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キャラクターと舞台設定について話そうと思う。

2回に分ける。


〈佐々木類〉

女武芸者の作品ということで、歴史の中の女武芸者について調べた。すぐに主人公としてこれ以外ないというモデルに行き着く。それが「佐々木累」だった。詳しくはリンク先のwikiを読んで欲しい。身の上についてはほぼ佐々木累そのままの設定を使っている。また佐々木累をモデルにした池波正太郎の掌編『妙音記』における設定も一部ストーリーにも拝借している。菘十郎のエピソードはそれである。


実在の人物とされているが、佐々木累にまつわる伝説は諸説あり、生年没年も定かではない。ただ三代将軍家光の寛永年間、1640年前後に存命していたことはほぼ間違いなく、この時代は歴史的イベントも実に面白い。例えば1637年の島原の乱など。また宮本武蔵・柳生十兵衛が存命していた。そういった時代背景を鑑みて、作中の年代もこの頃とした。


ルックスについては伝え及ぶ「四ツ目結紋付き、黒縮緬の長羽織姿」あたりはそのまま使わせてもらった。黒髪ポニテはまったくの創作。

名前の「類」は酒場放浪紀でお馴染みの吉田類から。


本編スタートから数話は、冒頭シーンも忘れられ「むっつりスケベの面食い凄腕女剣士が自分より強い婿探しに明け暮れる」だけの漫画にしか見えなかったかと思う。

「剣の腕は立つが人付き合いや世渡りはちょっと不器用」

類というキャラも最初はその程度の肉付けしかしていなかった。


しかし第4話の温泉旅行回で切鵺の「自分は仲間か?」という質問に対し「境遇や悩みは違っても理解に務めたり助けになれることがあったら、それも嬉しいだろうな…とは思える」と答えさせた台詞で類のキャラが見えてきた。というより、「友だちを描きたい」という僕自身の望みと自信の無さが類に投影された。この時の類にとっても友だちという存在がこれまでの人生でファンタジーであり、漠然とした理想でしか語られていないのだ。


天性の才能やルックス・強運故の自己完結・自己中心的な人格。

更に所謂発達障害を抱え、コミュニケーション力に問題があり、性的にも不安定。

そして赤と黒の区別がつきにくい視覚による血への恐怖心の低さ。

実は危うさの塊でしかない。それが佐々木類。


冒頭シーンから隻眼で登場する。が、実は作画の段階で付け足した要素。いつどのように隻眼になるかは決めていなかった。この手の見切り発車は全部「作家の勘」として受け止めていただきたい。


尚、九十九には柳生九兵衛二厳(柳生十兵衛のパロディキャラ)と旧交がある設定が台詞でのみ語られているが、巻数の余裕さえあれば、隻眼となった類に九兵衛が隻眼での戦い方を教授する展開も考えていた。


〈尼崎切鵺〉

団子の仲間5人は全て実在の女武芸者に由来がある。その中で実在の人物に則した設定を持っているのは、類の佐々木累と、切鵺の尼崎里也の二人だけ。あとの3人は元ネタの人物の名前を文字っているだけ。


里也と言っても女性。尼崎里也についてはリンク先を参照。


切鵺という当て字は漢字の読みから相応しい字を探して当てた。これ以上ないかっこいい字面になったと自分では思っている。

ちょっと失敗したなと思ったのは、本名までこの字に統一してしまったこと。本名は「理也」あたりにして「切鵺」は通り名として自分で当て字したことにすれば良かった。


ところでこの切鵺…実は第3話目までは「女性」設定で描かれている!

第4話目で急遽思いつきで「オトコの娘」設定に変更した。かなり向こう見ずな設定変更だったが作家の直感で勝算はあった。


「切鵺は類を愛してしまうが故に破滅を呼ぶ」という基本路線が敷かれていた。なので当初は百合設定だったということになる。


ただ僕はどうも百合設定というのが苦手で。そこにしっかりとした情念があるならまだしも「女の子が女の子を好き」というそのテンプレだけでキャッキャしてる昨今の受け手の姿にうんざりしていたので、そういう反応をされてしまうのも避けたかった。

しかしそれが一番の理由だったわけではない。言ってしまうと「オトコの娘」も好かない。物語のギミックとして有効と考えたのが一番の理由。


カミングアウトの時点で切鵺は男性として不能である事が明かされている。切鵺は「男女を超え、ある意味同性同士よりも純粋な仲間」なのだ。そこから男性に変化する。男として類を愛するための転換が必然となる。ただの仲間ではいられなくなる。その面白さに賭けた。

残念ながらそこを丁寧に描写する余裕は与えられなかったが。


尚、企画時では切鵺が嫉妬から九十九を殺す予定だった。魁と同じくらい闇堕ちさせるつもりだった。


〈岩淵源内〉


尼崎里也の逸話に付随して作られたキャラである。元ネタは尼崎里也の両親の仇である岩淵伝内。

姿を現わすのは第12話のことで、それまでは「狐目」の眼だけの登場だった。実は行き当たりばったりで眼だけ描いたもので、全身の設定は第12話で初めて用意した。


主要人物たちをリンクさせるための補助的なキャラのつもりだったが、描いてるうちにだいぶ愛着を持って重要性を増していった。

また刀萌の妹・咲との絡みなど全く予定してなかった。咲自体当初のプロットには存在していなかった。


「鏡斬り」という技を使う。これは『レッツゴー武芸帖』(よしもとよしとも)に登場する同名の技が元ネタ。よしとも先生ファンとして敢えてそのままの名前を拝借した。

元ネタの鏡斬りは、刀を右腰に差し替えて相手を油断させた上で抜刀する。

対刀萌戦で披露した鏡斬りのギミックは僕が考えたもの。


感情の赴くままに生きた半生を後悔する。以来刹那を実感し記憶しながら生きる。

記憶とは違う想い出。とっくに輪郭はぼやけていても、刹那を記憶したディティール以上の存在感をもって心を支配し続けていることが源内には苦しい。

刹那を感じるという生き方は、走馬灯で再び津重と相見えることが出来た際に一瞬を永遠に感じるための訓練でもあった。


〈刀萌〉

本名は巴。なぜ「刀萌」という字面にしたかというと単なる思いつきとしか言いようがない。ちょこっと失敗したのは、「刀剣乱舞」界隈のスラングに「刀萌」という単語が存在していることを知らなかったことだ。「刀萌」は気に入ってるので知らなくて良かった。


冒頭で名前が出てくる時点では「二刀の使い手」「病で死ぬ」以外の設定は一切なかった。

役割としては「類に必殺の二刀の技を伝授する」ことだけ。すれっからしの姐御肌を最初はイメージしていた。剣士としては仲間内で最強。切鵺は刀萌をライバル視し一人だけその実力を知り焦るが刀萌は病で死んでしまう。だが死ぬ直前に類に必殺技を託していた。そんな設定。


いざ登場直前になってビジュアルからイメージを刷新することにした。

まず「巨乳」。姐御想定の時からある程度胸はあるイメージだったが、はっきりとわかるそれにしようと思った。

そして「頼り甲斐がある」から「抱擁力がある」イメージへ。ぶっちゃけると、『3月のライオン』のあかりお姉ちゃんのイメージ。柔和で、しかし妹たちの生活を背負ってる逃れられなさ感。

でも人は出来てない。父親に陵辱を受けていたにも関わらずおっさんに抱かれたがる、ちょっと壊れてしまったところのある寂しがり屋。胸を病んでいても煙草をやめない自制の効かなさ。ハッキリ言ってダメ人間。


結果としてだが、刀萌のエピソードには尺を費やしすぎた。

それはそれとして、咲の登場、源内と咲の絡み、源内の組織のいざこざ、そして類に技を託し、源内と戦い敗れ死ぬこと…これらは複合的に考えていたので何がどう必要になってという説明は難しい。


「二刀による必殺技」これには本当に苦心した。恐ろしい話だが冒頭シーンを描いた時点ではまったく何も考えていなかったのだ。

武芸には詳しくない。実現性においてあまりにナンセンス過ぎないか。漫画的に面白いか。その筋の人に知恵を借りようと思ったこともあったが、真剣に考えて編み出したのが、二刀の居合術「虎踞位(こごみ)」と「翻虎尾(はこべ)」。


「踞」という字は獣が前脚を揃えて身を伏せた様を指す。ちょうど刀を握る両手の形がそのように見えるのでこの字を当てた。

そして「虎踞位」の構えから掌を翻して抜き、尾を振り当てるように斬りつけるから「翻虎尾」。どちらも読みが植物の名前になってるのも語呂が良い。

更に、そこまで考えておいて、類が対切鵺戦で使うと見せかけて、使わない。

ハッタリを効かすには十分なお膳立てが出来たと自負している。


ただやはり実現性は低いと思われる。

まず刀萌のあの襷掛けと帯刀の仕組みは実に怪しい。一応自分で紐を使って再現してみてはいるのだが。

そして片手で居合の鋭さで抜くのは大変。作中の刀身の長さの描写はかなり適当だが、一応刀萌の太刀は一寸か二寸短いということにした。鞘は普通の長さ。


かつて九十九と何かしらの関係があり、九十九は「唯一殺せなかった相手」ということになっている。

これも諸事情により描く余裕は無かった。


〈斬九郎〉

「斬九郎」と書いて「ざくろ」。


エゾモモンガ。なので本来本州には生息していない。可愛さだけで設定した。可愛く描けてないが。

やはり人気漫画にマスコットは不可欠だなというやらしさで登場させた。


名付けに関して逸話がある。

何となく「斬九郎」という名が思い浮かんだ。何となくとは言ったが『御家人斬九郎』という池波正太郎の小説及びドラマが元ネタ。

ほぼ斬九郎で決定していたが、他に良い名はないものかとある知人に「斬九郎」の名は知らせずに相談してみた。

すると返ってきたのが「ざくろ」。震えた。こんなシンクロニシティまずない。


〈咲〉

企画時には影も形もなかったキャラの一人。

刀萌の背景を煮詰めていく中で生まれた。

モデルや名前の由来などはない。


遊女の悲劇を使った逸話は時代劇では定番中の定番。ベタが嫌いなひねくれ者の僕には気恥ずかしくて仕方なかったが手を出すことにした。

遊女として売られた妹を救う為に手を血で染める姉、しかし結局病に倒れて叶わない。嗚呼、御涙頂戴…。

これはもう悲劇をもっと大きくするしかない。病は死のトリガーとはなるが、実際は惨殺されて死ぬ。

その魔手を振るうに相応しいキャラがいるとすれば、源内。こうして切鵺・源内・刀萌・九十九のリンクが出来上がった。


刀萌の病死を嫌った理由もあった。刀萌の病は所謂結核なのだが、すると死に至るまでに衰弱期間がある。この処理が厄介だった。


咲は遊女生活で源内相手でも物怖じしない肝の太さを身に付けた。


作中では最終的に身の上がどうなったのか明かされないまま終わる(それどころか源内が切鵺に心を奪われて咲への関心を失ってフェードアウト)。

残念ながら顛末を描くための尺が無かった。構想上の設定だけ記しておく。


刀萌は自分が死んだ場合には、女衒の男に咲の身請けを託すつもりでいた。斬九郎を使い、貯めた金の在り処を知らせて。

これは刀萌と女衒の関係に於いては反則にあたるため、実行される保証はない。貯まっている金額にも拠る。足らない分は当然女衒に頼ることとなる。


作中ではほぼ身請け料は貯まっていた。そして女衒の男は斬九郎と共に江戸に現れた…。後は想像にお任せする。


咲の身の上についての構想には、源内が不足分を立て替えて咲を自由の身にする…というのもあったが展開が切羽詰まっていてそうはならなかった。

良心の呵責に見えるような展開を描くのも嫌だった。


尚、これは本当に蛇足なのだが、最終話で類と慎太郎が長崎に赴く道中で女衒の男と一緒の咲に偶然出会い、堺まで同行する…という形での顛末の描き方の構想もあった。


〈女衒の男〉

名前はない。


まさか刀萌に二刀を伝授するキャラまで作ることになるとは思ってもいなかった。


必殺シリーズの藤枝梅庵(緒形拳)をモデルにしたつもりだったが、全然似なかったので聞かなかったことにしてほしい。


構想では刀萌が暗殺者としてのレクチャーを実際に受けるエピソードも考えていた。そしてその中で女衒の男は死ぬ…。流石に脱線しすぎなので描かなかった。


僕の漫画には珍しい冷徹でプロフェッショナルな男性キャラを登場させられたので満足している。

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Comments

imo

この人と十郎には凄く来るものがありました

tagrochang

この人って女衒のことかな