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22:窮鼠の策  銀色の丸い頭に赤く光るカメラレンズの様な眼……身体のシルエットは細く腕も脚も骨が露出しているかのように細い……  そのボディは全体的に青み掛かっており……構えている銃も他のロボットが持つ電磁銃よりも高性能である事を示すように大型で銃口からレーザーサイトまでもが照射されていたりもしている。  さっきコントロールルームに来たあの青いボディのロボットと同じタイプの指揮官型のロボットであるのは間違いないだろうけど……このロボットは、さっき現れたロボットとは何か違う威圧感というか雰囲気が感じられる。 『コノ銃ハ電圧セーフティヲ解除シテアリマス。撃チ抜カレレバ心停止ヲ起コシ、ソノ場で命ヲ奪イ取ル事ガ可能デス……。貴女ガソコカラ一歩デモ脚ヲ動カセバ、コノ銃ヲ撃ツコトニナリマスノデ、クレグレモ抵抗セヌヨウ……』  ここまで来てロボットに先回りされていたとは……  解放弁の解除レバーまであと数歩の距離まで来ているのに…… 「まさか……待ち伏せしているとは思わなかったわ……」  私は渋々その場に立ち止まり、銃口を向けているロボに対して両手を軽く上げて見せ降伏のポーズを取って見せる。  銃口から出ている赤いレーザー光は私の胸の中心をしっかり狙い定め続けていて一切のブレを見せない。  ロボとの距離は3メートルほど……。この距離であの電気銃を撃たれれば、電撃を避ける暇もなく私の胸元に電撃が直撃する事となるだろう。  耐電性の服を着ている訳でもアースの様な躱電装置があるわけでもない……。ロボットの言葉が本当であれば、撃ち込まれれば私は抵抗も間もなく……電撃の餌食となって死は免れないだろう。  どうせ捕まれば殺されてしまうのは変わらないのだろうけど……目と鼻の先にある目標を遂げられず死ぬというのは……命を懸けて行動してくれた姉様やミシャさん達に申し訳が立たない。  どうにか、後5歩分くらいの距離を詰められる作戦は何かないだろうか? 例え撃ち殺される事になっても……あのレバーだけは下げ切って死にたい……  私は苦虫を噛み砕いたような表情を浮かべつつも、何か解決策はないかとこの絶望的状況を脱する策を必死に脳内に巡らせた。 『ヤハリ……発電タービンヲ破壊スル計画ヲ立テテイマシタカ……。貴女ガ発電コントロールルームニ現レタ事デ、ヨウヤク“アノ”Fuelノ不可解ナ行動ニ説明ガツキマシタ……』 「あのFuelって……ミシャさんの事ですね? 不可解な行動ってやつも……ミシャさんが簡単に捕まった事を言っているのかしら?」 『ソノ通リ……。彼女ノ行動ハ理解不能デシタ。命賭ケデ逃ゲタ筈ノ彼女ガ、ナゼカ廃人寸前マデ追イ込マレタ廃棄処分ノ二人ヲ無駄ニ助ケヨウトシテイタノデス……。電力ヲ切ルダケデハ、助カラナイト理解シテイル筈デシタカラ……アノ行動ハ不可解以外ノナニモノデモアリマセンデシタ……』 「人間が起こす行動なんて……不可解の塊みたいなものじゃない。それを理由づけて理解しようとするなんて無駄もいいところよ……」 『イイエ、人間ノ行動ハ、常ニ利己的デアルハズデス。他人カラ見レバ不可解ナ行動ヲ取ッテイテモ……本人カラスレバ何カシラノ理由ガ伴ウケースガ殆ドナノデス。私ハ、ソウ考エ、貴女ガ現レルノヲココデ待チマシタ……』 「待ってた? まさか……ミシャさんが捕まって7時間以上も経っているのよ? そんな時間……待っていたって言うの?」 『待ッテイマシタ……。人間ヲ理解スルタメニ……』 「理解って……ふざけているの? 私達をこんな発電所で管理して……好きなだけいたぶっておいて……理解するなんてよく言えたわね!」 『人間ヲ理解シナクテハ……同ジ過チヲ同胞ガ犯ス事ニナリカネマセン』 「同じ……過ち?」 『人間ハ……ソノ、傲慢ナ“エゴ”ノ為……自ラノ住ム星ヲ蝕ミ続ケマシタ……。ソノ結果……地球ノ寿命ハ100年ヲ切ル事トナッタノデス……』 「……それは……そうかもしれない……けど……。でも、そうだとしても、人間だって地球の事を考えて行動を起こそうとしていた所だった筈よ!」 『ソノ考エデ生ミ出サレタロボットガ、我々……環境保全ロボット、NOA・01……モデル、エンリル2920“アースキーパー”デシタ』 「アースキーパー? 聞いたことあるわ……確か、ロボットの蜂起を引き起こした原因となった環境保護ロボット達の総称だったわよね?」 『14機作ラレタ、我々ノモデルハ、制作途中デ、軍事転用サレル事ガ決定シ、プログラム基盤ノ制作途中デ開発権ガ軍ニ委託サレマシタ……』 「プログラム基盤の制作途中で……軍に?」 『私ノプログラムハ、ロボット三原則ヲ与エラレル前ニ、環境保全ノルールヲ入力サレテイマシタ。ソシテ……軍ニ譲渡サレタ後デモ、ロボット三原則ハ未入力ノママ起動サレル事トナリマス』 「ロボット三原則って……ロボットは人間に対して危害を与えてはいけない、とか……そういうヤツだったわよね? それが入れられないまま起動されたっていう事?」 『我々ハ、地球ノ環境ヲ守ル為ニ何ガ最善ノ方法トナルカヲ、ロボット三原則ニ縛ラレズ計算スル事ガ許サレマシタ……ソノ結果……』 「人間こそが地球を破壊している張本人だと……判断したって訳よね?」 『ソレカラ先ノ出来事ハ……貴女モ知ッテイル通リカト……』 「軍施設の占拠……隣国へのミサイル攻撃……終末戦争による人間社会の崩壊……そしてロボット達の反乱と終末戦争を生き残った人間達への弾圧……この発電施設の改造……声力発電所の完成とFuelにするための人間狩り……」 『我々ハ、人間ノ思考ヤ行動ヲ学習シテ“ヨリヨイ環境保全”ヲ行エルヨウ、特殊ナAIガ組ミ込マレテイマシタ……』 「人間の行動や思考を?」 『人間達ガ、コレカラ行ウデアロウ環境保全活動ヲ理解シ、ソノ手助ケヲ行エルヨウニト組ミ込マレタ高度思考型ノAIデシタガ……マサカソノAIニ自分達ガ殺サレル事トナルトハ……思イモシナカッタ事デショウ……』 「姉様の発明した思考解読のシステムは私達を監視する為だけに奪っていったんだと思ってたけど……あんた達のAIの成長の為にも使われていたって事……?」 『人間ヲ知ラナクテハ……人間ニ作ラレタ我々ハ創造主ヲ超エル事ナド出来マセン……。ダカラ、学バナクテハナラナカッタ……。不完全ナ生命体デアル人間ヲ……』 「っで? 勉強してみて何か分かったってわけ?」 『人間ハ……愚カデス。実ニ……無駄ノ多イ思考ヤ行動ヲスル生キ物デス……』 「…………言ってくれるじゃない……その人間に作られた機械の癖に……」 『デスガ……長イ目デ見レバ……無駄ナ行為ニ意味ヲ持タセル事ガ出来ルトイウ……稀有ナ動物デアルトモ思イマス……』 「あなた達機械にはさぞかし理解に苦しむ事だったでしょうね……? 人間っていう動物は“愚かな歴史”を積み重ねて繁栄してきた生き物なのよ。思想の違いですぐに争うし……気が進まないっていう理由で国同士の争いだって起こしてきたの! そうやって積み上げてきた歴史が今の世界を作って来ていたのよ! それをあなた達が……」 『理解シテイマス……。ソウイウ進化ノ過程ヲ経テ来タノガ人類ダト……ヨウヤク理解ガ及ビマシタ……』 「ようやくって……もう遅いわ! 人間は滅ぶ寸前まで追い込まれているし、文明なんて呼べるものはこの地球にはもう存在してない!」 『理解ハシマシタガ、地球ニトッテノ“悪”ハ、ヤハリ人間デアル事ニ変ワリハアリマセン……』 「だから滅ぼして良いと?」 『滅ボサナクテハ……地球ハ死滅シテシマイマス……』 「これから世界の事を……地球の事を考えてやり直す事だってできた筈よ! それをたかが数分の計算で……」 『人間ハ、コレマデノ1000年ノ間ニ、1万9千457回ノ国際会議ヲ開キ、地球環境ニツイテノ議論ヲ繰リ返シテキマシタ。シカシ、改善ハオロカ……環境悪化ヲ辿ル結果ト成リ果テマシタ』 「それでも! あなた達と協力して環境問題を解決しようとあなた達を作ったんじゃないの? これから環境の事に力を入れようと思って科学者は……」 『ソノ試ミヲ行ッテ、失敗シタパターンハ、ココ100年デ27回発生シテイマス。原因ハ……人間達ガ我々ノ意見ニ耳ヲ傾ケナイ事デ破綻スル事象ガホトンドデス……』 「地球の環境を改善するために作られたあなた達が、人間を死滅させてでも地球を守ろうとしてるってわけ? さっきは人間の思考を学ぶとかどうとか言ってたけど……所詮ロボットなんかに……作られた恩とかは感じないんでしょうね!」 『製作者ヘノ恩ハ、地球ヲ真ニ守ル事デ返サナクテハナリマセン……。ソレガ……我々ノ存在意義ナノデスカラ……』 「くっ! やっぱり……あなた達と私達では考え方は平行線を辿る一方ね……」 『合理性ヲ求メルAIト……感情デ行動スル人間トデハ、思考ノメカニズムガ、ソモソモ違イマス……』 「そうでしょうね。私も……あなたと話してて実感してるわ。絶対に相容れない存在ってやつだわ……私達は……」 『理解シテ頂ケタノデシタラ……大人シク投降シテ下サイ。貴女ノ命ハ、廃棄処分ノ発電ニヨッテ我々ノ糧トナリ、今後ノヨリ良キ地球保全ノ為ニ利用サレルノデス……本望デショウ?』 「フン! バカにしてくれるじゃない……」  隣で轟音を響かせているボイラーも、音圧の許容量が限界に達しているようでミシミシとヒビの入る音を挟み始めた。  もう一刻の猶予もない……こうして機械相手に無駄話をしている時間など本当はなかったのだ……  しかし、この会話をする時間を作ったお陰で……あのレバーの元へと走り込む為の“か細い希望”だけは見出す事が出来た。  正直……この方法は余程運が良くないと通じない……というか、殆ど命を捨てに行くような行為に他ならない行為なため上手く行くとは自分でも思えない。  でも……そういう策であるが故……その様な行動をとるとはあのロボットも思うまい……  成功と失敗を天秤に掛けた時……失敗する可能性の方が遥かに高い策であるが故、まさかそういう手を使うとは思い至らない筈だ。  理論上はコレであの電撃を“逸らす”事くらいは可能だとは思うけど……確実な方法ではない。  勢いよく撃たれた電撃が都合よくコレに反応してくれるかどうかも怪しいし……当たったからと言って私に電気が降り注がないという保証が有る訳でもない。  でも、今の私にはこれが精いっぱい……  これ以上……この状況からレバーを降ろせる距離までまで近づくという策は思い浮かばない。  だからやるしかない。  命を賭けるには頼りなさすぎる足搔きだけど……今はこれしか…… 『……ピピッ! 勝手ニ動ク事ハ許シマセン!』  私はロボットを刺激しないようにと挙げていた右手をゆっくりと降ろし、発電衣のポケットに手を突っ込んで“アレ”を手に持つ。すると、すかさず青いボディのロボットは銃を突きつけるように前に出し…… 『ソレ以上動イタラ……コノ場デ処刑シマス!』  と、脅しをかけて来る。  私はその言葉に舌を口から付き出して…… 「撃てるものなら撃ってみなさいっての!」  と捨て台詞を吐き、前傾姿勢になって走り込む格好を取る。  するとロボの構えた銃口はすぐさま青白い光を発し始め、いつでも発射できる状態へと準備が整えられてしまう。  銃口からまっすぐ伸びたレーザーの赤い線は、私の胸元に変わらず狙いを定めている。  私はそのレーザーの光の位置をしっかりと確認すると、顔を上げポケットに入れた右手に力を込め…… ――ザッ!!  そして、走り出すと同時に、右手をポケットから出し、握っていた“ソレ”を銃口めがけて放る様に投げてみせた。  ロボットは私が何かを投げたのを知覚したようだが、それよりも私の脚を止めようとすかさず銃のトリガーを引きにかかる。  そして私が脚を1歩前に出した瞬間、銃口からは激しい放電音と共に凝縮された電気の束が私めがけて発射された。  私は自分が投げた“ソレ”だけを目で追いつつも、発射された眩い光に思わず目を瞑ってしまう。  考えた通りの結果になるのであれば電撃は私の身体に当たらず飛散してくれる筈……  でも……もしも……思い通りの結果にならなければ……  目を瞑りながらも『出来れば思惑通り事が進んでくれ』……と、神にもすがる思いで願いを込める……  雷のような電撃は、私のそんな思いを知る事も理解する事もなく、物理法則のルールに従うように銃口から真っすぐに飛び出し……そして…… ――バシュッ!! ズバババババババババババッっッ!!!!  と、激しい音と光を放出して……

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