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Aパート


「おっはよー、シンくん!」
「ちっ、チヨせんせぇ……、おはようございます……」

今日も元気よくボクの部屋に入ってきたチヨ先生とは反対に、ボクは「はあぁぁぁ……」と深くため息をついた。

「あれれぇ?どうしたのかな、シンくん。」
「うぅ……、ぼ、ボク、今日も、その……おね、おねしょ……」
「あぁー、本当だねぇ!ふふっ、でもいいでしょう、そのオムツ!この病院の特製オムツだから、夜たくさんオシッコしちゃってもお布団は大丈夫だったでしょう!?」
「で、でもぉ……、うぅ……」

やっぱりちょっと隙間から漏れちゃったみたいで、今日もボクは看護師さんがズボンを持ってきてくれるのを待っていた。……もう毎朝のことだからわかっていたけど、チヨ先生はやっぱりそのタイミングでボクの部屋にわざと来てるんじゃないかなぁ……、もう。

「ふふっ、お布団は汚さなくてよかったねぇ!シンくん。でも、これで今日から『1年生』だよ?」
「にゃっ……!?」

チヨ先生は、ボクの枕元に掛けられたカレンダーに、今日もバツ印を増やしていく。“×”のとなりについた数字は、今日で「16」。一日失敗するたびに1歳ずつ子ども扱いするようにする、というチヨ先生の約束通りなら、ボクは……

「そう、シンくんは今日から“7歳”、『小学校1年生』だね!まぁ、でも……」
「あっ……!」

先生は、部屋の隅に置かれたタンスの上に用意してある今日の着替えを広げてボクに見せると、「ふふーん」と鼻を鳴らして、ニンマリと笑う。

「シンくんは嘘つきだから、お仕置きで昨日からスモッグだけだもんねー!これじゃあ幼稚園児と変わんないかなぁ?」
「う、うぅ……、チヨせんせぇのばかぁ……!!いじわるぅ……!!」

おとつい、先生が部屋に来た時におもらししたのを内緒にしてトイレに行こうと思ったら、先生に見つかってしまって、ボクはウソをついたお仕置きにズボン禁止になってしまった。夜はお腹が冷えるから、と、看護師さんがズボンを履かせてくれるけど。昼間は「しん」っていう名札がついた、幼稚園の子どもたちが着てるのと同じスモッグと、オムツだけ。……これじゃ、恥ずかしくてトイレも行けないよぉ……。それでも、おもらしするのはイヤだから、見つからないようにこっそりトイレまで行くけど……。

「あれぇ?そんな言葉遣いでいいのかなぁ?お仕置きしちゃうぞぉ?」
「あうっ!?ご、ごめんなさい……!!」
「ふふっ、すぐに謝れて偉いよぉ、シンくん」
「むうぅぅ……」

チヨ先生に頭を撫でられて、ボクはむすっ、と頬を膨らませた。こ、子どもじゃないんだから、頭なんか撫でられても、うれしくない……!もう、これ以上お仕置きなんて、何されるかわかんないんだもん……。

「あ、そうだ。今日はこんな本はどうかなぁ?ふふっ、いつもシンくんが読んでるお話だと、こういうのも好きなんじゃない?」
「あっ、ありがとうございます……!」

でも、こんな鬼みたいなチヨ先生だけど、結構優しいところもあって。最近、毎朝本を持ってきてくれる。……最初は絵本なんて、って思ったけど、教材勉強のつもりで読んでたら結構面白くて、暇があるとついつい読んでしまう。ちゃんとボクの好みを考えて選んできてくれるから、実はこれだけは毎日楽しみだったりする。

「ふふー、えらいぞぉシンくん!」
「う、うぅ……、あ、頭、撫でないで、くださいぃ……、はずかしい……」
「ふぅーん?」

チヨ先生はボクが顔を真っ赤にしていると、面白がって余計に頭を撫でてくる。うぅ……、やっぱり嫌いだぁ……、先生のイジワル……。

「でも、あんまり夢中にならないようにねぇ?シンくん、昨日もほとんどトイレに間に合ってないでしょー」
「う……、そ、それは……」
「ほとんどオモラシだったもんねぇー?あんまり昼間もオモラシするんだったら、もう昼間も看護師さんに当ててもらったら?」
「うぅー……、それは、ぜったいイヤです……」
「えー?その方が漏れないし、安心だと思うんだけどなぁ?」
「で、でも……、ぜったい、イヤ……!」

ニヤニヤと笑うチヨ先生に、ボクはぶんぶんと首を振った。べ、別にオムツなんて、自分で看護師さんに新しいの頼めるし、自分ではけるもん……、昼間も夜のオムツと一緒なんて、絶対嫌だ……!

「ふぅーん……、そう」
「ぅ……」

にやり、とチヨ先生が笑う。……チヨ先生がこの顔をする時は、だいたい何かボクの嫌なことを考えてる時だ。すごーく口の端っこが「にっ」と上がって、半目になった瞼の向こうからボクの事を見るんだ。

「じゃあ、看護師さんに一日手伝ってもらわずに過ごせたら、昼間のテープオムツは勘弁してあげようかなぁー?」
「ほ、ホント……!?」
「ふふふ……、でも」

にやっ、と笑ったチヨ先生は、ボクに顔を近づけると、ぴっと立てた人差し指でボクの鼻をつついた。

「もし、看護師さんに手伝ってもらったら……、今日からお昼もテープオムツだからね?シンくん」
「う……、わ、わかりました……」
「じゃ、今日も一日頑張ろうねぇー、シンくん!また来るからねー!ばいばーい」
「はぁーい……」

ブンブンと元気よく手を振って、チヨ先生はボクの部屋から出ていった。……べ、別に、失敗しなきゃいいんだ、うん。失敗しなければ……。先生が出て行って急に不安になったけど、すぐに看護師さんが入ってきちゃったから、もうそれどころじゃなかった。

* * * * *

――その日の昼下がり。

「ふあぁぁぁ……」

お昼ご飯も食べて、トイレも済ませて、ボクはベッドに腰掛けて本を読んでいた。ただ正直、やっぱり入院生活は暇で。いつもなら本を読み終わったら次の本を借りに図書室まで行くんだけど……。

「うぅ……、さすがに、このカッコじゃ……」

トイレぐらいなら、同じフロアにあるからまだいいけど……。図書室は1階だし、外来の横も通らなきゃいけないから、絶対行きたくない……。でも、夜更かしして構うといけないから、ってケータイも取り上げられちゃったし。この部屋、テレビもないし……。かといって、もう一周本を読むのも……。

「はあぁぁぁ、つかれたぁ……」

ずっと本を読んでたから、なんだか目が疲れてしまった。ボクはそのまま、ベッドの上にごろん、と倒れ込むと、腕で顔を覆ってみる。

「ふあぁぁぁぁ……、ねむたい……」

そういえば、うちの保育園はそろそろお昼寝の時間かなぁ……。みんな元気かなぁ……。

「って、いけない……!」

このまま寝ちゃったらオネショしちゃうかも……!?お、起きてなきゃ……!
ボクはいったん身体を起こしてみたけど……。

「でも、さっきトイレ行ったしなぁ……」

オシッコに行きたい気もしないし、さっきからそんなに時間も経ってないし。ちょっと心配しすぎかなぁ……。うん。ちょっとお昼寝するぐらいなら、別に大丈夫かな……?

「……うん、ちょっとだけ。……ちょっとだけなら、……5分ぐらいだけなら、うん」

大丈夫、ちょっと目を休める程度だから、とボクは自分に言い訳をして、ぽすん、とまたベッドに倒れ込んだ。朝替えてもらったシーツはまだいい匂いが残っていて、すぐに瞼が重くなる。

「ちょっと、だけ……、ちょ、っと、だ、け……」


――――――――
――――
――




「しんくん、起きてー!」
「んぇっ?あ、れ?さっくん……?」
「もう、しんくん、保育園じゃないんだから、お昼寝の時間はないよー!」
「あ、そっか……、ごめん……」

あれ?ここ、どこだ?教室……?あ、窓の横、気持ちいなぁ……、暖かい。
あれ?でも、さっくん、こんなに大きかったっけ……?

「ね、しんくん、トイレいこー!」
「あ、うん」

さっくんに手を引かれて、ボクは教室を出た。広い廊下、たくさんの教室。ここは、……小学校?きょろきょろしているボクに、さっくんが笑う。

「どうしたの?しんくん」
「う、ううん、なんでもない!」
「へんなのー!ほら、早くー!休み時間が終わっちゃうよー」
「うんっ」

トイレは階段の前にあって、ボクとさっくんは上履きを脱ぐと、スリッパをはいて、タイルの床を歩く。二人で並んで便器の前に立つと、ズボンのチャックを開けて。

「ふふーん、しんくん、まだズボンそんなに下げてるのー?」
「うー、だって、さっくんみたいにうまくできないんだもん……」
「れんしゅーだよ、れんしゅー!」

ボクはちんちんの下までズボンを下げてるのに、さっくんはチャックの間からちんちんを出してて、なんかちょっとオトナな感じがした。

「じゃ、せーの、」

じゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ…………

「ふあぁぁぁぁ……」
「しんくん、いっぱい出るねぇ……!そんなにガマンしてたの?」
「うーん、たくさん出る……!」

ボクとさっくん、二人分のオシッコの音がトイレの中に響く。さっくんの方はすぐ止まったけど、ボクの方はまだまだで。さっくんはさっさとズボンの中にちんちんをしまったのに、ボクはまだお尻が丸出しのままだった。

「えへへー、しんくんまだぁー?」
「ま、まってぇ……、もう少し……!」

やっと勢いがなくなったオシッコは、びゅっ、びゅっ、と最後にちょっとだけ勢いよく飛び出して。ボクはぶるっ、とお尻を震わせた。慌ててパンツとズボンを上げると、ボクはさっくんが待っている手洗い場までパタパタと歩く。

「ごめんね、おまたせぇ……」
「んふふー、大丈夫だよぉー!ほら、教室戻ろー!チヨ先生も待ってるよー!」
「う、うんっ!」

あれ?チヨ先生……?チヨ先生って……




「はっ!?」

ボクは慌てて飛び起きると、パッと時計を見た。5分だけ、と思っていたのに、もう1時間ぐらい過ぎていて、冬の早い日はすでに傾きかけて、オレンジ色の光が窓から差し込んでいた。

「し、しまった……!?」

あんな夢を見たせいか、ボクのオムツはぐっちょりと濡れていて。真ん中の交換ラインがしっかりと浮き出ているばかりか、お尻の方までしっかりとたぷたぷになっているのが分かった。いや、それだけじゃなくて……

「そ、そんなぁ……」

いっぺんにたくさん出たのか、背中から漏れたオシッコでスモッグはべちゃべちゃ。せっかく朝替えてもらったシーツも黄色くなってて、それも結構大変なことになっちゃってて。

「や、やっちゃったぁ……、どうしよう……!!?」

ボクは両手を握りしめて口に当てると、きょろきょろと周りを見渡した。でも、替えのオムツは貰わないと無いし、スモッグも、それにシーツだって……

「あわわわ……っ!か、看護師さん呼ばなきゃ……!!」

で、でも、そうしたら、ボクは……!?

「う、うぅ……、や、だめ、おひるも、てーぷは、やだぁ……!?うぅ……!!」

し、しかた、ない。看護師さんに、替えのオムツと、スモッグを貰って、シーツも……

コンコンコン。

「シンくーん、入るねー」
「んにゃっ!!?」

ノックと一緒に、今日の受け持ちの看護師さんが部屋に入ってくる。ボクは慌てて布団をぎゅっと掴むと、頭まですっぽりと被った。

「あれ?シンくん、どうしたの?……あらっ!?」
「っ!?」

ボクが恐る恐る布団から顔をのぞかせると、驚いた顔をした看護師さんと目が合った。

「シンくん、オネショしちゃったのー!?それも、おっきな地図ー!!」
「ふ、ふぇっ……!?」
「もー、教えてくれなきゃダメじゃないですかーっ!すぐに替えのシーツ持ってきますねーっ!」
「だ、だめぇっ!まって……っ!!」

慌てて布団から出てももう遅くて。ぴゅーっ、と風のように部屋から飛び出した看護師さんがバタバタと走っていく音が聞こえる。

「そ、そんなぁ……、うぅ……」


* * * * *

「じゃあ、約束通り、お昼もテープだからね?」
「うぅ……、はい……」

看護師さんに呼ばれて様子を見に来たチヨ先生は、手に持ったテープおむつをひらひらと振って、ニヤリと笑った。

「それにぃ……、看護師さんが来たとき、オネショ隠そうとしたんだってぇ……?いけないなぁ、そんな悪い子にはお仕置きしないといけないねぇ……?」
「うぇ……、お、おしおきぃ……!?」

チヨ先生は「ふっふっふ……」と不気味な笑いをすると、床にぺたんと座ったボクの顔を覗き込む。

「どんなお仕置きがいいかなぁ……?」
「う、うぅ……」
「あ、そうだ」

にやっ、と笑ったチヨ先生は、シーツが剥がされた布団を指さすと、ボクに言った。

「そーだ、シンくんにお布団を干してもらおうかなぁ?外に!」
「え゛っ!?」
「ほら、冬はすぐ日が暮れちゃうから、早く干さないと乾かないよぉ……?」
「そ、そんなぁ……!?」

ニンマリと笑ったチヨ先生に見下ろされて、ボクは顔を真っ赤にした。だって、ボクの部屋は中庭からよく見えるし、こんなところに干したら、みんなに見られちゃう……!!

「ふぅーん、まぁ、シンくんが今夜もつめたぁーいお布団で寝たいって言うならいいんだけどねぇ?どうするぅ?」
「う、うぅ……」

半目になったチヨ先生は、ボクの顔を覗き込むと、じっと見つめてくる。……うぅ、そんな事言われたら……、うぅ……。

「わ、わかりましたぁ……、ぐずっ、干しますぅ……、うぅ……」
「ふふっ、いい子だねぇ、シンくん。ほら、あそこに掛けるんだよぉ?」
「う、うぅ……」

ボクは床から立ち上がると、敷布団を抱えた。生乾きの敷布団は、オシッコの臭いがぷんっ、として、ボクは思わず涙目になる。チヨ先生が見ている前で、まだ替えてないオムツのままで。ボクはベランダに出ると、布団をベランダの壁に引っ掛けた。

「よくできましたねぇー、えらいよぉ、シンくん!」
「う、うぅ……」
「ほら、オムツ替えてあげるからねー」
「や、やぁ……!?せ、せんせぇがやるのっ!?」
「んじゃ、看護師さんがいいのかなぁ?ふふっ、今日の受け持ちの看護師さん、可愛いもんねぇ?」
「や、やぁ……!うぅ、じ、じぶんで……!!」
「そうやって言って、ちゃんと付けれなくて昨日の朝お布団汚したのは誰だったかなぁ?ちゃんと当てないと、またどっか汚しちゃうかもよぉ?そうしたら、またお仕置きだねぇ……!?次はどうしようかなぁ?」
「う、うぅ……、せんせぇ、イジワル……」

何も言い返せなくなったボクは、むすっ、と顔をしかめると、スモッグの裾を握りしめた。でも、背中は冷たいし、オムツは気持ち悪いし。正直、早いとこ替えてほしかったり……。

「で、シンくんどうするのかなぁ?ボクがいい?看護師さんがいい?」
「う……、せ、せんせぇ、お、おねがい、しま、す……」

ぐずっ、と鼻水をすすると、チヨ先生はニンマリと笑って、ボクを手招きする。しぶしぶボクが先生に近付くと、先生はボクのスモッグに手を掛ける。

「ばんざーい」
「うぇっぷ!?」

ずるっ、と、ボクからスモッグを脱がせると、先生はボクの前で膝をついた。

「ふふふっ、たくさん出たねぇ?オムツたぷたぷになってるよぉ?」
「う、うぅ……、せんせぇ、はやくしてぇ……!」
「はいはい、シンくんはせっかちだなぁ?ほら、オムツ外すよぉー」

チヨ先生はオムツのサイドステッチを破くと、ボクの股の間からびろびろになったオムツを抜き去った。まだオシッコがついてるボクのアソコの先をオムツで軽く拭くと、チヨ先生はタオルでボクの股を拭きとっていく。

「ほら、シンくん、おまた開いてー」
「う、うぅ……」

先生の言う通りに股を開くと、先生は大きく広げたオムツを股の間に当てがって、順番にテープを留めていく。ぴったりとボクのお腹の周りを包んだオムツ。

「ふふっ、シンくん、オムツがよく似合うねぇ?」
「は、はずかしいよぉ、せんせぇ……!!服ちょうだい……!!」
「はいはい、どーぞ」
「う……」

被れるように先生が広げたスモッグを見て、ボクはまた顔を真っ赤にする。

「じ、じぶんで……!!」
「ふぅーん……?」
「う、うぅ……」

チヨ先生の目が、また半目になる。ボクは怖くなって、素直に先生が出しているスモッグの中に腕を通した。

「ふふっ、ほら、ばんざーい」
「うー……」

すぽんっ、と頭が抜けて、チヨ先生の顔が見える。にんまりと笑った先生の顔を見て、ボクの顔はまた真っ赤になっていく。

「じゃあ、トイレに行きたくなったら看護師さんを呼ぶんだよー?オムツ、ひとりじゃ外せないからねぇ?」
「う、うぅ……、わ、わかりましたぁ……」

とうとう自由にトイレにも行けなくなってしまったボクは、ひらひらと手を振って出ていく先生の背中を涙目で見送って、「はあぁぁぁ……」と大きくため息をつくのだった。

ーーーーーーーーーーーーーー
Bパート


「か、かんごし、さん……っ!!お、オシッコぉ……っ!!」
『もうちょっとで行くから、待っててねー』

――その2日後。
本を読んでいたボクはトイレに行きたくなって、ナースコールを押した。小さなスピーカーの向こうから今日の受け持ちの看護師さんの声がして、ブツッ、と音が切れる。

「ちょっとって、いつぅ……!?」

看護師さんたちも忙しい。それはわかってる、わかってるんだけど……。トイレに行きたくなるとあんまりガマンもしていられなくて、ボクは音の切れたナースコールを恨めしく見ながら、オムツの前側を押さえた。さっき替えてもらったばっかりだし、出来れば失敗はしたくないところ。早く、看護師さん来てくれないかなぁ……。ボクの枕元にあるカレンダーには、18コのバツ印と、チヨ先生が持ってきたネコのぬいぐるみ。もう5歳扱いになってしまったボクに、昨日先生が持ってきたんだ。夜一人で寝れるようにって。

「うぅ……、くうぅ……!」

子どもじゃないのに……!そう、ボクは心の中で悪態をついたけど、そんな事を言ったってどうせチヨ先生にはからかわれて終わりだからボクはムッと顔をしかめただけだった。だって、昼間もテープのオムツして、看護師さんを呼ばないとトイレも行けないなんて、そんなの……。

「ごめんねー、シンくんお待たせー!トイレ行こっかー!」
「う、うん……!!」

やっと来た看護師さんが、ボクに手を伸ばす。ボクは素直にその手を掴むと、立ち上がるのを手伝ってもらった。看護師さんはそのまま、ボクの手を引いて部屋の外までボクを連れ出してくれる。

「シンくん、まだ我慢できる?」
「う、うぅ……」

でも、ボクの足どりは重くて、中々進めない。先を行く看護師さんも合わせてスピードを遅くしてくれるけど、もう止まってしまいそうで。

「だ、だめ……っ、も、でちゃ……!?」
「えっ!?」

じゅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………

「うっ、うぅ……!!ひぐっ、で、でちゃったぁ……、うぅ……」
「あー、シンくん、ごめんねー。今度は頑張って早く来たつもりだったんだけどなぁー」
「う、うぅ……、ぐすんっ」

まだお部屋を出て10歩も進んでいないのに、結局ボクは『また』廊下でオシッコを漏らしてしまう。溢れちゃったりはしないけど、オシッコをたくさん吸ったオムツはすぐに膨らんで重たくなって。スモッグの下からほとんどおもらししたところが丸見えになっちゃうし、股も開いてないと歩けない。でも、まだお部屋から出れただけいい方で、さっきは他の患者さんのところに看護師さんが行っていたから遅くなっちゃって、我慢ができなくてお部屋の中で漏らしてしまった。

「うーん、とりあえずお部屋に戻ろうか!ごめんね、すぐに替えのオムツ持ってくるからね!」
「うぅ……、は、はいぃ……」

今部屋を出たばかりなのに、ボクはまたお部屋へ逆戻り。ボクはベッドの上にぺたん、と座ると、慌ただしくお部屋から出て行った看護師さんを見送った。


「しんくん、調子はどうかなぁー?」
「うっ!?うぅ……、チヨせんせぇ……!?」

なんでいつもいつも、チヨ先生はこう、『いい』タイミングでボクのところに来るのかなぁ……。

「あれぇ?もしかして、トイレに間に合わなくなっちゃったの?」
「ち、ちがっ……!!こ、これはぁ……、か、かんごし、さんが、く、くるのが、お、おそいからぁ……!!」

ボクはスモッグを精一杯引っ張って、先生からオムツを隠そうとする。でも、前を引っ張ると後ろは丸見えだし、どうせチヨ先生に隠し事なんてすぐにバレてしまうから大して意味もない。それでも、どうしてもこうしてしまうのは、やっぱりチヨ先生に見られるのが恥ずかしいからだ。ボクが顔を真っ赤にしていると、チヨ先生はまた「ふぅーん、」といつもの顔をする。

「いけないなぁ、しんくん。トイレに間に合わないのをひとのせいにしちゃあ。」
「う、うぅ……」

ニンマリと笑ったチヨ先生は、「あ、そうだ、」と急になにかを思いついたように手を打った。……どうしよう、すごく、嫌な予感しかしない。

「じゃあ、しんくん。おまるを使おうか!」
「え゛っ……!?お、おまる……!?」

おまるって、あの、ちっちゃい子が使う、あの“おまる”!?

「だって、トイレに間に合わないんでしょう?ふふっ、用意してあげるから、ちょっと待っててねー」
「えっ!?せ、せんせぇ!?ちょっ」

慌てるボクの事はお構いなしに、チヨ先生は鼻歌を歌いながらボクの部屋から出て行ってしまう。入れ替わりに入ってきた看護師さんが驚いたような顔をしていたから、相当ご機嫌だったみたいだ。

「あ、ごめんねシンくん。お待たせ。じゃあ、オムツ替えようか」
「う、うぅ……は、はい……」

ニッコリと笑った看護師さんにボクはこくん、と頷くと、大人しくベッドの上に転がるのだった。

* * * * *

「ふふふー、しんくんお待たせぇー!」
「う、うげぇ……」

看護師さんと入れ替わりにチヨ先生が持ってきたのは、まごう事なき“おまる”だった。アヒルの形をしたそれは、たしかに子どもが使うおまるとそっくり。だけど、大きさはちゃんとボクぐらいの大人でも使えるぐらいあって。明らかに、ボクのためのおまる、って感じがしてすごく恥ずかしくなる。

「や、やだぁ……!!ぜったい、やだぁ……っ!!」

ボクはブンブンと首を振ったけど、チヨ先生はお構いなしと言わんばかりにそれを「よいしょっ」と部屋の端っこの方に置いて、ニヤリと笑う。

「ふふふ、しんくんが、ちゃーんとトイレに間に合う、っていうなら、別に使わなくてもいいんだよぉ……?」
「う……」
「ま、とりあえず置いとくからねっ!ちゃんとトイレの時は看護師さん呼ぶんだよー!」
「は、はぁい……」
「あと、これ、新しい絵本ね!じゃ」
「あ、ありがとう……」

ニヤニヤと笑って、机の上にまた数冊の本を重ねていったチヨ先生は、白衣のポケットに手を突っ込んでボクの病室から出て行った。

「はぁ……」

広くはない部屋に、それなりに大きさのある白い“おまる”。どう頑張ってもそれはボクの視界に入って、またボクは顔を赤くした。

「……うぅ」

こうしていても恥ずかしいだけだから、ボクはちょうど先生が持ってきてくれた絵本に手を伸ばすと、出来るだけおまるの事を考えないように、また本を読み始めるのだけど……。

「トイレ、行きたい……」

さっきトイレに行ってからそんなに時間は経っていないはずなんだけど、またトイレに行きたくなって。またボクはナースコールに手を伸ばした。

『はーい』
「か、かんごしさん……、と、といれぇ……!」
『はーい、ちょっと待ってねー』

スピーカーの向こう側で、何やらガチャガチャと音がしていたから、今は忙しいのかもしれない。こういつも呼んでしまうのはすごく申し訳ない気がするんだけど、でも行きたくなるものはしょうがない。看護師さんの“ちょっと”を、ボクは股を押さえながら待っていた。

「ごめんね、シンくん!まだ我慢できる?」
「う……、ちょ、ちょっとなら……」

扉の向こうからパタパタと走ってくる音が聞こえる頃には、もうボクの尿意は限界で。ちょっと、と言ってみたものの、とてもじゃないけどトイレには間に合いそうになかった。

「じゃあ、ほら、シンくん!」

看護師さんはボクの顔を覗き込むと、部屋の片隅を指差した。そう、あの、白いやつを。

「おまる使おうか!」
「う、うぅ……!!」
「ほら、立ってー」

看護師さんに両手を引かれて、ボクはよろよろと部屋の隅まで歩いていく。……、う、だめ、思ったよりキツいかも……。

「で、でちゃうよぉ……!」
「あー、待ってねー!すぐ用意するからねっ」

持ってて、と看護師さんに言われて、ボクはスモッグの端っこを掴んでたくし上げる。看護師さんはぱぱっ、とボクのオムツのテープを緩めると、さっ、とそれを股から抜き取った。

ちょろっ

「あっ、シンくん待って!早く座ってっ!」
「あうぅ……!!」

アヒルの頭の横についた棒を慌てて看護師さんに握らされると、ボクはぺたん、とおまるの上にしゃがみこんだ。ひんやりとした、おまるの縁の冷たさがお尻に伝わってくる。部屋の中に響き渡る、プラスチックの容器の中に勢いよく出て行くオシッコの音。

「う、うぅ……、ぐすっ、で、でたぁ……!」
「良かったねぇー、シンくん、間に合って!」
「う、うぅ……、でもぉ……」

――使っちゃった……、おまる……。

大人なはずなのに、ボクのちんちんは、もうすっかり子どもみたいだと、ボクは思った。

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