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・他者に有益な内容を投稿する

・できるだけ毎日更新する

・継続して、なおかつ評価が増えると仕事につながる場合がある


美術解剖学を教えるために始めたのはSNSでした。勉強したことや知識を公開できて、初期費用もかかりません。美術向けのコツを紹介しているアカウントもあって、イラストによる作例も出ています。教員は学生に教えることで学びを最適化していきます。これなら私にとっても美術解剖学を必要とする人にとっても良いし、私でも無理なくできると思ったのです。

 SNSは一般的には友人や好きなアーティストと繋がるためのツールだと思います。私も以前は自分の個人的な呟きを書く場所として使用していました。SNSは個人の書き込みを投稿する場ですが、同時に公共の場で、個人的な意見を話しても身内以外には通じません。個人的な意見でも感傷に浸ると身内にも通じません。これは「学生の作品展示」に似ているなと思いました。

 美術学校の学生の頃、ギャラリーを借りてグループ展示を何度かしていました。会期中に会場に在廊するのですが、ポツポツとお客さんが来てはサーっと出ていきます。こんなに考え抜いて作った作品なのになぜ興味を持たれないのだろうと感じていました。今考えれば、俺の感性を見てくれ、と独りよがりな感情や思考の表出をしたところで、なかなか見てもらえないのは当然のことかと思います。

 アーティストの中には自分のスタイルで世間から認められる方もいますが、私の場合は自分のことをやっても世間ウケが良くありませんでした。ですので、自分のスタイルにあまり頓着がありません。通じないものを繰り返していてもしょうがないとさっさと方針を変えて、美術解剖学を教えるためのSNSを始めることにしました。

 最初は、自分で調べたことを掲載することにしました。当時は美術解剖学の歴史を調べていたので、歴史の資料から面白いと思ったものを掲載していました。今考えればかなりマニアックな内容ですが、新しいことを始めるには時間も費用もかかります。手持ちのカードで活動して、少しずつ新しいことを追加していくほうが現実的です。

 毎日掲載を続けていくと、反応が良いものと悪いものが出てきました。おそらくですが、個人的な意見になると評価は下がり、目にした人にとって有益な知識、あるいは見事な作品だと評価が上がります。続けていると、人が好意的に見てくれる内容とそうでない内容がなんとなく見当がつくようになります。

 それと、言葉だけではなくなるべくイラストを添えることも心がけていました。美術向けなので、言葉よりも視覚的な情報が大事だと思ったためです。一年くらい繰り返していると、フォロワーさんも増えてきて、仕事の依頼も出てきました。

 ボーンデジタルさんの講習会もその頃に始まったものです。当時は私のTwitterのフォロワーさんが1000人くらいでしたから、かなり早い段階でお声がけいただいたことになります。それ以前に紹介していた歴史のマニアックな投稿で「専門的な知識がある」と思ってもらえたのかもしれません。

 SNS経由で始まった講習会ですが、社会人向けの美術解剖学の授業が少なかったのもあって、好意的に受け入れられました。授業は図に書き込みながら勉強していくスタイルを採用しました。この授業方式は、私が芸大で勉強していた頃に、アーティスト向けにはこの方が良いと思っていた授業スタイルで、現在は京都芸術大学さんの通信教育の授業や、Colosoさんの動画教材のベースになっています。

 同時期に、自分で描いた教材用のイラストも掲載するようになりました。美術系の学生さんはあまりお金がありません。講習会に参加できるのは、社会人が多いので、講習会に来れない方々が勉強できるようにと考えたためです。文字数が足りないので、解説は講習会や書籍のみでの紹介になっていますが、目にするだけでも学習効果があるかな、と思っています。

 ほぼ毎日イラストを投稿するのは慣れるまで大変ですが、続けていると書籍の依頼も入るようになりました。最初に出版された『スケッチで学ぶ美術解剖学』(玄光社)も、SNSの画像を集めて、足りないイラストを追加してまとめた本です。その後も投稿を続けていくと、こうしてみようかな、ああしてみようかなというアイデアが湧いてきて、2冊目、3冊目の本に繋がっています。

 私の場合ですが、手を動かしながらアイデアを考えた方が、アイデアが実現しやすいように思います。頭の中で考えたアイデアは、実際に制作してみると予想していなかった問題点が出てきてつまずきます。手を動かしながら出たアイデアでも問題点は出てきますが、すでに問題解決のための準備が整っていて、対応できることが多い。手を動かすのはアイデアを実現させるためでもあるのです。


 今回は活動しながら勉強していくという私の経験を紹介しました。とにかく制作の傍らに学びを入れておくと、ゆっくりですが、成長していくように思います。

 それでも手を動かすのが億劫な方。人生のうち作品を作ることができる時間は限られています。50歳くらいになったら頭の回転も衰え、新しい世代に通用しにくくなります。たとえば20代だとしてまだ20年以上あるだろうと思っていても、1/3は睡眠で削られ、1/3は仕事、残りの1/3で家事や日常のルーティンをこなすと時間はどれだけ残っているでしょうか。生涯で製作できる時間は本当にわずかなのです。



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