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2019年11月22日、拙作『別式』の最終第5巻が発売された。これを以て連載期間にして3年1ヶ月に及んだ連載作品を読者に届ける作業が完了した。

この作品の誕生から終了までの道程を振り返ってみたいと思う。


前作『変ゼミ』の連載終了から4ヶ月が経った2015年10月、深夜の新宿の居酒屋で『別式』の企画が産声を上げた。担当編集は『変ゼミ』で9年に渡り一緒に仕事をしてきたK。

『変ゼミ』は連載半ばでアニメ化までされたが、後半は右肩下がりで部数が落ち全11巻で幕を下ろすこととなった。最終巻の実売数は2万にも届いていなかった。このままではゲテモノ作品の一発屋で終わってしまう。『変ゼミ』連載開始以前に僕は既に漫画家としては10年選手であり、元からニッチな作家ではあったのだが。なんにせよメジャーで生き残るための次回作の重要性は重々承知していた。

何を描くべきか、度々Kと酒を飲みながら駄案を捏ね続けていたがなかなかこれというアイデアは生まれなかった。


K「また売れたいですよね」

僕「はい」

K「そのためには何が必要?」

僕「女の子がたくさん」

K「その子たちに何をさせるの?」

僕「うーん……チャンバラ?」


完全に酒の席での口からでまかせだった。しかしそこでスマホを手繰って関連要素を検索しているうちにある単語がヒットする。「別式(女)」


正直僕は時代物や歴史物にはとんと疎かった。なのでこの単語の意味も知らなかった。意味は「諸藩領主の奥方を警護する女武芸者」。Kに知っているか尋ねても知らなかったと言う。

「別式」タイトルはこれしかないと直感した。恐らく多くの人間が知らない。「なんだこれは」と思わせる字面のパワーを感じた。同時に、常日頃考えていた事柄がリンクした。


「別式…別れの式…」

僕は所謂ジャンプ漫画を好まない。ライバルが次々と仲間になっていくあの様式だ。だからその逆をやりたいと担当に説いた。つまり「仲間が離散してゆく物語」。この時連想したのは『魔法少女まどかマギカ』でありそれを喩えに出した。まどマギはマスターピースとして敬服しているが、オマージュがあったわけではないことを断っておく。巨乳でお姉さん肌の刀萌(巴)が出てくるのも偶然。

前述したように時代劇には疎くハナから本格時代劇をやる自信も野心もなかったので、「時代劇の皮を被った、現代に通じる群像劇」というイメージで話を進めた。次に連想したのは『レッツゴー武芸帖』(よしもとよしとも)。非常に人を喰ったサブカル剣士漫画である。そして白土三平作品。至極真面目な作品であるにも関わらず台詞に「チャンス」などの横文字がたまに飛び出す。そのユーモアにくすぐられていた。これを大上段に構えてやりたい。その悪巫山戯の中で骨のある物語を描けたら面白いと感じた。


ではどう仲間が離散してゆくのか。現代人にも共感できる別れの有り様をいくつか用意しようと思った。例えば「引っ越し」「病死」など。実は作中で退場してゆく主要な登場人物たちはこの時に用意した「別れの有り様」に則って退場している。


引っ越し=早和

病死=刀萌(作中では結局殺害されているが)

事故死=九十九

自殺=魁

喧嘩別れ=切鵺


といった具合。「現代人にも共感できる別れの有り様」と言えるのは「引っ越し」と「喧嘩別れ」くらいで、あとは「死に様」でしかないのだが。それでもキャラごとに違うということで自分を納得させた。

またこの時出た案の数が主要人物の数となった。


もうひとつ、これは自分自身の中でテーマにしていたものがある。それは「友だちを描きたい」という願いだった。僕にとって友だちというのは一種のファンタジーだったからだ。これ以上話すと寂しい話になるので掘り下げないが、とにかくそういう意図があった。


そこから先は僕一人の作業となった。早速描いた最初のイメージがこれ。


この時点で主人公の大体のルックスが決定している。次にキャラデザ案を何人か描いた。










デザインとしては類と魁と九十九が、名前として刀萌(巴)がこの時点で生まれている。切鵺はこの次の段階のラフで生まれている。


ちなみに僕のキャラデザで髪の毛がトゲトゲしてるのはわりと珍しい。また頭身の設定で試行錯誤していたのがわかる。

次にイメージボードと思いつきのシーンをネームに起こした。









まんま本編に流用したネームもあるし、この中で早和というキャラの登場とデザインが決定している。

くどいようだが時代劇に疎く、また着物姿も刀も江戸の町並みも描いたことがなかったので、この時点で「これは無理だ…」と実は挫折しかけていた。


最初の企画時にKと「これだけは守ろう」と決めていたことがひとつある。それは「物語が何処を目指しているのか明確に読者に示す」ことだった。

変ゼミの終盤からその後にかけて『つーつーうらうら☆ダイアリーズ』という作品の原作を担当した。作画は『じょしらく』などのヤスさん。自信をもって作っていたにも関わらず単行本2冊で終了。打ち切りに涙した。

K曰く「何処へ向かっているのかわからない」作品ということだった。そう言われてしまった悔しさもあり、『別式』は冒頭にクライマックスシーンを配することにした。

そうなると、そこへ至る経緯は事前に決定しておかなければならない。のだが……実はかなりざっくりとした展開しか決めないまま連載を開始している。当然のように以後の連載は終盤へ進むにつれ、この見切りスタートの冒頭シーンに「てにをは」レベルで苦しめられることとなる……。


第1話のシナリオはたしか2016年2月には完成させていたと思う。1話60頁というのはこれまで描いたことのない分量だった。そこからネームを起こし、作画作業に入ったのは3月に入ってからだったか。連載開始は7月売り。1話だけなら十分間に合うが、2話目のストックを作っておく約束だった。第1話は4月中には脱稿して5月からは第2話の制作に入っていたと思う。だが3話目にしてストックはなくなっていたと記憶している…。


<つづく>

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Comments

imo

モーツーでやるのというのがもうウルトラハードモードな気が 私なんて変ゼミ読むようになって存在を知りましたし… コンビニはおろか書店でもまず見ないですよね その辺からすると凄く健闘されているのではないかと思います

tagrochang

今雑誌はどこも落ち目ですし、掲載誌で左右されることはないと思います。 ネットでバズるのが一番手っ取り早く、購買者は何処で連載してるかなんて気にしてない。 僕個人はそりゃほんとに健闘しましたよ。上記の事情がわかってるから編集部は宣伝に関して今やあまり当てにならない。 でも必死になればなるほどめんどくさがられちゃうんですよねえ。 それだって仕方ない。本当に「作品ファースト」で考えてるの作家一人ですから。 あとこのままじゃ老後がねえんだ。