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美術解剖学だけに限ったことではないですが、相手の需要を読むのは結構難しいです。私は、さまざまな要望に応えるかたちで書籍用の図を描いていますが、実際に図を作り始めるとそこまで反応がよくないこともしばしばあります。元々要求している人口が少ないのか、私の図が要求されているイメージと外れているのか、またはそのどちらもかもしれません。でも、実際に本としてリリースされた時の反応は分からないし、いつか需要が出てくるかもしれないのでとりあえず続けています。


ほかにも何人かの受講者さんからの要望に応じて講習会の内容を組み立てて開催したことがありましたが、あまり集まらなかったことがあります。もちろん、その受講者さんの要望に応えられたことは大成功です。しかし、世間のニーズとズレた時は運営費が捻出できなかったりしてその後が続きません。仕事としては結構なリスクを伴います。


熱意がある要望は、必ずしも世間の要望とは一致していません。むしろ、世の中にないから要望が出てくるし、世の中にないということは、今は仕事として採算が取れない可能性が高い。世の中にないものを作るには、こうした採算をどうするのかという問題がつきまといます。世の中の成功したコンテンツはすごいなと思います。


これまで、美術学校や美術予備校で学生さんを教えてきましたが、大学を出てから作品を作らなくなってしまった人が何人もいます。作品を作らなくなってしまった人は、センスがなかった(=世間のニーズと自分のニーズ合っていなかった)と感想を漏らす人が多かったです。自分の作品があまり認められず、収入も得られず、じわじわと表現活動に対する意欲が削がれていったのかもしれません。


世間から認められなくても趣味で作ればいいじゃないと思われるかもしれませんが、趣味で作り続けている人もわずかに思います。仕事で手一杯になって作れないか、いつか作ると言って全然作らない。趣味なので人に見せるものではない、という意見もありますが、地道に作っている人は作品を公開しているように思います。他人から褒めてもらいたかったり、改善点を聞きたいというポジティブな意欲を持っているからです。仕事で作品を作ることと趣味で作品を作ることの違いは、大きくは営利か非営利かの違いで、その差はわずかに思います。


私が見ている範囲の学生さんは、「自分のやりたいことで世間に認められる」というサクセスストーリーを想像している人が多いように思います。確かにそういう成功をされた方もおられますが、宝くじに当選するようなレアケースです。わたしも最初は、世間が自分に歩み寄ってくるという期待を持っていましたが、今はそういう期待を持たなくなりました。


生物の勉強をしていると、生物全般が周囲の環境に適応することによって生き残っていることを知ります。まず世界があって、そこに自分が配置される感じでしょうか。世界の方は歩み寄ってきません。天候や日没など個人の力ではどうにもならないことがほとんどです。自分の意志でコントロールできるのは、個人でできる範囲、生活リズムくらいでしょうか。マインドコントロールのように他人を操ることもできるかもしれませんが、相手にとってよい結果を生むかわかりません。なので、自分の方が世界や世間に歩み寄るという方向にシフトしました。


私はありがたいことにこの歳まで教科書の執筆やイラスト制作などで制作を続けられています。毎日のように続けられているのは、やってみたいことがたくさんあったからかな、と思います。たくさんやりたいことがあって、それらをこなしていると、うまくできたり、できなかったりして世の中との擦り合わせができていきます。世間のニーズとズレてしまった場合、やってみたいことのうちの一つがうまくいかなかっただけなので、他のことをやったり、新しい企画を考えたりすればよいのです。


私は元々ファッションデザイナーを目指していました。しかし、今はそれほどファッションデザイナーになりたいという熱意がありません。グラフィックデザインを勉強していた頃は公共機関のピクトグラムやサインを作る仕事もいいなと思っていました。それらの選択肢は私にとってうまく仕事の縁ができなかった対象の一つでしかありません。うまく縁ができないと大抵のことは熱意がゆるやかに失せていきます。


なにかを作ってみたいというアイデアは、習慣によって増やすことができます。普段からいろいろな案を考えて目標達成までの道のりを組み立てていく。最初は思い通りにイメージできませんが、何度も考えているうちに、だんだんと日常の中でアイデアや方法を探すようになります。たくさんアイデアのネタが増えてくると、予想外のところでアイデアがつながったり、新しい解決方法に気がついたりします。


斬新なアイデアを想像しやすいのは20代くらいです。その後は新しいことを取り入れるスピードが衰えて、斬新なアイデアが出にくくなります。その反面で、20代の頃はアイデアを実現させる解決策がわからないことが多いですが、歳を重ねると経験が増えて、解決方法に気がついたりします。アイデアはできるだけ早いうちにストックしておいてできそうなものから実現させていくか、いろいろな実務経験を積んで未解決なものを解決していくと、創作活動を続けやすくなると思います。


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