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16:そして“そうなる事”を選んだのは自分自身の意志によるものだった……  次から次に押し寄せてくる欲望と色欲にまみれた不快な顔……  私は間を開けずに押し寄せてくるそれらの顔を見ようともせずに……ひたすらに首を横に振った。  あのような男達に性処理だけのぼろ雑巾のように扱われる毎日に比べたら……まだ……  まだ……あの“仕置き”を受けた方が……マシだ。  アレもアレでいかに苦しいものかは体感しているからとても“マシ”だとは言い切れないのだけど……それでも、嫌悪感と吐き気を催しながら奉公させられる毎日を送るよりは……彼女達に虐められていた方が……まだ自分の尊厳を保てるような気がしてならない。  ホントに苦しくて……ホントに嫌でたまらないけど……結局、彼女達が行っているのは“仕置き”であり、イジメ……とかではない……と思う。  私は売れ残ったらどんな目に合わされるか……聞かされていたし実際にその仕置きも見てから購買に入れられた。だから、売れ残るという選択をしたのは紛れもなく私自身の意志だし……そうすればどうなる運命か知った上でそうしたのだ。  最初こそこの理不尽な世界に堕とされた悔しさと“くすぐり”なんていう子供の悪戯のような“仕置き”を舐めていたというのが重なって交渉を拒否し続けたというのは確かだけど……この仕置きの苦しさや辛さを味わった後でも私はその最初の選択は正しかったと言えてしまう。  仕置きは私の意志で行わせたものだけど……奴隷生活に私の意思を反映する隙などない。むしろ虐げられて当然な世界に更に堕とされるのだ。このままでは……  自分の意志というのを剥奪された生活というものがいかに無慈悲なものなのか……今の私なら分かる。くすぐりによって無理やり笑わされ続けた今の私なら……その生活がいかに自分の人生において無意味なものになるのか……容易に想像できる。 「やめて!」と言ってもやめて貰えない…… 「許して!」と泣きついても許してもらわれない……  先の見えない地獄……  それをこの先の生活で味わうと考えただけで……目の前が真っ暗になる程の絶望を浮かべてしまう。  同じ地獄なら……まだ自分の意志で決めた地獄の方を選びたい。  最後の最後の選択を自分で行える……あの地獄の方が万倍も……マシ…… 「さぁ~購買の時間もあと数分で終了となりますよぉ~~? 残りの商品も少なくなってまいりました! 既に順番も2周以上回った事ですし、ここからは順番番号など気にせずに自由に気になっていた娘の所へ交渉へ向かってみて下さい♥」   30分も設けられていた購買時間も残りあと数分となり、自分以外のほとんどの女の子がどこの誰とも分からない人間の奴隷へと買われていった……。  私の拒否感があまりに強いと見たのか、後半の時間は殆ど私に声を掛けようとする人間はおらず……興味本位で話しかけてすぐに別の子のところへ行く客の方が増えていった。  このまま……あと数分……誰にも買われなければ……私はまたあの地獄を……明日受ける事になる……。  それを思うと……気が重くなるけど……仕方がない……。それは私が選択した……運命なのだから。 「フフフ♥ 恭子ちゃんってば……今回も意地を張って売れ残っちゃったみたいね?」  暗く沈んだ私の表情を下からわざとらしく見上げながら、麻由里が薄ら笑みを浮かべ私の檻へと近づいてくる。  私はそのムカつく薄ら笑いを睨みつけるように鋭い視線を彼女の顔に送り、これが私の意志だと伝えんばかりの気迫を彼女にぶつける。 「なるほどぉ? まだ……心は折れていないっていう様子ね?」  私は横に視線を外し「フン!」と怪訝そうな息を吐いて見せる。麻由里はその私の反抗的な態度を見てなぜか「うんうん」と納得するような仕草をして見せる。 「そんなに私達の“くすぐり”が気に入ってくれたのかしら? 嬉しいわぁ~~♥ 次からの責めにも気合が入っちゃう♥」  その言葉を聞いて背筋がゾクリと寒気を走らせるが、私は負けじと睨み目を再び彼女の顔に向け反論の言葉を紡いだ。 「気に入るわけないでしょ! 売られるくらいなら……まだマシって思っただけよ! それだけなんだからっ!」  私の言葉に目を丸くした麻由里は、すぐにその驚いた顔を元の薄ら笑いの顔に戻し…… 「そんな筈はないわぁ♥ だって……あの責めは“二度と受けたくない”っていうトラウマを植え付けるよう徹底的に行った仕置きですもの。それが“マシ”になるなんて絶対にありえないわ♥」  と、続けた。 「二度と受けたくないって思ってるわよ! でも……あんな奴らに買われる位だったら――」 「私達にくすぐられた方が”マシ”って言いたいの?」 「――うっ!? そ、そ、そうよ! 悪い?」 「いいえ? 全然悪くなくってよ? 貴女がそれを望むなら……私達も全力でその望みに応えるだけだから……」 「の、望んでなんか無いって! 言っている――」 「それはどうかしらぁ?」 「で…………、へ?」 「さっきも言ったように……“あの仕置きは二度と受けたくない”って思えるまで徹底的に責めた筈なのよ? 特に頑固そうな恭子ちゃんの為に休憩時間も削る様に仕向けてね……」 「……ぅくっ! だから受けたいなんて思ってないって――」 「だったらもっと必死になっていた筈よ?」 「……っ!?」 「そもそも“売られるよりマシ”っていう思考になる方がおかしいの。だってそれ以上の責め苦を与えたつもりなんだし……」 「そ、それは……」 「それにね、仕置きをしている時も違和感を覚えていたのよねぇ~~貴女には……」 「い、い、違和感!?」 「そう! だって……今までお仕置きしてきた子は、最初こそ無理やりイかせたりして絶頂に運んであげたけど……その後くすぐりを受けながらイくなんて事は一切なかったのよ? でも恭子ちゃんは……」 「そ、そ、それは! だって……股間とか……乳首とか……触られたから……」 「だとしても、くすぐったさが上回っている状況で快感を優先して感じれるなんて異常以外の何ものでもないわ。普通はイけないわよ? 気持ち良いって思わない限りは……」 「は、はい? 何を言って……」 「薄々……そうじゃないなかなぁ~って思ってたけど……恭子ちゃん、あなた……」 「や、やめてっ! 何を言い出すつもり? そ、そ、そんな訳ないでしょ!! そんな訳……絶対に……」 「本当にぃ?」 「うくっ!? そ、そうよ! 私がそんな変態に目覚める訳が……ないじゃないっ!」 「ふぅ~~ん……じゃあ、明日のお仕置きは内容を変えるって言っても……残念がらないわよね?」 「えっ?? 内容を……変える??」 「えぇ♥ うちにはプロの“イかせ屋”っていうのが居るんだけど……彼にお願いして恭子ちゃんの事6時間ぶっ通しでイカせ続けてあげるっていうのはどう?」 「6時間ぶっ通しで……イかせる!? い、いやよっ!! そんなの絶対に嫌!」 「どうして? 快感を与えられる罰なのよ? くすぐりなんかとは比べ物にならない程気持ち良いと思うけど……」 「ろ、6時間もぶっ通しでイカされるなんて……死んでも嫌っ!! そんなの身体がもたないッっ!」 「普通は“くすぐり”の方がもたないわよ?」 「ッっ!?」 「くすぐりは……言葉こそ子供っぽい言い回しが多くて幼稚に感じるけど……受けてみて思ったでしょ? 想像以上に苦しくて辛い責めだったって……」 「それは……勿論!」 「私達はそう思わせる為に手を抜かずに限界スレスレまで責めたのよ? アレでも……」 「限界スレスレ? って……?」 「脳に酸素が行き渡らなくなって植物状態になるか、窒息死してしまうか……その直前のレベルまで責め苦しめたつもりよ?」 「た、確かに頭が割れる程痛くなったり、平衡感覚も無くなって吐き気だってしてたけど……」 「命の危機を感じるくらいまで責め抜いたハズなのに、貴女はまた“それ”を受けようって気でいる……。しかも、次はもっと酷いことになるって忠告したにもかかわらずに……よ?」 「で、でも……殺したりは……しない……でしょ? 私は……いちお……商品なんだし……」 「えぇ……出来る限りそうするつもりだけど……事故は起きうるわ。この責めをやり過ぎて植物人間になった人だっているくらいですもの……」 「う、売られるより……マシって……思っただけよ! それ以上の感情はないわ! だって! だって……売られて人間以下の扱いをされて……望んでもいない子を身籠ったり……したくないから……」 「人間扱いされる奴隷なんて聞いた事はないけど……少なくとも人間の行動を逸脱するような行動には目を光らせているつもりよ? 私達なりにね……」 「そ、そんな訳ないでしょ! あんな理不尽な条件をお金で売り付けて! ナマでヤるのも3回まではオッケーだなんて、それこそが人間の行動を逸脱している規約だと思わないの?」 「まぁ……カップルの間ではそういう行為も有りってしてる人も居るでしょ? だから特に禁止していないし嫌ならその部分だけを断ればいいだけの話じゃない? 双方の合意のもとの交渉なんだし……」 「普通はあんな条件飲めません! カップルでも夫婦でもないのにそんな事を容認するなんて……」 「だからぁ~~それは“その部分だけを拒否”すれば良かったじゃないって言ってるでしょ? 貴女の様子を見てると、何一つ受け入れないっていう頑固な意思を貫いているようにしか見えなかったわよ?」 「だって! だって……。子供が出来たら……堕胎させるって言うし……しかも、お金さえ払えば妊娠すらも許容してもらえるってニュアンスの話を……」 「……あぁ……やっぱり恭子ちゃんは……最初の説明を全く聞いていなかったのね?」 「……へ?」 「貴女と契約を交わすとき……私はしっかり説明したはずよ? この奴隷市場は……売られた後の商品のフォローも万全に行っているって……」 「な、なんですか……そのフォローって……」 「あの契約書にオプションで交渉できるプレイへの時間や条件を細かく書いてあったんだけど……当然見てないわよね? この様子じゃ……」 「あ、当たり前じゃないですかっ! 私は納得して無かったんですから……そんな紙……見る訳が……」 「じゃあ……第75項の『商品への妊娠行為の全面禁止』っていう項目も読んでいないわよね?」 「えっ!? き、禁止??」 「そう。禁止よ」 「だ、だって……あの人には罰則金がどうのって……」 「ダメだと言ってもああいう輩はヤってしまうものなの。特にダメと言われれば余計にね……。だから、もしも本当にそう言う事になったら罰則金を払ってもらうっていうルールを組み込んでいるの」 「そ、その罰則金さえ払えば……何度だって同じことを繰り返すんじゃ?」 「貴女……罰則金の額がいくらか知ってて言ってる?」 「へっ??」 「堕胎料や慰謝料は含めないでも……最低5000万よ?」 「ご、ゴ、5000万ッっ!?」 「そんな恐ろしい罰則金を……気軽に払えると思う?」 「で、でも……大金持ちとかならそんな金額……払えるかもしれない……し……」 「あのねぇ~! そもそもこの奴隷市場に5000万も借金して堕ちてくる女の子は居ないのよ?」 「……え? ど、どういう意味……ですか?」 「この市場は売り切り型の奴隷市場じゃないのは分かってるでしょ?」 「は、はい……確か……任期みたいなのが交渉で決められる……とか……」 「それが過ぎたら自分で交渉した金銭は全てその人に支払われるの。だから、奴隷という名前はついているけど表の世界で言うところの住み込みのアルバイトみたいなものよ。まぁ売春にかわりはないから違法ではあるけどね……」 「……は、はぁ……」 「もっとガッツリした奴隷市場なら億単位の借金のかたに堕とされる人もいるでしょうけど……ココはそういう人は堕ちてこない様になってるの」 「……借金が多い人は……堕ちて……こない??」 「うちの借金滞はせいぜい1000万~3000万までの間までよ。それ以上の額は私達が契約の時に堕とし主に支払えないからお断りさせてもらっているの♥」 「断ってる?? 奴隷市場なのに??」 「ここのシステムは、まず堕とし主の希望の額を渡して娘を預かる。そしてその娘が交渉の末……アルバイトで言うところの“時給”と“任期”を決めて奴隷として出荷される。そしてその任期が終われば最終的に奴隷生活で過ごした時間を報酬として支払う。その受け取ったお金で最初に堕とし主に渡した金額を支払うことが出来れば晴れて奴隷生活から解放され自由に外の世界に戻れるし、足りなければもう一度ココに戻って交渉を行う……。要は自分で稼いだお金で自分を買い直す……って言えば分かり易いかしら?」 「えっ? じゃ、じゃあ……私も奴隷として働けば……いつかは解放されるって……事?」 「そう説明したじゃない。まぁ、聞いてなかったでしょうけど……」 「で、でも! それでも、あんな妊娠したらすぐ堕胎だとか……そんな酷い事言われたら……」 「堕胎は強制ではないわよ?」 「え?」 「生みたければ生んでも良い……それは貴女の自由よ?」 「え? だ、だって……さっきの人に堕胎料を支払えとか言ってたはずじゃ……」 「妊娠させてしまったら堕胎料は必ず貰うようにしているってだけの事よ。だって……堕胎を望む人の方が圧倒的に多いものだから……」 「……堕胎料を貰っても堕胎しなくても……良いの?」 「堕胎するしないは本人の自由よ。ただ……主人によっては意地でも自分の子を産ませたいと思う卑劣な輩も居るから、そういう人から守るためにも基本的に妊娠させたら自動的に堕胎させる流れをコチラのルールで定めているだけなの。そう決めておかなければ、望まない妊娠に加えて望まない出産まで強要される事になりかねないしね……」 「……え、えぇ? は、はぁ……」 「無理やり犯されて出来てしまった子を……貴女は生みたいと思う? というか、望んでもいない相手との子を宿したいとも思わないでしょう?」 「あ、当たり前ですっっ!! そんなの……」 「だから“妊娠だけはさせない”っていう規約がうちには盛り込まれているの」 「それが……罰則金ですか? でもそれも……結局お金次第で……」 「ちなみに……勘違いしているようだから言っておくけど、その罰則金を手にするのは貴女なのよ?」 「えっ!? わ、わ、私?」 「言い方を変えれば“慰謝料”ってところね……」 「い、慰謝料っっ!? そ、そんなとんでもない額のお金がっ!?」 「そっ。うちには一銭も入ってこないわ♥ 全部奴隷として買われた本人が貰えるものなのよ♪」 「全部ッ!? あの金額を……全部っ??」 「裏社会では表の世界では通じない法律を自分たちで自由に作ることが出来るわ。それが良かったり悪かったりするんだけど……ココではその法外な罰則金を抑止力として利用させてもらっているわ♥」 「で、で、でも! それを払ってしまえばまた同じことをしかねないんでしょ? そういう変態ばっかりなんだから……」 「あのねぇ~~さっきも言ったけど……この市場には3000万以上の借金を抱えて来る女子は居・な・い・の!」 「だ、だから……なんですか?」 「察しが悪いなぁ~~。もし万が一妊娠させられたら、それで払えるでしょ? 自分が売られた額を……」 「………………ッっ!?」 「つまりはそう言う事よ。妊娠のリスクを恐れなくてはいけないのは購入する側の方。貴女たちじゃないって事」 「自分が売られた金額を返せるから……奴隷からも解放される……? つまりは、契約した変態からも去れる……って事?」 「そうよ。だからこの罰則があるお陰で、そういう心配だけはしなくて済むのよ。何せ……ちょっとの油断が破滅を招くほどの金額を払う羽目になった挙句に奴隷にも逃げられる事になるんだからね……」 「じゃ、じゃあ……堕胎料を貰うって言ったのは……」 「あれも貴女達に支払われるお金よ。それを使って堕胎しても良いし、生んで生活費に充てるも良い……。妊娠させた側に生ませるか堕胎させるかを選ばせてはいけないと思っているから基本は“堕胎料”を必ず支払うよう命じているわ。別にそのご主人を気に入っていて、その人との子が欲しいっていうのならそれは自由にどうぞってなるけどね……まぁ、そうならないのが目に見えているからそうしているだけよ♪」 「……全部……私達を……守る……為?」 「守る? うぅ~~ん、そうと言えばそうだけど……どちらかというと“商品”を守る為……って言葉が正しいかしら……」 「商品……ですか。あくまで……モノなんですね……私達って……」 「そうねぇ~~モノとまで思っていないけど……でも、人間として見る訳にはいかないのは正直なところよね」 「…………なぜですか?」 「だって……。情が湧いたら……こんな商売なんて……出来やしないんですもの……」 「……………………」 「人間が人間を売るっていうのは……そういう事なのよ。特に……理不尽に堕とされてきた貴女の様な子を見ていると……尚更にね……」 「………………………………」 「堕とす側も堕とされる者も……それを買う側も、全てが人間である以上……その中間を取り持つ私達が情に流されどれかに甘くなる訳にはいかない。特に一番憂いを受けるであろう堕とされた者に情が移りやすいものだから……私達も人一倍そこには気を遣っているつもりなの……」  麻由里の不意に見せた物悲しそうな表情に、私は何とも言えない切なさを感じた。  奴隷に堕とされるのも人間だし……堕とす側も人間……。そしてそれを捌いて売る側も当然人間である以上、感情の無い悪魔の様な人間でない限りは……情というものは生まれてくるものなのだろう。  お金欲しさに娘を堕とす者……借金のために仕方なく我が子を堕とす者……犯罪に巻き込まれてしまった者……  人間が人間を陥れ人間が人間を憎悪の目で見る……地下のこんな狭い空間でそんな光景を嫌という程見てきたであろう彼女に、もはや通常の感覚など感じる事など出来ないのだろうけど……  それでも彼女の目は“まだ人間の感覚を捨てたくはない”と必死に藻掻いているようにも見える。  こんな糞みたいな世界で生きるという事がどれだけ精神を削られてしまうものなのか、私には想像も出来ないけど……彼女は彼女なりここを続けていく理由の様なものが有るのだと感じられる。  そしてこの……隣に寄り添う万理華にも……それを担う時期が訪れる事だろう……  麻由里はそれを……楽しみに待っているのだろうか? こんな……人間の悪意が満ちた世界に彼女が入り込むのを嬉しく思っているのだろうか? それとも…… 「…………………………」 「………………………………」  しばらくの沈黙の後、腕に巻いた金色の腕時計で時間を確認した麻由里は諦めるような顔で「はぁ」と息を吐き、売れ残ってしまった私の顔を見て苦々しく言葉を紡いだ。 「あと1分で購買の時間は終わりますけど……どう? 最後に……私と……交渉してみる?」  その紡がれた言葉に私も、彼女の後ろに警戒するように立っていた万理華も驚きの声を上げた。 「お、お母様!? さっきは……それ、ダメって……」  裏でどのような会話が行われていたか等知る由もないが、万理華の口ぶりから察するに“私を購入するうんぬん”という会話を前にしていた様子だ。私はその事にも驚いてしまったが、麻由里に言葉の続きにも二度驚かされてしまう事となる。 「えぇ。基本的には奴隷商が私用の奴隷を自分の商品の中から買うっていうのはご法度だって暗黙のルールがあるのは確かだけど……話してみて気が変わったわ。彼女……万理華ちゃんが言うようにちょっと“面白い子”かもしれないし……娘のたってのお願いだからやっぱり無下には出来ないなぁ~って思って……ね」  私の事を指して“面白い子”とはどういう意味なのか……聞いてみたいような心半分聞きたくないような心半分だけど……。それよりも何よりも、裏ではどうやら万理華が私を“買いたい”と言ってくれていたらしい……。そういう口ぶりで話しているし…… 「いいの? ホントに良いの? ねえ! お母様っ!」 「今回だけ……特別よ? 万理華ちゃんのデビュー祝いも兼ねて……その我が儘を聞いてあげるわ♥」 「やったぁ! やった、やったぁぁ!!」 「まぁ、でもあくまで“交渉”だからね? 買えると決まった訳ではないのよ?」 「ううん、絶対買って! 私のお屋敷で雇ってぇぇ!! 絶対ィぃ!!」  まるで欲しい玩具の前で駄々をこねる子供のように、私を前にして買ってだの雇ってだの叫び散らしているが……私にはこれがどういう状況か未だはっきりと分からない。  そもそも奴隷商の支配人が自分の商品を自分で購入しようとすること自体あり得る話なのか謎なのである。 「ねっ! お姉さんはうちに来たいよね? 万理華とお友達になってくれるよね? ね?」 「へっ? あ、いや……はい??」 「万理華のコチョコチョ好きでしょ? ね? 好きになってくれたでしょ?」 「……い、いや……好きとか……そういうんじゃ……」 「毎日してあげる! お姉さんのコト、毎日コチョコチョしてあげるからぁ♥ ね? うちに来て? ね?」 「はひっ!? や、ちょ、ちょ、ちょっと待って! 待って!」  目を爛々と輝かせながら檻の前で手をワキワキさせてみせる万理華の仕草に、私は不覚にもさっきやられた彼女の責めの感触を思い出し、下腹部にジワリと妖しい期待が膨らむのを感じてしまった。 「フフ……。やっぱり♥」  突然沸き上がったその感情を私の表情から読み取った麻由里は、私に聞こえるようにそのように呟き、改めて檻の中で困惑する私の顔に自分の顔を近づけ言葉を続けた。 「ぶっちゃけて言うと……私も興味が無いこともないの♥ あんなに責め抜いたハズの奴隷ちゃんがくすぐりを怖がることなくむしろ……望むようになってしまったのはなぜなんだろうなぁ~って♥」 「あ、いや……わ、私は別に好きになったとは……」 「言わなくても態度で分かるわよぉ?」 「ち、違っっ! 絶対にそんな筈は……」 「まぁそういうのも含めて色々知ってみたいって思っちゃったわけ♥ だから異例ではあるけど交渉させて貰うわね? 他のお客さんと同じように……」 「交渉って事は……断っても……良いという事ですよね? 嫌な条件とかを……」 「えぇ勿論よ♥ 残念ながら破談になっちゃったら……結局またお仕置きを受ける羽目にはなるけどね?」 「うぅ……うぅぅぅ……」 「やだよ! お姉さんは私のうちに来るの! 絶対なのっっ!! 絶対ィぃ!!」 「フフ……さぁて……どうかしらね? あのお仕置きで恭子ちゃんが私達の事を憎んでしまっていたら……なぁ~んにも決められずに破談になっちゃうかもだけど……」 「そんな事ないよね? お姉さん……万理華の事好きだよね? ね?」 「あ、え……そ、それは……その……」 「少なくとも……他のお客さんよりもいい条件は出すつもりだけど……聞いてみる?」 「…………うぅ……うぐぅぅぅ……」  その後、私は悩みに悩み抜いた……という態度を取ってはいたが、心の中では彼女たちに買われる事に不思議と嫌悪感は抱いていなかった。  むしろ……どういう条件を付けて来るのか……それが“楽しみ”に思えてしまったのが自分でも不思議なくらいだ。  結局……彼女の出した条件は確かに破格の待遇だった。  屋敷の掃除……洗濯……家事全般……留守の預かりから買い出しまで……およそメイドさんが行うであろう仕事を行ってもらいたいというのがメインの条件で、それにプラスして……昼の空き時間は万理華との遊び相手になる事と、夜の就寝前は麻由里達による“くすぐり仕置きの実験台”になって貰う……という旨の条件が付けくわえられた。  まぁ、それ以上でも以下でもない予想通りの条件の提示に、私は安堵の息を零しつつ……代わりにと言ってはあまりにも釣り合わない私からの希望も彼女達に伝えた。  別に大した希望というものではないのだけど……私は私なりにそういう風に扱ってもらいたいと願ったからそれを口に出した。 「条件をのんでもいいけど……のむ代わりに私の方からも一つお願いしたいんだけど……良い?」  私の言葉に麻由里と万理華は揃って首を縦に振る。 「今日から……私の事は“奴隷ちゃん”だとか“商品”だとか呼ぶのは禁止です。私を呼ぶときはちゃんと“恭子”と下の名前で呼んでください。それ以外の呼び方はすべて無視します……」。  別にこの条件を付けたのには大した理由は無いのだけど……“交渉”という話し合いである以上、私からも何かしらの条件は付けておきたいと思った次第で……名前を意地でも呼んでもらいたいとかそういう強い意志がある訳ではない。でも何も言わないよりかは、今少しでも気になっていた事を正して貰えるよう条件を付ける事は何でも首を縦に振るよりも何倍もマシだと思った次第だ。  本当は……彼女が交渉してくれて嬉しく思ったのは確かだったのだが、それで素直に条件だけをのんで従うというのは私のプライド的に許せなかった。  だから自分でも素直じゃないと思いつつもこのような条件を捻り出したに過ぎない。  私が条件を出したことに驚いたのか……麻由里はポカンと口を開けてあっけにとられたようだけど、私のその素直じゃない性格を察し改めて口角を上げてアハハと笑い声を上げ……  分かったわ“恭子”ちゃん……と私の名前を呼んで応えてくれた。  それから私は……彼女達の屋敷にて3年間の奴隷生活を送る事となるのだけど……  私が想像していた悲惨な生活はそこにはなく……ただ少し特殊なプレイを強要されるだけの、住み込みアルバイトの感覚で日々を過ごす事となった。 「恭子さん? 後でちょっと良いかしら?」 「はぁ~~い、食事を作り終えましたら顔出しま~す」 「恭子お姉ちゃん! 遊ぼ! ねぇ! 遊ぼうよぉぉ!!」 「だぁ~め! 今見て分かる通り手が離せません! 後で遊びましょう? ね?」 「やぁ~だぁ~~! 遊んでよぉぉ! 今暇なの~~~」 「ダメったらダメです! 大人しく部屋で待っててください」 「むぅ~~~! そんな事言うんだったらぁ~~後で、足の裏コチョコチョの刑だぞぉ~?」 「っッ……♥ ふ、ふぅ~~ん? それじゃあ私も……万理華お嬢様の腕を縛って無防備になったワキを……滅茶苦茶くすぐってあげようかしら?」 「アハっ♥ それも良いね♪ うん……今日はそれやってもらおっかなぁ~~♥」 「げっ!? お嬢様はなんでそこで悦ぶかなぁ? 罰を与える意味で言ったのに……」 「えぇ~? コチョコチョはご褒美でしょ? 恭子お姉ちゃんもいつも悦んでくれてるし……」 「よ、よ、悦んでませんっ! 我慢して付き合ってあげてるんです! これでもぉ!」 「あぁ! そんなこと言っちゃう? だったら今日のお仕置きは無しにしちゃおっかなぁ~?」 「なっっ!? ちょ! ズルいですよ、そんな言い方するのぉ!」 「嫌なんでしょ? だったら恭子お姉ちゃんの“意志”をそんちょーするよぉ?」 「うくっ! また難しい言葉を覚えて……」 「あぁあ……今日は、あのヌルヌル水をつけてコチョコチョしてあげようって思ってたんだけどなぁ~残念だなぁ~~」 「ヌルヌルっ!? あ、あのローションを……足につけてくすぐるつもりだったの?」 「そうだよぉ? とっても冷たくて……とってもくちゅぐったいヤツだよ? お姉ちゃん……好きだったよね? あのお水……」 「うぐっ!? うぅぅ……ぅぅぅ…………」 「お姉ちゃんが嫌なんだったら……お母様に使ってあげよっかなぁ? 今日はお母様にもコチョコチョするって約束してたし……」 「ちょっ! ま、待って!!」 「うん? なぁに? 恭子お姉ちゃん♥」 「仕方がないから……付き合ってあげても……いいわよ? その……コチョコチョ……」 「付き合って“あげても”いい? ふぅ~~ん……そんな言い方するんだぁ? 万理華に対して……」 「あぁもう! 分かったわよ! 分かった! この仕事が終わったら……いっぱい遊んであげるからっ! だから少し待ってて! ね?」 「アハ♥ いっぱい遊んでくれるの? やったぁ♥」 「その代わり! そ、その……ローションは……絶対使ってよ……ね? 特に……あ、足に……」 「うんうん♥ 逃げられない様に足をしっかり“こーそく”してからたっぷりヌリヌリしてあげるね?」 「ひっ!? に、に、逃げられなく……されるの? 私……?」 「そうだよぉ~? いつもの地下室に置いてある“こーそく台”にお姉ちゃんの足をしっかり固定してあげる♥」 「も、勿論……裸足にならないと……ダメよね?」 「ハダシじゃなきゃ靴下とかが濡れちゃうでしょ? 勿論、ハダシでこーそくだよ!」 「裸足にさせられて……足も拘束されて……身動き取れなくなった私の足裏に……アレを垂らすんだよね? あのローションを……ひぃぃ♥ 考えただけで背中がゾワゾワしてくるぅぅ!」 「アレ? お姉ちゃんってばお顔が真っ赤になってるよぉ? どうしたのぉ?」 「あぁ……ただでさえ敏感な足裏にアレが掛けられて……それから万理華お嬢様の細い指が這い回ると考えると♥ あはぁぁ♥♥」 「もう! この話をするといっつも変な顔してボーッとなる! 万理華の話を聞いてよ~ねぇ!」 「私が“嫌だ”とか“やめて”とか叫んでも……お嬢様は私の事笑わせ続けるんですよね? くすぐりに弱い私の足の裏を好き勝手に触って……こしょぐり回して……♥」 「むぅぅ! それじゃあ待ってるからね! 終わったらちゃんと迎えに来てよ? 絶対だよ?」 「あ、はっっ……はい! 勿論です……万理華お嬢様♥」 「絶対悦んでる……そういう顔してるもん……絶対悦んでるよ、お姉ちゃん……」 「あはぁ♥ 麻由里様のお相手もしなくてはなりませんし、今日はご褒美が沢山だぁ♥ 早くコレ終わらせよぉ~っと♪ ルンルン♥」 ――拝啓お母様。  貴女の事を恨んでいないかというと嘘になりますが、私は彼女達と暮らす中で色々な自分が私の中に眠っていたのだと自覚し始めている次第です。  理不尽さを我慢していた私……普通の人生でない事を呪っていた私……抑圧された感情を吐き出せなかった私……  そういう自分で殺していた感情を……今の生活では自由に出したり引っ込めたりすることが出来るようになれたと思っています。それはお母様と暮らしていた数十年の生活の中では出せなかったモノたちであり、自分は押し殺すのが当たり前だと思っていました。  しかし、貴女に堕とされた事で……そのような感情を我慢せずに出せる暮らしを手に入れることが出来ました。  自分の欲望を理解してくれている人たちに囲まれて生活をするのがこれ程に楽しく充実したものになるとは……あの時は思いもよりませんでした。  きっと私は……期間を満了しても貴女の元へとは帰らないでしょう。今の私にとって、この生活を紡いでいく事こそがお金よりも貴重な財産になると理解できたからです。  何も隠さず……何にも怯えることなく暮らせるというのがこんなにも私の気持ちを解放的にしてくれるのだとは思いもよりませんでした。私にとっては彼女達こそが本当の家族になり得るのだと……そのように感じております。  この手紙も貴女に送ろうとは思っていません。ただ……自分の本心を書き留めておきたかったのと貴女への決別を文字として書き起こして自分への区切りを付けたかったという思いから筆をとってこれを書いた次第です。  私はココで生きていきます。  万理華お嬢様の成長を見守って……麻由里様との夜の営みを楽しみつつ……そんな二人から仕置きをという名の愛を受け取る事が至上の喜びなのです。  もう私は……普通の生活には戻れません。  戻りたいとも思っていません。  私はずっとこの屋敷で……二人と共に毎日を楽しむのです♥  終わりなき……永遠の快楽に溺れて……。

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