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美術解剖学の最も身近な実物の資料は自分の体です。骨や筋肉を触って確認したり、動かしてみたり鏡で確認することもできます。美術解剖学が自分の体の発見につながっていることは、学習している人の多くが感じることではないでしょうか。筋トレをしたり、怪我をした部位が何かわかったりします。

 私の場合は、自分の体の中に自然の精妙な構造が入っていることを知って、徹夜などの無理な制作をすることをやめました。人体は素晴らしいと思えるようになったら、自分も考えの違う他人も等しく素晴らしい人体を持っていることに気がつくと思います。この人体の再発見は、制作の姿勢にもつながっていきます。

 作品の制作は自分の体の動作によって行われています。したがって、制作の良し悪しは体調にかなり左右されます。画力を向上させる前に自分の体調が良くなければ、トレーニングの効果も低下します。

 学業や仕事を含む社会生活は、自分のペースで出来ないことがほとんどです。いろんな人が関わって、期限があって、足並みを揃えていかなければなりません。無理な制作のスケジュールをこなさねばならないこともあると思います。そういう時は体の仕組みに従うと負荷を減らすことができますし、体の仕組みに従わないと不調をきたすことが体験できるかと思います。


規則正しい睡眠

 夜行性の動物には目の奥に反射板(タペータム)という構造があります。ネコなどを夜道で見かけると目に入った光がグリーンに反射しているのをみたことがあるのではないでしょうか。暗いところでも効率よく光を取り入れることができる構造なのですが、人間にはありません。なので昼行性に体内時間を合わせた方が人体の構造的な理にかなっています。

 寝起きから1時間くらいの状態は、疲労が回復しているのと、睡眠時に思考が整理される関係で頭の回転が最も早くなります。試しに寝起きと就寝前にドローイングや日記を描いて比較してみると良いでしょう。寝起きが悪い場合は、偏った食生活や飲酒などが影響しているので、栄養面の見直しをしてみると改善できるかと思います。


集中力のための気分転換

 作業を続けたり、考え事をするとだんだんと集中力が低下していきます。そうした状態で作業を続けても作業効率は戻ってきません。集中力を回復させるには、以下のようなものがあります。くたびれたと思ったら作業の合間に挟んでみてください。


・別の作業をする

・運動をする

・散歩に出かける

・見晴らしのよい景色を見る

・飲食をする

・入浴する

・仮眠、睡眠をとる

など


 この中で睡眠のみが実質的な体力回復を行なってます。睡眠以外以外は、行動や運動で全身の血行を良くして体を目覚めさせる感じなので疲労は蓄積しますが、続けているとやがて体力ができて順応できるようになります。

 娯楽なども気分転換には良いですが、多くの場合で時間と意識が取られるように作られているので、作業時間の捻出には向いてません。しかし娯楽が自分の仕事につながっている場合は、勉強や取材という面でプラスになる事があります。


機嫌の良し悪し

 世の中には多産な作家さんが居ますが、どの方も共通して若い頃から体力があるように思います。元気な人です。

 元気な状態で制作した作品と、具合が悪い状態で作った作品は、作品に対する納得も違います。具合が悪い時には、あらゆる事が楽しめない、あるいは楽しみにくくなります。何をやっても機嫌が悪いので、そうした状態で制作された作品もおそらく楽しんで作れていないことでしょう。

 そうはいっても、元々虚弱だったという方は、スポーツや筋トレなどで体を動かす習慣をつけてみましょう。習慣を作るまでには時間がかかりますが、慣れるまで運動を続けてみると良いかと思います。運動は身体中の組織に栄養を届ける効果があり、筋トレの食事メニューで重宝されるタンパク質は、脳内物質の不足によるうつ状態を防いでくれたりします。いわゆる「脳筋(脳まで筋肉)」の人たちを見ていると機嫌が良さそうに見えないでしょうか。


体に障がいがある場合

 障がいがあって一般的な日常生活を送ることができない方もおられます。芸術家の中にも障がいを持っておられるケースがしばしばあります。

 画家のアンリ・マティス(1869-1954)は、晩年に体力の低下に伴ってそれまでメインにしていた油彩画を捨て、表現を切り絵に転向させました。『カット・アウト』と呼ばれる軽やかな作品群は、現在でも年齢や性別を超えて親しまれています。

 彫刻家の舟越保武(1921-2002)は、子供を失ってクリスチャンとなり、晩年に脳梗塞によって利き手が使えなくなりました。それでも制作を続け、キリストの首像などを制作していました。全盛期の滑らかな形が全く失われた荒削りな造形なのに、作品は心に響くものがあります。これら場合は、ただ作りたいという純粋な気持ちが作品から垣間見えるからかもしれません。

 マティスも舟越も自分のそれまでの制作方針を変え、できることに徹したことがポイントではないでしょうか。

 障がいについては日常生活に支障がないものから介助を必要とするものまで様々ですが、それぞれでできることを探るのが良いように思います。


制作する体を作る

 まとめると、人間の生命維持に必要なのは「食事」「運動」「睡眠」です。


・食事:生命維持に必要な栄養を取り込む

・運動:血流を良くして体組織に栄養を届け、老廃物を排出させる

・睡眠:脳(思考)を整理したり体のリズムを整える


 これらに逆らうと体の機能が低下していきます。しかし、生活のために仕事などを優先してしまう状況では、体調優先で生活ができなくなってしまいます。自分の体にどんな方法が合っているのかはそれぞれ違うので、自分で色々試して確認しながら生活習慣を築く必要がありますが、基本的には体の仕組みに逆らわない事が良い体調=制作につながっています。自分の体の重要さに気がついたら、日常生活の見直しをおこなってみると良いでしょう。

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