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17:陥落と希望 「ほらほらぁ!! 笑うのサボってんじゃないわよっ! 私が指ぃ動かしたらしっかり笑え! ほらぁ!!」 ――コチョコチョコチョコチョコチョコチョ!! 「びぎゃあぁ~っはははははははははははははははははは、だはっははははははははははははははははははははははははは、ちゃんと笑っっははははははははは、笑っでるでしょうがぁぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、ひぎゃはははははははははははははははははははは」 「そんなんじゃ全然足りないわ! もっと苦しそうに笑いなさいよっ! ほら、ほらっ、ほらぁ!!」 ――こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!! 「ぎひゃっっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、うぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、ひぃひひっっっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひ、む、む、無茶苦茶言わないれぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、いへへへへへへへへへへへ」 「口答えするなっ! あんたは黙って笑ってるだけでいいの! ほらぁ! もっと苦しみなさいよっっ!! ほらぁぁっっ!!」 ――コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ!! こちょこちょこちょ…… 「いぎゃあぁぁっっはははははははははははははははははは、そこやめでっで言ってんのにぃぃひひひひひひひひひひひひひひひ、ヒギャハハハハハハハハハハハハハハハハハ、うはははははははははははははははははははははははははは」  鈴音の手はワキを蹂躙し、脇の下を激しく揉みしだき、裾から露出している脇腹にまで手を伸ばして綾香の笑いをこれでもかと搾り取っていった。  何度吐き気を催すほどの咳き込みを行ったか分からない……  何度酸欠で意識を失いかけたかも分からない……  目の前が真っ白に染まってしまう程意識が遠くなっていく感覚を何度も味わわされるが、彼女の絶妙なくすぐり止めのお陰でその意識を手放す事も出来ず……限界まで笑わされて、休まされて……また限界まで笑わされて、休まされて……という地獄のループを繰り返されていた。  いっそ殺せばいい……とは言わないまでも、意識だけでも手放させてくれれば随分と楽になれるというものだが、鈴音はそれを許さない。綾香の受けうる苦痛が最大限になるよう手を尽くしてくる。 「たひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、うはははははははははははははははははははははははは、ワキやめでぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、ホント駄目なんだってばぁははははははははははははははははははははははは!!」  人よりも何倍も弱いと自覚している腋の部位をくすぐられれば、当然綾香は笑い悶えてしまう。 「ギャハ~~~ッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、いひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、えはははははははははははははははは、肋骨のトコもヤバいっっひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、うひひひひひひひひひひひひひひひひひ、だははははははははははははは!!」  胸の横や腋よりも少し下にずれた脇の下の部位をくすぐられても綾香は笑ってしまう。 「いひゃっっはははは!? い、今脇腹はダメっへへへへへへへへへへへへへへへへ!! 脇腹揉むのだめぇぇぇぇぇっっへへへへへへへへへへへへへへへ、いぎゃっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、くはははははははははははははははは!!」  不意に両手で身体を支えるように脇腹に手を食い込ませ、その状態でモニョモニョと指で揉み込む様なくすぐり方をしてくることがあるが、そんな刺激にも綾香は大笑いを搾り取られてしまう。 「ぎはっっははははははははは、ふひへへへへへへへへへ……ゲホゲホ! はぎひっっひひひひひひひひひひひひひひひひひ、いひぃぃっっひひひひひひひひひひひ、はひ、あひぃぃっっ!!」 「はぁ~い、休憩の時間よ! ほら、今のうちに肺に酸素を溜め込んでおきなさい?」  綾香の笑いが少しでも途切れそうになったり、咳き込む量が多くなったりすると鈴音はすぐに休みを挟んで彼女に呼吸をする余地を与える。 「ぜぇ、ぜぇ……ぜぇ、ぜぇ……ゲホゲホゲホ! はひ……はひぃ……はぁ、はぁ……」 「はい休憩終わり! もう十分吸ったでしょ? じゃあ次は笑う時間よ! ほれっ! コチョコチョコチョコチョコチョコチョ~~っ!!」  「ちょ、ちょ、ちょっど待っでっっへへへへへへへへへへへへへへ、だひゃあぁぁっははははははははははははははははははははは、まだ呼吸が整ってないぃっっひひひひひひひひひひ、ギヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、まだ酸素が足りてないっひ~っひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、くははははははははははははははは!!」  手を休めて貰えてもせいぜい3秒から5秒程度……  それを休憩と呼んでいいのか疑われるが、鈴音が与える慈悲はその程度しか伺えない。 「だれが呼吸が整うまで休ませるって言った? そんな無駄な事私がする訳がないでしょ? 肺に一呼吸分の酸素が行き渡れば十分なのよ! それをまたこうやって吐き出させて苦しめてやるんだから!」  休憩という名の意識維持の時間を数秒与えると、鈴音は真っ先に綾香の弱点である“ワキ”を乱暴にくすぐり回し、彼女を強制的に笑わせて吸い込んだ酸素を全て吐き出させようと責めを強める。  そのくすぐりに綾香は当然のように吸い込んだすべての酸素を笑いと共に一気に吐き出す為、すぐに肺は酸欠状態に陥るはめになる。  酸素が欠乏した肺内は綾香の脳に「酸素が足りなくなるから笑うな」と訴えを起こすが、彼女の脳はそのような訴えが起きていても口から笑いを吐き出し続けてしまう。  腋だけでなく腋の下、脇腹と、くすぐりに弱い箇所をローテーションしながら常に新鮮な刺激を与えて来る鈴音のくすぐりに、綾香は笑う事をやめることが出来ない。  肺の中が空っぽになるのと同じように、頭の中も空っぽにさせられながらただひたすら笑いを強要され続けるのだった。 「がはっっはははははははははははは、ゲホゲホゲホ! はひへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、ケホケホ! んはははははははははははははははは……」  “咳き込みが始まれば鈴音は手を止めてくれる”と勝手に思い込んでいる綾香は、少しでも苦しさを感じると咳き込むフリをして鈴音が手を止めてくれるのを狙うが……熟達した鈴音の目を胡麻化すことは出来ずかえって彼女の怒りを買う事となってしまう。 「それで咳き込んでるつもり? あんた……私の事馬鹿にしてるでしょ? そんなわざとらしい嘘をついて私の事煽るんだったら……そんな事すらも出来ないようになるまで責めて立ててやるわ! ほらっ! あんた……これに弱いでしょ? 左腋っ集中モニュモニョ攻撃っ!!」 ――モニョモニョモニョモニョ♥ 「ギヒャアァ~~~~~~ッッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、べ、別に煽ってるわけじゃっっはははははははははははははははははははは! いぎぃっっっひぃぃぃっ!? くすぐったひぃぃっっひひひひひひひひひひひひひひひひ、左はだめぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、ぎひゃはははははははははははははははははははははははは、だははははははははははははははははははははははははは!!」 「本当に限界かどうかなんてあんたの態度を見れば一目瞭然よっ! 下手な演技はしない方がいいわよ? でないとぉ~ こんな風に……も~っと苦しくなる事になるからねっ!」 ――モニョモニョモニョ♥ モジョモジョ♥ モニョモニョモニョモニョモニョモニョ! 「ぎゃはぁぁ~~っはははははははははははははははははは、いひっひひひひひひひひひひひひひひひひひ、でひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、だ、だ、だっでぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへ、ホントに苦しいんだっでばぁぁははははははははははははははははははははは、イギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」 「どう? そろそろ素直になりたくなってきたんじゃない? もう苦しみたくないでしょ?」 「がはっっはははははははははははははははははははははは、いはははははははははははははははははははははははは、苦しみたくないっっひひひひひひ、いっひひひひひひひひひ!! もう笑うの嫌ぁぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」 「だったら……素直に自分の罪を認める? いかさましたって……認める?」 「うはぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、わがっだぁははははははははははははははははははは、認めるぅふふふふふふふふふふ、認めるがらぁぁははははははははははははははははははははは!!」 「本当に? それ……ちゃんとお客さんの前で言える?」 「くははははははははははは、言う! 言うから止めてっっ!! 止めてぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! ゲホゲホゲホ!!」  ついに綾香にも限界が訪れた。  夏姫のためにも自分の為にも不正は絶対に認めないと心に誓ってこの仕置きに臨んだが、鈴音の絶対的なくすぐりの前には綾香の気力も萎え果ててしまった。  ただ笑っているだけだったら我慢は出来た……  ただ苦しいだけなら……夏姫の顔を浮かべれば頑張る事も出来た……  しかし、彼女のくすぐりは……ただ笑って苦しむだけの単純な責めではない。  どう足搔いても決して慣れる事の出来ないくすぐりの技巧に加え、自分がどんなに苦しい思いをしていても身体が勝手に笑ってしまうという無力感……  笑えば笑う程に苦しくなっていく事が分かっていながら笑う事をやめさせてもらえない絶望感……  このままくすぐられれば頭がおかしくなってしまうのではないかと思ってしまう不安感に加え、常に動く事を強要される腹の筋肉や横隔膜、叫び声を上げてしまう喉……どうしても打ち付けてしまう後頭部や背中……それらの肉体的な苦痛もその絶望感を更に強くさせ綾香の気力を蝕んでいった。  終わりなき笑いを強制される地獄……それは自分の気力が尽きない限り延々と続いていくものだ……  どうせ不正を認めないと終わらないのなら……さっさと認めて楽になってしまえば良かったのだ……  これを認めてしまえば……もう……ディーラーとしてこの舞台に立つ事は出来なくなるだろう……  夏姫にはまだ色々と教えることがあったけど……それももう出来なくなる。  でもどうせ、負けを認めた自分など……夏姫はさっさと見放してしまう事だろう……  だから、こんなカジノはさっさと辞めて……また新しい人生をやり直したほうが良い……  夏姫には悪いけど……もう身体も心もボロボロだ……  これ以上……意地を張る意味も見当たらないし……この苦痛が続くよりは……今すぐに楽になる方を選んだ方が…… 「おっと! どうやら……椿嬢が降伏を申し出た様に見えましたが……実際どうですか? 鈴音さん?」  綾香が息を切らせながらそのように考えを巡らせていると、くすぐりを止めた鈴音に智恵理がマイクで状況の説明を彼女に求めた。 「どうやらそのようね。もう少し頑張るかと思ってたけど……まぁ、そこまでの根性は無かったみたいね……私としては物足りなくて残念だわ」  綾香の汗や媚薬がべっとりと付着した手の指をテーブルの上に置かれたティッシュにて丁寧に拭きあげながら、鈴音は自身の頭に装着しているヘッドセットのマイクに声を通してさも残念そうに手を横に広げて見せる。 「そうですか……では、椿嬢にはしっかりとその意志があるのかを確認しなくてはなりませんね!」  智恵理は元気にステージに駆け上がると、頭を項垂れて呼吸を繰り返している綾香にマイクを向けその意志があるのかどうかの確認を行う。 「椿嬢、いかがですか? あなたは……今までいかさまをしてきたという事実を……ここで認めますか?」 「…………えぇ……」  智恵理の向けたマイクに綾香は苦虫を潰したかのような悔しい表情を浮かべながらも、消え入るような声でそのように返事を返す。 「自分の口で……それをお客さん達に聞こえるよう宣言してもらえますか?」 「………………………………」  観客の前でそのように敗北宣言をしてしまえばこの先どうなってしまうのか自分の未来など簡単に想像できる……だからそれを行えるか? と聞かれても素直に頭を縦には振れない。 「いかがですか? 言えますか?」 「……………………………………」  呼吸を繰り返しながらも綾香は夏姫と過ごしたこのカジノでの思い出を走馬灯のように脳裏に走らせた。  楽しかった事……辛かった事……悲しかった事……その全てを一緒に共有してきたという想いは彼女から一筋の涙を頬に伝えさせる。 「……言う……わ……」  涙が顎先から床に垂れたのを機に、綾香は覚悟を決めた様にソッと智恵理の持つマイクに言葉を零した。 「では……この音声は記録させて頂きますので……名前を名乗ったのちに、自分の罪を認めて貰えますか?」  智恵理の促しに力なく頭をコクリと小さく縦に振る綾香……   「えぇ……」  と、返事を返した綾香は汗と涙と涎によって崩された顔を重々しく持ち上げ、マイクに口を近づけていった。 「…………私……、椿……綾香……は……」  そしてマイクに声を拾うかどうかの小声で自分の名前を名乗ると、スピーカーからは彼女の出した何倍もの音質でその名前が客達に伝えられる。 「このカジノで……常習的に……いかさま行為を行っていた事を――」  名前を述べた後に自分の罪を認める旨の言葉を震える声で述べようとする綾香。その様子を鈴音は腕を組んで不機嫌そうに聞き、智恵理はワクワクするような目で彼女を見、麗華は相変わらず扇子で口元を隠して表情を隠すような仕草で眺めていた。  麗華の目は笑ってはいなかった……。綾香の敗北宣言に気を良くして笑みを浮かべていても良いものだが、彼女はもっと別の事を綾香の表情を見て感じ取っていた。  綾香はまだ……いかさまをヤったという事を本気では反省する気はない……苦痛から逃れる為に渋々負けを認めたに過ぎない……  プライドが高く気の強い彼女の事だから……本気でいかさまをした事を後悔などしていないだろう……むしろ、勝負に負けたから仕方なく罰を受けた……という程度の意識しか持っていない筈だ。  きっとそうだろう……でも、絶対にそうだとは言い切れない……もしかしたら本当に反省しているという可能性もある……  どっちなのかあの表情では判断しかねる……  麗華は『きっとこのような展開になるだろう……』と、予想していた。  綾香が本気で認める気が有るのか無いのか……判断しかねる場面が必ず来るだろう……そう考えていた。  だから、彼女に話を振ったのだ。  綾香の真意を確かめるために…… 「……認め――」 「お、お姉様っ! 認めちゃダメですっっ!!」  綾香が自分の罪を認めよる言葉を続けようとした刹那、夏姫が飛び込むようにステージへと上がり込んだ。 「――なっ!? 夏……姫っ!?」  ステージへと登った夏姫は智恵理をその場から手で追い払い、驚く綾香の顔に自分の顔を近づけて小声で綾香の耳に言葉を伝え始めた。 『お姉さま……それを認めちゃうと……お姉さまがディーラーを続けられなくなっちゃいます! だから……認めちゃダメです!』  認めればディーラーをやめなくてはならなくなる……きっとそうなるという事は綾香も自覚出来ていた。だから、その言葉にも綾香は首を横に振る…… 『夏姫……ゴメン……。これ以上……こんな無様な姿を……あんたには見せたくないの……。別に男達に好色な目で見られる事に苦痛は感じないけど……あんたにこんな姿を見せ続けるというのは耐えられないわ……。だから私は潔く身を引く事にした……どうせ私が認めるまで……コレ……やるつもりだろうし……』 『いいえ! そんな事はないですっ! 思い出してください! 彼女……麗華とか言いましたっけ? 彼女……最初になんて言ってました?』 『……麗華が? 何て言ってたかって……? どういう意味?』 『思い出してください! あの勝負が始まる前! 彼女はこう言ったはずです!』 『…………??』 『お姉さまを仕置きする為にショーの時間を買い取ったと……』 『え、えぇ……だから今それを受けていたんじゃない……』 『ショーの時間は? いつもショーは何分間やってますか?』 『…………ッっ!? い、い、1時間……』 『ですよね? で、今……始まってから何分経ったか分かってますか?』 『……い、いや……時間は気にして無かったから……分からないけど……』 『見てください! 時計! あの柱時計っ!』  綾香は夏姫に促され奥にある柱時計に視線を移した。すると、その時計は短い針は限りなく10の数字の方を……長い針はそのすぐ下の9の数字の所を指して秒針が動いているのが見えた。  時間にして21時45分……。仕置きが始まってすでに45分が経っていた事をそれにより綾香は知る事となる。 『……えっ!? う、嘘……もう……45分も……経っていたの? アレで??』 『そうです! ショーの時間はあと15分で終わりなんです! あと15分ですよ! 15分っ!!』 『し、知らなかった……もうそんなに経っていたなんて……』 『ショーの時間が終われば彼女達は引き上げざるをえない筈です! つまりはあと15分アレを我慢出来ればお姉さまは辞めなくて済むんですよ!』  夏姫にそのように言われ綾香は一瞬呆気にとられるような表情になるが、その言葉の意味を頭の中で咀嚼し理解すると綾香は口元に再びあの勝ち誇ったような笑みを浮かべなおした。 『そっか……ごめん、夏姫。そんな事も忘れてたわ……私としたことが……』  綾香の気力が戻った事を表情で読み取った夏姫はホッと胸を撫で降ろし、続けて綾香に更なる朗報を伝えた。 『しかも! この15分はお姉さまは苦しまなくて済みますよ! 私が代わりに受けますから!』  その言葉を聞き綾香の顔が瞬時にして強張った。 『ちょっ! 何言ってんの? あんたが代わりにって……どういう事?』 『麗華さんに声を掛けられたついでに言ってみたんです。いかさまをして欲しいとお願いしたのは私だから、私も罰を受けたいって……』 『なっ!? 何勝手な事言ってんのよ! そんな事あんたは一言も……』 『でも……私の為にもヤってくれてたんでしょ?』 『うぅ……ま、まぁ……それは否定できないけど……。でもあんたが受ける事ないじゃない! いいわ、後の15分も私が我慢するから、あんたは引っ込んでなさい!』 『嫌です!』 『っ……えっ!?』 『お姉さまの苦しむ姿をただ見ているだけっていうのは……私が我慢できないんです!』 『…………な、夏姫……』 『それに…………自分がなにもしないままに……お姉さまだけを失というのは……絶対にしたくないですし!』 『う、失うって……そ、それは……』 『私も協力させてください! 私だって共犯なんですから……それくらいする権利があります!』 『で、でも……あんた……くすぐられるの……弱い方だったはずじゃ……』 『……うぅ……まぁ、そうですけど……15分くらいならどうにかなりますよ……それくらいなら……』 『あんたが思う以上に……あいつのくすぐりはヤバいわよ? 死ぬほど苦しい思いをする事になるわよ?』 『えぇ……それはお姉さまの悶え方見てて知ってます♥』 『わ、私のは……見なかったことにしなさいよ……もしくは忘れなさい! 今すぐに……』 『ヤです♥ ずっと覚えておきます♥ 何なら動画を取って後で見返そうと思ってるくらいですし……』 『なっ!? そんなことした許さないわよっ! すぐに消してやるんだからっ!!』 『その前にコピーしてお気に入りのフォルダーに隠しちゃいますから無駄ですよぉ~だ♥』 『うぐっ! さてはもう撮ってるわね? 今すぐ消しなさい! 今すぐにっ!!』 『まぁ、そういう事なんで……ココからは私がお姉さまの身代わりとして頑張っちゃいます☆』 『ほ、本当に……良いの? かなり辛い思いをする事になるわよ?』 『お、脅さないでくださいよぉ……折角の決心が揺らぐじゃないですかぁ~』 『いや……アレは本当にヤバイわ……多分……15分も耐えられるか……微妙なところよ?』 『そうこう話しているうちにあと13分くらいになってます♥ 大丈夫ですって♪ 拘束する時間もあるでしょうから……』 『……無理だけはしないで? ヤバイと思ったらすぐにギブアップするのよ? いい?』 『はい……』  綾香と夏姫の会話が一段落したのを見て、麗華がステージへと上がり込み智恵理からマイクを取り上げて改めて綾香に言葉を零した。 「お取込み中に申し訳ないんだけど……話が長引くのもいけないので先に聞かせて頂こうと思っているんだけどよろしいかしら?」  それを聞いた綾香は夏姫の顔から麗華の方へと視線を移し、彼女を親の仇のように睨み上げ言葉の続きを待った。 「結局……貴女は……いかさまをやったと……認めますの?」  今にも噛みつきそうな勢いの睨みを利かせる綾香は、麗華のその言葉にフン! と息を吐き捨て…… 「認めないわ! もう絶対に認めない!!」  と、言葉も吐き捨てた。  その言葉を聞き、麗華は…… 「あら……やっぱり……」  と、残念そうな表情を作ってハァと息をつく。  するとすかさず夏姫が麗華のマイクを奪い取って、 「お姉さまと私は一心同体なので、これからは私がこの人の責めを受けて立ちます!」  と、強気に言葉を放って鈴音に指を向けて挑発した。  客達は「何で彼女が罰を?」「そもそも誰だアレは?」などと、隣近所と言い合って夏姫の登場に動揺を見せるが、麗華はまるで彼女がそのように言うだろうと予想していたかのように笑みを浮かべ智恵理から予備のマイクを受け取って言葉を紡いだ。 「貴女が……彼女の代わりに罰を受けたい……と? そう仰りたいので?」 「えぇ! こんな子供騙しの責め……お姉さまにヤるのは失礼だと感じたので、私が代わりに受けさせて貰います! 構いませんよね? さっき……良いと言ってくれたんですから……」  子供騙しという言葉にピクリと身体を反応させる鈴音だが、彼女の言葉にまるで関心がないようにそっぽを向いたまま指の拭きあげを継続させる。 「それは構いませんけど……良いんですの? 貴女は関係のない人間でしょう?」 「構いません! 私はそういう子供っぽい事されても笑う事なんてないですし!」  夏姫の言葉に再び身体をピクリと反応させる鈴音……今の言葉は聞き捨てならないと思ったようで、汗や体液を拭い取っていたティッシュを適当に丸めてテーブルの上にポイっと投げると、そこで初めて夏姫の顔を睨みつけるように見た。  そして、自分のヘッドセットに音が入る事を確認するようにマイク部分を指で軽く叩いてスピーカーからの音の返りを確認すると、夏姫と対峙するように立ち低く轟くような声で彼女に言葉を出した。 「随分と強気なのね? そんなに自信あるの? 私のくすぐりに耐えられるって……」 「耐えられます! そんなお遊びみたいに身体をコチョコチョするだけなら……どうって事ありません! 余裕で耐えきって見せますよ!」 「へぇ……? でもこの女はそのお遊びに屈服しかけていたみたいだけど? それでも平気って言える?」 「よ、余裕です! 私……こう見えて……くすぐりに強いので……」 「ふぅ~ん? でも確か……こっちのいかさま女も最初の方はあんみたいに強がっていた筈だけど……結局このざまよ? あんたも……同じ目に合うかもって思わない訳?」 「あ、あなたみたいな“子供”にされるくすぐりなんて……効くわけないじゃないですかっ!」  夏姫の放った“子供”という単語に、今まで以上に身体をビクつかせた鈴音は、怒りで語気が強まるのを必死に抑えながらあくまで冷静に麗華へこれからの行動が可か否かの判断を仰ぐ。 「お嬢? 良いわよね? こいつ……責めても……」  麗華は息を一つつき彼女に聞こえるように「はいはい」と言葉を零す。 「一度屈服しかけて手のひらを返したあの女の事もムカつくけど……急にしゃしゃり出てきて私の事を子供呼ばわりしたこいつはもっと許せないわ! 智恵理? こいつの事手早く拘束しちゃって頂戴? あのいかさま女より先にぶっ壊れるまで笑い狂わせてやるんだからっ!」  鈴音はそのように智恵理に命令を下すと智恵理も「はいはい」と仕方なさそうにステージへと上がり夏姫を綾香の背面へ移動するよう促しを入れた。  そして、綾香と同じように下の履物を全て脱がせ、拘束台の裏にも用意されていた拘束具に夏姫の身体を拘束し始めた。  まるで最初から二人を拘束する為に用意されてあったかのような……表と同じように手枷足枷、足乗せが用意された拘束台の裏側……  そこに夏姫は綾香とは逆に胸を柱の方に付ける形で立たせ、手と足を手早く拘束されていった。  綾香の背中に抱きつかんとするかのように両手をナナメ上にあげながら、足置きに爪先だけを置いた足裏が宙に浮いた状態で……大好きな彼女の背中に自分の小さな胸を押し当てるように立たされた夏姫は、心配する綾香に何度も「大丈夫です」と言葉を掛け彼女の首筋に温かい息を吹きかける悪戯を行いながら楽しむ余裕さえ見せる。  その様子を見て麗華は扇子の奥に隠していた口を静かにニヤつかせる。  夏姫の申し出も……綾香の手のひら返しも……全てお見通しだと言わんばかりのその笑みは、その次に訪れる絶望への布石であると言わんばかりに含んだ笑いを静かに零していく。  ショーの終わる時間まで残り10分弱……  麗華の含み笑いは、その時間だけに留まらない裏のナニかを孕んだ笑いだった。

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