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1:気になる隣人  高校生にもなったのだから“秘密”の1つや2つなど胸の内に秘めているものである。  かく言う私だって、あまり人に知られたくない秘密を抱えている。  例えば、自分がちょっと百合気質な部分があるだとか、優しい理解者なフリをしてドSな一面を隠し持っていたりだとか……嫌いな子や苦手な子にでも仲良さげに話しかけにいったり出来てしまう性格だとか……  そういう隠しておきたい心の内側を“優等生”というオブラートに包んで私は女子高生を演じている。  決して、芯の部分の秘密を悟られないように……自分の本心とはズレた自分を演じて学校社会の中に溶け込ませている。  それはさながらスパイ映画のようだ。偽った自分を隠しながら学校生活を送っているのだから……    自分の内面や秘密は知られたくない。でも人間というのはワガママなもので、他人の秘密は知ってしまいたくなるものである。  彼女が本当はどんな性格で、どんな恥ずかしい秘密を抱えているのか……私は八方美人な笑顔の奥にそのような知的好奇心を宿らせている。  隙あらば可愛いあの子の秘密を覗き見てみたい……そんな私のスケベ心は“彼女”によって大きく花開く事となる。  彼女……氷﨑 玲(ひざき れい)は美人だった。  黒く艶やかな髪を腰の所まで伸ばしアシンメトリーな前髪の奥に凛とした瞳を覗かせ、いつもその小さくて上品な口を閉じて物静かに本を読んでいる。どこかしらの名家のお嬢様を思わせる気品を放つ彼女に、私は憧れと嫉妬という両極端の感情を持つようになる。    しかしながら……そんなお嬢様オーラを放つ彼女だがクラスメイトからの評判はあまりよろしくはない。  彼女はその大人しそうな雰囲気を地で行くように言葉をあまり多くは発しない。  話しかけられても「はい」「いいえ」の受け答えくらいしかしてくれず、いつも読んでいる本から目を離そうとしない。  周りから見ればツンツンしていて近寄り難い……コミュ障だとか引き篭もり気質だとか陰では揶揄されている始末。  きっとそんな事を陰で言われている事もとっくに彼女は気付いているのだろうけど、彼女自身はその態度を崩すつもりはないらしく……刺々しくさえ思える受け答えを日々繰り返している。  まるで、あえて人を寄せ付けないようにしているかのように……  この徹底して排他主義的な態度は、隣の席でありクラスメイトでもある私にも当然のように向けられていた。 彼女の態度は、何にそんなに警戒しているのか分からない程に冷たく……話しかけようものなら怪訝そうな目で睨み返され、即座に“近づくなオーラ”を放ってくる。そんな彼女に抱いた私の最初の印象は当然良いモノではなかった。正直……すぐに席替えして貰いたいとさえ思ってしまった。  しかし、数日後……その考えはある出来事によって“興味”という言葉に名を変える事となる。  まぁ……ある出来事と言っても大した事ではない。  授業中に彼女が落としてしまったノートを私が拾ってあげただけ……ただそれだけの事だったのだけど……  正確にはその出来事自体に興味を引かれた訳ではない。床に落ちて閉じてしまった赤い背表紙のノート……それを拾い上げ、渡そうとした時に見た彼女の表情……  その表情が興味を持つきっかけを与えたのだ。  私の手から奪い去る様にノートを受け取った彼女の表情は……真っ赤に紅潮していた。  口元を波立つ様に歪ませ、頬はリンゴのように真っ赤に火照らせ、顔を隠すようにうつむきながら驚きと戸惑いの色を見せていた。普段の清楚で刺々しい表情とは大きく異なる……明らかに焦った表情。そんな表情をたかがノートを拾っただけの私に見せたのである……これには私も同様に驚いてしまう。  始めて見せた彼女の焦った表情……  恐らくクラスの中でこの表情を見たのは私が最初だろう。  いつもの冷徹で機械の様な冷たい表情しか見せない彼女があんな焦った顔をするなんて……正直、驚いてしまった。それと同時に興味を惹かれてしまった……  彼女にあんな顔をさせたあのノートには……何か秘密があるのではないだろうか? と……。  気になってしまったら調べたくなる。当たり障りない言い方をすると好奇心旺盛とでも言うのだろうけど、私の場合はかなり下衆な下心で動いてしまっている。何かいかがわしい秘密を持っているのでは? などと好奇な目を彼女に向けてしまう。だから基本はコソコソと彼女――玲にバレないように彼女の行動を追っていく。  そうしていく内に見えてくる……玲の普段の行動が。  彼女の授業中の態度は別段取り上げるような事がないくらいに普通だ。ちゃんと先生の話を聞きノートも取っているし指名されればあの不愛想な顔で問題の答えをボソリと口から零す事もする。至って普通の授業態度……  ちなみに私はあの出来事以降に赤い背表紙のノートを教室で見る事は無かった。あれから警戒をしたのか……はたまた別の理由があったのかは分からないけど、とにかく玲は教室にあのノートを持ち込まなくなったのだ。  しかし、秘密が隠されているであろうそのノートを私は教室とはまた違う場所で見つける事となる。  彼女が下校時に毎日のように通っている……  あの市立図書館で。

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