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BLEACHとリーンの翼を同時期に手掛けたという話の続きです。

リーンの翼はガンダムの富野監督の小説をアニメ化にあたって翻案したものです。ダンバインと世界観を一にする、バイストンウェルという異世界と現代を舞台にした物語です。勿論ダンバインは見ていましたし、自分がアニメーターになりたての頃に、同じくバイストンウェルを舞台にしたガーゼィの翼という作品に動画で参加していましたので、その世界観は知っていました。そのキャラクターデザインを担当できるというのは光栄で、やりがいのあるものでした。

小説が元にあるとはいえ、アニメ用にリニューアルしているのでキャラクターの絵柄もそれに合わせて考え直す必要がありました。そこでデザインのコンセプトを決める役職として、人気イラストレーターのokamaさんが参加していました。okamaさんの描いたデザインをアニメキャラクター設定として拵えるのが私の仕事で、デザインは踏襲するけれど、アニメ用キャラクターとしてどんな頭身でどんな肉付きで…というのを探らなければなりません。最終的なルックを決めるということです。

キャラクターデザインに際して富野監督から言われたことは「10年持つ作品にしなければならない」でした。流行りに流されず色褪せない、普遍性がなければならない。そう解釈しました。

試行錯誤が始まります。当時BLEACHを同時にやっていたのですが、その影響をあまり大きく受けすぎず、程よい影響のコントロールが必要だろうと考えました。というのも、富野演出はフィルム主義だからです。端的にいえば、キャラクターがよく動くことで映像の推進力を担保する演出が特徴です。(これについては別途解説が必要ではありますが…)そういった富野演出向きの芝居をさせることを前提としたキャラクターデザインが良いわけです。

誤解のないように言っておくと、BLEACH のキャラが芝居をつけられないという訳では勿論ありません。アニメとして芝居をつけるための絵の理屈とコマ漫画として魅せるための絵の理屈には違いがあるという意味合いです。具体的に分かり易い例を一つあげるなら、線の量です。アニメーションは1話につき何千枚も絵を描かなくてはいけないわけですから、一枚毎の労力を抑え、コストパフォーマンスが良いキャラクターが望まれるという面があります。アニメBLEACHのキャラクターデザイン時にもそういった要素を鑑みつつの作業になりました。ですので、アニメ版のデザインに原作と少し違う部分、省略している部分があるのはそういうことです。(千年血戦篇ではまた違ったデザインアプローチになっていますが、それのお話は別の機会に。)

少し脱線しますが、週間漫画であるBLEACHも毎週絵を早くたくさん描かなければいけないということもあるからなのか、初めは装飾が多いキャラでもだんだん線が収束していったりもしています。恋次のバイザーや剣八の眼帯などはシンプルなデザインに変わっていっていますね。シンプルになっていながら、デザインとしてはむしろカッコよく洗練されているのがすごいところです。そういう意味ではアニメとしては「助かった!」という気持ちでした。(※リーンの翼の作業時はまだアニメは現世編でしたね。)

そしてまたイラストとしての魅せ方は漫画とも違います。イラストレーターであるokamaさんのデザインは手数が多く、それが魅力となっています。どういう要素を残してどういう部分を省略するか、それでいて元のデザインの魅力をいかに損なわないかが難しいところでした。

そういった塩梅を探りつつ、いくつかの改稿を経て出来上がっていくのですが、キャラクターのベースがだいたい構築できたころ、エイサップのパイロットスーツのデザインを起こすときに富野さんから言われた一言が忘れられないものでした。

そのパイロットスーツは最初、鎧を着ているような、厚みのあるデザインでした。それを見た監督がこう言ったのです。


「安彦スーツでいいのよ。」


安彦スーツ。ガンダムのパイロットスーツのことを指しての言葉です。つまり、宇宙服の機能はあるが、ボディコンシャスなラインでデザインされていて、人体のシルエットの美しさが表現できる、いわば上手く“嘘”をついたデザイン。

富野さんが求めていたのは、リアルと嘘のバランスでした。なるほど、そういえばガーゼィの翼で動画をやった時に見た富野演出指示がそうだった。ファラリオが頭をぶつけるカットでは、ぶつけた瞬間に一枚だけ頭が餅のように潰れた絵を指示していた。そして「これはマンガです」という文字が(ここでいうマンガとは昔のカートゥーンのような意味合い)。カートゥーンではストレッチ&スクウォッシュ、日本でいう伸ばし潰しです。大袈裟に表現することでリアルを超えた異化効果をもたらす。まさにリアルと嘘のバランス。

そこから今作リーンの翼の方向性をしっかり掴むことができたのです。

この「マンガだから」は本編でもいかんなく発揮されます。

自衛隊員の田中がヘルメットを脱ぐカット。ベルトの留め具を取る芝居や、きついヘルメットが引っかかる芝居はさせず、スポッと素早く脱げる。フィルムのテンポを邪魔しない意図があります。さらにそのカットでの演出指示は「これでマンガと分からせる!」です。これぞ富野フィルム、リーンの翼という作品の重要な要素です。

リアルと嘘のバランス。これがリーンの翼のキャラクターデザインをする上で常に考え、普遍性を目指すためのキーワードとなりました。

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