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依頼したはいいものの使う機会が無かった漫画動画用のシナリオです。

ストレージの肥やしにするのも勿体ないのでここで公開します。

シナリオ:タンボ


 私は優子(ゆうこ)。去年、地元のペットショップに就職した社会人一年目だ。

「いらっしゃいませ」

「あの~、このお店のサイトで見たプードルの赤ん坊、まだここにいますか?」

「はい! 抱っこされますか?」

 ずっと憧れていたペットショップの仕事。今はまだわからないことだらけだけど、大好きな動物達と一緒に過ごせる時間が、私にとってはなによりも嬉しくて、苦しい日々も頑張っていられている。

「優子さん、休憩の時間だよ」

「わかりました。この子達のごはんあげ終えたら向かいます」

 彼女はこのお店の店長——里美(さとみ)さん。私が就職する十数年前からこの店舗にいる、ベテラン店長さんだ。

 私とは年がやや離れているけれど、まるで同年代の友人のように接してくれている。

「優子さん。あのお客さんねぇ、あなたの対応褒めてくれてたわよ。誠意がこもっていて嬉しかったって」

「本当ですか⁉ ありがとうございます!」

「お礼言うのは私じゃないでしょ。この調子で頑張っていきましょうね」

「はい!」

 可愛い動物達と、気の合う上司の里美(さとみ)さん。これらの素晴らしい環境に支えられ、私は日々を楽しく生きていた。

 そんなある日のこと、事件は突如として起きる。

「おはようございま……あれ?」

 その日もいつも通り裏口から入店すると、いつもはついているはずの休憩室の電気が消えていて、先に来ているはずの里美さんの姿もなかった。

「里美さん? 里美さんいますか?」

 名前を呼びながら電気をつける。すると私の足元に、まだ生まれて間もない柴犬の赤ちゃんが一匹、倒れていることに気づいた。

「大変! どのケージの子だろう⁉ 大丈夫⁉」

 私はすぐにその子を抱き抱え、店先の方にある医療箱を取りに向かう。

 ——その瞬間

「うっ! な、何……何、これ……」

 休憩室から店先に入った途端、未知の甘い香りが鼻孔をくすぐる。そしていきなり意識が朦朧とし始め、全身の力が抜けていった。

「だ……だ、め…………」

 私はなんとかふんばろうとしたが、結局この謎の匂いに根負けし、抱いていた犬を怪我させぬように抱き抱えながら、その場に倒れ込んだ。

「——さん。優子さん! 優子さんしっかり!」

 あれからどれくらい時間が経ったのだろう。私は聞こえてくる声と体を揺らされた刺激で意識を取り戻し、すぐにあの犬のことを思い出して飛び起きた。

「そうだあの子! あの子は……え?」

 私は絶句した。周りには巨大なケージが大量に並べられ、中からはこれまた巨大な動物達が、心配そうに私を見つめている。私の視線は何故か、動物達と同じ高さにまで落ちてしまっていたのだ。

「優子さん! よかった、無事ね」

「だ、誰——ってきゃあぁぁぁぁぁ!」

 今度は大いに叫んだ。振り向いた先にいたのは、後ろ足と尻尾だけで直立した、あの柴犬の赤ん坊だったのである。

「い、いい今、人の言葉を、しゃ、しゃしゃ喋って——」

「——落ち着いて優子さん! 私よ。店長、店長よ」

「さ、里美さん⁉ な、何でこんな……って、私の身体も、柴犬になってるぅぅぅぅぅ!」

 そう。私と里美さんは、何故か身体が柴犬の赤ん坊へと変貌するという前代未聞の現象に巻き込まれてしまったのだった。


 それから私と里美さんは、これからのことを話しあうことにした。

「とにかく、この状態じゃお店は回せないわ。今日は店を開けないようにしましょう」

「じゃあ、今日は何をするんですか? この姿では何をしようにも手間が……」

「確かに時間はかかるけど、一日かけてなんとか終わらせましょ。身体のことはその後よ。まずは掃除をして、それから動物達の健康チェックとお世話ね」

 しかし予想通り、仕事は困難を極めた。

 まずは掃除だ。

「きゃぁぁぁ! 虫! 何か小さい虫ぃ!」

「そんなビビらないの。いつもより埃が大きく見えるから、そういうのも見えちゃうでしょ?」

「そんな冷静にできないですよ!」

「掃除に必要なのは覚悟だから」

「少なくとも私はこんな覚悟で掃除してません!」

 次に動物達の世話だ。

「検査シート一枚運ぶのも一苦労ですね——って里美さん⁉」

「ん? どうしたの?」

「どうしたのじゃないですよ! 何枚一度に持ってるんですか⁉」

「これくらい一度に持ってこないと、手間がかかって大変でしょ?」

「今その手の上に二十数枚ありますよね⁉ 里美さんそんなに力あったんですか⁉」

「犬の手って、意外と力あるのよね」

「いやいや犬の力じゃないでしょそれは!」

 このように、私は里美さんの驚異的な身体能力を目の当たりにし、終始驚きっぱなしの状況だった。

 そんなこんなで時間はどんどん過ぎていき、いよいよ夕暮れ時に差し掛かった頃。やっとの思いで仕事に一段落をつけた私と里美さんは、未だ人の姿に戻る方法がわからない中、休憩室に入った。

「お疲れ様、優子さん」

「お疲れ様です里美さん。それにしても、どうしてあんなに仕事できるんですか?」

「あら? 何か疑問に思うことかしら?」

「思いますよ。いつもなら見えない虫の姿にも無抵抗だったり、初めて動かすはずの犬の肉体にも慣れていたり、改めて尊敬しました」

 すると里美さんは小さく笑みを浮かべ、どこか懐かしむような表情を見せると、静かに口を開いた。

「実はね、昔もこんなことあったのよ」

「ええっ⁉ そうだったんですか⁉」

「うん。何が理由かはわからないんだけど、このお店、たまにこういう不思議なことが起こるのよ」

「だからそんなに慣れていたんですね……納得です」

 続けて里美さんが言う。

「でもこれが起きると、動物視点で仕事をするから、人の目線ではわからなかったお店の問題点がわかるのよね」

 その言葉に、私は大きく納得した。動物達を入れたケージの置き場所を見て、この子達だけ少し遠くにいるな……とか、この部分が掃除できていないな……とか、確かに気づくことが多かった。

「これは、私個人の考察なんだけどね。きっとこの現象って、動物達の気持ちなんだとおもうんだ」

「気持ち、ですか?」

「うん。動物達が、自分達の生活を理解して欲しくて、私達に魔法をかけた……みたいな、ね?」

「魔法……なんかそう考えると、ちょっと嬉しいですね。動物達の心が覗けたみたいで」

「うふふっ、そうね——」

「はい——」

 ——瞬間、世界全体が眩い輝きで包まれ、視界が奪われる。

「……っ、今の光は? って、あ! 戻ってる!」

 その光が消えると、いつの間にか私達の身体は、元の姿を取り戻していた。


 あれから私は、より多くのことに目を配ることができるようになった。あの経験をするとしないとでは、きっとここまでの成長はできなかったと思っている。

 仕事としてだけでなく、動物の心に寄り添って働くこと。これが、今の私の目標だ。



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YouTubeによくあるような漫画動画っぽいテイストですね。

変化シーンというよりはその後を重視して描かれた作品になっています。

商業で見かけるTF物と似通った部分がありますね。

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