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10:破顔 ――コチョ♥ コチョコチョ♥ コチョコチョコチョ……  最初はとにかく優しく……風船を割らないように愛でるかのような触り方でワキの窪みへ指達を這わせ爪先でソワソワとこそぐっていく。  ワキは彼女の弱点なのだから、まずは丁寧に……これからの刺激に少しでも慣れさせてあげようと少しの優しさを見せてあげた私だったのだけど…… 「きゃはっっ!? やっっっ! はっっひっっっ!! んひぃぃぃぃぃぃっっっ!!」  ワキへの刺激が本当に極端に弱いのか、玲は撫でるだけのその刺激だけで再び可愛らしい笑い顔を私に見せてくれた。  目をギュッと閉じているがその目尻は笑うように垂れ、口は緩いVの字を描いて震えながらクククと我慢できていない笑い声を零している。  あんなに私に笑顔を見られるのを嫌がっていたのに……ワキを触られた途端にこの顔を見せるのである。このくすぐりという責めがいかに彼女の意志とは関係なしに笑顔を強制することができるのかを改めて理解する。  くすぐるのを止めると玲は恥ずかしそうに頬を染めて横を向こうとするが、目だけは涙目になりながら背中越しに覗き込んでいる私のことを恨めしそうに睨んでくる。その顔もまた可愛らしくて……ついつい虐めたくなってしまうのだ。 ――コチョコチョ♥ コチョコチョコチョコチョコチョ♥♥ 「うはひゃっっっっ!? くひっっ!! んくっっっふふふふふふふふふふふふふ……」  そんな睨み目も、私にワキをくすぐられるとたちまちに口元を波立たせ目を垂らせ始める。そして吹き出すような笑いを少しずつ零し、顔を横に振ってイヤイヤと嫌がってみせるのだ。  そのギャップもたまらない。ツンとした表情の後の弾けそうなくらいに明るい笑い顔……まるで正反対の表情を私の手で作り上げているといっても過言ではない。それがまたイイのだ♥ 「くすぐりって不思議よね……」  私はまた不意に手を止め彼女の苦悶する顔を元に戻してあげる。 「はぁ、はぁ……な、何が……ですか?」  玲は相変わらず恨めしそうに私を睨むが、口元はヒクヒクと笑いの余韻を残して震えてしまっている。 「いやさ……私がこんな風にちょっと指を動かすだけで……」 ――コチョコチョ♥ 「ひっっっ、ひゃはっっ!! うわぁぁはははははははははははははははは!! や、やめでぐだざいぃぃぃ!! いきなり動かすのは卑怯ですっっ!!」 「笑いたくないって思ってるあんたの事、こんなに笑わせられるんだもん……」 「わ、わ、笑ってなんか……いません! 笑ってなんか……」 「笑ってるじゃない。ほら……口元なんてニヤ~って歪んでるわよ?」 「っっ!!? ち、違いますっっ!! そんなはずは……」 「笑ってる顔……可愛いわよ? なんで普段からもっと笑わないの?」 「そ、それは……さっきも言ったじゃないですか……。嫌いなんです……自分の笑った顔が……」 「なんで嫌いになったの?」 「うぅ…………」 「ねぇ? なんで嫌いになったの?」 「………………」 「それも教えてくれないのかぁ~~それじゃあ仕方ないわね……言いたくなるまでその嫌いな笑顔になっててもらおっか♥」 「ひっっ!? ちょっっっ!! 待ってっ!!」 「待たない♥」 「お、お願いっっ!! 本当に嫌なのっ!! 笑うの……怖いのっ!!」 「ンフフ♥ 問答無用っ!」  私は語尾の強まりと共に指を立て、突き刺すようにワキの柔肌に次々にめり込ませていく。 「んぶっっっ!!? はひっっっっっ!!!」  伸びきったワキの筋に突き立てられた指先は思いのほか玲のくすぐったさを引き出してしまったようで、皮膚にめり込んだだけの刺激で彼女は我慢しようとしていた息を吐き出してしまう。 「ほ~~ら、わ・ら・え~~♥ こ~ちょ、こちょこちょこちょ~~♥♥」  すぐにでも笑い出しそうにしている玲を無視して、私は遠慮なしに突き立てたそれぞれの指をモニョモニョと動かしてくすぐり始める。 「ぐひっっっっ!!? いひっっっ、ぷひっっっ!!? いはひゃっっはっっくくくくくくくくくくく!!」  一瞬、すべての息を吐き出し洪水のような笑いを吐き出しそうになるが、玲は顔が歪むのも気にせず必死に口を閉じその笑いを殺そうと口内に押し留める。  しかし、その口元は既に笑いの形を作ってしまっており、吊り目がちだった目も先ほど同様目尻を垂らし着々と声を出して笑う準備を整えていた。 「コチョコチョコチョ~♥ ほらほらぁ、我慢はよくないわよぉ? 思いっきり笑っちゃいなさい♥ コ~チョ、コチョコチョコチョコチョコチョコチョ~~♥♥」  必死の我慢で抵抗する玲を笑わせんとするため私の手は動きを早めていく。  先程までの焦らし責めとは違う、弱いであろう箇所を重点的に刺激するように……しつこく、ねちっこく、いやらしくこしょぐり回し彼女を責め立てる。 「んはっっっひっっ!! んぐっっっふっっっふっっふ……やめでっっ! そこは……やめ……でっっ!!」  どんなに嫌がっても万歳の格好で拘束された玲に、私の手から逃れる手立てはない。くすぐってくださいと言わんばかりに伸びきったワキを後ろから支えるように両手で握ってしまえば、もはや体を捻ることも出来なくなる。  私の指は彼女のワキを握って支えつつもリズミカルに各指をランダムに動かし、妖艶に湾曲した美しすぎるワキを揉みほぐしながらくすぐっていく。  最初こそその刺激を耐えようとしていた玲だったが、私の触り方がいやらしさを増していくにつれ我慢のダムにヒビが入っていき……そして、人差し指が窪みの少し下付近を僅かになぞった瞬間…… 「くひゃっっっ!!? ブヒャアアァァァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、いへひぃぃぃひひひひひひひひっひひひっひひひひひひひひひひひひひひ!! だみぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへ、ソコだみぇぇぇぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへ!! 我慢できないっっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひ、そこは我慢できないのぉぉほほほほほほほほほほほほほほほほほ、イヒャァアァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」  今まで溜め込んでいた“笑いたい欲”を一気に吐き出すかのような豪快な大笑いが玲の口から吐き出された!  先程までのような押さえ込んだ笑いではなく、他人の目など気にしてられない程余裕のない大爆笑。玲の口からこれほど大音量の笑いが吐き出されるとは思いもよらなかった……正直、驚いてしまって私の方も「ひぃ」なんて情けない悲鳴を上げてしまったほどだ。 「こ、こ、ココ? ココが弱いの? ワキの中でもココが弱いのね?」  ワキのくぼみから少し下にずれた胸の付け根付近の脇ライン……彼女はそこを刺激されると恐ろしく弱いようで、触られるたびに風船が弾けるような爆発的な笑いを吐き出してしまっている。  私はいよいよ玲を笑わせられたのが嬉しくなりそこばかりを触るようになる。  どのような触り方が一番効いてしまうのか? そういう疑問の答えを確認するようにあの手この手で触り方を変え刺激の質も変え続けて責め立てる。 「ダァァ~~ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!! うひぃぃひひひひひひひひひひっひひひひひひひひひひひひひ、や、や、やめっっっ! やめでぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! そこはダメだって言ってるでしょっっ!! やめてぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへ、うぎぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、だはぁっははははははははははははははははははははははははははははは!!」  引っ掻かれるよりも指の先を押し付けて脇から伸びる筋肉の筋をコリコリと強く摩られるくすぐり方に弱いようで、それを繰り返し行うと玲は大口を開けて天に向かって甲高い笑い声を吐き出し始める。  まるで狼の遠吠えを真似るかのような姿で笑い苦しむものだから私もつい楽しくなってしまって責め手を全てそのくすぐりに変えてしまう。 「このワキの筋の辺りがヤバいんでしょ? だったらココを集中して責めてあげる♥ もっと私にあんたの無様な笑い顔を見せなさい! ほれほれぇ~~コリコリコリぃ~~♥♥」  食い込む指の力は強さを増し、その刺激も揉み込むたびに強くなっていく。  玲はそこをくすぐられる度に顔を天に向け「ギャハギャハ」と笑い悶え私に必死に懇願するようになる。  「もうやめて!」「くすぐらないで!」「そこだけは触らないで!!」と、同じような言葉を連呼しては私の手をどうにか止めようと叫び散らす。  でも私の手は止まらない。いや……止められなくなってしまっているという方が正しいか……。  私のためだけに差し出された美しすぎる彼女の裸体を好き勝手に弄ることができるこの優越感と、晒されている弱点を好きなだけくすぐって自分の思い通りに笑わせられるこの支配感。そして、学校の体育倉庫という下手をすれば人が来てもおかしくない場所でこういう異常性愛行為を行っているという背徳感……。そういった“合わせて服用してはいけない薬”をまとめて飲んでいるかのような後ろめたい感覚が私の淫欲を大いに刺激し興奮させている。  手を止めたくても……もはやこの行為自体が私の性感を昂ぶらせてしまっていて、やめるにやめられない。  この行為をもっと楽しんでしまいたい……。玲の嫌がることをわざわざ続けているのだから、後に口も聞いてもらえなくなるほど嫌われてしまうのは火を見るより明らかだけど……私は今をもっと楽しみたい!  きっとこういう経験は二度と味わうことは出来ないだろう……。いろんな奇跡が積み重なって今の状況が出来上がっているわけだから……こういうシチュエーションを味わえるのはこれが最後となるだろう。だからこの責め手を途切れさせるのが怖くてならない。 手を止めれば全てが終わってしまいそうだから…… 「コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ~~! こちょこちょ~、こちょこちょこちょこちょ~~! コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ~~っっ!!」  私は必死にくすぐった。  玲の脇の下に真っ赤な爪の引っ掻き跡を残すほどに、ガリガリ……ガリガリと……。 「うひゃあぁはははははははははははははははははははははは、ちょっっ、くるひぃぃぃっっひひひひひひひひひひひひひひひひ、ゲホッ、コホッ! くるひぃぃぃぃぃぃってばぁはははははははははははははははは、休ませでぇぇへへへへへへへへへへへへへへへ、少し休ませでよぉぉぉ!!」  玲も私のくすぐりに呼応するように必死に笑ってくれた。  時折咳き込みを入れながらも……苦しそうに……。 「ほらぁ! まだ言いたくならないの? 言わないんだったらずっと続けるわよ? 良いの?」  理由なんてどうでもよかった。この高揚感を生み続けるプレイを維持するためなら……どんな無理難題をふっかけても良いとさえ思っていた。  言いたくないものを無理やり言わせるようとする行為そのものが、普段の私の凪のように平坦な起伏のない感情を奮い立たせていた。  きっとこれが私の本性なのだろう。いつもは抑えていただけで……本当の自分は野獣のような責め欲を心の奥底に飼っていて、それを解き放つきっかけを虎視眈々と待っていただけだったのだろう。 「ぷはっっはははははははははははははははははははは!! ひぃひぃ、死んじゃふぅぅふふふふふふふふふふふふふふふふふふ、ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、ンァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! ホント死んじゃうぅぅふふふふふふふふふふふふふふふ、ゲホ、ゲホゲホ!!」  きっかけは玲がくれた。  あんなにも私の責め欲を掻き立てる小説が今まであっただろうか? 私のよく読むエグ目の百合小説でさえ私は凪の平静さでその文章を追えていたのに……彼女の書く設定やシチュエーションは、今まで私の読んできたどんな小説よりも性感を刺激して興奮させた。  それは……私やクラスメイトが登場していたから親近感が湧きすぎたのか……それとも単純にプレイが私の性感にドンピシャで刺さったのか……。今ではどちらが興奮させたのかなんて考察を必要としない。どちらでも良いのだ。どちらでも…… 「は、は、はひっ!! あひっっ!! へひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひ、わ、わ、わがっだ! わがっだ! 言う! 言うから一旦止めでっっ! 一旦手を止めでぇぇぇ!!」  気づけば真っ赤だった顔が真っ青になり、窒息感と呼吸困難に苛まれ苦しそうに過呼吸を繰り返す玲の姿がそこにはあった。   やりすぎた!?     その言葉が脳裏を過ぎった瞬間、私の頭が急に冷静に戻ってしまい……力を無くすように手の動きが遅くなっていき……その後自然に手の動きを止めた。 「っは、はっ、はっ、はっ……はひ、はぁ、はぁ、はぁ……ケホケホ!」  くすぐりが止まり、うつむきながら苦しそうに咳き込む玲に……私は声がかけられない。  自分が行ってきた所業を冷静になってしまった頭で追想すると、恐ろしくなってしまった。そして後悔してしまった……私はクラスメイトの子になんということをしてしまったのだと……。 「ご、ごめん……玲……。やりすぎた……」  震える口でやっと捻り出せた言葉はこれだけだった。  今彼女がどんな感情で私の事を見ているのか……きっと憎悪の感情が剥き出しになった表情を浮かべているだろうと想像し、怖くて彼女の顔を覗き込むことはできなくなっていた。  激しく燃え上がる炎のような責め欲の後の……後味の悪い後悔と自責の念……。それは何よりも苦痛で悲しく切ないものだった。  完璧に嫌われた……。  やめてと言っている玲の事を無視し続けて欲望のままに責め立ててしまったのだから……嫌われて当然だ。  熱の冷めていった頭にはそのような負の感情だけが根付いていき、先程まで強く持っていたはずの責め欲も空気の抜けた風船のように萎んでいくのだった。 「あの……玲? その……」  私がもう一度謝ろうとすると、玲は涙目の睨み目をキッとこちらに向けて…… 「まずはこの拘束をといてください。話は……それからです……」  と、だけ零し……また横を向いて私の顔を見ないようにした。 「う、うん……」  私は落胆する心に手を重くさせながらもゆっくりと彼女を吊っていたロープを降ろしていき、疲弊により足のおぼつかない彼女を床に座るよう誘導しながら手の拘束を解いてあげた。 「その……ゴメン……本当に……ゴメ――」  拘束を解いた後、再度深々と頭を下げ謝罪の言葉を零そうとした私だったけど、その謝罪を言い切る前に玲がまた私を睨むように目を細め、ズイっと私の方に顔だけを突き出した。そして…… 「謝るくらいなら……最初から意地悪な事……しないでくださいっ!」  と、語気を強め私の目を見つめグっと目に力を込めた。  私はその瞬間強烈なビンタでも飛んでくる……と覚悟を決め目を強く瞑り、痛いであろう殴打に備えた。しかし、彼女が繰り出したのは強烈な殴打ではなく…… 「その気に……なっちゃうじゃないですか……あんな責めをされたら……私だって…………」  優しい言葉と優しい包容だった。  お姉さん座りで目を瞑った私に、被さるように両手を腰まで回し交差させ解けないようにキュッと力を込める……。  一瞬、何が起きたのかわからなかった……。  玲の暖かくて柔らかな肌の感触が私の太腿や腕に当たり何とも言えない心地のいい包容感を与えられる。 「えっ!? ちょっっ……れ、れ、れ、玲っっ??」  拒絶され殴られると思っていた私は突然の包容に驚きの声を上げてしまう。  でも玲は私の驚き戦く声など無視するようにそのまま体重をかけあっさり床へと私の身体を押し倒し、冷たい体育倉庫の床で彼女と私は並んで横になる格好となる。 「あの……玲? これは……えっと……その……?」  なぜ彼女が抱きついてきたのか? 責めすぎて怒られたり嫌われたりするのではなかったのか?  私は自分の状況が未だつかめず、抱きついた格好のまま無口になってしまった玲の体をどうすればいいのかとあたふたしてしまう。  自分も彼女の体を抱いた方がいいのではないだろうか? それともこれ以上セクハラまがいに肌に触れないほうがいいのでは? 彼女が抱きついた意味は? 嫌われていないと捉えてOKか? それとも……などとしばしの間困惑しつつ一人パニックに陥っていると、私の胸に埋めて隠していた顔を少しだけ私の方に向け……玲は目だけを潤ませながら私の顔を再度睨みつけ…… 「私だけ……裸なのは……ズルいです」  と、小声で囁いた。 「あ、あ、あぁ! ごめん!! 服だよね? 服着せなくちゃだよね? アハハ……寒いもんね、ココ……」 「ち・が・い・ま・す!」 「んへ??」 「橘さんも……なってください……私と同じに……」 「そ、そ、そ、それって……私も裸に……なれって……事?」  玲は私の目を見つめながら小さく頷いてみせる。 「あ、あ、あの……私……玲に酷いことしちゃって……その……」 「反省しているんでしたら……脱いでください。私と同じように……」 「えっ……は、は、はい……今……すぐに……」  私は自分の立場も良くわからないまま彼女の指示通り服を脱ぐため、まずはセーラ服のリボンに手をかけするりとそれを外していった。次はセーラ服のボタンを外さないといけないのだけど……玲は私に抱きついたまま離れようとしてくれない。だから私は、彼女の柔らかな胸や張りのある腹に手を触れさせながらも強引にボタンを外して体をモゾモゾさせながらもどうにか上着を脱ぎ捨て、次の工程であるスカートに手をかけていく。 「なんで私が……笑うのが嫌いになったのか……知りたいって言いましたよね?」  抱きつかれながらもどうにか制服を脱ぎさろうと奮闘する私に、玲はボソボソと小声で私の耳に言葉を送り込む。 「えっ!? う、う、うん……」  私はスカートのホックを外し、絡みつく玲の太腿の間を縫うようにそれを脱いでいき彼女からの問いかけに素直に返事を返した。 「私……小学校の頃……友達に言われたんです。笑顔が気持ち悪いと……」 「えっ!?」  玲の衝撃的な告白に私の手が止まる。 「私の中では愛想よく笑顔を振りまいていたつもりだったんですが……そのように言われたあと、ほかの友人からも言われるようになりました……」 「笑顔が……キモイって?」 「えぇ。それ以来……私は人前で笑顔を作るのが怖くなってしまって……」 「そ、そんなトラウマが……あったんだ? 玲に……」 「人前で笑うのが怖いと思うようにはなりましたけど……私はもともと人の気を伺う癖みたいなものがありましたので、笑顔を封じることは物凄く苦痛でした……」 「玲って……昔は八方美人なタイプだったんだ? 誰にでも笑顔を振りまく感じの……」 「そう……。人の気ばかりを伺って……自分が傷つくのが怖いから笑顔を携えて日々を暮らしていたのですけど……その笑顔が友人には不快に思えたんでしょうね……」 「それで……逆に笑顔を作らず……ツンツンした態度を取るようになったってこと? 今みたいに……」 「えぇ。その方が……傷つかずに済むかなって思って……。最初から嫌われる態度をとって接すれば、人も寄り付かなくなるし……人の考えとか思いを汲み取る煩わしさもなくなるって……そう思っていました。でも……」 「でも?」 「笑わなくなった私は……なんだか今までの自分を否定しているようで……辛くて……」 「…………………」 「笑顔になることを努めて押さえ込もうとすればするほど……嫌おうとすれば嫌おうとするほど……辛くなっていって……」 「…………もしかして……それで、あの小説を?」 「ええ、そう。現実での私は笑えないから……せめて物語の中でだったら笑わせてあげたいって思って……書き始めたのがきっかけで……」 「小説の中だったら……自由に笑える……から?」 「そうです。最初はストーリーも設定も皆無でただただ私が声を出して笑っているっていう無軌道な駄文を書き連ねていただけだったんですけど……」 「ストーリーも設定もない?」 「でもこの“小説の中で笑い続けている私”という不可思議な駄文を書き続けていくとだんだん変な気持ちになっていって……」 「変な……気持ち?」 「多分……笑えなくなった事への反動だとは思います。笑えないはずの私が駄文の中では自由に笑えているというギャップが……そこはかとなくエッチな欲を植えつけてしまったのだと……」 「笑えなくなった自分と物語の中の自分とのギャップ……」 「物語の中だったら自由に笑える。だったら、もっと笑わせたい……もっと自分のことを笑わせてしまいたい……。私の中でのエッチな欲はそのような願望を持つようになってしまって……そして私は駄文を書き連ねるだけに留まらず“小説”を書くようになってしまいました」 「小説を……?」 「私が笑うことになる経緯と設定……私以外の登場人物などを交えだし、物語を構築し始めました……」 「…………」 「今までのただ文字を連ねるだけの駄文とは違い……小説ではリアリティのある設定が必要となりました。特に私が“笑う理由”それが物語の中で自然に発生しなくてはならない……」 「そっか……それで“くすぐり”な訳か……」 「そう。くすぐりで笑わされるっていう設定は最初はほんの軽い気持ち……お遊び程度の感覚で入れてみたんだけど……」 「う、うん……」 「一度入れてみて……自分の描写を加えて書いていくうちに“無理やり笑わされる”っていうシチュ自身に興味が出初めて……」 「…………(ゴクリ)」 「戯れあいのようなシチュに物足りなくなってきた私は……もっと自分が苦しむくらい笑わされるシチュを考えるようになって……そこから手足を縛るような描写が入り始めて……。手足を縛られることとなった経緯としてクラスメイトを悪者にして……」 「あぁ……だからワザと主張の強い子だったり……そういう意地悪をしそうな子を選んで、責め手にしてたんだ?」 「えぇ……。そんな事をし始めたものだから、ますます現実の私は表情を暗くさせて冷たい言葉を放ってクラスメイトと“あえて”距離を置くようになりました……」 「あのツンツンした態度も……小説のためだったの?」 「半分は本当に笑うのが怖かったというのもありますけど……もう半分は小説のため……」 「……嫌われるって分かっててやってたのね? 小説のシチュをリアルにするために……」 「ダメなことをしてるっていう自覚はありました。本当は仲良く穏やかに高校生活を送りたいって心の中では思っていたんです……でも、一度そういう態度をとってしまえば引っ込みがつかなくなってしまって……」 「どうせ……引っ込みがつかなくなっただけって訳でもないんでしょ?」 「お察しの通り……。現実の私の立場を悪くすればするほど、クラスの意地悪そうな女子が陰でどんな悪口を言っているか……どんな酷い像を私に抱いているか……そういうのを妄想して小説の中の私を虐めるっていう設定にしてみると……今までにないくらい興奮してしまって……」 「そういうのが癖になっちゃったってわけね? 嫌われることが……自分の小説を際立たせる材料になるから……」 「私は……今では、そういう事でしか興奮できなくなってしまいました。人の悪意にあてられて……自由を奪われて、無理やり笑わされる……そういうシチュを思い浮かべるだけで授業中であってもお昼休み中であっても興奮してしまって、何度トイレに駆け込んだか……」 「んえっっ!? じゃ、じゃあ……時々授業中に抜け出してたのは……トイレに入ってオナニーするためだったの?」 「ちょっっ! 恥ずかしい……。そういう直接的な言葉は……使わないで!!」 「本当のことでしょ? そういう変態さんになっちゃったって事でしょ? 玲は……」 「うぅ……まぁ……そうなんですけど……」 「あきれた……。まさかいつも清楚にしてた女子が……こんな変態だったなんて……」 「あうぅぅぅ……言わないでっっ! 恥ずかしいぃ……」 「じゃあ、私はなんで? なんで私をあの責め手のリストに入れたの? 私はあんたにそういう感情を向けた覚えはないわよ? どっちかといえば……仲良くしようと声をかけていたくらい……」 「っっ!!? そ、それは……」 「ねぇ……なんで? 私ってそんなに意地悪そうに見えたの? あんたをイジメるような女子に……見えていたの?」 「い、いえ……その逆というか……橘さんは私に良くしてくれていましたので……」 「それじゃあさっきの話とは噛み合わないじゃない! 意地悪そうな女子をターゲットにしてたんでしょ? 自慢じゃないけど私……外面だけは良くしてきたつもりよ? まぁ、結果的には……あんたをイジメる側になっちゃったわけだけど……それでもあの小説がなければこんな事……したいなんて思わなかったわ!」 「そ、そ、それは……その……」 「それは? 何?」 「あの……怒らないで……くださいね?」 「内容によるわ」 「うぅ……。その……えっと……」 「ほら! そこまで話したんなら言いなさいよ! 気になるじゃない!」 「あの……。意地悪な人に虐められるシチュが……マンネリしてきたから……」 「はぁ?」 「ひっ! ご、ごめんなさい、ごめんなさいっっ!! 最近……同じようなシチュが続いちゃって……マンネリしてた節があったから、今度は逆に“優しい人”を悪人にしちゃおうって思っちゃって……」 「優しい人を……悪人に?」 「は、はい……その……橘さんは誰にでも優しいじゃないですか……」 「まぁ……そういう風に接してるつもりだったからね……」 「そういう根が“優しい人”が、実は心の中では私のことイジメたいって本当は思っていて、責め欲に駆られるっていうシチュを思いついて……実際に書いてみたら……その……すっごく興奮してしまって……」 「あんた! どこまで性癖がひん曲がってれば気が済むのよっ!」 「ひぃっ!! ご、ごめんなさいぃぃ……」 「……っで?」 「……はい?」 「小説の中の私が吐いていた“私は可愛い子の笑顔が好き”っていうセリフ……アレはどう言う意味? まさか私のそういう部分まで予測して書いたって言わないでしょうね?」 「うぅ……それは……その……。そうであって欲しいなぁって……私の願望でして……」 「玲の……願望?」 「うぅ……ごめんなさい……勝手な願望を押し付けてしまって! でも……私は……橘さんには嫌われたくないって……思っていたから……」 「っっ!? 私に……嫌われたくない?」 「もう……ここまで話してしまったので全部言っちゃいますけど……私……橘さんの事……好きだったんです。ずっと……前から……」 「んへっっ!? ずっと……前から??」 「変態が何を言うんだって思うかもしれませんけど……この思いは純粋なんです……」 「ど、ド、ど、どういうこと!? その……好きって……恋愛感情の好きって……事?」 「は、はい……」 「な、なんで? どうして玲が私の事をっっ!!?」 「貴女だけが……私の態度を見ても……優しく接してくれていたから……」 「は、はい??」 「今まで……あの態度をとってて……優しく接してもらうなんて事……ありませんでしたから……」 「そ、それは……さっきも言ったように……私の作った性格みたいなもので……本心では……」 「それでも嬉しかったんです。態度には出さなかったんですけど……人の優しさに触れたのは……久しぶりでしたから……」 「そんなに酷かったの? その……中学生の時とか……」 「えぇ……自分が作ってしまったモノとは言え……陰口が酷くて……流石にへこんでしまうくらいに……辛かったです……」 「私のこの人に優しくするっていう性格は……あんたの小学生の時と同じで……外面を良くしているだけよ? 本当の私なんて……」 「そういう似ている部分も……感じ取ってしまったんだと思います。無意識ですけど……」 「似た者同士ってこと……? 私と……玲が?」 「私は……人の悪意を利用して自分を気持ちよくしていただけ……言うなれば快感に逃げたとも言えます……。でも貴女はそういう事はせずに……人に優しさを配って回っている……。私に出来なかった事を貴女は出来ている……それが羨ましくて……眩しく見えて……惹かれてしまったんだと思います……気づいたら好きになってしまっていたんです」 「わ、私は……この性格を否定されたことがないから……うまくやっていってるって思っているけど……もし玲と同じようにこの優しさを配る行為が誰かに“気持ち悪い”って言われたら……どれだけ傷つくか……想像もできないわ……」 「きっと橘さんは私と違って地が優しいんだと思います……」 「へっ?」 「自分の性格を“作っている”なんて言えるのは……少なからず罪悪感があるからでしょう?」 「う、うん……まぁ……なんか……嘘付いてるみたいで……多少は……」 「自分の行いを省みて罪悪感を欠片でも感じているのなら……それは他人への地の優しさだと……私は思いますよ?」 「地の優しさ?」 「本当に性格が悪い人だったら……自分の行いに罪悪感を感じたりはしません。むしろ嘘をついてもそれを正当化して自分は正しいと言い聞かせる方向へ持っていくものです……」 「……そ、それは極端じゃ……」 「誰だって自分を否定されるのは嫌なものです……特に自分の行いを自分で否定してしまうことほど辛いものはありません」 「………………」 「誰だって……自分こそは正義であると思いたいものです……。だから主張が生まれ……争いや戦争だって起こる……」 「さすが小説家さんね……規模の大きな話だわ……」 「規模が大きくても……結局争いの原因は、自分こそが正義だと主張することで生まれるものです……。誰も“自分の国は悪に手を染めているから占領してください”なんて言う人はいないでしょ? 人間関係もそれと同じです……」 「自分が正しくて他人が間違ってると思っているから……争いは起きる……って事か……」 「そう。本当に大事なことは……自分が正しいと思っていても、自分の常識の中だけで自分が正しいと思い込まないようにすること……。色々な角度から物事を見るようにすること……それが大事なのだと私は思うんです……」 「まぁ、正論よね。ド正論過ぎて……普通そういう事……口に出さないんじゃない?」 「橘さんはそれができる人だと思ってます。だから……その片鱗が見えたから……私は興味を惹かれるようになって……」 「私は……自己中なだけよ。自分の思い通りの学園生活になればそれでいいから……無用な争いを生みたくないだけ……」 「それも理解してやってるんですよね? 自分が……自分の為だけに行動しているんだって……」 「ま、まぁ……そうね……」 「だったら……やっぱり、私の見込み通りの人です……貴女は……」 「……あんた……私のこと……買いかぶりすぎよ? 何も知らないでしょ? 私のこと……」 「えぇ、知りません。まだ隣同士の席になって……数ヶ月しか経っていませんし……」 「じゃあ……なんでそこまで言い切れるの? 私のこと知らないくせに……なんでそんな心の中を見透かしたかのようなセリフを吐けるのよ!」 「好きだからです!」 「はぁ?」 「好きだから……そうであって欲しいって……思うんです……」 「……っっ!?」  しばしの沈黙が私と玲のあいだに流れた……。  玲は私に抱きついたまま離れようとしない……。私は服を脱いでいる途中で固まってしまっている……。  彼女は私のことを好きだと言ってくれた。嫌われたと思っていた私からしてみればその告白は寝耳に水で驚愕に値する告白だった。  彼女の言った言葉は……そのどれもが胸に突き刺さってくる。  私以上に私のことを見てくれている……そんな暖かな感情が胸の奥で湧き上がってくる。  かつてここまで私の深層心理まで切り込んできた女子がいただろうか? そこまで私のことを想ってくれたクラスメイトがいただろうか?   少なくとも……私の生きてきた17年間では一人としてそのような子はいなかった。彼女以外には…… 「私は……あんたが思っている以上にズルくて……卑怯な女よ?」 「えぇ……それでも……好きです」 「あんたの秘密を知って……自分の責め欲を満たしてやろうと思った……酷い女なのよ?」 「それでも好きなんです! それでも……」 「……………………」 「……………………」 「確かに……あの小説の中の私は的を得ているわ……」 「……えっ?」 「“可愛い子の笑っている顔が好き”、その心理描写は……紛れもなく事実よ。だって今……そう思っているんだから……」 「橘さん……」 「あんたの笑った顔……めちゃくちゃ……可愛かった。正直……もっと見たいとさえ思った……ずっと……笑わせていたいって……」 「っッ!?」 「ねぇ……。これが好きっていう感情かはまだ分かんないから……あんたへの返事になるかどうかは分からないけど……」 「……う、うん!」 「これからも……笑わせて……良い? あんたの事……」 「っッッ♥♥」 「玲の笑った顔……最高に可愛かった。その顔を……私はもっと見たい! だから玲の事……もっともっと笑わせたいの! そういう付き合い方でも……良い? 私の一方的な思いが先行しちゃってるけど……」 「う、嬉しい……。嬉しいです橘さんっ!! 私の笑顔が可愛いって言ってくれて……とても……嬉しい!!」 「その顔も……最高に可愛いよ。その喜んでいる顔も……」 「っ♥♥♥」

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