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 ──人で無い存在の跋扈する世界には、多くの場合、様々な“規範”や“法則”を司る者が存在している。

 彼女たちは“女神”と称されることもあるし、“天使”と呼ばれることもある。特定の信仰や伝承に根差す存在では無い為、これらの呼称は正しくもあり、また間違ってもいる。

 どちらにしても、彼女たちは己の担当している領分を粛々と守り、世界の運行が正しく進むようにと尽力をしているのが常だ。

 ……そろそろお約束となりつつあるが、その日に先代魔王の娘と勇者の一族の娘の前に降臨した女神は、年若い上にある種の情熱に憑かれており──いつも通りに“やらかす”前振りはあったのだった。



「──大体、ちょっと昔のことを知ってるから何だって言うのよ! 自分から“昔の女”になりたがるとか、敗北主義者の癖に突っかかって来ないでほしいわね!」

「“昔の女”ではなく“現在進行形女”と思えない辺りが、澪は残念。所詮は家族バフとそのだらしない体で刃更に取り入っているだけ」


 先代魔王ウィルベルトの娘である成瀬澪と、勇者の里の一族である少女・野中柚希は今日も激しい口喧嘩に興じていた。

 二人は澪の義兄であり柚希の幼馴染の東城刃更を巡る恋敵であり、魔力による主従関係を結ぶ契約魔法による彼の“僕”でもある。

 この契約は相互の居場所を感知し、互いの絆を深める事で戦闘力を上げることができるものなのだが、代わりに叛意を抱くと催淫状態に陥ってしまうという、複数人と行うのは倫理に悖るものだ。

 澪の場合は事故に近い形だったが、柚希は……澪の護衛である成瀬万理亜の悪戯もあったとは言え……自分からこの契約を結んでおり、そのこともあって二人は常に下らない理由で口論に発展する関係性にあった。

 ……もっとも、魔王の娘と勇者の一族が口喧嘩で済んでいるというのは、それ自体がある種の平和の肖像的な意味合いもあるのだが。

 しかし、そんな牧歌的な空気も熱を帯びれば爆ぜるもの。二人の喧嘩はヒートアップしていく、やがて自分たちの服を掴み合って引っ張り合うという、びっくりするほど不毛なものへと変わっていく。


「幾ら前から知り合いだからって、あんたは割り込みなんだからね! そういうのをちょっとは弁えなさいよ!」

「澪こそ、家族が自由恋愛に口を出すなんて恥ずかしいこと。お兄ちゃん離れをしたら? このブラコン!」

「──ぱんぱかぱーん! おめでとうございます!」


 いきなり響いた声は、澪にも柚希にも覚えがないものだった。

 二人とも刃更との契約の関係で力は上下するものの、どちらも素の能力に関しては中々の実力者である。そんな二人に一切の気配を悟らせることなく、そこには神々しい気配と、魔の者たちとは対極にある神聖なオーラを放つ、金色の髪と純白の装束を備える美女が立っていた。

 恐らくは澪の仇である枢機院のゾルギアですら、小指で捻りつぶせるほどの圧倒的な力を放つ存在に、思わず澪は尻餅をついてしまい、なんだかんだと面倒見のいい柚希は澪を庇うように前に立つ。


「ああ、なんという尊い光景でしょう! お二人のラブラブ逢瀬を邪魔してしまったかと気にしていましたが、これならば問題なさそうですね!」

「あ、あんた……いえ、あなたは、一体……?」

「神、なの? まさか……」

「エェェクセレントォッ! お二人は私こと、百合の女神リリーティアによって選別されました! 私の目的は、世界を愛と幸せで満たすこと! あなた達の恋心、私が叶えて差し上げます!」

「ゆ、百合の女神……」


 澪はまったくピンと来ていない為、神族が何故魔族である自分を助けるのかと首を傾げているが、恋愛関係においては躊躇のまったくない柚希は、澪を出し抜くように百合の女神の前に立つ。


「私の恋を、先に叶えて!」

「なぁぁぁっ!? あんた、抜け駆けよ! そういう卑怯なことするんだ!? 言いつけるわよ!」

「これで刃更は私に夢中になるから、あなたの言うことなんて聞かない。これで私の完全勝利……これまで遠慮してきたのは、この一発逆転の為だった」

「あんた恋愛ごとで遠慮した事とか、一回もないでしょうが! 空気読むのは遠慮してるって言わないのよ!」

「お二人とも、喧嘩しなくても大丈夫です。お二人の恋はきっちり同時に叶えます! 気持ちもちょうど、釣り合うように調整しますので無問題! 百合の女神は、賢く強い!」


 何故か澪と柚希が取っ組み合っているのを見ながら、懐から取り出した丼に盛られた白米を食べ始める、百合の女神リリーティア。お腹がすいていたのか、それとの人の喧嘩が好きなのだろうか。その満面の笑みは「米が進む!」とばかりに、爛々と輝いていた。


「それって……どちらも、恋人になれるってこと? ウソ、そんなの可能なの?」

「確かに、男女一人ずつでしかお付き合いや結婚出来ないなんて、人間が社会に従って決めた約状に過ぎない。神の世界は、私たちよりも進歩的なのかも」

「それじゃあ、あたしも! あたしも恋を叶えてよ! 柚希と一緒って言うのが、ちょっと不満だけど」

「そんなことを言って、嬉しそうなのが隠しきれてないわ」


 二人は完全に“どちらも刃更の恋人になれる”と勘違いして、リリーティアに恋の成就を願ってしまう。

 世間知らずのところがある澪はまだしも、柚希は“そういう愛のカタチ”があるのも知っているはずなので、これは完全に性急な判断なのだが──望まれたからには、百合の女神はその願いを確実に叶えるのだ。

 ──直後、澪と柚希はいきなりベッドの上へと放り出されていた。澪が尻餅をついて、柚希は立ったままなので、ベッドで跳ねた柚希は澪の方に倒れ込んでしまう。


「きゃっ! ご、ごめ……」

「ひうぅぅぅっ♥」


 寝台以外は何もないのに、不思議と殺風景な印象を受けず、穏やかで満たされたような気持ちが湧いてくる奇妙な空間……そこに甘い嬌声が響いた。

 静か過ぎて不安になるということもなく、何かの快い音律が耳に響いているような気さえする場所で、とくんとくんと澪の心臓の鼓動が柚希に伝わる。

 その心臓のパルスから、何かを読み取ってしまいそうになって、柚希は這うようにして澪から距離を取る。


「ここは私が産み出した“百合空間”! この場でセックスをかませば、二人の愛はエターナルフォースブリザード!(相手は幸せになる) 即座にカップル成立なのです! まあ、いきなりおっぱじめようとするお二人の場合、何も心配いらなさそうですが」

「い、今の違う……! そ、それで、刃更はいつ来るの?」

「バサラ? ……サバラ!」


 大昔のギャグ漫画「まことちゃん」の手遊びの一つ“サバラ”をビシッと突きつけると、何故かリリーティアはもう説明は終わったとばかりに、姿を消してしまう。

 そして、空間に彼女の声だけが響き渡った。


「それでは、私としたことが無粋で中断してしまったので、存分にレズセックス! 同性同士の激しい交尾! まぐわい! レズパコ! ぶちかまして同性婚姻キメてくださいね! 触れあえば触れ合うだけ、体は気持ちよく、心は惹かれ合うように設定してありますので!」

「は……? え……まさか、百合って……ちょっと! 女神! 女神リリーティア!」


 柚希はようやく“百合の女神”の正体と、自分と澪がどんなフィルターを通して誤解されていたかを悟り、大きな声で天井に向かって呼びかける。

 しかし、もうリリーティアが問いかけに応える様子は無く、力の差は歴然なのもよくよく分かっていたので、部屋を破壊して出るという選択肢はそもそも思いつきもしない。


「なんてことなの……あの邪神め! 外出たら尻から手を突っ込んで、奥歯ガタガタ言わせたる!」

「……ねえ、柚希。それって、気持ちいいの?」


 素である関西弁が出てしまい、かなり口汚い罵りを放った柚希だったが、澪の反応が何だか変だった。

 拷問にかけて傷めつけてやるぞ! というスラングに対する反応では無いので振り返ると……そこには荒い息を吐きながら、爛々と恋心を目に燃やしている澪の姿があった。


「ちょ、ちょっとまって……? 澪、あなた……」

「はぁー……はぁー……あたしの体のこと、いろいろ言う癖に……柚希もお尻がムチムチじゃない♥」

「あっ、あぁぁっ♥ や、やめっ……んんっ♥」


 そう、この部屋に来た瞬間に柚希は澪の方へと倒れ込み、彼女の愛らしい顔を尻の下に敷いてしまったのである。

 それはもう……否定のしようなど何所にも無いレベルの“接触”判定であった。

 荒い息に組み付いてきた澪に、尻をぐにぐにと揉まれる柚木の胸に、みるみる内に澪への深い思慕が生まれ始める。というよりも、二人は恋敵ではあっても憎み合っているだけではなく、今は一緒に過ごすことにも前向き程度には友情も芽生えている為……それが深い愛情に変わるのは全く容易なことであった。


「あぁぁっ……落ち着いて、澪……こ、このままじゃ、私たちが結婚してしまうのよ……♥ 結婚……可愛い澪と、おっぱい大きいエッチな澪と結婚……ほぉぉっ……♥ そう、そうじゃなくて! 刃更のことはどうでもいいって言うの!」

「柚希は、あたしよりも刃更の方が好きだって言うの!?」

「な、なんでキレてるの!? そ、それは……」


 既に柚希は「刃更の方が澪より好き」という言葉を口にすることすら出来ない好感度になってしまっており、それをごまかす為に澪のことを突き倒す。そうして覆いかぶさって動きを止めようとするのだが……どこからどう見ても、押し倒して事に及ぼうとしているようにしか見えない。


「こ、この……誘惑するわ、触ってくるわ! 澪、あなたレズなんじゃないの! 私は違うんだから……んんっ! 巻き込まないで!」

「あっ……睫毛、長い……じゃなくて、柚希があたしのこと好きなレズなんでしょ! あたしに矢鱈と絡んでくるし、何よりこんな風に無理やり押し倒して、言いわけが利くレベルじゃないわよ! 言いなさいよ、あたしとエッチなことがしたいレズですって!」

「な、な、な……ウチはレズやない! レズなんは澪の方やもん! このぉぉっ!」


 二人は悪態をつきあい、相手のことをレズだ素直になれと罵りあいながら、互いの胸に触れあい、服を脱いで素肌を寄せ合って、見つめ合ってから口づけを交わす。

 ぐちゅぐちゅと互いの唾液を口内でかき混ぜながら、澪と柚希は内心で「さっさと好きって言え、レズ女♥ 早く自分と付き合いたいって言え♥」と心を一つにしていた。

 互いの秘所はすっかりと濡れてしまっており、下着は用を成さずに脱ぎ捨てられる。二人はギラギラと目を輝かせたままで互いの股間を擦り合わせ、遂に本音を漏らしながらも喧嘩を止めようとしない。


「あぁぁぁっ♥ 柚希のここ、あったかいよぉぉぉっ♥ 気持ちいいっ♥ 好きっ、好きぃぃぃっっ♥ 柚希と一生、レズセックスだけして生きていきたいのっ♥ だから好きって言いなさいよ♥ あたしのこと会いしてるって言って♥ 言えっ♥」

「はぁ、はぁ……♥ こ、こんなに気持ちいいっ♥ 幸せな気持ちになれる行為があるなんてぇぇぇ……♥ も、もう澪への気持ち以外、全部忘れちゃう♥ 澪が私のこと愛してるって言ってくれたら、澪の赤ちゃん産んであげられるのにぃぃっ♥」

「え……ほ、ホントに? あたしの赤ちゃん……柚希との、赤ちゃんっ♥ はぁぁっ……おマ〇コくちゅくちゅさせて♥ 絶対に赤ちゃん産まれちゃうよぉぉ♥ 卵子と卵子がごっつんこして♥ きっと柚希似の可愛い娘が生まれてくるのおっ♥ あ、あたしも柚木の子供産むからぁぁっ♥ い、一緒に本当のこと、言おう♥」

「わ、分かったわ……♥ もうこれ以上、澪への気持ちを隠せない♥ 本当はずっと、一目見た時からこう思ってた気がしてくる♥ 百合の女神はきっかけをくれただけで、私は……♥ ずっと、澪との赤ちゃん産みたいって♥ セックスしたいって思ってたのぉぉっ♥ せ、せーので、言うわよ……♥」

『──愛してるっ♥ んほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ♥ イクぅぅぅぅぅぅぅぅっ♥ 孕むぅぅぅぅぅぅぅぅっ♥』


 ついにレズビアンであることを宣言し、互いへの愛情を吠えた澪と柚希。

 盛大にイッてしまい、互いの愛液があそこの中へと流れ込んだ状態で、澪と柚木はうっとりと頬を寄せ合ってほほ笑む。


「もう、刃更なんてどうでもいいっ♥ 柚希がいたらいいの……あたし、柚希の妹になりたい♥ 妹として、お姉ちゃんと結婚したい♥」

「お、お姉ちゃん……♥ こんな扱いを独占していたなんて、刃更には憎しみしかないわ♥ 結婚しましょう♥ 婦婦として愛し合って♥ お姉ちゃんとしても、甘やかしてあげる……♥」


 その言葉が紡がれた瞬間、光が二人の視界を埋め尽くし──。



「──お姉ちゃーん? 柚希ー?」

「どうしたの、可愛い澪。今、勉強中なんだけど」


 一見するとクールな様子の柚希だが、その手は既に義妹を抱擁する為に大きく広げられており、澪はそこに飛び込んで嬉しそうに胸から腹へと顔を擦り付けた。


「えへへ……ちょっと、寂しくなっちゃったから♥ ここに柚希とあたしの赤ちゃんがいるのねー♥ 結婚前にお姉ちゃん孕ませちゃった♥」

「あなたのお腹にも、私とあなたの娘がいるのよ? まったく、掟通りには何も進まないわね……」


 魔王の娘は勇者の一族の元へと送られて、将来的には結婚することになる乙女と姉妹として過ごす。

 それが古からの勇者と魔王の、平和の為の契約である。

 今代では澪と柚希が姉妹にして婦婦であり、本来ならば子作りは結婚してからが推奨されているのだが、二人は姉妹の間に百合妊娠を終えてしまっていた。

 最初のうちは攻撃的で素直でなく、とてもうまくいかないと思っていた新米姉妹が、今はこうして深い絆と愛情で結ばれているのだ。


「愛してる、柚希……これからもたくさん、魔王の娘を産んでね……♥ あたしの、お嫁さん♥ あたしのお姉ちゃん……♥」

「ええ、愛しているのは澪だけよ……何度生まれ変わっても、世界が変わっても澪だけを愛し、たくさんの魔王を産んであげる……だから、あなたも勇者の血筋を産んでね♥」


 女神の偉大な力による改変など、二人はまるで気にする様子が無い。

 永遠に続く平和の輪廻の中で、新妹魔王と勇者の血族の愛は深まっていく……百合の女神の祝福のままに。

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Comments

rey

私のお願いを聞いてくれてありがとう。 二人の関係は素晴らしいですが、二人を目撃したバサラとマリアはどう思うのでしょうか? 澪と柚木に祝福は与えられるのか?

屋根が高い

リクエストありがとうございました。 最後の場面では、百合の女神によって世界が改変され、澪はバサラとは何の関係もなくなっており(柚希が澪の義理の姉妹にして婚約者になっているので)、柚希も澪一筋のレズビアンに変化しています。 なのでバサラが二人を目撃しても「なんでいきなり昔馴染みのレズ行為を見せられて、感想を求められてるんだ!?」と困惑するだけかと思われます。 マリアについては、恐らく澪と柚希を普通に祝福するのではないでしょうか。 Thank you for your request. In the last scene, the world has been altered by the lily goddess, Mio has no relationship with Basara (since Yuzuki has become Mio's sister-in-law and fiancée), and Yuzuki has also changed into a lesbian who is devoted to Mio. So when Basara witnesses the two of them, he is likely to say, "Why am I suddenly being shown a lesbian act by an old friend and asked to comment on it!" and she would just be puzzled. As for Maria, she will probably congratulate Mio and Yuzuki from the bottom of her heart.