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20:人間として…… 「――ッっは!? ギャ~~~~~ッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ、あぎゃ~~~~っはははははははははははははははははははははははははははははは、にゃにこれぇ~~~っへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、ダヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」  普段くすぐりだと言われて触られる事のない……胸やら、鎖骨やら、胸骨の表面とか……  腹の上だとか恥骨の上だとか、太腿の表面だとか……  膝の上とか脛の上だとか足指の爪先だとか……果ては顔の頬や額、こめかみ部分に至るまで、ありとあらゆる私の身体の“表部分”を埋め尽くすかのように小さなくすぐりハンド達は群がってそれぞれのくすぐりを始めた。  鎖骨部分であれば浮き出た骨をコリコリと揉み解すかのようなくすぐりを施し、肩に触れている手や胸の膨らみに群がっている手は丁寧にマッサージをするかのようにゆっくり揉む動きを行ってくる。  胸の先端にそそり立ってしまっている乳首は指先をこねくるような動きでいやらしく刺激を加え、胸の付け根や下乳に行くにつれての動きは素早く強く力を込めてくすぐってくる。  みぞおちの部位は指先を掠らせるようなくすぐりでむず痒い刺激を与え、腹部の表面や臍の周りは更に素早い指掠りでくすぐったさを増し、笑いのツボがある臍の横付近はその小さな指で皮膚に食い込ませ肌の置く深くでムニムニと指を力強く動かし強制的な笑いを生み出そうとしてくる。  太腿を触っている手は太腿の表から内太腿のキワドイ箇所までを常に動き回りながらゾワゾワとくすぐっていき、膝から下の部位も決して力を込め過ぎない程度の優しい触り方で脛や足首の筋などをくすぐっていく。  膝、脛、足首……と、触られている箇所を知覚していくと、いよいよその先にある足の部位への刺激に意識が向くようになっていく。  足の甲に虫の様に群がる無数の小さなマジックハンド。その手が足の甲の全体に広がって様々な箇所を触り回しむず痒さを引き出している。  そして、足の甲を末端まで辿っていくと……そこには私が今最も触られたくないと思っている箇所である、爪先の部位に到達してしまう。  指の関節に巻かれたワイヤーが足首の枷に向かって引っ張り切っているせいで、足指が足の甲側に反るような形で拘束されている私の足指は、何をされても抵抗など出来ない無防備状態に晒されている。  くすぐりハンド達はそんな私の足指に群がって、指一本一本を複数の小さな手で嬲る様にくすぐり始める。  指の腹、指の側面、指の表面も指の股部分も爪の付け根からワイヤーが巻かれている指の関節に至るまで、私の指を覆ってしまうかのように埋め尽くしている。  他の責め手よりも更に一回り小さいその足指専用のくすぐりハンド達は、親指と小指にあたる指を器用に使って私の足指にそれぞれ赤ん坊の様にしがみつき、余った残りの三本の指で引っ掻くように足指をくすぐってくる。  それらが1本の足指に対し複数の箇所に散らばって行われているため、感覚的には“足指という木に蜜を欲して集まった複数の虫達”の様なイメージが湧き立ってしまう。  それらしがみついた虫達が前脚を使って足指をカリカリと引っ掻いてくるようなイメージが湧くものだから、私は最初にくすぐったさよりも嫌悪感の方が上回ってしまい思わず足を振り回してその刺激から逃げようと暴れてしまう。  しかしながら、当然……足を動かす事も足指を曲げる事も許されていない私に、理想の抵抗を許してもらえる筈もなく……脚全体を力ませる事は出来ても動かすまでの行為には至れない。だから結局機械達の成すがままにくすぐられるのを強いられる事となる。 「だはっ!? あぎゃはっっっはははははははははははは、いや~~~~っはははははははははははははははははははははははははは、あがはははははははははははははははははははははははははははははは、えげへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、いっひぃ~~~っひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、くへへへへへへへへへへへへへへへへへ」  嫌悪感はやがて数秒も経たないうちに強烈なもどかしいこそばゆさに書き換えられて行き、私はその刺激にも激しい笑いを搾り取られる事となる。  足裏への刺激だけでも死ぬほどくすぐったくて笑わされているというのに、この様に足の指や足の甲に至るまで埋め尽くすようにくすぐられると……もはや、くすぐりハンドに埋め尽くされた“ブーツ”を履かされているかのような錯覚さえ生み出されてしまう。  靴の内側の360度……どこからでも生えてきている小さなくすぐりハンドブーツを裸足で履かされているかのような感覚……それがどれだけ絶望的なこそばゆさを生んでいるかはもはや筆舌に尽くしがたい。  とにかく足全体がこそばゆくて仕方がない!   このブーツを取り払って爪先でガリガリと引っ掻いて痛みによってくすぐったさを中和したい! と思える程のもどかし過ぎる刺激!  無論……それは足裏だけに限った話ではない。体中の全ての肌が、この小さすぎる“くすぐりハンド達”に蹂躙されているお陰で全身が湧き立つようにこそばゆくて堪らない。  いっそ、爪を立てて強く引っ掻いてもらいたくなる程のじれったい感覚……  上から被さってきたくすぐりハンド達はその様な感触を私に植え付け、今までのくすぐりと合わせて私の正気を奪おうと笑わせ責めを遂行する。 「ギャーーッハハハハハハハハハハハハハハハハ、やだはははははははははははははは、うははははははははははははははははは、こんなの耐えられる訳ないっっひひひひひひひひひひひひひひひひ!! やめでぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、全身がゾワゾワし過ぎて感覚がおかしくなるぅぅふふふふふふふふふふ、だひゃははははははははははははは、あはははははははははははははははははは!!」  背中、尻、膝裏などの背面への刺激に寒気とむず痒さを与えられくすぐりに対する耐性を削ぎ落され……  足指から顔に至るまでをビッシリ埋め尽くした小さなくすぐりハンド達にくすぐったさと痒さの中間くらいの刺激を与えられ更にくすぐりに対する耐性を弱められ……  そして、腋、脇の下、脇腹、足の裏へ加えられているしっかりとしたくすぐりに確実に笑わされ続けていく…… 「おがっぁはははははははははははははははははははは、えげッへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、イギギギヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘホホホホホホホホ、えぎへへへへへへへへへへっひひひひひひひひひひひひひひひひうへへへへへへへへへへへ!!」  このような責めを行われれば数秒も持たないうちに肺の中の酸素は吐き出され、まともな呼吸などさせて貰えなくなるものだが……  ガス吸入パイプが備わっているお陰で、私が限界に達すると機械が勝手に空気を吹き出して直接肺の中に酸素を補給してしまう。  更にその空気には着付け剤の成分も含まれている為、私は酸欠で意識を失う事も、過酸欠で命を落とす事も出来なくされてしまっている。  この地獄を延々とループさせられるのだ。延々と……身体が壊れるまで…… 「アギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、痛いぃぃひひひひひひいっひひひ! 腕と脚の関節がぁぁははははははははは、痛いぃぃひひひひひひひひひひひひひひ!! うひぃ~っひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひ、いひひひひひひひひひひひ!!」  酸素は補って貰えるから命はギリギリで繋げて貰えるのは確かだが、身体の疲労とダメージは回復などしてくれない。  あまりに強烈なくすぐりの刺激に黙って手を挙げ足を広げて耐える……などという余裕が私にある筈もなく、笑いを吐き出す度に同時に動かせない事は分かっていても手足に勝手に力を込めてしまう。  一種の電気刺激に対する反射的な行動に似ているのだろうが……その様な反応を毎度行っていると、枷が食い込んでいる手首や足首はうっ血する程に枷を食い込ませ続ける事になる。  身体を捻ろうとすれば腰や腹や太腿に巻かれているベルトが食い込み……手足に力を込めようとすれば腕や脚の関節にも負担を掛けダメージを負う事となる。  そのダメージの蓄積は回復して貰えない。だから、暴れれば暴れる程手首、足首、関節へのダメージは蓄積し続けるばかりで解消される事はない。だから、身体は笑ってしまうたびに悲鳴を上げる程の痛みを私の脳に伝えて来る。笑ったら身体が壊れてしまうという警告をその痛みで発してしまっている。  だけど……私は笑う事を止められない。  どんなに手や脚や関節が痛んでも、その痛みは全身をまさぐり回す機械のくすぐりによって掻き消され私は嫌でも笑わされる事となる。 「はぎゃへひははははははははははははははははは、痛っっははははは、痛いぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、体中痛いぃぃひひひひひひひひひひひひひひひ!! 痛いのにぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、わ、笑いが止められなぁはははははははははははははははははははははは、ヒィヒィ!」  このまま笑い続ければ身体を自ら破壊する事になってしまう……と分かっていても、笑う事を止める事は出来ない。  痛くて苦しくてしんどいのは間違いないのに……的確に弱点をくすぐってくる機械達の責めに笑わずにはいられない……  辛い……苦しい……痛い……もう嫌だ……  いっそ……殺して欲しい……  身体がバラバラになるまでこんな事を続けるつもりなら……いっそ今すぐに命を絶って楽にして貰いたい……  私のやるべき事は……もうやったんだ……。後は時間が来れば全て上手くいくはずだ。  私が死のうが……生きていようが……きっとこの施設はアイアンフィストの手によって制圧される筈……  だったら……私は死んで楽になっても良いんだ……。良い筈なんだ…… 『関節ノ疲労度ガ85%ヲ越エマシタ。既ニ複数ノ骨ニ“ヒビ”ガ入ッテイルノモ確認シテイマス。 無理ナ運動ニヨル筋肉ノ断裂モ数分後ニハ確認デキル事デショウ。身体ガ自ラノ力デ破壊サレテイクノモ時間ノ問題デス』 「あがははははははははははははははははは、や、や、やだっはっはっはっはっはっはっはっはっははっはっは、そんにゃの嫌ぁぁははははははははははははははははははははははははは」 『チナミニ……貴女ノ身体ガ例エ断裂シテシマッテモ、クスグリハ止メマセン。骨折ト断裂ノ強烈ナ痛ミヲ味アワセナガラモ、笑ワセ続ケマス』 「いぎぎぎひひひひひひひひひひひひひひひ、えげへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、ひぃひぃ! あひぃぃっっひひひひひひひひひひひひひひひ、身体が壊れてもぉほほほほ!? 骨が折れてもくすぐるつもりなのっっ!? 嘘でしょっっっほほほほほほほほほほほ、くがはははははははははははははははははははは!!」 『嘘デハアリマセン。痛ミヲ、ガスニテ緩和シツツ、クスグリノ効率モ上昇サセテイキマス。貴女ハ今以上ニ笑イナガラ自ラノ身体ヲ更ニ壊シテイクコトトナルデショウ……』 「ひぎぎぎぎひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、えげへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、い、嫌ぁ!! そんなの酷過ぎるぅぅふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ、えげへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」 『ソレガ嫌ナラ、真実ヲ語リナサイ。目的ヲ述ベルノデアレバ、今スグ楽ニシテアゲマス……』  過酷過ぎるくすぐり責めの生き地獄……  私の精神は確実に襲ってくるであろう身体の破滅と終わりのない苦しみに絶望と恐怖に埋め尽くされていた。  不安と恐怖が入り混じり、絶望が私の口を開かせようとしてしまう。  笑い狂っている口から……あの言葉を吐き出しそうになってしまう。  助けて欲しい……  なんでも喋るから……許して欲しい……と。  しかし、私は……その言葉を決して口から出してはならない。  一度その言葉を吐いてしまえば……もう私の弱り切った心は真実を話してしまう事となるだろう……  怖さに……痛みに……苦しみに……不安に……そういう感情に負け、私は話してしまう事となる……これまでの皆の努力を無に帰してしまう言葉を…… 「はひはひっひひひひひひひひひひひひひ、イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ、えへへへへへへへへへへへへへへへへへ、ひぃひぃ! はひぃぃっっひひひひひひひひひ、クヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ、はひぃぃはひぃぃっっ!!」  私の身体どうなろうと……それは言ってはならない。  この最後の作戦をバラしてしまえば……確実にルカさんは捕まってしまう……  だから、絶対にいう事は出来ない! 絶対に…… 『ソウデスカ……。話ス気ニナレマセンカ。デハ、コノママ続ケテ差シ上ゲマショウ。言イタクナルマデ……延々ト……』 「ィツギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、言わないぃぃひひひひひひひひひひひひひ、私は絶対に言わないぃィぃィひひひひひひひひひひひひひひひひひ、いぎへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」 『マシン出力……20%アップ。弱点デアル腋ヘノ刺激ヲ更ニ高メル責メニ切リ替エマス』 ――ウィィィィン、ピピッ!! ――コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ!!  こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!  コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ!! 「ッッ――はっ!? ビギャーーーーーーーッっっっはははははははははははははははははははははははははははh、やげへっへへへへへへへへへへへへへ、ぎびゃ~~ははははははははははははははははははははははははははははははははは、やべでぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」 『刺激ニ対スル反応15%上昇。窒息感10%上昇……肉体ヘ負担、5%上昇』 「ギャ~ッハハハハハハハハハハハハハハハ、やはははははははははは、わはははははははははははははははははは、ひぃひぃっ! くすぐったいぃぃぃ!! くすぐったいぃぃぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、くはははははははははははははははははははは」 『上腹部ニ待機シテイルマシンニヨル、横隔膜収縮運動ノ増加補助ヲ開始。笑イノ更ナル強制化ヲ敢行……』 ――モニョ、モニョモニョモニョモニョモニョモニョ!! 「ケッっヒィィィィィィィィ!? えぎゃはははははははははははははははははは、にゃにこのくすぐりぃぃぃひひひひひひひひひひひひひひ!! 胸の下を強い力で押し上げたり押し下げたりしてくるぅぅふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!! かはははははははははははははははははははははははっはははははははははははは」 ――モニョモニョ、こちょこちょ、モニョモニョ、コチョチョ、モニョモニョ、こちょこちょ 「いっひゃぁぁ~~~はははははははははははははははははははは、わ、笑いがぁぁはははははははははははは、なんか笑いがっっ押し上げられてくるようなっっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、何この感覚ぅぅふふふふふふふふふふ、これ自体はくすぐったくないのに笑いが勝手にぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」 『横隔膜ハ呼吸ノリズムヲ作ルポンプノ役割ヲスル器官デス。横隔膜ノ収縮運動ハ笑イノ吐キ出シニモ影響スル為、コノ収縮運動ヲ速メレバ、自ズト笑イモ活性化サレマス……』 「がひっ! あがひっぅひひひひひひひひひ、うぎひひひっひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、し、し、死ぬぅふふふふふふふふ!! こんなの死ぬぅふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!」 『残念デスガ貴女ハ、我々ノ許可ナシデハ死ヌ事モ許サレテハイマセン。コノママ、身体ガ破壊サレ尽スマデ笑イ苦シンデ頂キマス』 「だっひゃっっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ、アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ、やあぁぁぁははははははははははははは、そんなの嫌だぁはははははははははははははははははは!!」 『嫌ナラ今すぐに計画ヲ話スノデス……』 「ひぃひぃ、それも無理ぃぃひひひひひひひひひ、絶対話せないぃィひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」 『ソウデスカ。デハ、モット苦シンデ頂ク事ニシマショウ……』 「えひひひひひひひひひひひひひひ、やめでぇへへへへへへ、もうやめでぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、ひぎひひひひひひひひひひひっひひひひひひひひひひひ!!」 『羽根ハンド30本追加。クスグリハンド同ジク30本追加……。腋ノ部位ヘノ集中責メ……開始。強制笑ワセ責メ……ステージ3へ突入』 「ッッッィギ!? っぎゃ~~~~っはははははははははははははははははははははははははははははははははははははは、あはぁぁぁははははははははははははははははははははははははははははははははははは、だめだめだめだめぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、うぎへははははははははははははははははははははははは」  もはや自分の意思で笑う……などという行為すらもやらせて貰えていない。体中を機械によって操られ機械の指示通りに声を上げさせられている……と思えてしまう程に、私は私の意思が身体に通っていない事を痛感させられる。  身体の中が機械に乗っ取られ、身体を触る手の刺激を電気信号として受け取って“笑う”という感情スイッチを押し続けられているような……その様な無機質で人間味の無い作業が繰り返されているかのような感覚……  そこに自分の意思など一つも介在していない。私の意思は真逆の事だけを考え続けているはずなのに、身体はその意志を無視して機械の言いなりになってしまっている感覚……  その感覚を覚えると、不意に脳裏に恐ろしい疑問が浮かんできてしまう。 ――『私は……今……本当に人間なのだろうか?』  っという、自分を否定しかねない疑問。  あまりにも自分の意思が身体に反映されない時間が長すぎるが故、その様な疑問さえ私は持つ様になってしまう。  『実はいつの間にか私は機械にされてしまっていたのではないか?』  『いや、実は最初から私は人間ではなくロボットだったのではないだろうか?』  『自分の意思通りに行動していたつもりだけど……本当は何かのプログラム通りの動きだったのではないだろうか?』  そのような疑問が次々に浮かび始め、私を更なる混乱の渦に落とし込んでいく。  その様な疑問が浮かんできてしまうのも仕方がない。  なにせ……今の私は……ロボットの思惑通りの行動しかさせて貰えていないのだから……。  ロボットが“笑え”と言えば笑う事しか出来ず“苦しめ”と言われれば笑いながら苦しむ事しか出来ない。  私がその命令に自分の意思で反抗しようとしても……私の身体はロボットの指示に従い私の意思を無視する。  自分のものである筈の身体に自分の意思が通わなくなれば……それは自分の身体だと自信を持って言えるだろうか? 支配される時間が長くなれば長くなる程……その分私のココロとカラダは距離を開ける事になるのだから、意志疎通が取れなくなった身体をもはや“別の何か”と思えてしまっても仕方がない。  ココロとカラダが自由にならない以上……私は自分が“ロボットではない”と証明する手段が思い浮かばない。 “くすぐり”というスイッチを押す事で“笑う”事だけを許されたロボット……そう告げられれば今の私は「その通りだ」と納得させられてしまう事だろう。  私の脳は、酸欠のあおりを受けそのような事しか考えられなくなっている。  自分の使命だとか……博士やクラリスさんを助けようと思っていた正義感やら……そういう人間味ある思考が何処かへ吹き飛ばされてしまっていた。この地獄のくすぐり責めによって…… 「あががぁはははははははははははははは、ぎがははははははははははははははははははははははははははは、えげへへへへへへへへへへへへへへ、ぐぎひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、いひ、いひ! いひぃぃ~~~っひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひ」  しかし……そんな、自分をロボットだと錯覚しそうになっている私にも、まだ人間的な意志の部分で辛うじて機械に抵抗している事が一つだけ存在していた。 「がっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、アギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、あはははははははは!! ぜ、ぜ、ぜったい言わないぃィヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ、これだけは絶対にぃぃひひひひひひひ、言わないぃィぃィ!!!」 『素直ニ告白シナサイ! サモナクバ更ナル責メヲ追加シマスヨ?』 「言わぁぁはハハハハハハハハハハ、言わないっっひひひひひ、言わない! 言わないぃィぃひひひひひひひひひひひひひひひ、絶対言わないぃぃぃひひひひひひひひひひひひひひ!!」 『ソウデスカ……デハ、クスグリノレベルヲ、ステージ4へ……』 「えぎゃ!? ぎひゃめっっっへへへへへへへへ、うぎがぁぁははははははははははははははははははははははははははははははは、だぁ~~~~っはははははははははははははははははははははははははははははははははは、アギャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ、イグぅガハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、ダハハハハハハハハハハハハハ……」  私がルカさんに託した……最後の作戦。  ……これを悟らせないために私は口を噤んで辛さに負けて喋り出さないよう我慢している。  これだけは悟られてはいけないのだ。少なくとも20時過ぎまでは口が裂けても喋ってはならないと心に誓っている。  20時になれば……いつも行っているであろう“アレ”が開始されるはずだ……。  私の処刑を執り行っている最中であっても、裏で平然と行うであろう日々のアレ……“発電”作業……コレを中止させるわけにはいかないのだ。  通常の発電業務が行われさえすれば、後はルカさんが上手くやってくれる筈……  彼女に“操作の仕方”を教えてきたのだから、その通りにこなしてくれる筈……  だから……この最後の作戦を成功させるために私は我慢しなくてはならない……  どんなに苦しくて痛くて辛くても……これだけはコイツ等に教えてはならないのだ!  この最後の意地だけが……こんな状態でもまだ……私が私であると信じる希望になっている。  私は……まだ人間である筈だ。この秘密を守り通せている内は……まだ人間の筈なのだ……  喋らない限りは……機械に抵抗する人間で居られる筈なのだ!  だから……絶対に喋らない!  例え手足が千切れようと……身体の骨がバラバラになったとしても……絶対に……  ……絶対に……

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