ディストピア・プラント:2920~㉑託された作戦~ (Pixiv Fanbox)
Published:
2022-07-20 10:02:45
Edited:
2022-09-01 13:15:18
Imported:
2023-06
Content
21:託された作戦
「やっと……20時30分になったし……そろそろ……ココを出なきゃ……」
ミシャさんが捕まって数時間が経ったボイラーコントロールルームは静かだった……
静かだとは言いつつも隣の部屋から漏れ聞こえるボイラーの音は相変わらず騒音レベルで耳に重低音を届けてきているが、少なくともそれ以外の機械達の騒音は耳に入ってこない。あれほどミシャさんを捕まえる為に集まって来ていたロボット達も、今では元の持ち場へ戻っていったらしく影も形も見当たらない。
命令に対して絶対服従なのはロボットなのだから当然だと理解はしているのだけど、こうもあっさりと警戒レベルを下げて警備を引かせているのを目の当たりにすると……逆に不気味にすら感じられてしまう。
人類の英知を結集して造られたであろうロボット達が、目的の人物(ミシャさん)を捕まえただけで警戒を解いてしまうなんて……。そのようなザルな警備方針で良く今まで暴動とか起こされずに済んだものだと……ロボット達のAI思考の拙さに呆れた溜息が自然に零れてしまう。
私はそのような事を思いながらも念のため細心の注意を払い、隠れていたダクトから這い出してボイラーのモニタールームへと忍び足で近づく。
巨大なモニターの端には今にも息絶えそうな表情で笑い苦しんでいるマリア姉様の様子や、姉様の助手をやられていたクラリスさんの姿……そして、二人以上に笑い苦しみ抜いているミシャさんの様子が縦に並べて映し出されていた。
「う、うわ……ミシャさんへの責め……えげつない……」
機械に埋め尽くされていると言っても過言ではないミシャさんの姿に、私は思わずそのような言葉を漏らしてしまった。
彼女はお姉様達と違い、上から透明な蓋が被されていてその蓋の裏には触手の様に蠢く無数の小さなくすぐりハンドがビッシリと張り付けられている。そのくすぐりハンド達はミシャさんの身体の表部分を隙間なく覆い尽くし大量の虫が這いまわる様に蠢いてくすぐり回している。
それだけでもおぞましい見た目なのに、くすぐりに最も効きやすいワキとか足の裏とかの部位にはしっかりとそれ専用のくすぐりマシンが責め立てていて、見ているだけの私でさえ体中がむず痒く感じてしまう程の嫌悪感を生み出している。
「っと……いけないいけない! 姉様達の責めを見るためにココに来たんではなかったんだった……」
私は画面下に用意されていたキーボードをミシャさんに教えられた通りに操作し、画面を“発電区画”の映像へと切り替える。
すると、発電区画の映像には“通常発電”行う為のカプセルが横一列にキッチリ並べられている様子と、その中で誰がどのカプセルに入れられているかが一目で分かるカプセルの中の様子が小さな小窓で映し出されていた。
「ちゃんと始まってくれていたようですね……。良かった……ミシャさんが懸念していた事は、とりあえず一つ解消です……」
通常の夜発電はピッタリ20時から始まる……
だけど、裏で3人の処刑が進行しているという特別作業が行われている為、もしかしたら通常の発電は中止になる可能性もある……などとミシャさんは言っていたけれど、どうやらそれは杞憂になってくれたらしく、ロボット達はしっかりと通常の発電を行うというルーティーンをこなしてくれたようだ。
カプセルの中で身体中をくすぐられ必死に笑い悶えている女子たち……
普段はその様子を互いに見る事は出来ないが、こうしてモニター越しに笑い狂う彼女達を見ると……なんだかイケナイものを覗いているかのように感じられ下腹が疼いてしまう。
あんなに普段大人しいあの子が……こんなにもとち狂うようにゲラゲラ笑い悶えているなんて……
いつもお姉さん振って大人っぽく振る舞ってるあの子が……こんなに子供のように笑っている姿を晒すなんて……
あれほど清楚で透明感のある美女が……こんな風に下品な笑い方をするなんて……
普段は決して見れない彼女達の裏の顔を見てしまったかのようで……衝撃を受けてしまう一方で、少し倒錯的な感情が込み上げてしまい申し訳なさも浮かんでしまう。
「え、えっと……発電システムの設定は……え~~っと……」
私は、そのような不逞な感情を浮かべてしまった事を胡麻化すように、ミシャさんに頼まれた操作を思い起こしパネルを操作し始める。
「あった。これだ!」
そして、発電のコントロールを一挙に賄っているタグを見つけ出すと、そのタグを例の発電映像に被せるように画面いっぱいに表示し直し彼女達の悶え顔を隠してあげた。
「カプセル一つ一つの稼働レベル……攻め手の種類……責め箇所……。経過時間、発電の目標蓄電率……発電タンクの容量……」
設定のタグにはカプセル個別の発電設定が数値化されて弄れるようになっており、その数値は責められる個人によって弱点や感度によって細々と調節されている様子が伺えた。
各項目を確認しながらも目的の項目を探していく私……
すると、最後の方に赤く仰々しい枠に囲われた項目が現れ、それが目的のモノであると確認し私はその項目にカーソルを移動させる。
「“発電全体の処理倍率変更”……これだ!」
ミシャさんが身を犠牲にしてまで私に託した最後のミッション……それは、この“発電処理倍率”を最大に設定し直し、タービンへ送られる音圧を限界まで高めてから手動で解放弁を開きに行く……というものだった。
ミシャさんは捕まる前にこの様に説明してくれた。
人間の声で発電をするという非効率的な発電所を作る上で絶対に欠かせないシステムがこの施設には組み込まれている筈だと……
それが声の力を増幅させて留まらせておくことができる“集音ボイラー”の存在と、そのボイラー内で音声を反響させ声の音圧を上げ続ける事のできる増幅器の役割を持つ“拡声壁”の存在……
人間の叫び声や笑い声は空気の振動によって遠くまで伝わるというメカニズムがある為、空気の無い宇宙では音は広がって行かないのだそう……
逆に、空気させあれば振動の大きさによって遥か遠くに居る人にも音や声を届けられるのだそうだ。
発声発電というシステムは声による“空気の振動”を増幅させ、その振動をぶつける事でタービンを回しエネルギーを得る仕組みなのだそうだ……
しかし、人間一人が上げられる声量は限りがあるし、生成されるエネルギーも微量過ぎて小型のタービンを回すにも至らないという研究結果が出され、人道的な観点からも問題が多く指摘され遥か昔に廃れていった理論であるとの事。
でも、機械達は生き残った人間の有効活用方法としてこの発声発電のシステムを進化させてしまった。
個人の発声で得られるエネルギーは少ないが、それが集団で同時に発したならば話は変わってくる。機械達はまず、その集団のエネルギーを生み出すために高音域の音圧を出す“女性”だけを生かしこの施設に集めていった。
そして、多数の女性達による笑い声を集音ボイラー内という一か所に集め、更にその声の音圧を高めるべく“拡声壁”にぶつけてエネルギーを生める音圧まで高める事とした。。
拡声壁の仕組みは単純である。その名の通り拡声機(メガフォンやマイク)と同じ構造の壁を集音ボーラーの内壁に張り巡らせるだけで出来上がるそうだ。
人間達に発せさせた笑い声を集音ボイラーへと集めそこに密閉し、声を拡声壁へとぶつけていく……すると、壁に吸い込まれた笑い声は数倍の大きさの笑い声となって壁から再び放たれる事になる。大きくなった笑い声は次の壁に吸収されさらに大きな声へと成長させられ、大きくなることを無限に繰り返していく。
声が大きくなればなるほど空気の振動はそれに応じて大きくなるが、集音ボイラーは密閉されている為“解放弁”が開かない限りは音圧は高まる一方になっていく。
そうして育て上げた笑い声の音圧が、タービンを回し切る事が可能な音圧に達すると解放弁が自動で開かれ、回す事で電気を生むタービンの羽根へとぶつけられる事となる。
そういう工程を繰り返す事でこの発声発電は成り立つことができる……と、説明してもらった。
人間の倫理観から考えれば、このような発電は完全にNGだと分かり切っているが……今の世界のルールは人間ではなく機械達が作っている。
だからこのような“人間に声を出させ発電を行う”という発想は、奴等らしい発想だと言わざるをえない。
人間では……このような残酷なシステムを考える事は出来ても……それを実用化に発展させようとは思わない筈なのだから……
「この発電処理倍率を……まずはマックスにして……」
ミシャさんに説明された仕組みは頭に入っている。
そして、この仕組みであるからこその“唯一の突破口”も教えて貰った。
確かにこの方法なら、当初の目的であった“バリアの電源を数秒でいいから落とす”という、成功するかどうかも不明なリスキーな作戦よりも確実性があって納得がいく。
なにより……この方法であればバリアだけでなく発電所自体も機能停止させる事も可能なのだ……
姉様を救うには1刻1秒も長引かせてはいけないという現状である為……約束の23時を待つという事自体、生死にかかわるリスクが高まってしまう。
だから、この方法は……ミシャさんが導き出した最善の作戦だと考えて差し支えない。
後は……私が無事に……操作を全うするだけなのだが……
「処理倍率は6倍が限界か……。だとするなら、目標の音圧に達するまで7分はかかってしまう……」
発電処理倍率の最大化……それが私に託された1つ目のミッション。
発電倍率とは……“拡声壁が声を大きくする倍率”そのままの意味らしく、普段はこれが2倍に固定されているらしい。
コレを弄る事で拡声する倍率を高くすることが出来、発電する人数が少なくても声のエネルギーを機械で高める事も可能だとか……
ミシャさんは、捕まる前にこの発電処理倍率がある事を見つけていた。そしてこれが用途に応じて弄れることも姉様達の処刑画面を見て気付いたのだ。
確か……姉様達の倍率は450%となってた筈……
それは通常の4.5倍のエネルギー量になるよう調節された数値なのだろう。
処刑者が二人だったから、二人だけでも発電できるように倍率を機械が変更したはずだ……変更できるという事は通常の発電でも倍率を弄る事が出来るはずだ……
そう考えたミシャさんは、通常発電が始まる予定の20時に……いや、発電が始まって責めがピークを迎える20時30分に時間を絞ってこの倍率を最大まで上げるよう指示を私に出した。
倍率は6倍までが最大……
1度の拡声で音声が6倍になって跳ね返る……という計算だろう……
それがボイラーに集まってきた複数の人間の笑い声に適応される。二人三人ではなく……何百人もの女子の笑い声に……
それが何を意味する事になるか……考えなくても答えは自ずと出て来ることだろう。
「あった! これが“解放弁”を自動から手動に切り替えるボタン……」
普段2倍という倍率で声の増幅が行われている拡声行為を、6倍まで高めてしまえば集音ボイラーはすぐに目標のエネルギーを集めたと判断し、短い時間で解放弁を開きタービンを回そうとするだろう。でも、この解放弁の自動解放を行わせないようにすればどうなるか……それも言わずもがな結果は見えている。
逃げ場を失った笑い声は集音ボイラーの中で音圧を上げ続け蓄積される事となる。
この解放弁を開かない限りは音の振動は、物を破壊するレベルの騒音に進化し続けやがて集音ボイラー自体を破壊する事に繋がっていく。
でも……このボイラーを破壊しても何の意味もない。
なぜなら……ボイラーはこの区画に何十も存在しているのだから……一つのボイラーを壊したところでいくらでも替えが効いてしまうのだ。
だから、壊すべき目標はボイラーではなく……電気を直接生む力を持っている“発電タービン”の方なのだ。
電気を生む元凶である発電タービンを破壊する事が出来れば、この発電所での電力を生みだす事は出来なくなる。
そうなれば……施設維持やロボットの活動維持が優先されるだろうから自動的にバリアに回す電力は割かれる事に費やされる。
ミシャさんはそう考えこの作戦を思いついたのだ。
「よし、今稼働している集音ボイラーの解放弁の自動モードをオフに出来た! 手動に切り替えたのはボイラー区画の最奥にある25番ボイラーね……後はそこまで行っていいタイミングで解放弁を手動で開いてあげるだけ……」
タービンを破壊する事が出来る音の大きさは、11000dB(デシベル)以上なのだそうだ。それはジェット機の飛ぶ音の100倍位の音だそうで、そこから繰り出される音圧はビルのコンクリートにも簡単に大穴をあける威力を持つことになるらしい。
通常の6倍の倍率で拡声し続ける皆の笑い声……それが11000dBに達するにはあと6分少々……
音圧がそれに達した所で私が手動で弁を開けタービンを破壊する音圧を解放してあげなくてはならない。
しかし、この音圧の開放が遅れれば今度は集音ボイラーの方が音圧に耐え切れなくなり破壊されてしまう恐れが出て来る。ボイラーの集音限界は10000dBまでしか数値に記載されていなかったそうだ……きっとこのような集音を想定していなかったであろうから……ボイラーの耐久力もそれ相応しか用意していない筈だ……だから10000を越えたらいつボイラー自体が壊れてもおかしくはない……とミシャさんは言っていた。
だから、6分以内に私は解放弁の有る所まで辿り着かなくてはならない。早すぎず遅すぎず絶妙な時間で……
「うん……これでいい筈! 後はこのボイラー区画の最奥にあるナンバー25のボイラーに向かって……」
――ピピピ! ガチャッ! ガチャガチャ!
「ッっ!?」
『コノヨウナ所ニ居タノデスカ……Fuelナンバー2923……』
私がモニタールームから立ち去ろうと身体を反転させ扉の方へと向きを変えると、そこには他の警備ロボットとは違い随分と細身で人間の様な外観をした見慣れないロボットが銃を構えて立っている姿が見て取れた。
『ヤハリ……彼女ハ何カヲ企ンデイタノデスネ? 貴女ヲ使ッテ……コノ発電所ヲ破壊スル作戦カ何カヲ……』
青みが掛かったボディが特徴的なその細身のロボットの声は、普段いつも聞いているあのスピーカーから聞こえて来る女性の声を機械で加工したようなモザイク声であり、そのロボが他のロボットを従えている様子を見るに、彼(彼女?)がロボット達を指揮している指揮官型のロボットである事が雰囲気で伝わってくる。
私は咄嗟に自分の背丈ほどあるPCボックスの影に身を隠し、顔だけを出してそのロボットの様子を再確認する。
『見タ所、発電システムヲ少シ弄ッテイタヨウデスガ……マサカ、集音ボイラーニ何カ細工ヲシタノデハナイデスカ?』
青いボディのロボットの周囲には複数の警備ロボが配置されていて、コントロールルームからボイラー区画へと通じる唯一の出口を固めている。
言葉の感じからは私が何をしたかまでは気付いていないようだが……出口をあの人数で固められていてはどんなに素早く走り抜けようとしても奴らの銃に撃たれて失神させられてしまう……
奴らが私を捕らえにコチラまで歩み寄ってくれれば隙を見て出口に走り込めるかもしれないけど……
でも……今は一刻も猶予など与えられてはいない……
後6分……いや、5分少々の時間で解放弁の有る所まで辿り着かないと、ボイラーが臨界点を越えて暴発してしまう可能性がある……
だから、悠長に敵の出方を待つなど……していられないのだ。
『抵抗セズ大人シク両手ヲ上ゲテ投降シナサイ。サモナクバ……コノ電磁銃ヲ使ッテ強制的ニ意識ヲ奪イマスヨ?』
時間がない。こうしている間にも刻一刻と時間は過ぎていく。
少しでもいいから隙が出来れば……
もしくは別の出口のような物が有れば……
別の……出口? 出口……!
「……っ! そうだ!!」
何かないかと目を泳がせていると、私の視界に“あの出口”が映り込み、私をハッとさせる。
ロボットに固められた出口ではなくもっと私向けの簡単な出口……通路……それが私の目の先に転がっていた。
『出テコナイノデスネ? デハ……コチラモ……』
「ま、ま、待って! 出ていくわ! 抵抗も……しません! だから……撃たないで……」
私は機械達に向かってその様に言葉を発し、手を降参のポーズに掲げながらPCボックスから姿をゆっくりと見せた。
「撃たないで……お願い……。ビリビリするのは……嫌だから……」
私はその様に命乞いをしながらゆっくりロボットのもとへと歩み寄っていく。
中央のPCボックス横を迂回するようにゆっくり進み……壁に近づくように歩を進めながらも、あの場所へと歩みを進めていく。
『……止マリナサイ! コレ以上……進ンデハナリマセン!』
私の視線がロボット達ではなくその場所を見ていたのを感じ取った青ボディのロボは、何かを悟ったのか突然銃口に青い光を溜め始め、私を制止しようと音声を発する。
ロボット達が一斉に銃口を光らせ始めたのを見た私は、これ以上距離を稼ぐ事は出来ないと察し素早く身を屈め目標の場所に向かって全力疾走を開始する。
『止マリナサイ!!』
――バシュバシュバシュ!!
複数のロボが電磁銃を発射し始めるが、その電撃は私の足元や無難な壁に当たるばかりで私に当たる事はなかった。
ロボット達は走り込む私に対して電撃を上手く狙う事が出来ず外してばかりいる……その理由は明白だ。
この部屋のPCは発電所のコントロールを司る大事な司令塔である筈だ。そんな大事なPCに高圧電流を当てられるはずがない。確実にあたるという確証がない限りは“脅しとして”壁や床に撃って足止めする事しか出来ない……
そういう判断をするだろうと思ったから私はあの場所へと走り込みを始めたのだ。
いくら外すと分かっていても、固められている出口に近づけばPCから遠ざかってしまう為狙いを私に照準が合わせられる事も分かっている。だから出口には向かえない……
出口よりも手前にあって銃撃からも安全に身を隠せるであろうあの場所……つまり“私がさっきまで隠れていたダクトの中”に辿り着く事こそが切羽詰まったこの状況で唯一私がこの部屋を出る事が出来る通路になる筈だ。
――バシュッ! バシュッ、バシュッ!!
ロボット達は“私が避けても電撃がPCに当たらない”という距離感を瞬時に計算して電撃を放ってきている……その正確無比な射撃はもはや私の足先数センチの所まで迫っており、これ以上近づけば電撃がいつ私に命中してもおかしくないという位置にまで狙いが定まり始めていた。
――バシュッ!! シュッ!!
電撃がいよいよ私の上半身の服を掠るくらいにまで照準が調節された頃には、私の方もあのダクトの入り口が目と鼻の先の位置にまで迫っていた。
あと少し……
――キュイーーン……
私はロボット達が次の射撃を開始する前に身体を放る様に身を前に投げ出し、飛び込むようにダクトの中へと身体を滑り込ませた。
その直後、私を狙ってきていたであろう電撃は宙に飛んだ私めがけて閃光を走らせるが、辛うじて私の飛び込みが早く上手く入り口に飛び込むことが出来たおかげでその電撃を浴びる事無くダクトの奥へと身を隠す事が出来た。
「はぁはぁはぁはぁ……危なかった……もう少し遅かったら……あの電気を全部食らうとこだった……」
私はダクトの入り口が複数の電撃の直撃によって青白く発行する様子を見つつ、安堵の息を一つきダクトの奥へと匍匐前進で進んでいった。
『捜索用、小型探査機……ナンバー1~ナンバー20マデ全テ射出! 通気口ノ中ニ隠レタFuelヲ追跡シ逃亡ヲ妨害セヨ!』
安堵したのも束の間、青色のボディのロボットは私がダクトの中に逃げたのを確認すると次の手をすぐに展開し始める。
――バシュッ! バシュッ! カチャッ……カチャカチャカチャ!
ロボット程の重厚感はないが、確かに金属の何かで床を突いているかのような音が複数鳴り始める。そしてその音が私の居るダクトの入り口に差し掛かると、私の視界にその気味の悪い姿を映し出される事となる。
「ひっ!? く、蜘蛛!?」
その見た目は金属でできた蜘蛛そのものの形をした超小型のロボットだった。
それらが複数……ダクトの入り口から姿を現すと、床だけでなくダクトの横壁や天井を伝うようにワラワラと這い出し始め、私を見つけるなり素早く私の身体めがけて集まり始めようとしてきた。
「あっっ! ひっ! や、やだっ! 気持ち悪いっっ!! 何これっッ!!」
まるで本物の蜘蛛の様に6本の脚を動かし迫ってくる小型のロボットに私は嫌悪感を示しつつその蜘蛛ロボットから逃げるように前方へ這いずって逃げようと試みる。しかし、軽装なそのロボットは蜘蛛よりも素早い動きで私に追いつき、飛びつくようにジャンプしながら私の身体に次々としがみつき始める。
ある者は脚に……ある者は脇腹に……またある者は背中に、腰に、肩に……と、私の身体のあらゆる箇所に散らばってそのロボットはしがみついてきている。
「くっっ! このっ! 離れてッっ!! このっっ!!」
ロボットは小型な癖にしがみつく能力が高く、中々私の服や身体から離れようとしてくれない。
引っ張っても服の繊維にしがみついて踏ん張ってくるし、私の身体に張り付いているロボも、私の身体に傷をつけない程度に細い脚を食い込ませその場所をキープしようと粘ってくる。
1匹2匹の数であれば、それぞれに対応して引き剥がす事も出来たかもしれないが……しがみついてきた数は数えきれないほどの量であった為それら全てに対応する事など出来ない。私は結局この気色の悪い張り付き虫を引き剥がす事をすぐに諦め、とにかくボイラー室に辿り着く事を最優先にするために這いずって前進をする事に意識を向けなおす。
残り時間は恐らく後4分を切りそうなところだろう……それまでに部屋の最奥にあるボイラーの解放弁まで辿り着いて手動でそれを開いてタービンを破壊しなくてはならない。
急がなくては……
ミシャさんが作ってくれたチャンスを無為に帰すわけにはいかない! だから、少しでも早くボイラー室のダクト出口まで進まなくては……
――ウィィィィン、ガチャ!
私が時間を惜しむようにダクト内を這い摺り進み始めると、私の身体にしがみついていた蜘蛛型のロボット達が一斉に手足に力を込め始め私の身体にその細い手足を食い込ませる動きを始めた。
「ッっ!? な、なに? ロボット達の脚が……身体に食い込んでくるっ!? ま、ま、まさか……この機械達……私の事を追いかけるだけじゃなくて……」
嫌な予感が走った頃にはもう遅かった。
私が反撃せず移動を優先し始めたのを頃合いだと見計らったのか、蜘蛛ロボット達は私の身体にしがみつきつつ、余った手脚を私の肌に突き立ててそれを上下に動かし、私に耐え難い刺激を送り込み始めたのだ。
――コチョ♥ コチョコチョ♥ コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ♥
「ッっひっッっっっ!!? あぎひっ!? はっへっっへへ……ちょっ! う、嘘でしょ!? この蜘蛛たちっっ! 私の身体をくすぐってきてるっッふっ!?」
私の無防備なワキや足の裏、脇腹は勿論、背中からお腹お尻、鎖骨やら胸、首裏、から内太腿に至るまで……私が“触られたらこそばい!”と感じる箇所を全て押さえ、巧みに手足を動かしてくすぐってくる。
その刺激に、最初こそ驚きの感情だけが先行した私だったけど……次第にそのおぞましい刺激に下腹部から意図しない笑いが沸々と湧き上がっていって……
「あはっ! アハハハハハハハハハハハハハハ、くっくっくっくっくくくくくくくくく……うひへへへへへへへへへへへへへへへへ、や、や、やだっ! くすぐったっっははははははははははははははははははは、ちょ、今は駄目っっへへへへへへへへ!! こんな狭いところでくすぐるなんてズルいぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」
そのおぞましい刺激は私の脳に“くすぐったい”という信号に書き換えられ私の口に“笑え”という強制力のある指示を下し始める。
その指示に抗う事が出来ず、こんな緊迫した状況であるにもかかわらず私は口から情けない笑いを吐き出し始めてしまった。
「くっっはははははははははははは、やだははははははははははははは、こしょばいってばぁ! こんな時にやめてよっっ! 笑わせないでっっへへへへへへへへへ!! うははははははははははははははははは!!」
手足を暴れさせ、どうにか蜘蛛ロボットのくすぐりを振り払おうと躍起になるが、この狭いダクトの中で手足を振り回せる程のスペースはなく、振ろうとした手や足はすぐにダクトの壁にぶつかりガンガンと金属音を鳴らせる事くらいしか出来ない。
その間にも蜘蛛ロボットは私の弱点ともいうべき部分に手足を這わせ、そこに適切な刺激を送り込み続けて来る。
私はその刺激にただただ笑いを吐き出す事しか許されない。
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ、やめへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、服の中ぁあははははははははははは、服の中に入ってこないでぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、えへへへへへへへへへへへへへへ、ひぃひぃ!!」
服越しに肌を揉み込まれる刺激もかなりヤバいけれど、服の中に侵入して素肌の上をトコトコと動き回って刺激してくる蜘蛛の攻撃もかなりヤバい。
動き回るが故に刺激が安定せず慣れられないし、複数の蜘蛛が動き回ればくすぐったさとモゾ痒さが入り乱れて頭の中が真っ白になるほどの嫌悪感を味わう事となる。
腹部だけでなく胸、胸の下、脇腹、脇の下……背中、腰、肩付近……と、様々な箇所を這い回る機械の感触はまるで本物の虫が服の中に入ってしまったかのようなリアルな動きをしていて我慢ならない。
そのこそばゆさと嫌悪感の高さは、他の部位へのくすぐりの感度を無尽蔵に高め私の笑いを強烈に後押ししてしまっている。
「ギャ~ハハハハハハハハハハハハハ、あははははははははははははははははははははははははははははははは、やめひぇっっへへへへへへへへへへへへへへ!! だめっっへへへへへへへへへへへへへへへへ、行かなきゃっっはははははははははは!! くすぐったくても……辿り着かなきゃっっはははははははははははははは!!」
全身に発せられる凶悪なくすぐったさに笑い悶えさせられる私だけど、果たすべき使命がある事は忘れてはいない。
人類の存亡的なものが掛かっているこの瞬間に……この様に無様に笑い悶えているなど有ってはならない事だろうけど……今はそれでも前へ進まなくて駄目だ!
どんなに惨めな姿を晒そうとも……これだけは達成してあげないと、ミシャさん達が捕まった意味がない!
だから、我慢して……笑う事を我慢しつつも前へ……前へ……
――コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ♥ コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ……
「ぷっっくっっっ!! ふぐっっっふっ!! くぅぅぅぅ~~~~~~~っ!」
――コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ♥
「うくくく……だ、だ、ダメッ! 我慢すればするほど……余計に……こしょばく……感じちゃうっっふふふふふふふふふふふふふふふ……」
――コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ♥
「はひぃ~っひひひひひひ! むぐぅ~~~~っくっくっくっくっくっくっく……ぷくぅぅーーふふふふふふふふふふふふ、ぅぐふふふふふふふふふふふふふ……ダメっっ! わ、笑いが……我慢できないっっひひひ……」
――コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ♥ コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ♥
「ぷはっ! ぶくはっっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!? だはぁーーーっははははははははははははははははははははははははは、だひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、やっぱり無理ぃィひひひひひひひ、こしょば過ぎてっへへへへへへへへへへへへへへへ、我慢するのムリぃぃひひひひひひひひひひひひひひひ!!」
少し進んでは笑い悶え、少し進んでは笑い悶え……を繰り返す私だが、それでも少しずつではあるがダクトの出口へと距離を稼ぎつつはあった。
「がひひひひひひっひっっひひひひひひひひひひ、はぐぅぅぅっふふふ……ふふふ……くっくっくっく……」
ロボット達はきっと音声を認識して私の大体の場所を把握しようとしている筈だ……
だから声を出してはいけない……笑い声を上げてはいけない……と、思ってはいるのだけど……
「くひゅっっ! ぷふっはははははははははははははははは、はひ、あひぃぃっひひひひひひひひひひひひひひひひ、こしょばいぃぃぃひひひひひひひひひひひ!! 脇腹こしょばいいぃぃひひひひひひひひひひひひひひ、我慢できないっっひひひひひひひひひ!! いひゃはっ!? かひゃはははははははははははははははははは」
声を出してはいけないと思えば思う程に可笑しさは増大し、我慢の限界以上の笑いを込み上げさせてくる。
「くふっっふっ!! んぐっっっ、く……くふっ! んんんっっっ!!」
――コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ、こちょこちょこちょこちょこちょ♥
「くぅぅぅぅっっふっっっふ、ふふふ……んぐぅぅぅぅ!!」
餌に群がる蜘蛛の群れの様に機械達は私の身体中を這い回って様々な刺激を送り込んでくる。
足の裏に張り付いた蜘蛛は、私が四つん這いの格好になっている為足を地面に付ける事が出来ないのを分かっているかのように堂々と土踏まず周辺に位置を固定し、両手両足を器用に使っていやらしくなぞる様なこしょばし方をしてくる。
ワキに張り付いた蜘蛛は私が抵抗する事を想定してか、しっかりと脚を肌に食い込ませて身体がそこから離れないよう自ら固定し、隙あらば開いた腋の窪みを撫で回して刺激を送り込んでくる。
服の中を這い回っている複数の蜘蛛は、私がそのボディを掴んで服の中から引きずり出そうと頑張っても服の裏地に足を引っかけてそれ以上身体が服の中から出て行かないように踏ん張ったりしてくる。だから、服の中から追い出そうとしても取り出す事は叶わず徒労に終わる事が繰り返される。
そんな抵抗をしていたら脇腹に張り付いた蜘蛛から強烈な刺激が送り込まれてきて、私の意識はそちらの方に奪われる事となる。
脇腹に張り付いた蜘蛛は他の部位を責めている蜘蛛と違って、肌の奥の神経を刺激しようと力強く手足を沈み込ませ揉み解すようなくすぐり方を行ってくる。
ボディが小さい為パワーを出すのに時間が掛かるのか何度も連続ではそれを行えないようだが、ひとたびその刺激が繰り出されたら私は悲鳴に近い笑い声を絞り出してしまう事となる。
他の部位のくすぐりは耐えられても……この脇腹のくすぐり方にはどうしても声を抑える事が出来ない。
だから私は必死になってその脇腹の蜘蛛を外しにかかるのだが……
「かはっっ!? はぎひひひひひひひひひひひ!! いひゃぁあ~っははははははははははははははははははははははやめへっっ! 脇腹やめへっっ!! そこ弱いぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!! そ、そこは……こちょばしちゃ駄目ぇへへへへへへへへへへへへへへへ!!」
私が手を伸ばすと絶妙なタイミングでくすぐりが開始され、私の身体から力が抜けきってしまう程の笑いを生んでしまう。
だから、その部位への蜘蛛に対して抵抗する事も取り払う事も出来ずにいる。
「はぁはぁ……くっくっく……じ、時間が……来ちゃう……。早くココをでないと……時間が……」 時計を見る余裕はないが恐らく時間的に3分を切っている頃合いだ。
ボイラー内の音圧は既に臨界付近まで高まってしまっている頃だろう。
こんな事をしている場合ではない。どうせ居場所はバレているのだろうから……笑いながらでも出口を目指さなくては……
「くひゅふふふふふふふふふふふふふ……はぁはぁ、あと少し……あと少しぃぃひひひひひひひひひひひひ、くはははははははははははははははははは!!」
出口は目の前だ……後はこのダクトの出口の金網のネジをドライバー(フォーク)で開けてあげるだけ……
辿り着いた横穴式のダクト出口には金属製の網が4つのネジに固定され私の行く手を阻んでいる。 私はそのネジにマイナスドライバーとして使えるよう改造されたフォークを伸ばしていく。
すると、私が自らワキを晒すような格好になったのをチャンスと感じたのか、脇腹を責めていた蜘蛛はワキに張り付いた蜘蛛の居る場所へと合流を始め、無防備に伸ばされた私の腋を集中攻撃する作戦に切り替わる事となった。
ネジを開けるために手を伸ばして無防備に晒す事になっているワキを集中してくすぐって妨害しようとする辺り、効率を重視する機械らしい判断だと言えなくはないが……私にとってその作戦変更は願ってもないチャンスに転がる事に繋がった。
「ぷくっっふっっっ! ふふっっ! ふっっっ……くっっっっ……」
いくら無防備に晒しているとはいえ、脇腹の刺激に比べると腋への刺激など私にとってはたかが知れている。
あのまま脇腹をくすぐられ続けていればネジを外す事もままならなかっただろうが、腋へのくすぐりであればどうにか耐え切ることが出来る。
何せ……私は腋への刺激はそれほどこそばゆいと思う事はなく……どちらかと言えば性感帯に近い感じ方をする部位なのだから……
「あっ♥ はっ……くぅ♥ んんっ……」
姉様に夜な夜な開発され続けた……ある意味敏感になり過ぎた私のワキ♥ そこをどんなにコソコソこしょぐられても私が笑うという事はない。
むしろ姉様との夜の営みを思い出させられて、ちょっと切なくなってしまう位いだ……
「んふっ♥ んんっ……くぅ♥ はぁはぁ♥」
私が笑わなくなったのを誤算だと感じたのか、機械の蜘蛛たちは私の腋から一斉に場所を移動し始め脇腹の方へと戻っていったが……その判断は少しばかり遅かったようで、脇腹に到着する前に金網のネジはすべて外し切る事に成功してしまう。
「はぁはぁ……よし、今しかチャンスはない!!」
金網を外し切ると、私は身体をダクトから這い出させ周囲を確認する事もしないまま一直線に発電タービンの有る区画へと走り込んでいった。
最後の最後に笑わなくて済んだのが功を奏したのか、出た直後の場所にはロボット達の姿は見えず、私を探すために戻っていったのかロボット達はまたコントロールルームの方へと引いしまった後のようだった。
「はぁはぁはぁはぁ、あと少し……っはぁはぁ……」
手足が自由に動かせるようにあった私は体中に纏わりついている蜘蛛型ロボットを払い除けながらボイラー室の奥へと走り込んでいった。
そしてボイラー室の最奥まで走り込む頃にはほとんどの蜘蛛が振り払われ、私を責めていた蜘蛛達は道すがら仰向けに放置される形で、通ってきた道を作る様に並んで手足をジタバタさせる様子を私に見せた。
「はぁはぁはぁ……アレが発電タービン機!? 想像していたよりも……大きい!?」
最奥には、そこいらにあるボイラーの何倍もある、見上げないと全長が掴めない程大きくて巨大なタービン機が壁に埋め込まれる形で威圧感たっぷりに鎮座していた。
この外甲壁の内側に……巨大な水車の様な羽根のついた機械が設置されていて、ボイラー内で拡大させた音声を受けその羽根が回って発電をする仕組みになっている筈だ。
そしてその音声を放出する為のボイラーが、タービン機の真正面にある……この25番集音ボイラー機……
頑丈そうな鉄板に覆われた太長い円柱状のボイラー。その中でも、今にも暴発せんとするようにあちこちから煙を吹き出し大きく縦に揺れているている真っ赤なボイラーを見つけ、それが目的のボイラーであろう事をナンバーを確認せずともその様子を見るだけで私は悟ることができた。
「解放弁は……? っと……アレか!」
苦しそうに唸っているようにも聞こえる臨界点直前のボイラー音を聞きつつ、その本体とタービンとを繋ぐパイプの繋目部分を見ると、そこには明らかに人の手で下げられそうな赤いレバーが備え付けられていた。
普段は自動的に降ろされるであろうその……人の身体の半分は程ありそうな大きなレバーは、緊急時の処置の為に手動でも降ろせるよう、ひ弱な人でも下ろせるような設計にされている筈だ。
私はそのレバーの上に“解放弁開閉レバー”と書かれているのを確認しそのレバーへ近づこうと1歩足を踏み出そうとした……
すると……
――ピッ! ガガガガガガ……
レバーの有るすぐ隣……ボイラーの陰から聞こえてはならない電子音と機械ノイズが聞こえ始め……
――ガシャ、ガシャ、ガシャ!
絶対に居るはずがないと高を括っていたソレが姿を現すのを見て……私は焦りと絶望で身体を凍り付かせてしまう。
――ウィィィン、ガシャン!
ボイラーの陰から姿を見せたソレは……しっかりとあの銃を構え私の前に姿を現した。
私はその姿を見た瞬間……全ての計画が崩れ落ちていくかのような感覚に襲われ思わず脚を止めてしまう。
――ピピピ、キュイィィィン……
突き付けられた銃口からは電子音と空気を吸い込む様な音が鳴り響き始める。
銃に弾を装填し始めている証拠だ……
そしてカチリと安全装置が外される音が鳴る。
どうやら……ヤツはいつでもこれを撃てるぞと態度で主張してきているようだ。
撃たれればひとたまりもない……。
この近距離では、放たれた電撃を避ける暇すら与えられない。
あのレバーさえ下げれば全ての作戦は完了するというのに……
解放弁のレバーへはどんなに素早く走り込んでも、手は届かないで撃ち抜かれる事だろう……
その場から動けば……間違いなくあの銃口から……電撃が……
絶望と焦りに額に冷や汗を滲ませる私に……立ち塞がったソレは独特の機械音声でこの様に警告を下す……
『ピッ! ガガガ……ピピィ! ソノ場デ止マリ、手ヲ挙ゲテ降伏シナサイ! サモナクバ……今スグニ……射殺シマス! 繰リ返シマス……。降伏ノ意思ガ見ラレナケレバ……即座ニ射殺シマス! スグニ両手ヲ挙ゲ無抵抗ノ意思ヲ示シナサイ』
……と。