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4:風紀委員式痛みの無い拷問 「このお薬はね……どうしても風紀を守ってくれない不良な生徒さん達の為に使うつもりで紗英さんに調合してもらった特別なお薬なの♥」  小瓶の中に筆先を入れ込み……2、3度軽く掻き回し、黒い液体を筆の先に馴染ませながら玲美さんは低く抑えた声で私に語りかけてくる。 「特別な……お薬?」  ドロッとした粘性のあるその艶々した黒い液体を彼女が少し持ち上げると筆からゆっくりと垂れ落ちていく様子が見受けられ、いかにその液体の粘度が高いかを私に見せつけるように垂らしていく。 「そう……。私の言う事を聞かない悪い生徒さんは、いつだってこのお薬でお仕置きしてあげたわ♥ これから貴女にするみたいに……ね」  漆のような鈍い光沢を放つその不気味な液体は、私の脳内にある危機感知センサーを慌ただしく鳴らして回っていた。あの液体はヤバそうな気配がする……。その見た目だけでもそんな気がしてならない。 「な、なんですか? その液体って……??」  その怪しい液体と怪しい笑みを浮かべる玲美さんの顔を交互に見比べ、嫌な予感が最高潮まで高まった私は思わずその液体の正体を聞いてしまう。  玲美さんの顔は「聞かれなくても説明する」といった含み笑いを零していたが、それでも怖くてこの質問を投げかけずにはいられなかった。知ってしまうが故に不安が更に不安を煽る結果となってしまう事を自覚できずに……。 「ヒスタミンって……貴女は聞いた事あるかしら?」 「ひ、ヒスタミン??」 「そう……このヒスタミンっていうのが肌の中に侵入して……刺激を感じる神経に作用すると……」 「作用……すると?」 「“痒み”を感じさせるそうよ……」 「か、痒み……??」 「えぇ……。例えば蚊に刺されたり、毛虫を触ってしまったりすると……たちまちに痒くなるでしょ?」 「は、はい……」 「それは毛針や蚊の針から分泌される毒にヒスタミンが含まれているからなの」 「ど、ど、毒っ!?」 「体内に入ったヒスタミンは神経を犯して炎症を起こさせたり痒みを引き起こしたりするわ……」 「炎症??」 「このお薬はそのヒスタミンという成分を何倍にも強めて……尚且つアレルギーや炎症を起こさせないように毒となる成分を極限まで薄めてあるの」 「ど、毒を薄めて……ヒスタミンを強める??」 「まぁ難しい話を抜きに簡潔にこの液体を説明するなら……塗られたらとっても痒くなるお薬……と言う事になるわね」 「と、と、とっても……痒くなるって……えっ??」 「ここまで説明してあげたら、これから行う風紀委員式の拷問……いえ、風紀委員式“教育指導”のやり方が理解できたんじゃないかしら?」 「きょ、教育指導?? 痒い液体を塗られるのが……ですか??」 「そうよ。貴女に耐えられるかしら? この指導が……」  私はその時……迂闊にも心の何処かで安堵の息をついてしまっていた。  筆による苛烈なくすぐり責めを想像し、絶望していた私にとって……そういう責めじゃないと分かった瞬間、助かった……とさえ心の声が呟いていた。  自分がどんな状態にさせられているかも顧みらず……ただ、くすぐりや痛い拷問ではないと分かるや否や無防備に安堵してしまった自分が居る。それがどれ程愚かな考えだったか……基本が能天気な私には想像すらできていなかった。  ただ“痒い”のを与えられるだけでくすぐりに比べれば辛い事なんて有るはずもない……。そんな甘い幻想を抱いて心に油断と言う隙をいくつも作ってしまった。  拘束された状態での“痒み責め”がいかに辛いものなのか……想像もしようとせずに……。 「あら? 話を聞いた途端に……随分と余裕のある笑みを浮かべてくれるじゃない? 明日香さん?」  私はいつの間にか口元をニヤつかせていた。  所詮は拷問の“ご”の字も知らないお嬢様に、本格的な拷問を受けた自分が負けるわけはない……。そのような根拠のない自信が私に笑みを作らせる。  余裕であると言う事を……隠しもしないで……。 「本当に痒いだけなんですね? その液体……」  自分は耐えきれると確信した私は心に自信を取り戻し調子に乗った態度で玲美さんにワザとらしく質問をぶつける。 「そう言ったじゃない……。それだけじゃ不満かしら?」  私の態度に多少の不快感を感じ取ったのであろう、玲美さんはムッとした表情を作って私の問いに返答する。 「いえ……。でも、それだけで私の口を開かせようと本当にお思いなんですか?」 「あら……随分と態度が大きくなっているわね? っと言う事は……自信がおありなのかしら? この指導は耐えられるっていう……」 「私は……そんな責めよりも、よっぽど辛い責めを味わってきましたからね……」 「そんな……責め?」 「くすぐり責めは……貴女が思っている以上に苦しい拷問なんですよ? あれ以上の苦しみは……味わった事ありませんでしたから……」 「へぇ~~あんな児戯のような行為が……私の責めよりも辛い……と?」 「ただ痒いだけなら我慢すればいいだけの話でしょ? でもくすぐりは違います! 笑いたくないのに笑わされる苦しみは地獄そのものなんです!」 「成程……。笑うと息出来なくなっちゃうものね? さぞかし苦しいでしょう……」 「苦しいしキツイし痛いし……とにかく最悪の拷問なんです! それに比べれば、痒いのなんて……」    そこまで言いかけると、玲美さんは再び微笑を浮かべ直す。  私の方こそ“分かっていない”と諭すように。 「フフ……。痒みの恐ろしさ……味わってもいないのによくそこまで言い切れるわね?」  そうボソリと呟くと彼女は、ずっと円を描く様に掻き混ぜていた小瓶と筆を隣に居た化学部の紗英さんに手渡し後ろに手を組んでジッと私の顔を見つめる。 「ちょっと痒くされるのなんて……平気です! くすぐりに比べれば……」  私の言葉にキョトンとした顔を作る委員長だったが、すぐにその顔は満面の笑顔に変わる。 「“ちょっと”なんて……誰が言ったかしら?」  そしてその笑顔はすぐに影を帯び始める。 「えっ?」  私の頭の中では『蚊に刺された程度の痒みを耐えるだけ……』なんてあまりにもお粗末な想像しか出来ておらず、くすぐりの苦しみと天秤にかけたならそれは間違いなく理子先輩のくすぐりの方がよっぽど苦しいという結論にしか行き付いていなかった。アレに比べたら余裕だろう……という単純で浅はかな考えに至っていた私に風紀委員長は、下から来る威圧的な声で淡々と私の絶望を煽り始める。 「言ったでしょ? 痒みの元凶に当たるヒスタミンを何倍にも強めてある……と」  私はその言葉にドクンと冷たい血液が全身に回るのを感じた。風紀委員長の下から来るこの言葉と、いつの間にか手術用っぽいゴム手袋を両手に装着して物々しくその薬剤を扱おうとする紗英さんの態度に……消えかけていた不安の火が再び燃え上がり始める。 「例えるならそう……蚊に刺された痒みが有るじゃない? 少し引っ掻きたくなるようなあのウズウズした痒み……」  私の想像した痒みが例に出される……。それと同時に紗英さんは瓶から筆を取り出し、その黒光りする液体を下に垂らし続けたまましゃがみ込んで私の足の方へそれを近づけさせる。  私の心臓はドクドクと早く脈打ち、得体のしれない嫌な予感に気持ち悪さを感じ言葉を紡げなくなっていった。 「それを何倍にも強くした感じ……。引っ掻いても引っ掻いても痒みが引かない……あのどうしようもない痒み……。それを最初から味わう事が出来るの♥」  引っ掻いて引っ掻きまくった後もなお続く痒み……。それは私にも経験がある。  最初はウズウズする違和感程度の痒みだったハズなのに、引っ掻いた後はなぜか痒みが強くなっていてまた引っ掻かないとジッとはしていられなくなるあの不思議な感じ……。一度掻いてしまったらまた痒くて堪らなくなってしまうあの感じ……。  想像できてしまう。その掻きたくて仕方なくなってしまうあの感じを……。 「ところで……。足の裏って、触られるとくすぐったいわよね?」  嫌な予感が強烈な不安感に変わり始めた私は声が出せない。だから委員長の言葉に黙って首を縦に振って返事を送る事しか出来ない。 「刺激に敏感なそんな場所を痒くされたら……どんな気分になるかしらね? とっても痒くなるお薬をそんな所に塗られたら……どんな感覚になれるのかしらね? 気になるでしょ?」  クスリと笑みを浮かべる委員長に私は無言で首を横に振る。  もうすでに先程までの余裕な気分は残ってはいない……。想像できてしまう“痒い”という感覚と、身動きが取れずその痒みに“掻く”と言う行為が行えない自分……そして、足裏を痒くされるという全くの未知なる刺激による不安が入り混じりジワジワと私を追い詰めていく。  やっぱり……この拷問は辛いのでは? と思い直し始めてしまう。 「じゃあ……紗英さん? その筆で……明日香さんの足裏を軽くくすぐって差し上げなさいな。特に土踏まずのトコとか……♥」 「ひっ!? ちょっっっ! ちょっと待ってくだしゃいっっ!!」  不安が最高潮に達し、私は出せなかった言葉を必死に捻り出して制止の言葉を掛ける……。  でも紗英さんは私の言葉には従ってくれない。黒い液体が付着した筆先を小さくピョコピョコと上下に動かして私の足裏をくすぐろうと地面から浮かされた土踏まずの部分に差し込んでいく。  そして―― ――コチョ、コチョコチョ♥ 「うひっっっ!!?」 ――コチョコチョ、コチョコチョコチョ♥ 「うひゃひゃひゃっ!! ちょっっっくすぐったっっっはははははははは!! ンハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」  濡れた筆先が私の無防備な土踏まずの窪みに薄く触れてチョロチョロと動き回ってくすぐり始める。  始めはそのむず痒い刺激に私は思わず悲鳴とだらしない笑いを零してしまったのだけど……。 ――ジワジワ……ジワジワジワ……  しかしその後……少しだけくすぐった筆が私の足裏から離れると、その筆先が触れた部分が何か泡立つ様に沸々と皮膚の上で蒸発していく様な感覚に襲われた。  実際は蒸発などしておらず、逆に私の足裏の皮膚に“馴染んできていた”だけだったのだけど……。少しの間その炭酸が気化しているかのような感触は続く。  くすぐったい感触が収まりハァハァと息を整え落ち着きを取り戻そうとしていた私に、あの無口な紗英さんがボソボソと小声で突然独り語りを始めた。 「コレを塗られた箇所は……まず、その部位の水分を急速に奪われます……」  その言葉が示されたと同時に、炭酸が撒かれたかのように泡立っていた感覚はスッと消え、今度はその液体が塗られた箇所が物凄い熱さを感じるようになる。 「んあっ!? あ、あ、熱い?? 熱いっっっひ!!」  塗られた箇所だけが火で炙られているかのように熱く感じた。でも実際は火など当てられていない。 「水分を気化させた粘液は……皮膚の中に浸透して……今度は神経を犯し始めます……」  熱さは思ったほど長くは続かず、すぐに熱を下げていったのだけど……確かにその部分は水分が奪われたと実感できる位に肌のカサカサ感を自覚し、そこだけが空気に触れると何やら気色の悪い不快な感触を私に与え始める。 ――ジクッ……ジクジクジク……。  その乾いた皮膚の表皮は、空気に触れていると次第に違和感を覚え始め……何かしらのじれったい感触がジワジワと神経の根元から湧き上がってくる感覚を感じ始める。 「あっっ!? はひ?? か、痒……い? 痒……い??」  この神経を伝って湧き上がってくる不快なジュクジュク感……。最初はそれが痒みなのだとは気付かなかった。  でも……その時はすぐに訪れてしまう。 ――ジワジワジワジワ! ジワジワジワジワジワジワジワッ!! 「うへひゃっっ!!? あ、か、か、痒いっ!! か、痒いっっっっ!!? 嫌っっ、痒いぃぃぃぃぃぃぃ!!!」  一瞬ジュワっと神経が震えるような感覚を味わったかと思うとその後は塗られた箇所だけ蚊に刺されたかのような痒みに襲われ始める。  その痒みたるや私の想像とは掛け離れたものだった! 神経が常に柔らかい筆で直接刺激されているかのようにじれったいこそばゆさが途切れなく沸き起こってくる。  でもそのこそばゆさは笑いを誘発するくすぐったさではなくて、あくまでじれったいだけの感覚。じれったくてじれったくて……思わず引っ掻いてしまいたくなる程のじれったさが何度も私の土踏まずの神経を犯してくる。 「か、か、か、痒いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! 何これっっっ!! 痒過ぎるぅぅぅ!! んくはっっっっっ!!」  掻きたい……無性に掻きたくて堪らない!  掻きたくて掻きたくて辛抱できないんだけど……手は拘束されているから足まで手を伸ばせない。足も枷が付いていて動かせないから地面に擦り付けて痒みを和らげる事も出来ない! 何も出来ない無防備な私に薬効の痒みはどんどんその強さを増していく。 「あがあっぁぁあぁぁぁあぁはぁぁぁぁっっっ!! 痒いっっっっひぃぃぃぃ!!! 掻かせてぇぇぇ!! お願いっっっ足を掻かせてぇぇぇぇ!! んびゃあぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!」  足が痺れているかのようにビリビリと強烈な痒みが広がっていく! 土踏まずを中心に液体を塗られてすらいないカカトや足指さえも痒みを感じてしまう!  「どう? 痒くて堪らないでしょ? 痒いトコを引っ掻きたくて堪らないでしょ? でも……掻かせてあげないわ♥ 貴女が素直に喋るまで……ずっと痒くなり続けるの♥ 覚悟なさい♥」 「そ、そ、そ、そんにゃの耐えらんないっっ!! 無理ぃぃっっっ!! 掻かせてっっっ!! お願いっっ、足の裏を掻かせてぇぇぇぇぇぇ!! んはぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁ!!」  例えるなら私の足裏に毛虫が這い回っていて、あの痒みを与える毛針でずっと土踏まずを痒くさせられているかのような感覚! 蚊の大群が足裏に群がって血を吸い続けているかのような痒みっ!! 少しで良いから爪の先でカリッと引っ掻きたい! ほんの少しで良いから引っ掻いて痒さを紛らわしたい!! でもそれが出来ない! 痒くて堪らないのに手も足も身体も動かせない私はこの痒みにただ悶える事しか出来ない。掻きたくて堪らないけど我慢するしか道はない……到底我慢できる刺激ではないというのは分かっているけれど……。 「この拘束器具は良いわね……。貴女達を追い出したらこれだけは置いておこうかしら? 風紀委員の教育的指導の為に♥」 「あぁ、良いっすね♪ いつもコレをヤる時は手だけしか拘束してなかったですもんね。暴れて大変なんですよ~押さえつけるのが……」 「フフ……手だけ拘束しただけでも10分と持たずに降参する学生が殆どですもんね。足を床にぶつけて痒さを紛らわしたり転げ回って痒みから逃げようと必死にのた打ち回る姿を見るのも楽しいけれど……こんな風に完全拘束されて痒みに何の抵抗も出来なくされた生徒を見るのもオツなものね♥ 掻きたくても掻けない苦悶の顔は見ていて痛快だわ。ね? 副会長さん?」 「……えぇ。少し胸がスッとしますね。この悶えっぷりを見るのは……」 「紗英さんはどう? 自分の作った薬に悶えている女子を目の前で見るのは……」 「良い……です。すごく……」 「フフ♥ そうでしょ? 中々良いものでしょ? 痒いのに掻けなくてジタバタともがく女生徒を間近で見るというのも……」 「……はい……」  あまりの痒みに動かせないと分かっていても足を動かそうとジタバタさせてしまう。枷が外れるわけがないと分かっていても枷に抵抗しようとしてしまう……。  一刻も早くこの無理やり神経をムズムズさせている薬の刺激を和らげてしまいたい! 何か尖った針金か何かで思いっきりガリガリ引っ掻いてしまいたい! 足裏の肌から血が出てもお構いなしに……ガリガリしたい! 引っ掻きたいっッ!!  なのに……なのに……なのにっっッ!!! 「んあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁっッ、がゆいいぃぃぃ、痒いぃぃぃぃぃぃぃカユイぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっッ!!! 掻かせてぇぇぇっっっっ、はひ、はひ、はひぃぃぃぃぃ、掻かせてよぉぉぉぉぉぉぉぉ!! お願いぃぃぃぃ!!」  時間が経てばたつほどに痒みは強くなっていく一方だ。痒いところが再び熱を発し出して痒さに拍車をかけていく! もう一瞬だって我慢できない! 今すぐに掻きたい!! 掻かせてもらえるのだったら何でもする! 何でもするから…… 「掻きたい? だったら正直に言いなさい。詩織はどうして貴女達に屈服してしまったのかを……」 「だ、だ、だめですぅぅぅ!! 部長に口止めされているから何も喋れませんっっ!!」 「あぁ……やっぱり何か秘密があったのね? まぁそんな事だろうとは思っていたけど……」 「痒いっっひぃぃぃぃぃぃ!! 凄く痒いっっっっっ!! んああぁあぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁ!!」 「ほら……喋っちゃいなさい。さっさと言わないと……もっと酷い事をしちゃうわよ?」 「ひぃっっひぃぃぃぃぃっっっ!! でも“アレ”は生徒会長さんの為に秘密にしているんですぅ!」 「詩織の為?? なぁに? その……詩織の秘密って……」 「はぐぅぅぅっっ!! 痒いっっ!! 痒いっっっっ!!」 「ほら……早く喋りなさい? 秘密って……なんなの?」 「だ、だ、だめれすぅぅぅ!! この秘密は絶対に漏らしちゃいけないって……部長がっっはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「ふぅ~ん、言わないつもりなの? だったら……仕方がないわね。紗英さん!」 「はい……」    消え入るような返事を返した紗英さんは私の正面に立ち直し、手に持った小瓶からあの筆を再び持ち上げてわざわざ私の不安を煽るように掲げてみせる。  トロリとゆっくり流れ落ちる粘っこく黒い液体……。筆の先にはその液体がこれみよがしにこびりついている。 「はひ、はひぃぃぃっっ! な、何をするつもりですかっっ!! まだソレを塗るつもりですか!?」  紗英さんは私に返事を返さず、無表情でその筆を私の胸付近まで近づけてくる。   「くすぐったい刺激を感じる箇所は足裏だけではないって事ぐらい貴女も分かっているでしょう?」  紗英さんが言葉を零さない代わりに玲美さんが楽しげに笑顔を零しながら遠まわしな予告を私に零す。筆の近づき方とその予告を聞くに付け筆の液体が次に何処へ塗られるのかの想像が簡単についてしまい、私の顔はますます青さを増して行った。 「う、うぞでしょ? ま、まさか……ワキっっ!!? ワキに塗るつもりっっ!?」  筆は全体を妖しく黒く光りさせながら胸の横を通り過ぎ、一直線に私が懸念した箇所へとそれを進ませる。  胸の横を通り、ワキのラインを遡るように登っていき腕の根元へと辿り着く。そこは紛れもなくワキの部位……。椅子の肘掛に手首を縛られていて閉じることも隠すこともできなくなっている私の腋の窪み……そこへ筆の先がチョロチョロと毛先を揺らせながら侵入していく。 「言っておくけど……ワキの痒みは足裏の痒みなんかと比べ物にならない程我慢ならないものになるわ。今のうちに話しておいたほうが身のためだと思うけど?」 「い、い、言いたいくても言えないんですっ! 喋ったら私……理子先輩に何されるかわからないんです!」 「そう? じゃあ……しょうがないわね。紗英さん? やってあげて……」 「はい……」  私がどんなに“喋れない”と主張しても、この風紀委員長は聞く耳を持ってはくれない。  生徒会長が告白した“自身の恥ずかしい性癖を暴露した録音テープ”はこの部室の中に隠してある。しかし、その存在を部員以外の者に一言でも漏らせば“反逆罪”とかいう罪を着せられ理子先輩に“再教育”を施されると小夜子先輩が私に忠告してきた。  そう、私だけにである! 入部したての綾ちゃんや、理子先輩に告げるのではなく私だけに……。  小夜子先輩は予見していたのかもしれない……私がこういう目に合わされると予測していて私だけに告げたのかもしれない。  やっぱり恐ろしい先輩だ……。私はあの口封じが無ければ簡単に喋っていただろうから……そういう“人を見る目”はあの人が一番持っていると言っても過言ではない。  そんな先輩の目を誤魔化せるはずがないのだから、喋ればすぐにバレてしまうだろう。だから……やっぱり言えない! どんなに辛い拷問を受けても……喋ってはいけない!! 絶対に! ――スッ…… 「うくっっ!?」 ――サワサワ♥ サワサワサワ……♥ 「うひっっ!!? あひゃっっっっっはっっくふっっ!!?」  覚悟を固めようとしていた私のワキに紗英さんの操る筆が音もなく忍び寄り、毛先についた液体を腋窩の皮膚に塗りたくるようにコソコソとくすぐり始めた。  筆の毛先の痛痒い刺激と冷たい粘液がワキに塗られていく感触がとてもこそばゆくて、私は首をすぼめてキュッと目を瞑り笑い出しそうになった口を閉じて必死に声を出すのを我慢した。 ――コチョコチョ、サワサワ……コチョコチョ、サワサワ……  筆は左右の腋窩を満遍なくくすぐっていき、まるで水彩画の色を塗るかのように私の両ワキをあの粘液で濡らし尽くしていった。  筆の刺激がくすぐったくて、くすぐったくて……私は何度も首を振り笑いを必死に我慢し続ける。  しかし……その我慢は筆が離れていった直後に別の我慢へと切り替わることとなる。 ――シュワシュワ……シュワシュワ……  筆が最初に触れた箇所から順番に、塗られた箇所を辿るようにワキの皮膚が泡立つような感触を受け始める。先ほどと同じだ! 足裏の時と同じ…… ――ジュクっ♥ ジュクジュクジュク……  そして泡だった感触の直後に訪れるこの体温と水分を一気に奪われるかのような灼熱感……これもしばらく続いて…… ――ジワァ♥  それを放置すると……その乾ききった肌がムズ痒くなっていく!  徐々に菌が感染していくかのように……少しずつ少しずつ塗られた箇所が順番に痒みを増していく。 ――ガチャっっ!! ガチャガチャっ!!  ワキ全体に広がろうとする痒みにすぐに我慢ができなくなり、私は自分の置かれている状況も忘れその痒い箇所を必死に掻き毟ろうと手を差し向ける行動をとってしまう。  しかし、肘掛にしっかりと固定された手は力がこもるだけで一向にワキへと伸ばすことは叶わない。虚しく椅子の金具を揺らして金属音を立てるだけに留まってしまう。 「かはっっ!!? か、か、痒いっっっ!! だめっ、滅茶苦茶……痒いっっっ!!!」  腋の窪みは、そこだけが自分の身体じゃないかのようにピクピクと勝手に痙攣し、その間も痒みをどんどん強めて私を苦しめていく。  痒くて痒くて堪らない! ボリボリと引っ掻いてこの痒みを少しでも紛らわせたい! でも手が拘束されているから掻くという動作が取れない……。  掻きたいのに掻けないと自覚すると余計に痒みが増していく。まるで、その心理状態をも痒みの成分に含まれているかのようにもどかしい痒みは強まっていく。  その比は足裏なんかの比ではない! 心臓に近いからなのか脳に近いからなのかは分からないけど、痒みが胸の中心をこそばゆくさせて頭の中をもムズムズさせていく……。もはやワキだけではない。神経さえも犯されてしまっているかのようだ……。 「あはっっっひっっっ!! い、いやっっ!! か、か、掻いてっっ!! お願いっっ掻いてくださいっっっ!! 痒すぎて、頭がおかしくなりそうなんですっっ!! お願いっ、掻いてぇぇ!! 少しでいいからっっはぁぁぁぁぁ!!!」 「そうでしょ? 頭がおかしくなりそうなくらい痒くてたまらないでしょ? 痒いのを掻かせてもらえないのはとても辛いでしょ? この拷問……いえ、教育を受けて改心しなかった女子は一人もいないわ。皆最後にはこういうの……“何でもしますから許してください”って……」  痒みはますます激しさを増していく。  腋の痒みに気を取られてはいたが足裏に塗られた痒みの粘液も負けじと痒みを増し始め、私に我慢ならない痒焦感を与えてくる。  もはやどこが痒いのか自分でも理解できなくなってきた。  土踏まずが痒いのかカカトが痒いのか……それとも足首や足の甲が痒いのか? 痒みの痺れが広がり切って足全体を包んでし待っているためどこが一番痒いのか判断がつかない。否……全部痒い! 足全部が痒くて堪らない! それは変わりない……。  そして腋の方も……徐々に痒みの侵略が脇腹付近まで広がっていて、コチラもどこが痒すぎるのか知覚できない。  とにかく痒くて痒くて……頭が変になりそう……。 「ところで……この痒みはいつまで我慢すれば消えると思う?」  痒みに翻弄され気が狂いそうになっている私に玲美さんの冷たい声が私の耳孔にそっと入れられる。 「えひっ!? は、はひっっっ!!? な、何を言って……」  耳の中に入れられる低くて冷たい彼女の囁き声。私は悶え苦しみながらも不思議とその声だけはクリアに聞こえ、ヨダレと涙と冷や汗でグショグショになった顔を彼女の側へ向ける。 「わからないと思うから先に答えを言うけれど……この薬は12時間貴女の神経を犯し続けて痒みを発し続けるわ」 「んへっ!? じゅ、じゅう……にじかん??」 「この特製の痒み抑制の軟膏を塗れば、その痒みは抑えられるけど……市販の薬では神経まで犯しているその痒みを鎮めることはできないわ」  そう言うと玲美さんはポケットから小さなチューブタイプの薬を取り出し、私に見せつける。  私はその話を聞いて飛びつかんとする勢いでその薬に手を伸ばそうとするが、もちろん拘束された手が彼女の持つ薬に届くはずもない。動物が捕まっている檻を鳴らすかのように枷をガチャガチャと鳴らすだけの事しか私には出来ない。 「は、は、は、はやぐ塗って!! それ、早く私に塗っでっっ!! お願いひぃぃぃぃぃ!!」  届かないと分かっていても私の手は本能の赴くまま薬に手を伸ばそうと試みる。なんでもいいからその薬で痒みを取り除いてもらいたい! 取り除くにいたらなくてもせめて和らげて欲しい! 少しでもいいからっ! 「塗って欲しかったら……分かるわよね? 私たちが何を求めているか……」  今すぐにで塗ってもらいたい! そしてこの痒みを掻き毟ってしまいたい! その想いは強くなる一方だが、私の自制心は自分の想像以上に冷静さを保っているらしく……彼女の要求に素直に首を縦にふらない。 「だ、だ、ダメなんでずっっ!! 言っちゃ……ダメなんでずぅぅぅ!! 言えないんでずぅぅぅぅ!!」  言ってしまえば楽になれる……そう思ってるのは確かだけど、言いそうになるとあの小生意気な理子先輩の顔が思い浮かんでしまう。   かつて私をギリギリまで追い詰めて笑い苦しめた彼女の顔がフラッシュバックするように思い起こされて……恐怖が私を支配し口を割らせようとはしない。  この痒みも地獄だけど……彼女のくすぐり責めも相当な地獄だ。  どっちも耐えられない……どっちの責め苦も…… 「強情ねぇ~。だったらしょうがないわ♥ 紗英さん? それに奈々?」 「……はい」 「はいっっス!」 「彼女が喋りたくなるまで、とことん痒ませるわよ。背中やお腹……太腿や二の腕……それに胸や首筋なんかにも塗ってあげなさい♥ たっぷりと……ね♥」 「はい……」 「はぁ~~い♪」 「ひっっ!!? ちょ、ちょ、ちょっと待ってくだひゃい! 体中に塗るつもりれすか? それを……」 「その為に裸にひん剥いてあげたんですもの……当然じゃない♥」 「ま、ま、ま、待って!! 分かりました! 言います! 言いますからっっ!! 待って!!!!」 「フフフ♥ 残念だけど……今のあなたは信用ならないわ」 「んへ??」 「今まで散々自発的に喋るチャンスを与えてあげたのに、貴女はそれを反故にしてきたわ。素晴らしい我慢強さと意志の強さだと敬服するけど……でも今……これ以上の苦痛には耐えられないって判断して喋ろうとしたでしょ?」 「……うぅ……」 「苦し紛れで喋る情報ほど信用ならない……。嘘をついてその場を誤魔化そうとする……そういうモノじゃない? ここまで粘って秘密を喋らなかったんですもの……そういう警戒はしなくちゃいけない」 「ほ、ほ、本当のこと……喋りますから! 嘘は付きませんからっっ!!」 「もう遅いわ。私にしてはかなり待ってあげた方なのよ? ここからは恐怖をその脳裏に刻み付ける作業に移らせてもらうわ♥」 「きょ、恐怖??」 「そう。私に逆らったら……どんな恐ろしい罰がくだるのか……。嘘をついたらどんなに苦しい罰を受けるようになるのか……それを十分に刻みつけて吐いてもらうわ♥ 真実の言葉をね……」 「ひっっ!! 待って!! そんなのいやっ!! そんなの耐えられないっっっ!!」 「沢山後悔なさい? あの時素直に話していればこんなに苦しまなくて済んだのに……って♥」 「や、や、やめてっっ!! お願い……やめてっっ!!」 「完全下校時刻は過ぎているわ。だから、貴女が望むなら朝までこの拷問を続けることだってできるのよ……」 「朝までっっ!!? そ、そ、そんなの耐えられるわけがっっ!!」 「まぁ、全身を痒くされて1時間も正気を保てる人なんて……居ないだろうけどね♥」 「ひっっ! ひぃぃぃっっっ!! ぃひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっぃ!!!」

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