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 小説を書くとき、一応視点を意識して書いています。この場合の視点というのは「一人称視点」とか「三人称視点」とかいうやつです。

 簡単に言ってしまえば「一人称視点」は主人公の視点で書く。「三人称視点」はカメラや神の視点で書く。って感じです。「人間を飼うことにした」や「小人収穫バイト」は一人称視点、「弱肉強食」や「ワールドエンド5」の最初の部分は三人称視点を意識して書いてます。(ちゃんと書けてるかはまた別)どちらにもメリットデメリットあるんですが、私が書いてるものだと一人称視点のものが多いですね。


※私がこんな風に意識して書いてるよってだけで、こういうときはこうする!みたいな話ではないです。どんな視点でもめちゃくちゃに魅力的な小説を書く方はたくさんいらっしゃるので…





一人称視点(小人収穫バイト)


「ほーらどけどけ……足置くぞー」


 ずん、と足を置くと、乗り場の屋根がつぶれて同時にレンガ風のブロックの鋪装が重みに耐えきれず砕け散る。なんか柔いものを踏んだ感触もあったから何人か踏んだかもしれない。こびりつくから嫌なんだよな。あと数歩近づかなきゃなー……と思ったところでプォンという警笛と共に駅から電車が飛び出した。





 これは「小人収穫バイト」でイオリくんが駅に近づこうとバスロータリーの屋根の一部を踏みつぶしたシーンですが、見ての通りイオリくんが見たまんま、感じたまんま(を想像して)書いてます。一人称視点のメリットは「主人公に感情移入しやすい」「主人公の心情を書きやすい」等がよく言われます。デメリットは「主人公の見たままを書くので、主人公の知らないことは書けない」等ですね。イオリくんの視点で物語を体験でき、建物の脆さや電車の小ささをイオリくんを通して感じることができるものの、イオリくんが知らないこと――例えば、踏みつぶしたビルの中の状況は知らないので書けない、ってことになります。

 「小人収穫バイト」ではイオリくんの小人に対する感じ方、考え方を優先して一人称視点にしました。(あと、書きやすい)もし三人称視点にしてたら多分こんな感じになると思います。





三人称視点(小人収穫バイト)


「ほーらどけどけ……足置くぞー」


 屋根を覆って余りあるイオリの足がゆっくりと、ただ小人にとっては落下と相違ない速度で乗り場の屋根へと降りていく。金属製の屋根はイオリの足が触れた瞬間、何の抵抗もなく支柱が折れて、逃げまどう小人を巻き込みながら倒れていった。それでもイオリの足は止まらず、逃げ遅れた小人はその足の裏に挟まれ、叫び声を上げながらも一瞬で潰れ歩道のしみになった。イオリの体重を支えきれないインターロッキングの舗装は着地と同時に沈み込みながら砕け散った。小人が潰れた感触をイオリは足の裏で感じ取り、脚にこびりつく小人をを想像してうげ、と口をゆがめた。あと数歩近づかなきゃな、とイオリが駅に目を向けた瞬間、高い警笛と共に駅から電車が飛び出した。





 無理やり三人称視点にしたのでなかなかに不自然ですが、踏みつぶす描写が明確になった代わりに、イオリくんの心情が薄くなったように感じませんか? いや私の技量もあるんですけど、そういうわけで「小人収穫バイト」はイオリくんの一人称視点で書いてます。







三人称視点(弱肉強食)


 男が金髪の顔を掴む手にゆっくりと力を込めていく。ミシミシと男の太い指が顔に食い込んでいき金髪は悲鳴と共に暴れるがそれで男は止まりはしない。


「ほら、さっきの瓶みたいになりたくなきゃ五秒以内に謝れ。ごー、よーん、さーん」

「ぎがっ、がっ、すすい…ぎゃっ、す、すい……」


 もちろん金髪は死なないために謝罪の言葉を口にしようとするのだが、その間にも頭蓋骨がミシミシと音をたててすさまじい激痛が襲い、上手く舌が回らない。それでも男のカウントダウンは容赦なく進んでいく。


「にー、いーち……ゼロ。じゃあな」


 男が手に一気に力をいれ、金髪の頭がぐしゃりと砕け散るーーことはなかった。男の手には白目を剥いたまま静かに揺れる金髪の姿がある。カウントダウンの途中であまりの恐怖と痛みに、金髪は吊られたまま気絶してしまったのだ。






 これは「弱肉強食」で男(和宏)が金髪の不良にアイアンクローをかましているシーンです。三人称視点はよくカメラが見たものを書く、とか表現されるのですが、このカメラはここだと近くにいるいじめられっ子の俊介の基準に設置してます。あんまりコロコロ視点が変わると書く方も読むほうも大変なので、大抵この視点は固定するのが基本のようです。(三人称一元視点とか言ってプロの小説も大体この形式らしいですよ)この視点のメリットは「キャラが知らないことも書ける」ですよね。例えば金髪の頭蓋骨がミシミシいって激痛が襲ってるってことは、ちょっと離れてるとこから見てる俊介には(想像はできるけど)わかりません。同様に気絶してしまう金髪たちの視点ではその後の俊介とのやり取りは書けません。唯一一貫して出てくるのは和宏ですが、この話は「突然出てきた謎のでかい男が不良をボコボコにする」がメインなので、和宏の心情を書くと謎感が薄れちゃうかな~ってなってます。「不良ボコボコにするオレすげー」系なら男視点もいいですよね。「冗談だろ。軽く殴っただけなのにこれかよ」とか地の文で書いてみたい。不思議な力で成長系とかは合いそうですよね。

 なのでこれは三人称。一人称視点にするなら俊介視点がいいと思うけど、ここはあえての金髪視点で。やられるやつ視点もいいよね。




一人称視点(弱肉強食)


 男の腕がぶわっと盛り上がると頭に激痛が走る。俺の顔を掴む男の太い指が食い込んで骨がミシミシと音をたてる。悲鳴をあげ力の限り暴れるも、男の腕も指もびくともしない。


「ほら、さっきの瓶みたいになりたくなきゃ五秒以内に謝れ。ごー、よーん、さーん」


 激痛の中さっき男の手の中で砕けた瓶がフラッシュバックする。それを俺の頭にやったら……頭が潰れちまう


「ぎがっ、がっ、すすい…ぎゃっ、す、すい……」


 もう恥もプライドもなく謝ろうとするのだが、凄まじい痛みで口がうまく動かない。しゃべろうとしてもめり込んでくる指が頭を圧迫してどうしてもうめいてしまう。謝ろうとしてるのに言葉が出せない。気づいてくれ、と願うのだが指の間から見える男の表情は変わらないままだ。


「にー」


 待ってくれ。


「いーち」


 嘘だろ嘘だろ謝る謝ってるなあほんtに


「……ゼロ。じゃあな」


 最後に男の腕がボコッと膨れ上がり頭蓋骨が割れるような音と今までで一番の激痛がきて、俺の視界はその瞬間真っ暗になった。



みたいな感じですかね。気絶するのでこのシーンにはあまり合いませんが、ボコられる側の視点はなかなかいいですよね。






 というわけで一人称→三人称と三人称→一人称の書き換えもやってみましたが、そもそも視点に合わせてシーンを考えたりもするのであまりしっくりくる感じにはならなかったかな~と思います。どちらの視点にもメリットデメリットあるので、今後も話に合わせて使い分けていきたいなと思います。巨人の話なら小人視点もいいですよね! 



※また言いますけど私がこんな風に意識して書いてるよってだけで、こういうときはこうする!みたいな話ではないです。どんな視点でもめちゃくちゃに魅力的な小説を書く方はいらっしゃるので……いやほんとうにうらやましいぐらいに……


終わり


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