Home Artists Posts Import Register

Content

「わ、ッ……」 か細い悲鳴のような音を喉から出し、視界の端で大きく動く腕が見えた。 ……オーバーワークだ。二十四時間通しで彼女の声を届け続けたのなら妥当であろう。 「ありがと、もう駄目だほんと」 ちり紙を差し出すと鼻を抑え机を拭いていた。 案の定というべきか、赤い血はちり紙へ吸われていく。 「自己犠牲とも少し違うけど、消耗前提の作業とか本当に嫌。……こういうやり方しかできない私があれなんだけどさ」 濁った声でログを纏め終わったらうにさんは疲労と達成感を混ぜた顔で発言する。 「これは何が楽しいんだろうね、誰が楽しいんだろう。どこが楽しいんだろう」 『……』 時計は日付けの変わったばかりを指しているらしい。 チーム裏方、本年度の幕間を終え、片付け中。 消え切らなかった鱗粉を集めて、文字に。 「というか、本名発表って今年なんだ」 同意するように温かいミルクティーをサーブする。 キャラクターの描かれたマグカップを両手で抱えて、小さく啜りながら今年の感想を述べているようだった。 「名前自体はうちら去年とかには知ってたわけじゃん? 淡乃さんはもっと前からか……でも出し損ねると言う機会ってどこにもないから苦労したよ。必要な情報なのかはともかくさ」 故人が喋るというのも不思議な現象ですね。 頷いて会話を進める。きっとこれは彼女の反省会なのかもしれない。 「ってか……学生証苦労したな……そもそも名前も知らない学校の学生証とかどうしたら手に入るんだよ……」 一週間程かかっていましたね。 「一週間フルに使ったよね。学校名校章デザイン顔写真……今後一生使うかもしれない情報の読み間違えって怖いけど、時間無いから急ぎで。そりゃ鼻血も出る」 大きく瞬きをしている。画面を見続けた代償だろう。 「今まではぼんやりとやりたいこととか直前には分かってるんだけど、今年はそれも無いし」 ── ここまで。

Files

Comments

No comments found for this post.