Home Artists Posts Import Register

Content

3:再び部室へ……  私の意識が戻ったのは、それから何時間も経った後なのか? それともたったの数十分程度なのか? 正確な時間までは分からないけれど、外の暗さから見てその日の完全下校時刻の後である事は明確だった。  早く家に帰らないと両親が心配してしまう! と、一瞬頭によぎったのだけど、そう言えば高校生になって独り暮らしを始めたんだと思い出し、親への心配はかけずに済むという事に関してはホッと胸をなでおろす事が出来た。  しかし、自分の事となると話は別で……。  目を覚ますと見覚えのある不気味なオブジェの数々と、見覚えのある拘束椅子に自分が再び拘束されている事が分かり、嫌な予感という名の絶望感が次々とお腹の底から湧き上がってきて私に冷や汗を垂れさせていく。  ここは鍵を返しに行った生徒会室ではない。さっきまで綾ちゃんの公開拷問ショーが行われていたPT研究クラブの部室だ。いつの間にか戻って来てしまったのだ……。いや、連れて来られてしまったのだろう……この“3人”の生徒達に。  一人は先程まで生徒会室に居て私を驚かせた副生徒会長。拘束された私の事を腕を組んで冷淡な目で見下ろしている。 「おっ! おぉぉ! ようやくお目覚めみたいね?」  もう一人は私が意識を失う直前に見た……かなり小柄な生徒。  髪は短くショートで、毛先をツンツンと尖らせた元気を象徴するかのような髪型にまとめ、見た目の可愛らしさと相違ない活発そうな印象を受け、それが背丈の低さと笑った時に見える八重歯も相まって一層“お子様”な印象を私に与える。  可愛らしいのは確かなのだけど……理子先輩と同じく背丈が子供っぽくて幼く見えてしまうタイプの女性だ。 「貴女って、古峯井明日香で良いわよね? これから明日香って呼んであげるわ、光栄に思いなさい♪」  子供っぽい見た目だが制服に白衣を着合わせたその格好は小さいけれど大人っぽく見え……なんだか私が混乱してしまいそうになってしまう。  ただ……口調は子供っぽいし……なんだか偉そうで生意気だ。  理子先輩がドSで小生意気な子供……って感じだけど、コッチは元気で我儘そうな子供……という雰囲気。  ……あれ? どっちもそう変わらないか? まぁ、いいや…… 「私の名前は【和泉 奈々(いずみ なな)】! 麗しの風紀委員長『玲美様』の片腕にして最高の部下よ! 覚えておきなさい! フフン♪」  自己紹介すら子供っぽくこなす彼女は生徒会直属の組織……風紀委員のメンバーという事を高らかに宣言した。ついでに風紀委員長の部下である事もべらべらと勝手に喋ってくれている。  確かに……登校時にこのお子様チックな生徒は何度か見た事があった。生徒会長、風紀委員長と並んで朝から1人だけキャンキャンと口うるさく吠えていたあの面倒臭そうな生徒……。彼女が風紀委員だなんて、腕にクリップで止めた“風紀委員”という腕章を見るまでは信じて貰えない事だろう。実際……生徒達からは飴玉を貰ったりしてなだめられたり、頭を撫でられて喜んでいる姿も見たんだけど……風紀委員と認識されていないんじゃないだろうか? 本人の意識とは裏腹に……。 「それで……その……そちらは?」  小さいくせに偉そうな態度をする彼女がかなり鼻についた私は、彼女よりもその隣で無言を決め込み静かに佇む女性の方に視線を移しその女性の紹介もしてくれと言葉を促す。風紀委員のお子様は、その私の心変わりした態度に分かりやすく頬を膨らませイラついた口調で雑に彼女の紹介を始めた。 「彼女は奈々の友達っ! 化学部の上柳 紗英(かみやなぎ さえ)ちゃん! あんたを眠らせた薬を調合してくれた天才ちゃんよ! フン!」  化学部の生徒らしく白衣を綺麗に羽織って手を前に組みながら魂が入っていないかのように無表情で私の事をジッと見つめている不気味な女性……。彼女がこのお子様の友達であり私を眠らせたあの薬を調合した張本人だと聞かされ背筋に寒気を感じてしまう。  何を考えているか分からない無表情な顔……。不気味さという点では小夜子先輩と引けを取らないが、先輩は柔らかく話しかけてくれたりするから人間的な意味で怖いとは感じない。でもこの女性は何も喋らず生きているのか分からないほど動かず……人形のような印象を受けてしまい人間としても不気味さが一層引き立っている。  長い髪は全て大きく波打つようなウェーブパーマが当てられていて腰付近の毛先までゆるゆると遊んでいる。前髪も目元を隠すかのように覆い、髪の隙間から時々まばたきだけをする目が見え隠れしている。  背も高く痩せ形であるため幽霊のような印象を持たずにはいられない。  見た目も存在も恐ろしい……何とも不気味な人物だ。 「あの……私はなんで……拘束されているんです?」  その震えが起きそうな程冷淡な瞳に見つめられると私は思わず不快感から身震いをしてしまい、すぐにでもその場から逃げ出したい……と思った訳だが……私の座らされている椅子はその想いを叶えてはくれない。 「あら、わかんない? あんた達がやってる事真似しているだけよ?」  入学当初に私を苦しめたこの椅子……。  今日綾ちゃんが責められた……拷問を機能的に行えるこの椅子。私は再びその椅子に拘束されているのだ。  生まれたままの姿にひん剥かれて……。 「なんで……裸にされているんですか? あの……は、恥ずかしいん……ですけど?」   最初は裸にされているなんて全く気付かなかったのだけれど、話をしている内に身体の肌寒さを感じ……視線を落してみるとあらビックリ! 家でもお風呂以外では決してならない……生まれたままの姿にさせられているじゃない!  驚きと困惑と恥ずかしさが一気に押し寄せしばし思考回路が停止してしまうが、少し落ち着き始めた今恥ずかしいのは重々承知の上だけど改めて自分がなぜ裸なのかを質問した。 「そうよ。大変だったんだから! 寝てるアンタから上着とかいやらしいパンティとか脱がすの……ほんと奈々ひとりだけだったら無理だったんだから!」  私の質問に対して的確な答えを返してくれないお子様に、心の中でイラッとしてしまった私は睨みを強めつつ同じ内容の質問を今度はキチンと答えを返してくれそうな副会長へとぶつけてみる。 「あの、私は何で裸なんですか? これから何をするつもりなんです?」  副会長はコホンと咳払いをし、お子様とは違い私の質問に的確な答えを簡潔に返す。 「勿論……拷問ですよ? 貴女には聞かなくてはならない事が有りますので……」  “拷問”という言葉がまさか自分の部活メンバー以外の生徒から零れるなんて思ってもみなかった。  でもその言葉に同族意識を持てるほどの嬉しさは全くない。どちらかといえば予測していた最悪のシナリオが的中してしまった事に落胆の念を禁じ得ない。私は「やっぱりか……」と言葉を零す代わりにハァと大きな溜息を一つついて見せた。 「私は……別に“貴女”に復讐したいという思いはありませんけど――」  復讐という言葉を口にした副会長……。  その言葉が出たと言う事は、先日の生徒会長との一件で何かしら被害を被ったのだろう……。恐らく小夜子先輩に……。   「彼女はそうは思わなかったようでしてね……」  副会長がそのように零すと、待っていましたとばかりに準備室の扉が開き……中からもう一人の生徒が姿を見せた。  両手に習字の授業で使う小筆を握って、済ましたツンツンした表情で私の正面まで無言で歩みを進める。  その見た目……  生徒会長の詩織さんにも引けを取らない程の美人顔で、会長よりも少し背が高い。  プライドの高さがうかがえる吊り目がちな目が特徴的で上品そうな口元も小さくへの字に曲げていかにも不機嫌そうな表情を作っている。髪は会長のように黒のロングではなく、肩までしか長さの無いショートレイヤー。でも風紀委員長らしからぬ髪の色は茶色で毛先だけ緩くパーマをかけた少し私寄りの見た目だ。  あのキャンキャンと煩い奈々さんとは真逆の、今どきの美人生徒の像を映したかのような見た目が彼女……風紀委員長である水科玲美(みずしな れみ)さんの私から見た最初の印象だった。 「ごきげんよう……古峯井明日香さん? 気分は如何かしら?」  澄ました横顔でツカツカと歩きつつ、手に持った筆を手のひらの上でポンポンと叩きながら乾いた言葉を掛けてくる玲美さんに、私は再び背筋に嫌な汗をかく。 「気分が良いなんて……思うわけないですよね? 裸で拘束されているんだから……」  手に持った2本の筆で裸の自分に何をしようと考えているのか……すっかり拷問研究クラブ脳に浸された私には簡単に想像が出来た。  裸で拘束されていて筆を持って拷問といったら……もうアレしかない。うちのクラブで毎度行っているあの拷問しか……。 「フフ……そうね。気分が良い訳ないわよね? 拘束されているのだし……」  これ見よがしに筆をポンポン叩き、私にこれからの拷問を想像させながら正面まで歩み寄った風紀委員長は、その場でなぜか私に背を向け一段トーンの下がった口調で言葉を紡ぎ始める。 「詩織も……こんな風に気分を害していたハズよ……。だから……貴女達『変態クラブ』にも味あわせてあげるの! 恥辱と苦痛にまみれた復讐の拷問を……」  私に背を向けている為その端麗なお顔を見る事は叶わないが、声の調子と肩の震えで何となく“恨みのこもった顔になっているだろうな”と想像は付く。綺麗な顔が憎悪に歪んでいくその過程を見てみたい……と少し思ってはみたけど、その憎悪の矛先が私に向いていると言う事を思い出し、見なくて良かったかも……と思いとどまった。 「あ、あの……詩織って……生徒会長さんの……詩織さん……です……よね?」  分かり切った答えが返ってくると理解していながらも気になった事をすぐに聞いてしまう……私の治すべき癖の1つなのだけど、やっぱりこの場面でも聞いてしまった。聞かなくてよかったのに……。 「当然じゃない!」  そう言うと風紀委員長はクルリと私の方を向き返る。彼女の顔は私の想像通り怒りに満ち溢れた険しい表情をしていた。 「“私”の詩織を拷問にかけた罪は万死に値する事くらい分かっているでしょう? だからこれからその復讐も兼ねて貴女達も拷問にかけてあげるの! まずは手始めに……下っ端そうな貴女からね!」  今……詩織さんの事を“私の”と言ったような気がしたけれど……それよりなにより、やっぱり拷問にかける目的で私を眠らせたのだという事が分かり、冗談でこういう拘束をしたわけではないという現実を突きつけられ……また私の思考回路は停止してしまう。 「ご、ご、ご、拷問する気ですか!? わ、わ、私の事……」  止まった思考回路からようやく紡ぎだせた言葉はそれだけだった。 「勿論そのつもりよ? そのためにひん剥いてあげたんだから……裸に♥」  2本の筆を持った玲美さんがそこで初めてニコリと微笑みを零す。その顔だけ見ると可憐な美しい笑顔に見えなくもないのだけど、その顔とは裏腹に言葉の方が毒々しく……その時生じたギャップに私の頭はさらに混乱してしまう。 「く、く、くすぐるんですか? そ、その……筆で……私の事……」 「……くすぐる? あぁ……そうね……貴女達ってば……そういう子供染みた馬鹿みたいな研究していたんだったわね?」 「ば、馬鹿みたいなって! そんな言い方……酷い!」 「馬鹿みたいだと思ったから“馬鹿みたい”と形容しただけの事よ。誰がどう思おうと勝手でしょ?」 「そ、それは……」 「実際……馬鹿みたいじゃない。拷問なんて女子高生らしからぬ研究素材を持ち出したかと思えば、女子高生らしく“くすぐり”を拷問として研究するだなんて……。小学生の夏休みの自由研究並に幼稚じゃない! 我が学園にそんな馬鹿みたいな研究をするクラブなんて必要ないわ! 即刻解散させてあげるんだから!」 「か、解散って! そんな横暴な……。それにうちのクラブは生徒会長さんの許しを得て正式に部活動として――」 「そう! それが納得できないのよ!」 「えっ??」 「たかが“くすぐり”とか……ましてや貴女達の拷問なんかで詩織が陥落するはずがない! 詩織はそんな情けない生徒会長ではないハズよ!」 「そ、そんな事言われても……」 「だからまずは貴女から問いただしてあげるわ。どんな卑怯な手を使って詩織をあそこまで疲弊させたのか……をッ!」 「ま、待ってください!! わ、わ、わ、私をくすぐっても……無駄ですよ? そ、そ、その……私……くすぐったいの……平気だし……えっと……」 「……? くすぐる? 誰がそんな事……言ったかしら?」 「ほえ?」 「この筆を持っているからくすぐられるとでも思ったんでしょうけど、私の拷問はそんな甘っちょろい拷問ではないわよ?」 「くすぐりじゃ……ないんですか?」 「そんな子供染みた遊びで口を割らせるほど私も暇じゃないのでね……。もっと確実な手を使わせてもらうわ」 「確実な……手?」 「そうよ♥ セクハラまがいのお遊び拷問ゴッコなんかよりよっぽど確実に成果の得られる拷問を、これから体験させてあげる♥」 「確実な成果??」 「そう言えば……貴女達の研究している拷問は確か……痛みの無い拷問だったわよね?」 「え、えぇ……そうです……」 「だったら、この拷問もその部類に入るんじゃないかしら? “痛み”は無いのだから……」 「痛みが……無い? くすぐり以外で……?」 「フフフ♥ たっぷり悶えて頂戴ね♥ このお薬に……」 「お、お、お……薬?」  風紀委員長が“お薬”という言葉を発すると、怪しげな化学部生徒が白衣のポケットから小瓶を1つ取り出し、奈々さん経由でそれを委員長に渡した。  黒くて艶のある……ドロッと粘りの強い液体が入ったその小瓶……。それが委員長の言った“お薬”なのだろうと言う事は流石に鈍臭い私でもすぐに察しが付く。  あの薬が入った小瓶をどうするつもりなのか? その薬とはどういう効果のある液体なのか? 今の私に測り知れる事なんて何ひとつない。でも、すぐにそれが私を地獄に落とす液体なのだと自覚する事となるのである。  手に持っていた筆がくすぐる為のモノではなく、その液体を掬って私に擦り付けるモノであると分かった瞬間から……

Comments

No comments found for this post.