回っていてもおかしくはない……」 「村の仲間の精気が……サキュバスを強くしていると言う事ですか?」 「あぁ……今はそのねーちゃんの精気も吸っているだろうし……今捕まっているねーちゃんも吸われているだろうから、もっと強くなっている可能性はある。早く手を打たないと霊薬云々を言ってる場合じゃないくらいに取り返しがつかなくなっちまう……」 「そんな! じゃあ……エリシアお姉様は……」 「祠へ入って2時間ちょいってところか……。でも、もしも赤い目の奴だったら……どうせ余興を楽しむのを優先するだろうから……時間がない訳でもない」 「余興を……楽しむ?」 「あぁ……。あいつはかなり変わったサキュバスでね……どうやら、単に精気を吸い取って“食事”を済ますっていう行為に飽きちまったらしい……」 「食事に……飽きたって……どういう意味です?」 「…………………………」 「…………??」 「思い出したくもないが……うちの母親も、研究所の女の職員は全員……コレで殺されちまった様なもんだ……」 「コレ……って?」 「全員……窒息させられながら……精気を搾り取られていったのさ……不本意に笑わされながら……な……」 「不本意に……笑わされる? 窒息って……?」 「もしも奴がその祠にいるっていうのなら……恐らくこの琥珀化したねーちゃんも……そして今捕まっているねーちゃんも……同じ事をされているだろうな……」 「姉様たちに……何をしたんですか? 彼女は……」 「あんたは……知らない方が身の為だよ。彼女達の事を尊敬しているのであれば……尚更ね……」 「尊敬してます! お姉様達を私はずっと尊敬しています! そんなお姉様達を……どうやって苦しめているのか……知りたいです……。私も……知っておきたいんです! どんな責め苦があの祠で行われているのかを……」 「やめておきな。アレは人に見られて嬉しいものではないし、本人も絶対に望まない筈さ……。自分の無様な姿を妹のあんたに見せたくないだろうからね……」 「それでも! 私は……知りたい! そして助けたい!! エリシアお姉様を……」 「じゃあ、その“助けたい”っていう思いは、私に預けてくれないかい?」 「……えっ?」 「こう見えて……私はちょいと淫魔に関しては詳しくてね……。って言うか、赤い目を探すために片っ端から淫魔を狩っていってたら“狩り人”なんて言う異名までついちまったんだわ♪」 「……カリビト?」 「そっ“淫魔の狩り人”ってな……。なんか、淫魔専門のハンターにされちまってるんだわ……私」 「淫魔を……サキュバスを狩っているのですか? 貴女が?」 「あぁ。これでも腕は立つ方さ。だから安心して待ってな……私が必ずあんたのおねーさんを助けてやっから♪」 「貴女が村長の言っていた……傭兵さん?」 「……傭兵ってもんではないさ……エルフが居るっていう噂を聞きつけて復讐を果たそうとしているただの狩人……それだけだよ……」 「倒して……くれるんですか? あの淫魔を……」 「倒してみせる……と言いたいが、まぁ、せいぜい追っ払う位が精一杯かもな……」 「それでも……助けてくれるんですね? お姉様を……村を……」 「あぁ、任せときな。淫魔の狩り人の名にかけて……必ず救ってみせる!」 「お願い……します! 本当に……お願いします!!」 「それじゃあ……済まないが宿を借りてもいいか? 今日は日も暮れるし寝ないとならない……」 「へ? あ、あの……今から行くのではなくてですか?」 「そうしたいのは山々だが……私は日が暮れると全く行動が出来なくなっちまう……。だから夜は出歩けないのさ……」 「……? あ、そ、そうでしたか……わ、分かりました。でしたら……うちで良ければ使っていただいても……」 「有り難い。済まないが世話になるよ……まぁ、淫魔退治の必要経費とでも思っておいてくれ♪」 「……??」 「あ、それと……」 「……は、はい」 「夜は……変な声が聞こえても……絶対に覗かないでくれ……」 「……へっ??」 「出発は明日の昼過ぎだ。それまで……申し訳ないが寝かせておいてくれ……。多分、夜は眠れないと思うから……」 「……寝れない? あれ?? ベッドがあるのに……ですか?」 「まぁ、気にしないでくれ。私は私の戦いってもんがあるものでね……」 「……??? は、はぁ……」

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