ノブ調教■2 (Pixiv Fanbox)
Published:
2022-11-02 04:15:28
Imported:
2022-11
Content
■2
「……よし、お勉強は大丈夫のようですね」
「はい、えへへ…心配しすぎでありますよぉお父さん」
パタン、と教科書を閉じる音と共に柔らかい笑顔を浮かべる天野親子。例の近況報告の電話から数日後、ノブは息子のタケルとの面会のため逆月医院へとやってきていた。
はじめはここに来る前と比べ、ほわほわした雰囲気に変わり「強いお薬でも投与されているのでしょうか」と心配をしていたノブだったが今まで通りの学力を維持している事や、記憶もハッキリしている事を確認し安心したようだ。
「それじゃあ、僕はそろそろ失礼しますよ。……その、い、いつも不器用でごめんね。」
「へ?どうしましたお父さん?」
「そ、その。……僕はいつもお用事ばかりで。もっと雑談をたくさん仕入れてくればよかったんですが」
ベッドに座るタケルにそう話すノブは申し訳無さそうに小さく頭を下げる。妻が居た頃は彼女が話題を振り、それに返す形で雑談をしていたノブだったが自分から話題を振るのは得意ではない。いつも用事を通してタケルと会話している自分が父親としてどうかと心配していたのだ。
ーーーーー今はそれ以上に父親としての威厳を失いかけているのだが。
「大丈夫、お父さんがそういうの苦手なの、ボクだけは理解しているであります!いつもどおりで良いから、ね?」
「……ありがとう、タケル。愛してますよ」
そうして軽くハグをし、二人の面会は終わった。……だが、ノブの作戦はここからが本番だった。
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「……は、はぁ。どうしましょう。誰に……というか、どのタイミングで声をかければ」
ロビーまで戻ってきた彼はそこできょろきょろと周囲を見渡し10分ほど困った事態に陥っていた。
ーーーーーさっき、ナガト先生に相談すればよかった!
先程は面会が出来るという嬉しさと、自身の悩みや他人との会話というあらゆる緊張理由があったせいで飛んでしまっていたのだが、タケルの担当医に自身の相談をする事をすっかり忘れてしまっていたのだ。
今から戻ってわざわざ相談するのも気恥ずかしいし、かと言って入院患者の親族が改めて診察をしてもらう手続きをするのも気まずい。元々授業以外で人と話す事が得意ではないノブにとってタイミングは最も重要だったのだ。
彼はそのまま「はぁ」とため息をつき青い顔をしながら玄関の方を向いてしまう。
「……ま、また次にしましょう……
うん、そ、それがい」
「どうかなさいましたか?」
「ひゃひっ!?!?!」
そんなノブが小さく独り言を言っていると、真後ろ、しかも少し高い所から声をかけられ飛び上がり、声をあげてしまう。
彼の後ろに立っていたのは黒く女性のように長い髪。濡れたようななめらかな体毛にゆうに190近い身長、そして夜の光が灯ったような青い目の白衣の男がそこにいた。
「あ、ああああのえととと!!?ぼ、ぼぼぼくはその、しん、しし親族でありましててて!!?べべべべつにそうだんとかそそ、そんなななな!?」
「……あ。もしかして!タケルくんのお父さんですか!?わぁ、似てるなぁー!」
混乱し、まともに話せなくなっていたノブに彼は目をキラキラと輝かせて話し始める。ノブの手を取り、緊張した手を握って握手までしだした。
「僕はここの医師の黒峰と申します。タケル君の担当ではないのですが、彼は僕の担当している子とも仲が良いのでよく知っているんですよ!」
「な、なる、ほど……?え、えっと、む、息子がお世話になっております……!あっ、え、えぇと、僕はその、あ、天野ノブと申しまして、○○大学のきょ、教授をしていまして……」
突然話しかけてきた黒峰という医師に驚きテンパってしまったノブだったが、名前を名乗られ握手をされなぜか緊張が抜けてきてしまっていた。それどころか言わなくて良い自己紹介までしてしまう始末。
(な、なんでしょうこの方は…?不思議と安心しちゃう……)
気がつくとそのまま、ノブは人の少ない待合イスまで連れて行かれて二人で話し込んでしまっていた。
「……いやぁ、そんな良い大学の教授がお父さんなんて。タケルくんの学力に納得が行きました!今日は彼との面接だったんでしょう?」
「は、はぃ、ま、まぁ……い、いちおう……」
「一応?……なにか、お悩みでもありました?」
10分くらい話し込み、自分の大学の話や息子との関係。妻を先立たれてからは苦労している話。気がつくと往年の友人にすら話していないようなことまで話してしまっていたノブ。
そこでふと今日の予定を聞かれ、自分の夜尿症の相談の事を思い出す。
ーーーーもう、今しかない。これを逃せば、二度と、誰にも言えない……
目の前に居る黒峰という医師は聞けば泌尿器科・精神科でこの医院のトップ医師だという。これだけ話しやすい相手ならばわかってもらえるかもしれない。黙っていてもらえるかもしれない。
そう思い、口を開こうとするが真っ赤な顔でぱくぱくと小さく口を開くしかできない。ノブがそうして固まっていると隣の彼は口元をそっとノブの耳まで寄せてきた。
「……天野さんも、息子さんと同じ悩みをお持ちとか?」
「~~~~っつ……!?!?!」
自分の心の中を、一歩踏み込む前にまるで抱き上げられ引き寄せられてしまったかのように見透かされたノブはぼっ、と火が出そうなほど顔を赤くしていく。わなわな震え、耳をぱたぱたと動かし黒峰医師の言葉を態度で肯定してしまう。
「詳しく、聞かせてくれますか?息子さんにも、聞かれたくないんでしょう……?」
「……は、ぃ……く、黒峰、せんせぃ……」
「ふふ、ジュン。とお呼びください。皆にはそう言われていますので」
そうしてノブは、まるで自分が「おねしょの相談を大人にする子供」に戻ったかのようにジュンに話し、その秘密を暴露してしまっていく。妻以外に知られたことも無かった、何十年もの秘密。それを先程会ったばかりの男にさらけ出してしまったのだ。
すべてを話し、ジュンに肩を撫でられ落ち着いていくノブ。だがそのあと彼に告げられた言葉はまたノブを混乱させる事になる。
「うん、うん……じゃあとりあえず、検査入院してみましょっか。ノブさん!」
「……へ、にゅうい、へっ??じ、ジュン先生??」
ーーーーーーこの十分後、断りきれずに入院を承諾してしまうのだった。
続く