【漫画動画シナリオ(未使用)】ドラゴンの苦悩【依頼したもの】 (Pixiv Fanbox)
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依頼したはいいものの使う機会が無かった漫画動画用のシナリオです。
ストレージの肥やしにするのも勿体ないのでここで公開します。
シナリオ:ゆでたまご73
私は岸本 燈(きしもと あかり)。都内の高校に通う二年生だ。
「燈ぃ~おはよう~!」
「あ、美羽!おはようー!」
家の玄関扉を開けたところでちょうど迎えに来てくれたのは、親友の美羽(みう)。その名の如く美しい羽を持った天使のような少女で、言葉の語尾を伸ばす癖がある。
「ねえねえ昨日の国語の宿題難しくなかった?学校着いたらノート写させて!お願い!」
「ふふふ。いいよぉ~。その代わり、今日の学食おごってねぇ~」
「もちろん!あ、でも500円までね!」
ありふれた女子高生の他愛のない会話。
だが、私は普通の女子高生ではない。親友にも明かせないある重大な秘密を、私は抱えていた———。
私の通う学校の学食では、毎週水曜日に『プリンデー』というものを設けている。地元で有名なケーキ屋から発注するプリン限定10個が学食に並び、
その日は生徒・教師関係なくプリンの争奪戦が繰り広げられるのだ。
今日はその水曜日。運動が得意な私は四限目のチャイムが鳴る5分前から、手首と足のストレッチをこっそり行った。狙うは、私と美羽の分のプリン二個。
キーンコーンカーンコーン。
四限目終了のチャイムと同時に生徒が一斉に教室を飛び出し、私もその波に乗るように学食へと走った。
運動が得意な私は、一人、また一人と追い抜いて、いい順位をキープしたまま食堂へと入っていった。
だが、前方には20人ほどの学生。このままでは先着10名のプリンにはありつけない。
〝絶対に負けない!負けたくない!″
次の瞬間、背中の貝殻骨付近の皮膚が、内側から押し上げられるようにボコンと波打った。その波は次第に大きくなっていき、皮膚の中で躍動する。
そうして、勢いよく制服を突き破って出てきたのは、なんと『竜の翼』。明るい食堂に影が差すほどの威厳ある大きな両翼に、生徒達の悲鳴が響き渡る。
私は酷く狼狽し、翼を仕舞おうと後ろに手を伸ばして、道化師のようにくるくるとその場を回った。
だが『負けたくない』という私の意志をくみ取った『竜』は、扇を仰ぐように両翼を一振りし、周囲の生徒をなぎ倒してしまったのだ。
カウンターに置かれた10個のプリン。そこまでの道が一気に開けた瞬間。だが私の心の中は『翼を見られてしまった。皆になんと言い訳をしよう』と、絶望でいっぱいだった。
そう、私の中には『竜』がいる。『喜び』『悲しみ』『怒り』『興奮』などの感情の揺さぶりによって、身体の一部が竜化してしまうのだ。
制御不可能なこの身体に、私は長年苦しめられている。
これが、誰にも言えない私の秘密————。
*
夏になると始まる水泳の授業。暑くなってきたこの季節、水泳の授業と昼休みだけが私の楽しみだ。
「いっち、にー、さん、しー、ごー、ろく、しち、はちー!」
元気よく準備運動をしてはいるが、高校生にもなって身体のラインを拾うスクール水着は少し恥ずかしい。
プールを挟んだ向かいで同じように柔軟をする男子達の視線が、比較的発達の早い私の胸や、割れ目がくっきり見える陰部に注がれているのがわかった。
恥ずかしさに思わず内腿をきゅっと締めると、その恥じらいにすら彼らは色めき立つ始末。
そんな公開処刑のような準備運動も何とか終わって、いよいよ入水。
今日はクロール50メートルのタイムを測定するらしい。先生の指示に従い、9レーンあるプールに各々生徒が列を作っていく。
私は第5レーンの一番泳者のため、他のレーンの一番泳者と共に深いプールに入水した。
「ううっ……冷た~い」
念入りに準備運動をしたとはいえ、プールの水は身体の熱を容赦なく奪うくらいには冷えている。
「岸本って胸でかいよなあ。ほら、水にぷかぷか浮いてるぜ」
隣のレーンにいる男子生徒がおもむろにそう言って、水に浮かぶスイカのような豊満な胸に目を向けた。確か先程の準備運動の時も、ジロジロこちらを見ていた奴だ。
私は恥ずかしさのあまり
「ひゃっ!み、見ないでよ~~!」
と、ひっくり返ったような声を出しながら、胸を両腕で覆い隠す。だが男子生徒の悪質な悪戯は止まらず、なんとそいつは水中で私の胸を鷲掴みにして、揉みしだき始めたのだ。
「ひ、ぃっ……!やめっ……!」
怒りと驚きでか細い悲鳴をあげると同時に、先生の「位置についてー」という掛け声が聞こえた。男子生徒は何事もなかったかのように、定位置につく。
よーいどん!という一声と共に、私達はスタートを切った。
だが、腕の動きとバタ足の推進力で水中をかき分けていく最中も、私の心の中は怒りでいっぱいだった。
彼氏でもない男から、無遠慮に胸を鷲掴みにされるなんて、絶対許せない!
その時、水面にぷかぷかと浮かぶ尻が蠕動しながら、伸縮性のある水着の中で目視できるほどに暴れはじめた。
「まずい……!」と思うよりも先に、水着を突き破って出てきたのは、巨大な竜の尻尾。正午近くの刺すような陽が、緑の鱗をギラつかせる。
プールサイドから上がる大小の悲鳴。
私は破れた水着から尻尾を突き出すという、平手打ちされるような羞恥を感じながらも何とか泳ぎ切り、急いでプールからあがった。
大きく引き裂かれた水着。その裂け目は尻尾の生えた尻だけでなく、太腿や背中にまで到達していた。
両手では到底隠しきれない尻尾をぶんぶんと左右に振りながら、私は恥ずかしくてたまらず、逃げるように更衣室へと駆け込んで行った———。
*
今日は年に一度の体育祭。皆、この日のために日焼けも厭わず練習に励んできた。
この学校では、他校ではあまり見かけない女子生徒による騎馬戦があり、今では我が校の風物詩となっている。
今回は紅組と白組の総当たり戦。相手チームの帽子を取った時点でその騎馬は敗北となり、制限時間5分を終了した時点で、騎馬が多く残っていたチームの勝ちだ。
「燈ぃ~!頼んだよぉ~!」
「まかせてー!」
体重が軽く運動神経抜群の私はもちろん騎手役。一方、中学時代バスケットボール部に所属し、背が高く足も速い美羽は騎馬役だ。
後方を支えてくれる生徒二人も、運動部に所属し団体競技に明るい。まさに最強の布陣。
位置についてー、と朝礼台に昇った教師の掛け声が響く。
向かいでは、無数の白帽子がゆらゆらと揺れていた。一個でも多くの帽子を取って、勝利に貢献しなければ、と私は身の引き締まる思いだった。
よーいどん!という号令と共に、生徒達が粉塵を巻き上げながら、猛烈な勢いで中央に駆け寄っていった。私達も後に続く。
いかにも貧弱そうな騎馬の背後を取る作戦で動いていたのだが、開始早々、ゴリラのような騎手を有するチームが正面から突っ込んできた。
すぐにゴリラ女との取っ組み合いが始まる。だがそれは、私が思っていた以上に苛烈を極めた。
「うッ……ぐ、ッ……!つ、強い……!」
猛烈な圧力。彼女は鼻の穴を膨らませて、猛然と襲い掛かって来る。
ゴリラ女を騎手として祭り上げるチームだ。騎馬の三人も男と何ら遜色ないほどに体躯がよく、私達のチームはじりじりと後退していった。
「燈ぃッ……!頑張れぇッ……!」
私を支える美羽のか細い声が聞こえる。
その一瞬の隙を狙って、ゴリラ女が私の赤帽子に手を伸ばした。それをすんでのところでかわし、反撃とばかりに私は両腕に力を込め、精一杯前に伸ばした。
それを見越したゴリラ女チームが一瞬早く反応し、さっと後退する。
ああ、届かない———手が届かない———あともうちょっとなのに————。
その時、両腕の皮膚がドクンと一回脈打つのを感じた。その鼓動は表皮の下で波のようにさざめきはじめ、色と質感を変化させていく。
加速度的な細胞分裂を見ているかのように、それはぐんぐんと大きくなり、最終的に鮮緑が美しい巨大な竜の両椀(りょうわん)となって、ゴリラ女に襲い掛かった。
「あ、あぁッ……!だ、だめーッ!!」
バシュッ!という小気味いい音と共に、竜の大きなかぎ爪が白帽子を奪い去る。異形の化け物に襲われたように、ゴリラ女は泡を吹いて後ろにひっくり返ってしまった。
それに気づいた他のチームも、こちらを見てぎょっとした後、ワンテンポ遅れて甲高い悲鳴をあげる。
逃げまどう生徒達で体育祭は大混乱。私は恐怖と羞恥で泣きじゃくりながら、重たい両腕を引きずって体育館裏に逃げ込み、竜化が収まるのを息を殺してじっと待っていた。
今思い出しても、本当に散々な体育際だった。
きっとこれからも、私はこの特異な体質に悩まされ続けることだろう。
それでも、困った時や恐怖を覚えた時、悪気なく私を助けようとする『竜』を心の底から憎むことはできない。
私はこれからも『竜』と共に生きていく。
その覚悟はとっくにできていた。
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人間界に溶け込もうと頑張るも、自分の体質に翻弄されてしまう竜の女の子のストーリーを書いてもらいました。
面白そうなシナリオだと思います。
ただ、比較的文字数が多く、当初の予算ではオーバーしてしまっていたため作れずじまいでした。
いつかはこのシナリオも漫画動画に出来たらな……とは思っています。