【リメイク】ショーダウン～暴かれた美人ディーラーの秘密～＃０ (Pixiv Fanbox)

０：雨の摩天楼 「えぇ……それは勿論問題ありませんわ。こちらからも一人すでに派遣して不正現場の記録を取っておりますので……」 　薄暗い事務所の窓際で時代を思わせるような折り畳み式の古めかしい携帯電話を片耳にあてがい、自慢の金髪縦ロールをもう片方の手で慣らしながら報告を行っている一人の女性…… 　彼女は雨の降りしきる都会のビル明かりに目をやりながら怪しげな笑みを浮かべ話し相手とのやり取りを続ける。 「その様ですわね……報告があった通り彼女……主に男性客をターゲットに選んで“ソレ”を行っているみたいですの」 　時折鳴り響く雷鳴と雷光に動じることなく淡々と報告を続ける彼女だが、ビル群の奥に佇む一際まばゆい光色を放つホテルに目をやると、その入り口を親の仇のように鋭く睨む場面が見受けられる。 「そうですわね……。もう少し準備を整えたら私も向かう事にしてますわ。早いうちに決着をつけないと上のお偉いさんが煩くて敵いませんから……」 　ホテルの入り口には黒塗りの高級そうな車が何台も順番に縦列していて、それらの車に一つ一つ対応を行っているベルボーイの男性がせわしなく低姿勢なお辞儀を繰り返しているのが目に留まる。 「えぇ……そうですの。資金援助の方は……やっぱり断られてしまいましたわ。賭け事に援助できるようなお金は無いって……怒られてしまったくらいですもの。別に私が遊びで賭け事をするとは一言も申しておりませんのに……頭が固いったらありゃしませんわ」 　傘を差しだしたベルボーイに誘導され、高そうな服に身を纏った人々が次々のそのホテルの中へと足を踏み入れていく。そんな中、灰色のスーツを着たいかにも実業家というなりで車を降りた男性を見て電話で会話をしていた女性はピクリと眉を反応させる。 「あぁ……やっぱり予定通りいらしたみたいですね……あの方……」 　その男を見てそのように言葉を零した彼女は、口元に小さな笑みを作ってフフフと小さな笑いを零す。 「……匿名で送り付けたメッセージをあんなにも容易く信じてあのホテルに乗り込んできてくださるなんて……智恵理さんの報告の通り……あの社長さんは余程のお人よしさんみたいですわね♥　まぁ、こちらにとってはその方が好都合なんですけど……」　 　髪を慣らしていた手を不意に赤いドレスのポケットへ入れ、その中に入っていた羽毛をあしらった折り畳み式の扇子を取り出した彼女は、その先端を遥か遠くに小さく見える灰色のスーツ姿の男性に向けてあたかもロックオンしたと言わんばかりに小さく円を描く真似をして見せた。そんな彼女の仕草を本能的に悟ったのかその男性は、ホテルへ入る直前のほんの一瞬だけ入り口とは逆の方を振り返り彼女の居る事務所の方を見るそぶりを見せる。 　その様子を見て再びクスリと笑みを浮かべた彼女は扇子を広げ暑くもないのに自身の顔に向け風を送り込み始めた。 「えぇ……勿論ちゃんと調べ上げておりますわ♥　だって……今日の計画は“彼”なくして成り立ちませんもの……」 　ある程度風を送り込んだ後彼女はその扇子をパタンと音を立ててたたみ、笑みを零しながらその扇子をまたドレスのポケットへと仕舞い込んだ。 「……資金不足の為だけに彼を利用するのかって？　いえいえ……私をそんな非常識な詐欺師みたいに言わないで下さいまし。勿論……それだけじゃありませんわ♥」　 　そして灰色スーツの男がそのままホテルのロビーへと姿を消していったのを見届けて、電話口の女性はさも“準備は整った”と言わんばかりに事務所の中へと視線を移し替える。 「彼がどんな素性の男か……ですか？　フフフ……それはまた後日お話いたしますわ♥　お仕事完了という喜ばしいご報告と共に……ね」 　電気すらも点けていない薄暗い事務所の隅の机には、携帯ゲーム機の明かりに照らされた幼そうな顔のツインテールの女性が言葉を発さず黙々とゲーム画面をのぞき込みながら無表情でそれをプレイしている姿が見える。 「では……役者は揃ったみたいなので……私達もこれから行ってまいりますわ♥　あのホテルカジノへ……」 　幼顔の女性はその言葉を聞き、まだプレイの途中であったであろうゲームの電源を無言で切って顔を金髪の女性の方に向けた。 「勿論……必ず暴いて帰ってきますわ♥　私達はその為に存在しているのですから……」 　その言葉を最後に彼女は耳から携帯電話を離し折り畳み式のそれをパタンと閉じて、彼女は横振りが強くなっている雨を窓越しに見ながら、かのホテルに鋭い視線を再び向ける。 　強い雷鳴が２度……３度……と近辺で轟き、その都度窓ガラスに彼女の強い眼差しを焼き付けていく。 　その眼差しの余韻が消え去る前に……彼女達は事務所を後にした。 　まるで……戦争に赴く兵士のように…… 　獲物を狙う……鋭い眼光を保ちながら……