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きっかけはいくつかありますが、いちばん大きな要因は日本の美術解剖学を取り巻く状況をどうにか底上げできないかと思ったためです。

 正直なところ、日本は美術解剖学の教育水準が海外に比べて見劣りしています。おそらく指導できる教員の人口が少ないことも要因の一つになっています。ここでは少し個人的な感想を交えて書きます。

 海外の現場では、アナトミー(解剖学のこと)をよく勉強しているなと感じます。以前、『PIXERのひみつ展』に行きました。私はピクサーやディズニー、任天堂など、多くの人に愛されている造形が好きです。美術解剖学も多くの人に楽しんでもらいたいからです。

 『PIXERのひみつ展』では、スタッフルームが写っている映像で、デスクや棚の上に解剖模型が置いてありました。見たところ、アナトミーツールズ(anatomytools.com)の解剖模型で、クリエイターたちが模型を見ながらキャラクターのデザインを検討していました。ピクサーのキャラクターはかなりデフォルメされているのですが、それでも構造を確認しながら作っているという姿勢に尊敬の念を覚えました。

 他にはマーベルコミックスやDCコミックスといったスーパーヒーロー、ヒロインなどの人体表現が美術解剖学とすごくマッチしていて、実際にマーベルやDCで仕事をしたイラストレーターが執筆した美術解剖学の本が出ています。『ソッカの美術解剖学ノート』(オーム社)や『キム・ラッキの人体ドローイング』(オーム社)など日本でも人気の韓国のイラストレーターさんの本です。さらに辿るとバーン・ホガースという『ターザン』を描いたコミックアーティストも美術解剖学に力を入れていました。ホガースは『ダイナミック・アナトミーシリーズ』(日本では絶版)を執筆しています。

 こうした例に比べて日本では美術解剖学が遅れているのかなと感じます。例えば、私が学生として勉強していた頃(2000年から2010年代)、日本で執筆された美術解剖学の教科書のラインナップは海外のものに比べて乏しく、図も見劣りしていました。これは、イラストが描けてなおかつ解剖学を教えることのできる先生がその当時いなかったことを示しています。もしそのような先生がいたら、海外の教科書に見劣りしない書籍を執筆していたはずですが、日本の美術解剖学の教員を調べても、海外に匹敵する教科書を執筆している人はいませんでした。

 私は教員となったからには、教えながら解剖図が描ける知識と描画技術を身につけようと思っていました。その過程で、実技でも使えるような勉強方法を身につけていったように思います。


 SNSではエゴサもしています。皆さんが美術解剖学のどこに興味があるかわからないからです。意見はさまざまなので見ても分かりませんが、頭の片隅で気にしておくということに意味があるのかなと思います。ちまたの意見の中には、「美術解剖学で人体描けるようになりたい」といったポジティブな意見の他に、「美術解剖学は暗記だ」、「解剖学を学ぶと表現が硬くなる」など、なんだか否定的な意見も見かけます。

 ピクサーの例を見ると、かならずしも表現は硬くなっていないし、美術解剖学を覚えて損はない、と私は思います。否定的な意見をつぶやく人はおそらく覚え初めで挫折してしまったのではないでしょうか。

 美術解剖学はレオナルド・ダ・ヴィンチの頃から500年以上更新され続けているので、個人で調査できる内容をはるかに超えています。独学で勉強しようとすると挫折しやすいのも当然のことです。美術解剖学の教員は、学習者が膨大な情報の中で迷子にならないように道案内をします。私もその一人です。

 クリエイターさんは、学科の堅苦しい勉強が苦手なので、自由な風潮の美術を目指したという方が多いと思います。私もそうです。勉強が苦手だったし、勉強ってどうしたらいいのかよくわからなかった。そんな私でも一通り学べたのですから、勉強の方法さえわかれば、美術解剖学をマスターする人が出てもおかしくない。欧米のように美術解剖学を自在に扱える人が出てくれると教える側としても嬉しいし、次の世代により良い教育が残せる天才も現れてくれるのではないか。これが今の私のレベルでも、美術解剖学の勉強方法を書く意味があるのではないかと考えた経緯です。


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