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キャラクター談話その2です。


〈菘十郎〉

前述したように、モデルは『妙音記』(池波正太郎)に登場する小杉九十郎。

『妙音記』では留伊と九十郎は最終的に結ばれる。その理由と経緯は『妙音記』で知ってもらいたい。

脱線した話になるが2017年にNHKで『妙音記』がドラマとして放送された。同じ佐々木累をモデルにした作品として『別式』も少しは注目されないかと期待したけどまったく無かったね。ドラマ版の留伊のいでたちは黒髪ポニテでわりと類っぽくもあった。


十郎のエピソードは読者になかなか好評で、十郎は性格イケメンと言われた。

しかし特に人のための善行を働いたわけでもない。臆病な男だ。美徳があるとすればここに尽きるだろう。

しかしこれも恐怖であり思いやりではない。

十郎にとって一番の心の拠り所は「諦め」。この気持ちだけは半端ではない。

類に対する憧れと亡き師・撫太夫のかつての望みに心が揺らいだのも本心だが、「未来を選べる」資質を持ちながらそれをしない類と、慰めの綺麗事を口にした同性でルックスに恵まれた九十九、この二人とすれ違った十郎がこの時決心した諦めはより強固なものだったに違いない。

その重みに打たれた九十九は去りゆく十郎を見送ることもできずに項垂れ思案している。



〈大杉九十九〉

名前の由来は史実の人物、小杉九十九。土井利勝の家臣・小杉重左衛門の次男であり、佐々木累と結婚したとされる。このことから物語前半では類に気があるようなミスリードを展開させた。


「シロ(白)さん」という遊び人としての異名を持つ。

なかなか頓知が効いてね? と自画自賛。


…してたんだけど、古来の由来が存在した。


江浦(ツクモ)草という白髪頭のような植物から白髪頭を九十九髪と呼ぶように。

〈九十九〉まさに〈百〉の字から〈一〉を引くと〈白〉になることと〈老い〉を掛けた伊勢物語の歌から。


「百年に一とせ足らぬつくもがみ

 我を恋うらしおもかげに見ゆ」



《類同様生まれ持ったルックスと剣の腕、そして世渡りの上手さを兼ね備えた器用な人間。

覚え書き程度の設定を開陳するとこうである。


家は古河藩士の名家の次男坊。幼い頃から何をやらされても卒がなく、周囲にも気が利いた。凡庸な兄を持ち、彼の立場を考え爪を隠して生きるのが己の処世術と心得てきた。

類や魁たちより5歳歳上。

何をやっても物足りなさを感じている。二十歳になり家を出て江戸に来て以来、人知れずリスキーな場所や事案に首を突っ込んでは運試しのようなことを繰り返すようになる。刀萌とはその間に出遭っている。そんな折、勝利にスカウトされ密偵として働くようになった。》


九十九の命運にも関わった刀萌との関係、その存在の大きさを事細かに描くことは叶わなかったが、九十九にとっては理屈ではないガチ恋だった筈なのでかえってそれを描こうとするとよほど上手く描かないと理屈になってしまったかもしれない。

ちょっと残念なのはその話を描くとしたら「緋伊枯(ひいこ)」という名の九十九の恋敵を出すアイデアが使えなかったこと。「大杉」と「緋伊枯」…「おおすぎ」と「ひいこ」…以下略。

何があったんでしょうね。


さて九十九は終盤自分から言ってるように「クズ」の肩書きを読者から恣にする。クズ化した九十九を描くのは楽だった。その理由までは語らない。

だが彼もまだ25,6の若者なのだ。そして飄々としながらも灼けつくような何かを常に欲していた。それが美貌と若く艶めかしい身体、包み込むようなおおらかさと冷徹な暗殺者の両面を持ち、しかも自分になびかないおっさん好きのミステリアスな女性・刀萌と邂逅してしまった。灼けつくどころか大火傷だったのだろう。


そして九十九はクズに相応しい末路を辿ることとなる。ただそれは偶然による死。あれが僕から彼に与えられた「事故死」による退場という形。

仮にあの事故死がなかった場合の九十九と団子の仲間たちはどうなっていたか。それでも穏やかな未来でないことは間違いなかろうが、まったく違う未来が待っていたはず。

『別式』という物語においては、彼の死は免れない必然だった。


〈土井勝利〉

モデルは言わずもがな二代将軍秀忠の側近であり、その後も三代将軍家光を助け、長きに渡り幕府の最高権力者でもあった・土井利勝。

古河藩主でもあり佐々木累の父・武太夫は家臣であったことから累を認識しており佐々木家再興の助け舟を出した説があるが、利勝の孫の利重だった説もある。


名前がそのまま使われなかったのは編集部の意向による。「実在の人物でありその子孫も存在するため、本名を使うのはリスキーである」との理由から。

いやいやいや待て待て。世の中にどれだけ戦国武将・江戸時代の有名人の名をそのまま登場させているフィクションがあると思っているのだ。

「僕が描くこと」がリスキーと言われているようなものである。本当に失礼な話だが、意向を飲むことにした。

尚、作中でドラマに直接登場しない史実の人物については本名を出すことを許された。家光や信綱など。

と、ここで柳生但馬守宗矩は本名なのにその息子柳生十兵衛三厳は「柳生九兵衛二厳」と変名している事例がある。僕が九兵衛をドラマに登場させたかった意図があったことがわかってもらえるだろうか。


意向を飲んだ以上好き勝手に描かせてもらうことにした。

還暦を超えてもむっつりスケベのエロ親父。大炊頭という幕府の重鎮でありながら、変装して市井へ繰り出す遊び人。蹴鞠ーグの倶楽部チーム「古河比丘斗利亜」のオーナー。そして私設隠密部隊の創設者。無茶苦茶である。

※全然関係ないが↑の歌はJリーグの応援歌『WE ARE THE CHAMP』だが、歌詞が『WE ARE THE CHILDREN』になっている。


度々関ヶ原での活躍を自慢しようとするが、史実での利勝は関ヶ原の戦いに参戦しそびれている。これは僕の凡ミス。


九十九の隠された実力を知る人間であり、九十九は遊びの先輩でもあり、孫同然に愛してもいた。


切鵺が男児であることは終盤まで気付いていなかったが、そうであることを知った描写が一言で終わったのは物語のシリアス化と尺の事情である。


〈佐目慎太郎〉

実は連載開始後も考えてなかったイレギュラーキャラ。

モデルや名前の由来も一切ない。デザインもネームの時点で一発決定。


まさか類の生涯の伴侶となろうとは……作者もびっくり。

この絵を描いてる時点で、もうね。いや事後とかそういう意味じゃないよ。慎太郎が類を支えているというそれだけ。


これだけ重要なキャラになるのに冒頭シーンに名前も出てこない。いなくなってないから当然なのだが。というか考えてなかったから。

でも何度も読み返し、「あの冒頭に名前がない=いなくならない」、ここに答えを見つけた気がしてあの結末を用意した。


ほぼ描かれていないけど、慎太郎は本当に思いやりと強さを持った良い男に成長します。


〈島田〉

これまたまさかの重要キャラに発展したイレギュラーキャラ。

実は本編に名前が登場していないことを連載終了から2年余り経ってから気付いた。


嵩じて最も強かなキャラとなった。

九十九以上の世渡り上手。好奇心旺盛。面白いと思えること、自分のエゴを貫くためなら手段は選ばない。

作中では魁と切鵺の決闘後にフェードアウトしているが、恐らく短命。ロクな死に方はしていないと思う。ただ命乞いするわけでも不満を漏らすこともなく笑って死ぬのではないか。そんな男。


源内に対して「好いていた」という言葉を発している。バイセクシャルだと思いながら描いた。


〈成田魁〉

きっての闇堕ちキャラ。

名前の由来は安土桃山時代の女傑・甲斐姫。秀吉の側室となった。一般に「甲斐姫」としての名しか知られていないが、成田家の生まれであることから名字は「成田」。「魁」という当て字については特に意味はない。


酔剣マスター。この設定を最後まで活かした自分を褒めたい。それで言うと、類の「考えが顔に出る」設定も活かしきった。えらいでしょ?


羽織の家紋だが、史実の成田家の家紋は「月に三引両」。

が、藤原系の成田家の家紋に「ナの字車」というのがあることを発見して、意匠のカッコ良さからこれを拝借することにした。発見した記事を後から精読すると、どうやら某成田家のオリジナルらしく、著作権的にゴニョゴニョな可能性はある…。すみません! リスペクトです!

気付いてる方は多分一人もいなかったと思うけど、「成田」の「ナ」の字が車座に配してあるのですよコレ。


デザインについて。ツリ目キャラは大好きなのだが、「前髪盛り上げ真ん中分けデコ出し(90年代のアニメ女性キャラに多かったアレ。セラムンとかミサトさんとか。どっちも三石琴乃という)」は実は好きではなく、描くのが苦痛だった。その苦々しさがキャラに乗ればいいなと思った。デコ出しの女性は芯の強いイメージもある。偏見かもしれないけど。


類をライバル視し続ける狭量で嫉妬心を抱えた醜い性根を持ったキャラ。恋や性に不器用なくせに女の性が一等強い。(この辺も古臭い観念持ち出してごめんねと謝っておく)

親も佐々木家に一つ及ばずの地位に甘んじた。魁の父親も剣の実力者だったが、古河藩の剣術指南役は佐々木撫太夫が任じられた。魁の父親はその後も鍛錬を積み、撫太夫との手合わせにおいて私的に実力の上下を示したい野心を持っていたが、その前に撫太夫が病死したためそれも叶わず。撫太夫亡き後の後釜として指南役に抜擢はされているが、永遠の二番手という心残りを抱えた。


魁は可愛い顔も出来る。本当は感情豊か。

所謂ツンデレ。でもツンデレとか見え見えのテンプレ設定本当に嫌いなので、本物の情念を見せつけてやりたかった。


九十九が類に責任感からの求婚とも言える言葉を発したことを知り、髪を切る。僕の好きなボブスタイル。感情を隠すようでもあり、険しさを表すようでもある前髪にした。


九十九の死から、遣る瀬無い気持ちの矛先を向けただけの切鵺との決闘、そして…

色々背負ってくれてありがとう魁…。


〈中瀬古早和〉

連載開始時は「千葉早和」だった。名前の由来は坂本龍馬の元婚約者・千葉さな子。さな子は北辰一刀流長刀の使い手。

友人の名を借りて「中瀬古」に変名した。ちょうど早和のように人懐っこく明るい友人がいて、連載開始時にとても励まされた。早和には彼のそれが注入されている。


早和は作中で「坂本菊次郎」という商人と結婚したことになっているが、この「坂本」は坂本龍馬から。「菊次郎」は後に千葉さな子が結婚したとされる元鳥取藩士「山口菊次郎」から。


「引っ越し」で退場するポジションのキャラとして作られた。あの時代のやむ無き引っ越しというと改易転封かなと思い、ちょうど「島原の乱」が起きる年代だったのでこれを利用することにした。故に早和は島原藩士。島原藩が別式女を抱えていたかどうかはわからない。


しかしまさか1巻で退場するとは思っていなかった。退場するのは2巻くらいだろうとのんびり構えていたら担当Kに「いや1巻で。この物語がどういうものかわからせないといけない」と言われた。もっともだと思った。

また団子の仲間を引率するエネルギッシュなキャラをいきなり喪失させるインパクトというか読者に対する意地の悪さも僕好みであった。


そういう事情で4話目で島原の乱が起きる。これにより物語の開始の年が1637年であることが確定した。『別式』の世界が我々と同じ世界線かというとそうではない架空の並行世界ではあるのだが。


作中の年の経過の話もここでしておくと、1巻開始時が1637年(寛永14年)春。島原の乱は同年12月勃発。実はここでちょっとやらかしてしまっている。寛永だと10月にあたるため作中では秋のつもりで描いてしまっている。

早和は江戸を去るのは1638年2月(寛永15年1月)。

2巻の頭からは翌1638年春。この年の秋に刀萌が死ぬ。晩秋に九十九も死亡。尚、この年は金木犀が二度咲きしたことになっている。

翌1639年2月(寛永16年1月)に切鵺と源内の決闘。翌月に切鵺が別式女就任と九十九の法要。九十九の法要は、九十九の死をすぐに知らされなかった者たちのみが参列したもので、四十九日ではない。4月の頭に魁死亡。

翌1640年4月(寛永17年3月)、類と切鵺の決闘。

1642年7月(寛永19年6月)類と早和の再会。翌年秋まで長崎で暮らす。

1644年8月(寛永21年7月)勝利死亡。


早和に話を戻す。

キャラデザインは連載開始前にイメージとして作ったネームの中で生まれた。この時は作中のポジションは考えていなかったと思う。一発描きでざっくりと描いただけだったが気に入ったのでそのままデザインを固めることにした。類を慕う元気な女の子というイメージで描いたのでそれは受け継がれた。

言葉遣いの語尾が「っす」なのが特徴。どこまでも気さくで明るく、相手の警戒を解く女の子を演じさせたかった。

見た目は幼いが成人済み。合コン好きのお洒落陽キャだが1巻の終わりまでは処女。早和の処女を奪った、源内が雇った用心棒はロリペドの変態。相手が悪かった。早和も切鵺のためとはいえ体を許すつもりまではなかった筈だ。ただこれからの自分の生き方を考えた時に開き直ったところが性格的にあったかもしれない。


江戸を去って芦ノ湖を眺めて子供のように泣く早和は我ながら名シーン(だよね?)。


早和といえば丸っとしたショートボブが一番の特徴だが、ラストシーンでの髪が長くなった姿も気に入っている。髪に刺しているのは槿(むくげ)の花。


苦労もしたようだが、一番最初の退場からラストの再会…と、実は美味しい役どころではあった。


〈番外編・変ゼミ勢&その他〉


賛否両論あったようだが、『変ゼミ』の面々が数人登場している。

意図的には、変ゼミ人気(凋落してたけど)にあやかりたかったというやらしさがあったことは否定しない。僕の読者サービスという見方もできる。僕は昔からスターシステムを多用しているし、それほど拒否反応は出ないと踏んでいた。

それより冒頭シーンからのギャップを見せたかった考えの方が上だけど。


この「小麦小太郎」という名は、旧ゼミ『変態生理ゼミナール』時のコムギの名前。

『別式』に通底する「クズは死ぬ」の法則に従い死んだ第1号。


田口と市河が九十九の手先として働く設定は登場させてからの思いつき。この二人は仲間の賑やかしにはなったと思う。こういうサブキャラの存在感というのは、富野作品に影響されていると自分では思っている。


さて、変ゼミ勢というか僕のスターシステムにおいて最も登場作品の多いキャラクターに蒔子がいるわけですが……本作にも出てますよ(2019.11.26時点で発見された報告なし)。


佐々木撫太夫。史実では本名・佐々木武太夫。外見にモデルは無し。

類は自身の道場の看板に掲げていないが、史実での佐々木家は一刀流と関口新心流を嗜んでいる。


鏡斬りの使い手・矢島儀助。大泉洋を思い浮かべながら描いたことを知る者はいない。


類に二刀の試し斬りにされる兄弟剣士。外見の元ネタは米国の兄弟バンド The Lemon Twigs

「ドゥハリウッ」という謎の叫び声は彼らのデビューアルバム『Do Hollywood』から。


宇留地目太郎右衛門。

類vs十郎・切鵺vs源内の戦いにおいて審判を努めた。

元ネタは『メダロット』に登場するミスターうるち。メダロット同士の戦い「ロボトル」が発生すると何処からともなく現れ「合意と見てよろしいですね? ロボトル~ファイッ!」との掛け声と共に試合をジャッジするレフェリー。

『別式』内では「婿取ル」「仇取ル」の言葉を遺している。

なぜメダロットなのかというと、僕はゲーム版メダロットの4と5でメカとキャラのデザインをやった過去があるんですね。


若松剣。元ネタは某漫画協会理事。

実は第2話の作画中に液タブが壊れた。締め切り間際でパニクっていたところに某理事から「事務所まで取りに来るなら液タブ貸してやるぞ」というDMが飛んできた。なんだコイツ俺のツイート読んでるのかよ…。

真に受けて恥を忍びつつ本当に借りに行くと嬉しそうに「情けない液タブと戦って勝つ意味があるのか」という台詞を準備して待っていた…という実話に由来する。

※わからない人に説明すると、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』で、シャアがアムロにサイコフレームという最新テクノロジーを秘密裏に与えていたことをバラす時の台詞「情けないモビルスーツと戦って勝つ意味があるのか」に由来する。アムロはこれに対して「馬鹿にして…」と激昂する。

某理事はたまに自分と僕を並べて「シャアとアムロのような関係」と語る。まあね、僕タグロだし、語呂も似てるよね。

※ちなみにその時借りたサイコフレームは2年借りパクすることとなる。


尚、第3話で類がオカズに使っていたエロ草双紙(同人誌)は若松の同人環(サークル)「令兵流天(れべるてん)」の『愛我斗魔羅姐(あいがとまらねえ)』。「愛我~」の元ネタは『変ゼミ』のヤンキーあんなの特攻服の刺繍なんだけど正しくは「愛餓~」。凡ミス。


一方、田口が類に進呈するエロ草双紙は同人環「砲槍刀(ほうそうとう)・多苦労(たぐろう)」の『亜露吐汚婦(あろっとおぶ)』


〈つづく〉

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Comments

imo

実話が活きていたとは… この情報は知っていると面白さが全然違いますね ラストの早和ちゃんは最高に可愛い…別式女子キャラで一番好きです

Anonymous

早瀬古さんの名前の由来のくだりで笑ってしまいました。