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美術解剖学にある程度詳しくなると、自分ならこんな教科書を書くのにとか、こんな解剖図が欲しい、という気持ちが湧いてきます。理解できた知識は誰かに伝えたくなるものです。それなら作ってみようと思って制作しはじめてみると、結構色々な壁にぶつかります。主な理由は、教材を作るために複合的な知識と技術が必要なためです。SNSで美術解剖学TIPSを掲載しようと考えている方もおられるかと思うので、私が教材を作るにあたって注意している点をいくつか紹介してみます。


・描画技術

描画技術は高いに越したことはありませんが、さほど重要ではありません。どれだけ時間をかけたかも関係ありません。相手に伝わればOKです。教材ではデッサン力より伝達力の方が重視されます。TIPSのように描かれた中心をパッとみて伝えたいことが何かわかるという表現もありますが、解剖図のように鑑賞者が隅々まで見て理解できるような画面全体が情報を持っている表現もあります。


・細部の描き方

筋肉や骨の図を描こうと思っていざ描き始めると、細部がよくわからないことに気が付きます。意識していなかった形や構造に気がつくのです。よくわかっていないのにこうだろうと思って描くと結構間違えます。まずは知らないところを調べたり確認してみましょう。調べないで図や模型を見たとしても、知識が伴っていないとけっこう見落とします。解剖図の場合、解剖用語がついている部位はなんらかの形があるので、ディテールを見てみると良いです。


・図とイラストの違い

解剖図は鑑賞者の主観に任せる作品と違って、解説とセットになった絵です。何らかの意図があって描かれているのですが、その意図は解剖学の知識に基づきます。解剖学の知識は言葉としてまとめられているので、その言葉をどうやって図で示すかが必要になってきます。簡単に言えば言葉で説明することを図で示すにはどうするかを考えてみるといいでしょう。自分の言葉で説明しようとすると、自前の図が必要になります。


・図をアレンジする

解剖図は他の人が描いた解剖図をコピーしているということが結構ありますが、さらに元を辿ると実際の解剖体か、生きているモデルさん、解剖模型などの実物や立体物に基づきます。解剖図をもとに新しい解剖図を描く場合は没後70年をすぎて著作権が切れているものを使用するか、現代的な図をアレンジする場合は、参照元を記載すると良いでしょう。手軽に参照できる実物は模型や生きているモデルさんでしょうか。解剖体に関しては医科大学か歯科大学でしか行えないので、結構手続きが要ります。

立体物を参照しても描けないのであれば、構造の理解が不十分です。骨の立体的な形状、筋肉の厚みや付着部などを再度チェックするか、解剖図や模型をたくさん探すと良いかと思います。


・「描く」と「書く」

美術解剖学の教材の場合、著者は図を描いて、文章を書きます。大抵は図か文章のどちらかが得意であることが多く、両方バランスのよい教科書や教材というのはなかなか見かけません。図が得意で文章が苦手な場合、文章は短くても良いですが何を示しているか説明を加えた方が鑑賞者との齟齬が少なくてすみます。


・記載の順番

解剖学の教科書は、部位の解説がなるべく行ったり来たりしないように編集されています。肩、手首、肘の順に解説するよりは、肩、手首、肘のように上から下に連続して並んでいた方が、位置関係をイメージしやすいのと、後から参照するときにも探しやすくて便利です。基本的に解剖学の構造は中枢(胸の高さの背骨)から末梢(頭頂、顎先、指先)に向かって解説が進みます。このほかに頭側〜尾側、深層〜表層、上〜下といった順番もあります。こうした順番を決めておくと掲載する順番の交通整理ができます。主な記載方法は、骨や筋肉など組織ごとに分けて解説する系統解剖学と、部位ごとの骨や筋肉を一度に解説する局所解剖学があります。


・実用性と専門性のバランス

実用性という言葉は結構広い範囲を含んでいますが、言い換えてみると「その図がどれだけ理解されるか」のように思います。多くの人に理解され、なおかつ喜ばれる図は実用性が高いと言えます。反対に少数の人に喜ばれるケースもありますが、喜んでくれた方には実用性があるものの、多くの人にとって専門性が高くなります。実用性と専門性のバランスを考慮すると良いでしょう。

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