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18:身代わり  背中に夏姫の息遣いと体温を感じる……。先程までの誰一人味方のいない“孤独”を考えると、拘束されているとはいえ自分の愛する女性が背後に立ってくれているという安心感は何ものにも代えがたく綾香の緊張を僅かに解してくれた。 「お姉さまの匂いが……こんなに近くで嗅げるなんて……♥ これは役得ですね♪」  夏姫は幅の狭い“足置き”に、背伸びをするように爪先立ちで立たされ綾香の首元に顔を突き出すような格好で拘束されている。  夏姫の身長は綾香よりも低い……、綾香と同じように手を高く伸ばしても数十センチほど手首の枷に届かない。  手が届かないのであれば、どうにかして届かない分の背丈を嵩増しさせるしかない……  その嵩増しの方法が爪先立ちを強要した答えであり、夏姫を爪先立ちさせる事でようやく手の枷に手首が届く配分となったのだから仕方がない。  手の枷が無ければ全体重が足指に掛かって相当な負担を強いられる事となるが、手首に巻かれた枷は夏姫の手首を余裕なく締め付けて拘束台に固定している為、体重の半分以上は手枷が支えてくれる形となっている。であるから、夏姫の負担は見た目ほど大きくはないのだが……結局手枷に体重を掛ければ手首に枷が食い込んで痛くなるため、負担が無いと言うと嘘になる。全体重を爪先の一点だけで支えるよりはマシだが、限界まで伸ばされた手の方は軋むように痛んで仕方がないので夏姫への負担は綾香よりも強いと言わざるを得ない。  そんな負担を背負ってまでも拘束された夏姫だが、責めが始まるまでの僅かな準備時間の間でも綾香にその事を悟られまいと敢えていつも通りの彼女を演じ綾香を和ませている。  拘束されこれから綾香の代わりに責められるという運命を背負いつつも、夏姫の顔は不安など無く晴れやかだった。 「に、匂いを嗅ぐだなんて……変な事言わないでよ! 私の身体が汗臭いって言いたいんでしょ? や、やめてよね……恥ずかしい……」  綾香とのいつも通りのやり取りが出来て夏姫は嬉しかった。  綾香と向かい合わせになっておらず彼女の背中を見る形で拘束されているのが唯一の不満点だが……でも、彼女はそれでも綾香のすぐ傍まで来れて満足している。 「恥ずかしがってるお姉さまも……とっても素敵です♥ それをこんな風に間近で見られる様になれて……私はとっても幸せ者だぁ♪」  手を差し伸べたくても差し伸べさせてもらえなかったさっきまでとは違い、今は綾香の数センチ後ろに彼女と同じように拘束され立たされている。  それだけでも夏姫にとっては喜ばしい事であったが、綾香のピンチをも救い、なおかつ彼女が受けるはずだった苦痛も代わりに受けることが出来るというのだから夏姫が嬉しく思わない筈がない。  なにせ……今の今まで何もさせて貰えなかったのだから…… 「こ、こんな時に変な事言ってんじゃないわよ! 私があいつにヤられてたのずっと見てたんでしょ? だったらアレがいかにヤバイのか分かる筈よ! 少しは警戒したらどうなの?」  目の前で笑い苦しまされている様子を見せつけられていた夏姫は、綾香の言わんとすることは十分に理解出来ていた。でも、そんな肉体的な苦痛よりもすぐ目の前で苦しんでいる綾香に手を差し伸ばせなかった自分の苦悩の方が何倍も苦しいと今では思っている。  だから怖いという感情は芽生えてこない……むしろ、代わりを務められて光栄だとさえ思っているほどだ。 「えぇ……見てました。お姉さまが苦しそうに笑わされている姿を……目の前で……」 「だったら不安な顔の一つくらいしてなさいよっ! そんなに嬉しそうにされたら……私の調子が狂うじゃないの!」 「だって……嬉しいんですもん♥ お姉様と同じように拘束されて……お姉さまと同じ苦しみを味わう事になるのが……」 「うわ……あんたってば……私の仕置きを見てMに目覚めちゃったの? 言っておくけどアレはあんたが思っている以上に苦しいし辛いのよ? そこんとこちゃんと理解して――」 「違うんです……」 「――って……はぁ?」 「別にマゾになったとかじゃなくてですね? 私はお姉さまと同じ境遇に置かれたというのが……堪らなく嬉しいんです♪」 「な、何よそれ? 私と同じにされて……何が嬉しいの?」 「だって……ほら……同じことをされたんだったら……これが終わった後に語り合えるじゃないですか♥ アレはきつかったよね? とか、あの拘束は酷かったよね? とか……」 「ま、まぁ……そりゃあ……話す事もあるかもだけど……」 「私はそれが嬉しいんです。お姉さまと同じ目線で同じことを話し合える……それだけで幸せなんです♥」 「い、意味わかんない……それだけの為に身代わりを引き受けたって言うの?」 「本当は色々思うところがあって引き受けましたけど……でも良いんです♥ 何もせずに手をこまねいているだけよりは……何万倍もマシなんですから……」 「あのねぇ! 何もせずにとか言ってるけど、私はあんたの顔を見る事で頑張れた部分もあるのよ? だから何もしていないなんて――」 「……それでもっ!」 「……ッ!?」 「お姉さまがそんな風に考えてくださっていたとしても……それでも私は……やっぱり自分の力で何か助けになれるような事をしたかったんです!!」 「……な、夏姫……」 「何も出来ないというのが……一番辛いんです! 目の前で苦しめられているお姉さまを見せつけられるのは……耐えられないんです! それならいっそ……同じ苦しみを共有できた方が……私にとっては良いんです!」 「…………………………」  夏姫の言葉に綾香はしばし言葉を失う。 「……………………………………」  勢いで本心を出してしまった夏姫も、それを言ってしまった気恥ずかしさから顔を赤らめ言葉を引っ込めてしまう。  お互いの沈黙が数秒続いたのち、先に口を開いたのは綾香の方だったが……その口から出てきた言葉に夏姫は驚かされる事となる。 「ゴメン……夏姫……」  綾香の口からはまず謝罪の言葉が零れ落ちてきた。  その謝罪の言葉が何に対しての謝罪なのか分からない夏姫は、突然のその言葉に戸惑いを隠せない。 「あ、あの? お姉さま? なんで謝られて……」 「あんたが……そんな風に思っていたなんて……思ってさえいなかった。だから、私は……あの時……あんたと離れ離れになるかもしれないって分かってて……降伏しそうに……なってた……」 「アレは……仕方がないですよ……。だって……時間の事とか……気にしてなかった様子でしたし……」 「でも、あの時私は……こんな苦しい思いをするなら……ディーラーの肩書もあんたの事も……全部真っさらにしてしまっても……構わないって……」 「うわ! それはショック! そんなこと考えていたんですか? あの時……」 「ご、ごめん! 私だって……あんたと離れるのは嫌だと思ってたわよ! でも……アレは……それ以上に……」 「分かってます。それくらい苦しかったって事でしょ?」 「え、えぇ……」 「だから私もそれを味わって……お姉さまがどんな気持ちで降伏しようとしてたのか、身をもって味わおうと思ってます♪」 「……夏姫……」 「お姉さまが降伏する間際に流したあの涙の意味……しっかりこの身体に刻み付けておきますね♥」 そのように夏姫が明るく応えると、二人の会話に割って入る様にあの麗華が扇子片手にステージへと上がってきた。 「お取込み中申し訳ないのだけど……もうそろそろ……始めちゃってもよろしいかしら? 時間もアレですし……」  柱に掛かった大時計はあれから時間を更に進め21時55分を指すほんの僅か手前まで針を走らせていた。  ショーの残りの時間は残り8分ほど……  綾香が苦しめられてきた時間に比べれば……8分など余興の説明だけで終わるくらいに短いものだ。 「わ、私なら構いません! 覚悟なんてとうの昔に出来ていたんですからッ!!」  麗華の問いかけにそのように強気に言葉を返す夏姫……彼女の言葉を聞いて舞台袖の影から再び鈴音が妖しい笑みを浮かべてステージへと上がってくるのが見えた。   「だ、そうよ? 鈴音ちゃん? 頼めるかしら?」  麗華がそのように促すと鈴音は「は~い」と陽気な返事を返しつつ夏姫の背後へと移動すると、短い丈のディーラーパンツから伸びている彼女の細く華奢な脚を舐めるように眺め舌でペロリと自分の唇を舐める仕草を取った。  綾香に負けず劣らずの見事な脚線美を太腿の部位から膝裏にかけて興味深げに見定めると、鈴音は自分の人差し指を口につけ自分の唾液で僅かに湿らせ、それを夏姫の膝裏へと近づけさせていった。 「なかなか綺麗な脚してんじゃない……。子供っぽい見た目の癖に……生意気ね……」 「あ、貴女に子供っぽいって言われたくありませんっ!! 貴女の方がよっぽど――」  夏姫が鈴音の挑発に反論の言葉を返そうとすると、彼女はすぐさま近づけさせていた人差し指を夏姫の膝裏の肌にそっと触れさせ最初の刺激を彼女に与えた。  その不意を衝く様な突然の刺激に、夏姫は身体を大きくビクつかせ目の前の綾香に向かって大きな悲鳴を上げさせられる。 「――ぃッきひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」  その悲鳴があまりに大きく零れたため、目の前にいた綾香もその声に驚き身体をビクつかせてしまう。 「ど、ど、どうしたの!? 夏姫っ!? 何かされたの? ねぇっ!!」  首をひねっても鈴音が夏姫に何を行っているかまでは見ることが叶わない。それ故どうしても夏姫の声に反応し今の現状を聞こうとしてしまう…… 「かひっっ!? あひゃっっ!! はひゃあぁぁぁっっ!! ひ、ひ、膝のっっ、う、裏ぁっっ!! 膝の裏を……指でっへっへっへっへっへ……触られて……んくぅぅぅっっ!!」  爪先立ちを強要されているから当然ではあるが、膝の部位もピンと伸ばすよう強要され拘束されてある為夏姫の膝は反り返る様に伸ばし切られている。膝が伸びきっているのだから勿論その裏である膝裏も皺が目立たなくなるくらいまでしっかり伸ばされていて、伸ばされている分神経も敏感になっていた。  その敏感になっている膝裏の神経を逆撫でするかのように鈴音の人差し指が優しく撫で回している。まさかそのような場所を触られるとは思っても居なかった夏姫は、膝裏を襲うおぞましい程のこそばゆさに我慢が出来ず、意図しない笑いを途切れ途切れに吐き出しながら必死に綾香に今の状況を説明した。 「ひ、膝の裏!? そんなトコをくすぐられてんの? だ、大丈夫? 耐えられそう?」  夏姫の説明だけではこそばゆさの想像すらつかない綾香は必死に顔を後ろに向けて鈴音の姿を視界に捉えようと努力する。しかし、首の可動域はそんな努力に報いることはなく、夏姫の苦しそうに笑いを我慢する顔の僅かな部分しか視界に入れられない。  夏姫の悶えから察するに鈴音のくすぐり方は自分の想像以上のえげつないやり方をしているに違いないと思うのだけど、それを実際に目で見ることが出来ないというのが恐ろしくもどかしい。なまじ鈴音のくすぐりを味わった経験を持つ綾香であるからこそ、そのくすぐり方がどんなものなのか知りたくて堪らなくなっていた。 「あはっっっはっっ!! ちょっっ!! そんなトコばっかり撫で……ない……でっへっっへへへへへへへへへへへへ!! や、や、やだ! 気色悪いっひっっ!?」  ただ膝裏を指一本で上下に撫でられているだけだが、夏姫の悶え方は既に本番のくすぐりが始まったかのように激しい。  手枷を引っ張り込むように力を込めたり、足をバタつかせようと足枷を鳴らしてみたり……。そのような嫌がりを真後ろで聞かされてるものだから綾香も気が気ではない。 「夏姫っ!? 大丈夫!? まさか……もう足裏とかワキを触られてるの? それとも脇腹とか? ねぇ? 大丈夫なの?」 「ち、違っっははははははは!! お姉さまっっぁはははは、違っっ!! まだ膝裏っっはははははははははは、膝の裏を触られてるだけで……くひぃぃっっ!?」 「ほ、本当に? 本当に膝裏だけ?? それがそんなにくすぐったいの? ねぇ! 本当に大丈夫なの? ねぇっ!!」  夏姫がくすぐったい刺激に弱いというのを知っている綾香であるが、この夏姫の笑い悶え方は尋常ではない。実際はまだお試し程度の刺激しか加えられていない筈なのに、綾香には本番以上の熾烈なくすぐりが行われているかのように聞こえてしまう。 「フフフ♥ 大好きな彼女さんが鈴音ちゃんにどんな風にくすぐられているか見えないというのは……中々にもどかしいものでしょう?」  状況がつかめない焦りに不安の表情を浮かべて言葉を掛けてしまう綾香に、扇子を口元に当てた麗華が近寄ってきて彼女に煽りを入れ始める。 「夏姫さんって言いましたっけ? 彼女……今どんな顔で貴女の後ろで笑っているか知ってます? それはそれは苦しそうな顔で涙を零しながら悶えてらっしゃいますのよ?」 「う、う、嘘つけ! 夏姫はそんな弱い女じゃないわ! くすぐりに弱くても……私みたいに睨みながら悶えているに決まってるわ! 憎しみをぶつけるようにっ!!」 「睨んでいるなんてとんでもない♥ 夏姫さんは楽しそうに笑ってらっしゃいますわよ? さっきまでの貴女の様に……無邪気な子供の様に……」 「さ、さっきまでの……私の様に? ふ、ふざけんじゃないわよ! 私は……そんな子供の様に笑ってなんか……」 「笑っていたじゃありませんかぁ~♥ あぁ……そうか! 自分からは分かりませんものね? 自分が今……どんな無様な顔をして笑ってしまっているかなんて……」 「くっ!? 確認できない事をいい事に……好き放題言ってくれるわね!」 「あら……確認なら出来ますわよ? ココのオーナーさんにお願いして監視カメラの映像を録画させてもらっているのですから♪ お望みでしたら後でお見せしてあげても良いんですけど……」 「な、なんですって!? そ、そんな映像なんて撮って……何に使うつもり!? まさか……そういうのを編集して裏のエロい流通に流そうって魂胆じゃないでしょね?」 「クフフ♥ 想像力が豊かで羨ましいですわ♥ ご心配なく……。これは、私がちゃんと活動を行ってきた事を示す為に証明する材料に過ぎませんわ。だから……その証明が行えたらならキチンとマスターテープごと消して差し上げますわよ」 「活動? そういえば……あんた達は一体何者なの? これだけ大掛かりなことが出来るって事は……個人の集まりとかそういうんじゃないんでしょ?」 「……まぁ、貴女に私達の事全部を話すにはあまりにも時間がなさすぎるので割愛させてもらいますけど、あえてこれだけを言うなら……貴女の様な不正行為を平然と行うようなディーラーやお客さんを取り締まる組織から来た……とだけ伝えておこうかしら……」 「何よそれ? そんな組織有るなんて……聞いた事もないんだけど? まさか……秘密裏に作られた国の非合法な組織とか……言い出すんじゃないでしょうね?」 「いいえ? 民間企業の中のいちグループとでも言いましょうか……会社の活動をよりやり易くするために作られた特殊な行動型組織……って言えば分かり易いかしら……」 「特殊な行動型組織? 要は……会社の展開をしやすくするために邪魔なものを消し去っていく掃除屋的な組織って……事?」 「まぁ、そう捉えて貰って構いませんわ♥」 「会社の掃除屋が……なんでこんなホテル併設の三流のカジノに来たわけ? まさか……私だけを狙い撃つために来たとか……そんなこと言い出さないわよね?」 「フフ……依頼の内容は企業秘密ですから言えませんわ♥ でも、今回の依頼が貴女の不正行為絡みである事は間違いじゃありませんの♥ だから調査もしっかり進めましたしね……」 「私の調査をしたという事なら……当然……夏姫の事も……」 「えぇ。しっかり調べさせて貰いましたわ♥ 特に、貴女との関係の深さを調べるために夜を過ごした回数まで記録させて貰ったくらいですのよ?」 「ぐっっ! 最初から……夏姫を巻き込む予定で……計画を練っていたのね?」 「当然ですわ♥ 弱点に成り得るものは全て利用しようと決めておりましたので……。貴女の様なプライドが高くて負けん気の強い女性を本気で堕とすには……身体的な弱点だけじゃ絶対に足りないと分かっておりましたもの……」 「本気で堕とす? フン! 確かに……夏姫という弱点は私にとっては脅威だけど……あんたの企みはもう風前の灯火じゃない!」 「なぜ……そう思いますの?」 「はぁ? それはあんたが一番分かっている事でしょ! ショーの時間は後僅か! でも私はまだ屈服していない! それに焦ったから夏姫を責める事にしたんでしょ? どうにかして私を無理やりにでも屈服させようと思って……」 「時間……? あぁ……成程……言っていなかったので……そう思うのも仕方ありませんわね……」 「……何よ? その含ませたような言い方は……」 「いいえ、何でもありませんわ♥ それよりも……ほら、見てくださいまし♪ 鈴音ちゃんの手が……夏姫さんの“あの部位”に差し掛かろうとしてますのよ♥」 「……っ!? あ、あの部位っ!?」 「あら、ごめんなさい? 見れないのでしたわね、夏姫さんの責められっぷりは……それは残念……クスクス♥」  夏姫が膝裏のくすぐりにようやく慣れを感じ始めたと分かるや否や鈴音はくすぐっていた手を膝裏から少し下げ、指一本の構えから今度は両手の指を全て使った構えに変えつつ彼女の脚のふくらはぎの周囲を這い回る様にくすぐり始めていた。  その指の動きに夏姫は身体がビクつくほどの気色悪さを脚に感じさせられるが、それがくすぐったいという感覚には変換されなかった。  どうしようもないこそばゆさを感じたあの膝裏の刺激よりかは強くはなく……むしろ気色悪さだけが際立つ触られ方をしているからか、こそばゆさよりもムズ痒いだけの刺激として夏姫は捉えている。それ故夏姫は笑う事を我慢出来ている。笑うか笑わないかキワドイ刺激ではあるが、夏姫がその気になって我慢すれば笑いを吐き出さずには済む刺激に留まっている。 「ぅぐっっふっっっ! くふっっ……お、おねえ……さま? あと……何分……ですか?」  笑わずには済んでいる刺激ではあるが、その手の位置は膝から下へと降りてきている為いずれは“あの場所”まで来るであろう事は夏姫にも予想が出来ている。  膝裏など比べ物にならないほど刺激に敏感なあの箇所……爪先立ちになっている為、綾香以上にその部位をくすぐり易いよう晒してしまっているその箇所をくすぐられれば……きっとさっきの比ではないくらいの笑いを吐き出す事になってしまうだろう。  それが続けば……自分はどうなってしまうのか……予想もつかない。  だから、言葉を出せる今のうちに知っておきたかった……  自分は……後、何分……耐えれば解放されるのか……を。 「大丈夫? 夏姫! 今何処を触られているの? 変なところ……責められてない? 変な事とか……されてない??」 「だ、大丈夫……です。膝の下付近を……コソコソ……触られてるだけ……ですから……ンフッ!? くっくっく……ぅくくくく……」 「本当に? 本当に大丈夫なの? 辛くない? きつくない??」 「大丈夫っっですからっっはっ!! それよりもっっ! 時間……時間を……教えてくださいっっ!! こっちからでは時計が……見えないんですっふっっくっくっくっくっくぅぅぅぅ!!」 「あぁ、時間ね? うん、時間は……後………………5分! 5分とちょっとよっ!」 「ご、ご、5分っ!? ま、まだ……そんなに残っているんですかっっ!?」 「何言ってんの! 5分なんてあっという間じゃない! あと少しの辛抱よ!」 「あれから……3分しか……くふっ!? 経ってなかったなんて……んくぅぅ!! 時間が……長く感じるぅっふっっ!! くふぅ!!」  責めが始まって3分弱……  しかし、夏姫にとってこの3分は……1時間よりも長く感じる3分だった。  我慢しても我慢しても込み上げてくる笑いの衝動……それを我慢する為に必死に口元に力を込め意識を集中する。時には緩んだ口端から笑いが吐き出さえれてしまうが、それでも最悪の事態が訪れないよう吐き出した笑いを呑み込んでしまう勢いで口を閉じて笑いを我慢している。  夏姫が考える最悪の事態というのは“くすぐったさに負け笑いを出し続け、その笑いが止められなくなってしまう事”という至極単純な事を指すのだが……それが起きてしまった事を想像すると夏姫は殺される直前の虫の如く絶望と不安に苛まれてしまう。  膝裏の刺激だけであれば笑いと我慢を半々くらいに保つことは出来たが……足裏をくすぐられるとなると話は変わってくる。  そこは夏姫にとって最弱の箇所であり、今最も触れて欲しくないと思っている場所でもある。  昔から夏姫は……足への刺激には弱かった。素足で砂利道を歩くだけで笑い転げてしまう程……ほんのちょっとの刺激にも弱いと自覚があった。  だから親しい友人にも触らせることはなかったし、あの綾香にさえも素足を見せる事は殆どしてこなかった……  それほどまでに弱いと自覚している足裏をくすぐられたら……もう……本当に自分がどうなってしまうのか想像がつかない。  笑ってしまうのは勿論だが、その笑いを我慢する事が出来なくなるだろうという事が簡単に想像がついてしまう。  笑い続けてしまったら……自分はどうなってしまうのか? 無様な顔を晒して綾香がすぐ傍にいる目の前で笑い狂ったら……綾香はどう感じるてしまうか……  どんな些細な事でも心配してくれる彼女を……もう不安にはさせたくはない。  出来れば……これ以上笑う事なく時間が過ぎてくれれば良いのにと思っていたのだが……  まだ5分……あと5分も時間が残っている。  たったそれだけの時間? と、綾香は思うかもしれないが……夏姫にはその5分がとてつもなく長い時間に思えてしまう。  膝裏のくすぐりを我慢するだけでこれだけ長いと思ってしまった3分だったのに……きっと笑ってしまうであろう足裏を5分もくすぐられれば自分は一体どうなってしまうのか想像すらできない。  そうこう不安な気持ちを高めてしまっているうちに、鈴音の手が足首の枷の所まで降りてきてその枷の部分をワザとらしくコソコソとくすぐりながら枷越しのくすぐりの感触を夏姫に送り始める。 「どうしたの? こっちに近づくにつれて……足の先からカカトまでがガクガク震えてきているみたいだけど……。もしかして……怖いと思ってたりしてる? この先の……刺激が……」  夏姫は足裏を刺激される事への不安を悟られまいと顔を横に振ってその言葉を否認するが、彼女の足は鈴音の言葉通り震えてしまっている。  まるで不安の強さが足の筋組織まで震わせてしまっているかのように、指が足裏に近づくたびにその震えも強くなっていく。 「な、夏姫! あと5分だからっっ!! 大丈夫っ! あとほんの少しで終わるから! 頑張って! もう少しだけ頑張ってっ!!」  鈴音の指が足首の枷の上に乗りその上をコソコソとくすぐっている様子が枷を介して足首の神経に伝えられる。普通なら触られている事すらも気付かないほど些細な刺激であるにもかかわらず夏姫は不安が増長し過ぎてそんな些細な刺激でさえも敏感に感じ取ってしまう。 「うぐぅぅっっっふ!? んぅぅぅぅ!!」  鈴音の指達が……  膝裏を触った子供の様に細くしなやかなあの指先が……  もうすぐ自分のこの伸びきった足裏を触り犯しに来てしまう……  触られたくない!  くすぐられたくない!  だけど……足は爪先立ちの格好を強いられているけど……足首に巻かれた枷が、足を絶妙に足置きに押さえつけてしまっている為……足を浮かす事も横に逃がす事も出来なくされている。  逃げたいけど逃げられない……触られたくないけど……抵抗も出来ない。  鈴音の指がいよいよ足首に巻かれた枷から足のカカトに乗り移ろうとした時、夏姫は不安から生み出されたおぞましい程の寒気に身を震わせる事となった。  その震えは脚から遠く離れた手の枷にまで届き、彼女の手枷はその震えによって拘束台に何度も音を立てて打ち付ける事となる。  ガチャガチャと枷の金属部分と拘束台の金属部分がぶつかる音が鳴り響く中、鈴音の手はいよいよ夏姫の足裏へと辿り着き、まずは挨拶程度にと言わんばかりに彼女のカカトを触り始める。  夏姫はその最初の刺激にすら一瞬の我慢もさせて貰えず……今まで上げた事のない程の甲高い悲鳴を上げ、その刺激の凄まじさをカジノに居る誰にでも分かるよう叫んで伝える。  その声に一番に聞かされる事となった綾香はその叫びを聞いて彼女の安否を問おうと言葉を掛けようとするが、次の瞬間に溢れ出してきた夏姫のけたたましい笑い声に掻き消され言葉の形を失ってしまう。  こうして……夏姫の地獄は……この笑い声が発せられた瞬間から開かれる事となった。  耳を劈く様な……悲鳴と狂笑の地獄が、今…………。

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