Home Artists Posts Import Register

Content


電車やカフェで街の人をスケッチしたり、人の絵を模写して技術を盗んでいくなど、見方を変えると世間体を無視した野蛮な行為です。

もちろん、人に迷惑をかけてしまうと本当に野蛮になってしまいますが、個人の研鑽の範疇であれば問題ないでしょう。


解剖学ではしばしば周囲の人から野蛮に見えていたのではないかというエピソードがあります。


ルネサンスの頃に活躍した解剖学者アンドレアス・ヴェサリウスは自らの手で執刀して人体解剖を行ないました。

今日では解剖学者や医師、医学生が自分の手で解剖することは普通です。しかし当時、遺体に触れることは身分の低い行為とみなされ、解剖学者は直接執刀して解剖することはなく、教科書を読み上げるのみでした。

解剖学者は代わりに使用人のような身分の低い人物に指示を出して解剖させていました。

ヴェサリウスは自分の目と手で確認をしないのはおかしいとして、自ら解剖し、さらには今日の解剖学書の礎となる『ファブリカ』という立派な図版付きの教科書を執筆しました。

教科書に解剖図を掲載するというアイデアも、観察と知識を照らし合わせて描かれた解剖図もそれ以前の解剖学書にはなかったのです。

当時の解剖学の権威たちは遺体に触れることは卑しい行為だと考えていたので、ヴェサリウスが野蛮に見えていたでしょう。

現代の私からすると、自分の目と手で確認する行為はすごくまともなことのように思います。

他の国の風習を見て信じられない思いがすることがありますが、それと似ているかもしれません。


これまで、いろいろなクリエイターさんに教えてきましたが、こうした世間体を気にしない行動ができるかどうかで、上達に差があると感じたことがあります。

躊躇せずどんどん進んでいく人は上達します。

例えば、こうした方がいいとか、これは便利だよと聞いた時に、躊躇する人は反射的に行動しないための言い訳が出ます。



一番ポピュラーなのは、教科書を読んだらと言った時に、美術解剖学の教科書は高いという意見でしょうか。

どのような書籍と価格を比較しているかわかりませんが、繰り返し参照したり勉強できる情報量を考えると、私は安いと思います。

家の人に変な目で見られるのを懸念して買えないという方や、家では読めるけど外では読めないという方もおられますが、もし世間体を気にして買えないのであれば、上達にとってはマイナスになっていることを頭の片隅に入れておくと良いかと思います。


次に多いのは模型についてです。家に骨格模型とか筋肉模型があるとちょっとした時に確認しやすいですよ、と紹介すると書籍よりも反感が出ます。

例えば骨格模型は置き場のスペースをとるうえ、価格も高価、家人からも目立ってしまうので書籍より強い反応が出るのかもしれません。

この場合の言い訳は「家に解剖模型があると怖い」「夜中に動いたらどうする」です。

野蛮な私からすると、「自分の中にもあるものがなんで怖いのか」「夜中に動いたら観察した方がいい(今の所動作中の内部構造を観察できる環境が少ないため)」です。

これも生活と合わせて購入する必要があるので、無理強いはしません。


講習会や有料の動画教材など。これも価格が高いという意見が多いです。

美術大学の学費を考えると妥当な額かなと感じますが、運営費などで書籍よりも高額である場合が多いです。

本を読むのが苦手な人でも視聴しながら理解できるし、読書よりも時間をかけずに一通り学べます。


最後に、これは最近は言わなくなったんですが、以前は「実際に医学部で人体解剖を体験するのが一番理解が進むよ」と言っていました。

これは私の経験からくる事実なのですが、大多数の人から反感を買う上に、学習している方は美術作品の専門家になるわけではないので言わなくなりました。

これを否定する理由として、「人体解剖は医者だけが行える、美術の人間が解剖を行ってはいけない」と言われたこともあります。

これは正確には「系統解剖は、医学部または歯学部の併設された大学で、解剖学講座の教授または准教授の指導の下、解剖実習室でのみ行える」です。

ですので解剖学講座の教授か准教授の許可と指導があれば、美術の人間でも人体解剖を行えます。

もちろん現代のアーティストにとって解剖体験が必要かどうかと言われると、教材や授業で十分な人の方が多いですし、解剖することには他者の生命や倫理に対する覚悟や責任も伴います。


まとめると、世間体を気にすると行動しないための言い訳が出るという教訓が得られます。

ここであげた例は、実行しろという意味で書いたわけではありません。

物事を追求したり上達させるには、人から見たら野蛮な行動をすることも大事な要素かなと思います(重ねて言いますが、他人に迷惑をかける行為はダメです)。


ちなみに美術解剖学の本を外で読んだり、家に何体も骨格標本がある世間体からズレた私ですが、うわべの付き合いが減ったのか、他人に無理して相手をする必要がなくなったように思います。

Files

Comments

No comments found for this post.