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19:五十嵐志乃という女  琉姫への狂乱の責めが今まさに始められようとしていたその時、別の場所では囚われの身となった美香と囚われの身となっていない志乃の2人が同じ地下牢という名の部屋の中で向かい合わせになっていた。   「どういう事ですか? 囚われの私を見て笑いに来たんですか! 裏切り者の志乃さん!」  後ろ手に錠を掛けられ壁を背に座り込んでいた美香は、自分を閉じ込めていた扉が開きそこから裏切り者が堂々と入って来た為睨みを利かせてそのように圧を掛けた次第だが……その圧力のある言葉に志乃はいつも通り何を考えているか分からない朗らかな笑顔を崩さず、返しの言葉を静かに放つ。 「そんな悪趣味な事をしに来た様に見える? 監視係を気絶させてまで来てあげたのに……」  確かに彼女がドアを開ける直前には自分の見張りを行っていた女性の挨拶する声と、その直後に何かが床に倒れる音がしていた。  それが志乃の仕業であるとは言われるまで気付かなかったが……。 「何ですか? もしかして助けに来たとか言いませんよね? 私の事2度も騙しておいて……」  美香はますます警戒を強める様に目をギラつかせるが、志乃は相変わらず涼し気な顔を崩さない。 「騙してなんかないわよ~♥ 貴女が勝手に暴走したから計画が狂っただけ……。だから、賭けるしかなかったのよ……琉姫ちゃんの良心に……」 「処刑されかけたんですよ? 貴女の言う通りに……大人しくついて行ったら……」 「それは……仕方がないじゃない。貴女があの時余計な事をしなければ計画通り事は進んでいたハズなんだから……アレは罰よ♥ 私からのね……」 「余計な事って……妹を助けた事ですか?」 「そう。アレは余計な事だったわ。どうせ後から私が助け出す予定だったのに……勝手に連れ出しちゃうんだから厄介事が増えちゃったんじゃない……」 「し、信用できるわけないでしょ! 警察署内は楓さんの仲間だらけだって彼女から聞かされていましたし……。貴女だって未だに信用できません! 本当は厚生労働省付きの麻薬取締官だったなんて……そんな話されても……」 「彼女の仲間は署内に一人も居ないわ♥ 彼女には仲間を作っているって言いはしてたけど……実際は嘘だもの♥ それに私は正真正銘、厚生労働省所属の麻薬捜査課の職員よ? ほら……職員証も今日は持ってきてる♥」 「それも偽造じゃ……ないんですか?」 「調べて貰えば分かるわ、これはホ・ン・モ・ノ♥ こっちの警察手帳だってちゃんと再支給してもらったものなんだからぁ♪」 「警察手帳を再支給してもらったって……どういう事ですか? そう言えばマトリ(麻薬取締局)の職員だっていうのに警察組織に属しているのって……おかしいですよね?」   「もう……だからさっきも連れて行く道中に説明したじゃない。私は元々警察官として3年間働いていたの。そこからマトリに引き抜かれて取締官になったわ。それでたまたま潜入捜査を始めた麻薬シンジケートの中に国際指名手配犯の悠里が居て、そのまま彼女に気に入られてブリード・ラッツの方へ潜入する事になったって……」 「それは聞きました。でもなんで警察にも潜り込んだんです? しかも警察の情報をだだ漏らしにして……そういうの2重スパイとかっていう奴なんじゃないですか?」 「当時の悠里たちは海外で猛威を振るう麻薬組織としては有名だったけど日本での活動は殆ど無かったの。それは警察の動きが読めていなかったって言う事に起因してたんだけど……私はそこを逆に利用して彼女の信頼を大幅に獲得することに成功したわ……」 「逆に……利用した?」 「警察署内にスパイとして潜り込んで情報を伝えてあげる……って提案を行ったの」 「やっぱり……スパイ活動を!?」 「勿論、情報は流してあげたけど殆どは漏れても問題の無いような軽い情報達だったわ」 「よくそれで信用されましたね……」 「まぁ彼女にとって警察の情報を得ると言うのはそんなに大事な事ではなかったの……」 「え? 情報が大事ではなかった??」 「要は警察内部に仲間が潜り込んでいるっていう事が重要だったのよ。一番の天敵である警察に仲間がいれば、何か事を起こす場合に動きやすくなる……。上手く行けば警察組織を内部から崩すキッカケになって貰えるかもしれない……。そんな風に悠里は考えていたでしょうね……」 「内部から……」 「そういう思惑も、自分の立場も自分の過去も警察署長に全部話した上で署内に特例で入れて貰って、私は晴れて潜入捜査官兼、麻薬組織のスパイ兼、警察官っていう特異な立場を手に入れた」 「何重スパイですか? それ……」 「まぁ、立場はいっぱい手に入れたけど……私の目的はいつでも変わらずただ一つ。ブリード・ラッツの壊滅……だったわ」 「……でも……。どうでもいい情報だったとしても……よく警察の情報を漏らす許可が下りましたね?」 「警察も国際指名手配犯を壊滅させられれば大きな手柄を立てられる……。どうでもいい情報を流させるだけでその手柄が貰えるんであれば……っていう思惑が署長にもあったみたいだから、案外簡単に協力してくれたわ♪」 「そんなに簡単なものですかねぇ? 警察って……」 「ここしばらく大きな手柄を上げられていなかった警察署だったからこそ、通ったんでしょうね♥」 「成程……まぁ、志乃さんの経緯は何となく分かりました……。それで? アレは何で立ち上げちゃったんですか?」 「……アレって?」 「ほら、警察の方にも“違法薬物等特別捜査課”なんてモノを作っちゃいましたよね? アレは何です? なんで琉姫先輩をそこに引っ張って行ったんですか?」 「あぁ……。それは、悠里の注文があったから……」 「注文?」 「本格的な麻薬汚染に動き出すために警察の動きをもっと詳しく知りたい……特に薬物関係の……っていうオーダーがあったから、チャンスだと思って捜査課の立ち上げを申請したの」 「チャンス?」 「えぇ……。悠里に信用されていたとはいえ大手を振って組織の中を動けなかった私は囮となって動いてくれる人物が一人欲しかったの……」 「それが……琉姫さん?」 「彼女……とっても優秀だったわ♥ 教えた事はすぐに吸収するし……何よりあの、悪には絶対に屈しないっていう雰囲気が囮として申し分なかった♥」 「先輩を囮に使うなんて……」 「勿論申し訳ないとは思っているわ。この事件が解決すればどんな罰でも受ける……。そういう覚悟も私は持ってる」 「そんな事で……許されるとでも……」 「本当は彼女が捕まった瞬間、拉致監禁の現行犯でしょっ引こうと思っていたの……でも……」 「でも?」 「貴女が現われた……」 「わ、私?」 「そう……琉姫ちゃんの後輩である貴女と……ミズホモーターズに運悪く入ってしまった妹さん……。警察関係の姉を持つ妹が入社した事はすぐに悠里に勘付かれ……貴女と妹さんがまんまと悠里の操り人形に成り果ててしまった……」 「うぐ……うぅ……」 「琉姫ちゃんだけの救出なら無理やりでも突入すればどうにでもなったんだけど……人質が2人になってしまえば両方を同時に救出するのは難しくなる……」 「………………」 「さらに貴女には悠里から特別オーダーが下されたじゃない? 琉姫ちゃんを騙して誘い出せって……」 「え、えぇ……」 「悠里としては、情報発信源である取締課が出来たのはいいけれど、そこに自分の思い通りになっていない人物が居るのは気に入らないって思っちゃったみたいでね……」 「思い通りにならない人物が……警察学校からすぐに署に配属された……琉姫先輩だった?」 「そう。本当は琉姫ちゃんを送り出すタイミングはもう少し経験を積んでもらって事情を話してから……って思っていたのだけど……。オーダーが出た以上そういう時間も取れなくなった……。だから貴女へのオーダーに乗っかって作戦を速めてしまおうって……考えついたの」 「計画を……変更したって事ですか?」 「そっ♥ 何も知らない琉姫ちゃんがあっさり敵の手に堕ちて……悠里が直接尋問している最中に私が妹ちゃんを救出するって計画を立てた……」 「志乃さんが……妹を?」 「そのハズだったんだけど……でも、今度は貴女が侵入したっていうじゃない? しかも……雑な救出しちゃって……悠里にもバレちゃってたし……」 「バレてたんですか? 私の潜入……」 「貴女……監視カメラって知ってる? もう……がむしゃらに侵入しちゃってるものだから、ガッツリ映っちゃってたわよ?」 「あう……ぅぅぅ」 「当初は部下全員でお出迎えして貴女を捕えるってオーダーが出されたけど……そこは私が捻じ曲げて私だけで向かわせてもらったわ」 「志乃さんだけ?」 「そう……このまま貴女まで捕まって……救出対象が3人になってしまったら、全員を同時に助けるなんてほぼ不可能になる。だから妹ちゃんだけは逃がして、代わりに貴女だけ連れ帰るっていうプランに変更を余儀なくされたわ……」 「私も……逃がしてくれてもよかったじゃないですか!」 「それじゃあ悠里の信用を失うことに繋がっちゃうじゃない。まだバレるわけにはいかなかったんだから、裏切った貴女というお土産をキチンと届ける以外に妹ちゃんを逃がす正当性は見つからなかったの♥」 「だから……千里は簡単に見逃してくれたって訳ですね……」 「悠里的には妹ちゃんを逃がしちゃったのは許容のギリギリだったでしょうけど……私への信用は中々の物だったから、簡単に許して貰えたわ♥」 「なんか……部屋に呼ばれてませんでしたっけ? お仕置きがどうとか……」 「うっ! ……ご、ゴホン! とにかく! 貴女の暴走のせいで危うく作戦のタイミングを逃す所だったけど……これで貴女を逃がせば後は待つだけになるわ♥」 「待つって……何をです?」 「手柄を欲しがっている人達の……突入をよ♥」 「警察!? 警察の人達が……突入してくるんですか? ココに?」 「その予定よ? あの通信がちゃんと彼女に届いていれば……だけどね……」 「あの通信って……さっきの私の“演技”の事ですよね?」 「そっ♪ あの大根役者っぷりは中々の物だったわ♥ まぁ、逆にあれで琉姫ちゃんが思い出してくれたみたいだけどね……自分には通信機が持たされていたって事を……」 「大根は余計です! 貴女に言われた通り声を上げただけですから!」 「……その通信がちゃんと彼女に届いていれば、今頃突入を待っていた警察が動き始めている頃……」 「彼女って……誰です? 通信機は志乃さんが持っている訳じゃなかったんですか?」 「受信側の通信機は箱みたいに大きなトランシーバー型になっているわ。そんなものを私が持てるわけがないでしょ? 悠里の目の前で……」 「じゃあ誰が……あの通信を受け取ったんです?」 「琉姫ちゃんが通信を入れて来たら電波障害を装って返事を返さないようにと“彼女”には言っておいたの……。でも、もし琉姫ちゃん以外の声が通信として入ってきたら……それは作戦の最終段階を意味するから警察に一報を入れて頂戴って……伝えたわ」 「だ、だから! その受け取り手は? ……彼女って一体誰なんです?」 「……彼女はこの潜入捜査への一番の協力者であり……一番の被害者……」 「被害者……??」 「父親から譲り受けた……2つの大事なものをことごとく奪われた彼女……」 「2つの? 大事な物??」 「1つは祖父と父親が大事に守ってきたこの無人島……」 「この無人島って……南沖島っ!?」 「もう1つは……父から世代交代されて託された会社……」 「それって……ミズホモーターズの事? っと言う事は……通信の受け取り主は!!」 「そう。ミズホモーターズ……現オーナーの……」 「三洲穂……咲枝……その人よ」

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