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〈第4巻・第弐拾七話〉

・金木犀の二度咲き

作中の時間経過ではもう咲いている金木犀は使えないと思っていたが、現実の2018年秋の京都では金木犀が二度咲きした。そんなこともあるのかと作中でも二度咲きさせた。


・やり遂げないと先に進めない

そういうことに出会えること自体は幸いなんだけどね。


・慰め

刀萌のために源内を追っていたことを魁が知っていることは、切鵺との会話の中で九十九も察していた。

そしてこの時は刀萌の鍔を嵌めた刀を差している(ここでは描写されていないが、この回の最後に描写がある)。それは魁の目にも当然入る(第参拾弐話で明かされる)。その上で九十九は魁を抱く。魁は自分が求められる意味を分かっている。

九十九は刀萌の仇討ちを諦め、気持ちの整理がもうつかない=類を愛することも諦め、自暴自棄になるためにも一番都合の良い女の元へ慰めを求めに来ただけ。

それでも構わなかった。


・島田の策略

島田の計画とその後の実際の推移がわかりづらかったかもしれない。


島田は源内と手を組み反幕府組織内での出世を目論んでいた。


しかし手を組んで早々に、源内を捜し出そうとする者たちが増えたばかりか、源内自身が切鵺に無用に接近しており、仕事への警戒心と集中力に欠く源内に失望。源内を勝利の私設隠密部隊に売るかわりに二重スパイとして登用されることを考える。

「蠅」とは源内の捜索を始めた類たちのこと。


源内を突き出すことは簡単だったが、勝利の命令も聞かずに私的に源内を追っている九十九を利用することとした。またそれは島田の好奇心によるところもあった。

まず源内を待ち伏せて討たせるお膳立てと引き換えに、組織入りの手形を得る約束を取り付ける。


と同時に、九十九には秘密裏にその待ち伏せを勝利に密告し、現場を押さえさせる保険も用意した。

九十九が源内に討たれ、源内の疑いが自分に向いたとしても身の安全を確保し、自分が協力者であったことを示すため。

隠密部隊が待ち伏せの場所に現れるタイミングはギリギリに設定した。遅かった場合は九十九か源内どちらかが死ぬ。早ければ少なくとも九十九は死なずに事は終わる。どちらでも島田には構わなかった。


が、待ち伏せの場に現れたのは九十九ではなく切鵺。


九十九との打ち合わせでは、源内から疑いがかかるのを回避するために源内より先に九十九に斬りかかってわざと刀傷を受ける手筈だったが、切鵺ではそれが通じないので焦る島田。


しかし隠密部隊の到着が間に合う。


…という流れ。

島田はこの後まんまと二重スパイとして隠密部隊に受け入れられる。


・仕込み刀を抜く切鵺

多分頭に血が上って算段をつけてなかった。


・待ち伏せの場へ走る九十九

下衆の勘繰りになるけど…「やっぱ違う」って思っちゃったんですかねえ。

真面目に考えると、せめて源内の死を見届けて溜飲を下げたいと思ったか。

刀萌が負けた相手なのだ。切鵺が敗れることだって考えられる(これについては切鵺を案ずる気持ちもある筈)。


そして訪れる不運。

肝臓を突かれた失血死。

九十九はこれ以上イジメてやるまい…。


ちなみにこのイカれたおっさんは『変ゼミ #30』に登場するおっさんが元ネタ。


〈第5巻・第弐拾八話〉

・古河藩土井家下屋敷

此処は下屋敷であり、いつも勝利が類と面会しているのは上屋敷。奥の間は上屋敷にある。

下屋敷は一般的に江戸郊外に設けられた、庭園などを備える実務外の意味合いの強い敷地。

九十九と島田が面会していたのは中屋敷。江戸在住の家臣の多くが居留する。


作中では「古河藩邸」という呼称が多かったが、各々の屋敷は藩に与えられた或いは藩が造成した物というより、その時々の領主の持ち物として本来は「土井家屋敷」と呼ばれるのが正しい。多分。


・私設隠密部隊の面子

幹部員には一癖二癖ある傾奇者が多い。

これは勝利の意向というより、その下の人事部長の趣味と思われる。

この辺も九十九と刀萌の話を描けたらもう少し登場させられたかもしれない。


・ストーリー上のちょっとした矛盾

隊員に九十九の死は知らされている。恐らく死因も状況も知らされていたのだろう。

「テメェのような二枚舌を信用してたら…」という台詞については、島田を信用したばかりに九十九が死んだと言っているわけではなく、単に島田をまだ信用していないということと、新入りの二重スパイを信用しているような甘ちゃんでは九十九のように事情も不明なまま無様に死ぬだけ、と死んだ九十九に対して当てつけているだけ。(九十九は少なくともこの隊員にはあまり良く思われてなかった節もある)


問題はその後の隊員の反応。

「そんな話聞いてねえぞ」

九十九が源内と接触しようとしているその現場を押さえよ、と島田が密告していたわけです。九十九が現場に現れることを勝利から隊員が知らされていない可能性は無くはないが、知らされている方が自然。

九十九の無断独断の行動である部分は伏せたとしても、現場に九十九が現れることを隊員が知らないと混乱する。


また、九十九が現れる筈が現れず、計画した島田にも「予想外」に九十九が死んだと既に説明を受けていたので島田の「だから言ってるだろうに」という台詞が生きる。


なので、簡単に弁明してしまうと「聞いてねえぞ」という台詞は明らかにミスなのです…。


では自分はどんなつもりでこう描いたのか…。


正直わからん…!


ひとつ考えられるのは、僕がこの隊員を気に入っており台詞を与えてやりたかったというのがあると思う。


・九十九が古河に行かされていたとされる期間

晩秋に死亡し、その後類と魁に知らされるのは切鵺が別式女に就任してからなので、3ヶ月以上は隠蔽されていたことになる。


尚、この時の類は九十九の言葉が顔に出るのを堪えている。


〈第弐拾九話〉

・高松藩生駒家下屋敷

これに限らず作中の屋敷群はすべて本当のそれぞれの屋敷を資料には描かれていない。

調べたかぎりで現存するそれぞれの江戸藩邸が存在しなかったため。

この生駒家屋敷などは、とある屋敷をグーグルマップを3D表示にして、細部は検索でヒットした写真を参考に描いた。見逃されたい。


・永井伝助

切鵺が上京して最初に奉公した旗本。

切鵺のキャラ設定の覚え書きにはこうある。


伝助は人情に厚い男だが変態。奉公に来たばかりの切鵺は男として振舞っていたが、切鵺の女のような顔立ちに欲情し切鵺に女装をさせるようになった。

切鵺は伝助に恩義を感じてはいたが遂に性交渉に及ぼうとした伝助に別れを告げ、以来渡世人として奉公先を転々としつつ源内の消息を追うようになる。

女装は自分の正体を隠す為もあるが、本当のところは自分でも悪くないと思って続けている。

母親が源内に犯される現場を見たトラウマから性交渉に生理的嫌悪を覚えている。

女装を続けている身としてはそういう目で男に見られることもわかっているが、そこはマゾ的な矛盾ということに留めたい。


・生駒騒動


この回を描くにあたって歴史的な背後を勉強しているうちに、丸亀藩がまだ存在していなかったミスに気付く。それについては前述したのでここでは書かない。


そして偶然にも土井利勝と高松藩には関係があり、高松藩が取り潰され丸亀藩が誕生する経緯が面白かったので、残された頁も少ないが生駒騒動を紹介することとした。

時代物としての箔を付ける意味でも。


・墓場まで持っていくというなら儂はそれでも構わん

要は「話す気がないなら死ね」と言っている。

勝利にとっては寿命が縮むような出来事が連続しており、思考放棄しているところもある。

これまでの付き合いで切鵺への信用もある。それを疑う心労も負いたくなかった。

源内と切鵺の決闘はそんな勝利にとってお誂え向きだった。


魁からの事情聴取が何より切鵺の潔白を証明できたであろうが、魁を思いそこに至らなかった勝利…という不幸もあった。


・魁の優しさ

九十九が既に亡き者とは知らない筈の魁。それどころか九十九に抱かれ、類への嫉妬からも解放された魁には精神的余裕があり、切鵺を心配する態度には心からの優しさがあった。

それに耐えきれず嘔吐する切鵺。胃液しか出ない(決闘に際し胃の中に物はない状態。『シグルイ』で紹介されていたように腸内まで空にする作法が剣士の一般常識として存在したのかは定かではないので、本作ではそこまではしていない)。


・武器(えもの)

それぞれ自由な持ち込みを許されている。

「なぜ切鵺は木剣なのか!」と狼狽える伝助とそれを解説する描写を入れる余裕はなかった。

またこの決闘の観覧に九兵衛を登場させて解説役にし、以後類と隻眼を通じて関わらせるという構想もやはり実現不可能だった。


〈第参拾話〉

切鵺vs源内、類vs切鵺の決闘は本作の要であると承知していたので連載当初は当然そこに十分な頁数を費やすつもりでいた。

…が、再三言っているように不可能となった。メタな裏話はまた改めて書くこととするが、この回に入った時点で残り180頁も切っているのだ。アクションシーンは頁数を喰う。戦いはほぼ一撃で終わらせるしかなかった。この苦心をわかってもらえるだろうか。


・日本刀は折れない

武術警察官の間で度々争論になる話だが、とにかく折れた。

仕込み刀を2/3ほど抜いて伸長した状態で源内のオールレンジ攻撃を防いだつもりだったが、剣先が鞘に引っ掛かった状態なのが災いして刀身に応力がかかり、折れた。と思って欲しい。


・やはりお前は津重ではない…

目の前に実在する切鵺は、ある意味運命的超常的に見せられている走馬灯の中の津重であり、自分は死ぬ運命と感じることもあったが、そうではなかったようだ…という意味。


・決着までの推移

源内の剣は防がれたことで切鵺の腕の骨を断つほどの威力はなくなり、腕にめり込んで軌道の変わった切っ先は切鵺の前髪を落とす。

切鵺は鞘の引っ掛かったままの刀身を振り出して素手で掴み、

源内の右眼を突いた後、

折れた刀身を右肩に当て、体ごと源内にぶつかる。

心臓の下あたりを刺し貫かれる源内。

無防備な切鵺の肩口を貫ける状態だったが…

源内は剣を落とし、膝をつく。


・走馬灯は見えたのか

源内は赦しを乞うて絶命する。

これは必ず走馬灯で津重と再会しまた愛し合うことに対して言っている。

切鵺に対して殊勝な気持ちがあったわけではない。

ただ切鵺には復讐からの解放を告げる言葉に聞こえたかもしれない。


そして走馬灯は見えたのか。その描写は全くないまま源内は物語から退場する。

そんなものは死んでみないとわからないのだ。


・死んでもよかった!

もう類たちとの別離は覚悟して臨んだ戦いだった。自分さえいなくなれば凶事は去ると決め込んでいた。

その意味での突き放し以上に、因縁の宿敵と命の取り合いをした濃密な余韻を掻き乱されたくなくて激昂している。


・類の慟哭

多分ここまで他人から突き放される経験が類にはこれまで無かったのだろう。

とりあえず謝って赦してもらいたい気持ちと、理解不能のパニックが同時に噴出している。


・性愛の芽生え

生理的な精通がこれまで無かったとは思えないが、快感と共にある射精はこれが初めて。


男性としての不能の原因が自分の勘違いであり、そこには当人たちが望む愛があったことを知った。そしてその者たちはまた愛し合うと言う。

死と隣り合わせだった先ほどと、今背中越しにビリビリと響く、生きている者の慟哭と体温。

美しく心地よいものととっくに知っていたその女の本当の価値に気付いてしまった。

類から去りたくない。


ちょっとポエポエポエミーしてしまったので、オチをつけておくと、この「俺は…」の頁もギャラ貰えました。


〈つづく〉

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