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pixiv側へ掲載した「お兄ちゃんを取らないで!」の続き話です。

妹の美緒ちゃんは元お兄ちゃんに対して、どのような気持ちを抱いているのでしょうか?


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 学校を終えて帰宅してからと言うものの、私はずっと悩んでいました。


「はぁ……どうすればいいんだろう」

「美緒ちゃん、どうしたの?」

「どうしたのって、お姉ちゃんの事で悩んでるんでしょ」


 私の理緒お兄ちゃんは、ある日突然お姉ちゃんになってしまいました。

 男の娘の旭ちゃんと婚約を交わしていたお姉ちゃんは、女の子になった事で男女として合法的に結婚可能となりました。


 しかし、旭ちゃんが意外な一言を言ったのです。


『あたし、女の子には興味無いんだー』


 と言うわけで、私は旭ちゃんと元お兄ちゃんの結婚を阻止できたのです。

 旭ちゃんは男の娘だし、男同士で結婚なんてしてほしくないもん。

 ただお兄ちゃんが女の子になってしまった事で、旭ちゃんとの結婚は阻止できたけど……。


 女の子同士、と言う事で今度は私と結婚できなくなりました。


「お姉ちゃんのバカ。本気で好きだったのに」

「美緒ちゃん、僕も好きだよ」

「そんな軽く言わないでよ、お姉ちゃんの好きはラブじゃなくてライクでしょ」


 私がそう言うと、お姉ちゃんこう言いました。


「じゃあ僕もラブって言えばいいの?」

「はいはい、もういいわよ。もう今はお姉ちゃんなんだし、それに姉妹だしどうせ叶わぬ恋だったのよ」

「美緒ちゃん、本気で僕の事好きなの?」

「うん、そうよ。悪い?」

「悪くないよ。でも美緒ちゃん、女の子の僕の事も好きなの?」


 そう言われると……どうなんだろう。

 元お兄ちゃんの事は嫌いじゃない、でも今はお姉ちゃんで同性になってしまって。

 果たしてそこにラブの感情がまだあるのかと言うと……。


「……好きよ! どんな姿だって、お姉ちゃんはお姉ちゃんだもん」

「そっか、本当に本気なんだね。何だか少し安心した」

「安心したの?」

「うん、だって美緒が好きなのは男の子の僕だと思ってたから。女の子でも受け入れてくれるんだって」

「当たり前でしょ! 今はお姉ちゃんだけど、私の大事なお兄ちゃんだったんだから」


 女の子同士になってしまって、しかも元兄妹だったので今は姉妹だけど。

 結ばれる事なんて容易じゃないけど……でも、やっぱり私はお姉ちゃんの事が好き。


 旭ちゃんにお兄ちゃんが取られる心配もなくなったし、私は一安心していました。



 しかしそう思ったのも束の間、次の日の登校中の事。


「理緒ちゃん、僕決めたよー。やっぱり僕、理緒ちゃんと結婚したいなー」

「へ!? 旭ちゃん、だって女の子には興味ないって」


 旭ちゃんが再びこんな事を言うものだから、私は驚きを隠せませんでした。


「だからね、理緒ちゃんを男の子に戻しちゃえばいいんだって気付いたんだよー」

「戻せるの!? まさか、理緒ちゃんを女の子にしたのって」

「あたしじゃないよ? そんな事できる筈ないでしょー、魔法少女じゃあるまいしー」

「そ、そうだよね。いくら旭ちゃんが色々無茶苦茶だからって、さすがに魔法少女は在り得ないよね」

「何だか旭ちゃんだったら魔法少女でもおかしくないですー、みたいな顔してるねー?」


 旭ちゃんなら魔法少女だった、と言われてももう驚かないつもりでした……でも違ったみたい。


「どうでもいいでしょ……で、どうやって戻すのよ? 何か考えはあるの?」

「無いよー。でもさ、お姫様は王子様のキスで目覚めるって話があるじゃないー?」

「え、うん。確か何かの童話だよね」

「だからさ、きっとあたしが愛のアプローチをすれば、愛の力で男の子に戻ってくれるんじゃないかなーって」

「えー……」


 さすがにそんな事は無いでしょ……と、最初は思った私でしたが。

 でも現にお姉ちゃんは原因不明で女の子になってしまっているのです。

 旭ちゃんの言う事、絶対に無いとは言い切れないのかも。


「お姉ちゃんは私と結婚するんだもん。旭ちゃんにはあげないよ」

「でも女の子同士じゃ結婚できないでしょー。ならば男の子に戻さないとー」

「男に戻したら旭ちゃんと理緒ちゃんが男同士になるでしょ!」

「あたしは女の子だよー。だから男の子の理緒ちゃんじゃないとダメなの」


 旭ちゃんへのツッコミは置いといて……お姉ちゃんが男に戻れば、私と合法的に結婚できます。

 しかし旭ちゃんと男同士の結婚をしてしまう可能性だってあるのです。


 そうなるくらいならば私は……。


「私は! 女の子同士でもいいの! お姉ちゃんは私のものなんだからー!」

「あ、美緒ちゃん、腕痛いよ」


 私は無我夢中で理緒お姉ちゃんの腕を引っ張り、強引にこっちへ引き寄せました。


「えー、でも同性同士って在り得ないと思うよー」

「旭ちゃんがそれを言うかい……男に戻したら男同士でしょ!」

「だからあたしは女の子と同じなんだよー」


 旭ちゃんに奪われるくらいならば、女の子同士だっていい。

 むしろお姉ちゃんが女の子になったなら、女の子同士の楽しみだってあるのです。


「ともかく旭ちゃんは、一度結婚を辞退したんだから。お姉ちゃんを男に戻して取り戻そうだなんて考えないでよね」

「美緒ちゃん、僕はできれば男の子に戻りたいな。元々男の子だったし、やっぱりずっと女の子で居るのは大変だよ」

「え、でも……そしたらお姉ちゃん、旭ちゃんと結婚しちゃうでしょ」

「うん、幼少の頃からの約束だからね。約束はきちんと守らないと」

「お姉ちゃん……あのね、世の中には破っていい約束もあると思う」


 お姉ちゃんは約束を守る為に旭ちゃんと結婚したいのかな。

 果たしてそこに愛はあるのかどうなのか……旭ちゃん側はお姉ちゃんの事を好きみたいだけど。


 でもお姉ちゃん、昨日旭ちゃんとトイレの個室に居たんだよね。

 それってつまり、旭ちゃんに大事な部分を見られてもいいって思ってたのかな。

 旭ちゃんにありのままの自分をさらけ出してもいいって、許してるって事だよね……。


「私、気分悪い。先に学校行くね」


 何だか考えているうちに段々と不快な気持ちになりました。

 私は二人を置いて、先に学校へ向かいました。


「あ、美緒ちゃん行っちゃったねー。大丈夫かなー?」


 旭ちゃんの声が聴こえましたが、私は無視しました。



「ちょっと屋上で横になっていればいいかな……」


 学校へ着いても気分の悪い私は、屋上を独り占めして寝そべっていました。

 女の子だしスカートではしたないかもしれないけど、今の時間なら誰も来ないだろうし大丈夫。

 授業をサボる気なんてなかったけど……何だか今は、屋上で風に当たっていたい気分。


「旭ちゃんの件だけでも大変なのに、お姉ちゃんが女の子になったり生理が重なったり……色々あったからなのかな」


 私は色々と気疲れしてしまったようです。

 ちょっと横になって大人しくしていればいいよね、きっとすぐに良くなるよね。


「美緒ちゃん、大丈夫?」

「あれ、お姉ちゃん? 良く私がここに居るって分かったね」

「調子悪そうで教室にも居なかったから。もしかしてここかなって」

「うん、ちょっと風に当たって休もうと思ってね。色々と疲れちゃった」

「もしかして美緒ちゃん、生理重い?」

「なっ!? だからどうして女の子に対してそういう事言うかなー!?」

「いや、違うんだよ。僕も女の子になって昨日生理になったから。美緒ちゃんの辛さ、分かるなって」


 ……そっか、無神経じゃなくて本当に心配してくれているみたい。


「うん、正直少し重いよ。女の子って生理のせいでやたらイライラしたり、気持ちが不安定になる事もあるんだよ」

「今なら分かるよ。僕も調子が悪そうな美緒ちゃんを見て、何だか急にいつもより不安でいっぱいになったから」

「お姉ちゃんはもう女の子だもんね。今ならこういう話、平気でできそうだね」


 お姉ちゃんは男の娘の旭ちゃんとは違って、間違いなく女の子です。

 元男の子でお兄ちゃんだったけど今は本物の女の子だし、生理の辛さだって分かってもらえます。

 女の子同士だとこういう気持ちも共有できるんだ、と思うと私は少し気が楽になりました。


「さってと。教室へ戻って頑張って授業受けようかな」

「美緒ちゃん、もう大丈夫なの? 無理しない方がいいよ?」

「大丈夫だよ。少し気持ちが楽になったから。お姉ちゃん、ありがとね」

「うん? 僕、何かしたかな?」

「分からないなら分からなくてもいいよ」


 何だかそういう反応の方がお姉ちゃんらしい、と思いました。



 今日も体育の時間がやってきました。

 これから更衣室で着替えますが、その前にまずはお姉ちゃんのブルマをどうにかしないと。


「美緒ちゃん、ブルマ借りてもいいかな? 今日は洗濯が乾いてるから余ってるよね?」

「え、余ってるけど? でもお姉ちゃん、私より発育良さそうだもん。きっと私のブルマじゃ小さいよ」

「いいよ、小さくても。せっかくだし、美緒ちゃんにブルマを貸してほしいから」

「んー、保健室でサイズの合った物を借りた方がいいと思うよ? また体育の時間、おしりばかり弄るハメになるよ」

「それでもいいよ。美緒ちゃん、昨日何だかガッカリしてたみたいだから」


 ……あの何処か抜けてる鈍感だった元お兄ちゃんが、私の気持ちに気付いてくれた?

 もしかしてお姉ちゃん、女の子になった事で男の時と脳の造りが変わったのかな。

 でも女の子になって、たった二日でいきなりこんなに変わるものかな?


 生理になって女の子の辛さが分かるって言ってたから、女の子の気持ちも分かるようになったのかな?


「じゃあ私の貸してあげるから使って。でもサイズ、合わなくても知らないからね?」

「うん、いいよ。どうにかするよ」


 もしかしたらブルマが小さくて、またお姉ちゃんが授業中恥ずかしい思いをするかもしれない。

 でも私はそれ以上に、お姉ちゃんが私を頼ってくれた事が嬉しかったです。

 それに旭ちゃんの物じゃなくて、私のブルマを選んでくれたんだ。


「これで身に着けている物、美緒ちゃんとお揃いだね。髪飾りも、ブルマも下着も」

「あ、うん、そうだね、お揃いだね」


 急にお姉ちゃんがこんな事を言うから、少し驚きました。

 何だかまるでお姉ちゃんと一心同体のような錯覚をしてしまって、私は少し恥ずかしくなってしまいました。


「何だか良いものだね、お揃いって」

「え、うん。お姉ちゃんも嬉しいの?」

「嬉しいよ。美緒ちゃんが嬉しいなら、僕もね」


 私が嬉しいならお姉ちゃんも嬉しいんだ。

 確かにこういうのって良いかもね、姉妹じゃないとお揃いなんてそうそうないもの。


「じゃあ美緒ちゃん、着替えに行こうよ」

「うん、お姉ちゃん」


 私達は体育着に着替える為、更衣室へと向かいました。



 更衣室へ行くなり、旭ちゃんがお姉ちゃんに絡んできました。


「ねえ理緒ちゃん、あたしのブルマ使うー?」

「大丈夫だよ、美緒ちゃんに借りたからね」

「え、そうなの? もしかして理緒ちゃん、美緒ちゃんの事好きになっちゃったのー?」

「うん、好きだよ。大切な妹だもの」

「えっ……」


 お姉ちゃんの口からそんな言葉が飛び出して、一瞬私は「ドキッ」としてしまいました。


「美緒ちゃん、良かったねー。理緒ちゃん、美緒ちゃんの事好きだってさー」

「う、うん……」

「あれー、何だか今日は大人しいねー?」

「うん……」


 だって、色々とビックリな事ばかりだから。

 何だか今日のお姉ちゃんは私に優しいし、とても安心できるんだもの。


 でもその一方で私は何処かしらで……何かが違う、と思ってました。


(何だろう、この少しもやもやした気持ちは……)


 何だかお姉ちゃんがとても可愛く見える。

 まるで本当の女の子になっていってるかのような……って、今は本当の女の子だったよね。

 女の子になっていきなり生理を迎えてるから、それで女の子らしく見えるのかな?


「おーい、美緒ちゃーん?」

「え、何?」

「どうしたのー? ボーッとしちゃってー」

「あ、何でもないの」

「体育始まっちゃうよー? 早く着替えちゃおうよー」

「うん、そうだね。旭ちゃんはお姉ちゃんの事、じろじろ見ないでね」

「えー、女の子同士でしょー?」


 女の子同士……なんだよね、今の私とお姉ちゃん。


「美緒ちゃん、時間無くなっちゃうよ」

「うん、お姉ちゃん。今着替えるね」


 私達は着替えを終えると、校庭へ向かいました。



 ブルマ姿のお姉ちゃんを見ていると、やっぱりおしりを気にしているみたい。

 それって私のブルマじゃ少し小さかったって事だよね……お姉ちゃん、元男なのに何で私より発育良いのだろう。

 同じ双子ならばお姉ちゃんが女の子になっても、私と同じくらいの体になる筈じゃない?


 何だか妙な劣等感を感じてしまうよ……。


「美緒ちゃんどうしたの? 僕の胸、何か付いてる?」

「うん、付いてるね。大きいのが」

「付いてるって、胸? あ、あんまりじろじろ見られると恥ずかしいな……」


 嘘、あの鈍感な元お兄ちゃんだったお姉ちゃんが恥ずかしがっている?

 何でだろう、女の子としての自覚が出てきたのかな?

 それともお姉ちゃん、女の子になった事で本当に脳の造りが変わってきてる?


「おしりもあまりじろじろ見られると、恥ずかしいよ……」

「あ、気付いてたんだ、ごめんね。でもブルマ、気にしてるみたいだったから」

「美緒ちゃんのブルマが良かったから。サイズが小さくたって、どうって事ないよ。できるだけ弄らないようにするから」

「お姉ちゃん、無理に我慢しなくてもいいんだよ? 何でそこまでして……」

「美緒ちゃんは大切な妹だから、悲しませる事をしたくなかっただけだよ」


 お姉ちゃんは私に対してそう言ってくれました。

 嬉しい……筈なのに。やっぱり何かが違って、もやもやした気持ちになっちゃう。

 何だろうこの気持ち、お姉ちゃんの体の差に対する劣等感なのかな?


「ほほーう、理緒ちゃんもすっかり女の子だねー。でも男に戻ってもらわないとあたし、困っちゃうかなー」


 すっかり女の子……そうだよね、お姉ちゃんはもう女の子だもん。

 このまま元に戻れるか分からないなら、きちんと女の子らしくなった方がお姉ちゃんの為だもん。


「旭ちゃんはやっぱり僕と結婚したいの?」

「うん、男にさえ戻ってくれればねー」

「それってつまり、女の子の僕はどうでもいいって事なの?」

「え、どうでもいいとは言ってないよー。ただ結婚的な意味では興味が無い、ってだけだよー」

「美緒ちゃんは女の子の僕も、きちんと受け入れてくれたよ。ならば僕、美緒ちゃんと結婚しようかな」


 え……嘘、お姉ちゃんが私と結婚してくれる!?

 嬉しい、嬉しい、嬉しい……筈なのに、でも違う、何かが違う、何かが違うの……。


 こんなの、私の知っているお兄ちゃんじゃない。


 何でもやもやしていたのか、分かったかもしれない。

 私、やっぱり女の子じゃなくて男の子のお兄ちゃんが好き。

 女の子同士じゃなくて、異性としてのお兄ちゃんが好きだったんだ。


 やっぱり同性同士で結婚なんて嫌、きちんとお兄ちゃんとして結婚したい。

 どんどん女の子の性格に染まって行くお兄ちゃんなんて、私の知っているお兄ちゃんじゃないもん……。


「あのね、お兄ちゃん、私気付いたんだけど……」

「何? 美緒ちゃん」

「……ううん、また後でお話するよ」


 私がそう言うとお兄ちゃんはキョトンとして、不思議そうにしていました。



 お昼休み、私はお兄ちゃんと屋上でお昼を食べながらお話しました。


「ねえ、お兄ちゃん……ごめんね、私、嘘言っちゃった」

「うん? 嘘って美緒ちゃん、何か言ったかな?」

「お姉ちゃんはどんな姿でもお姉ちゃんって言った事……やっぱり、違うって思っちゃった」

「違う? 何が違うの?」

「お兄ちゃん、女の子になったからなのかな。異様に優しいんだもん」

「何だか段々気持ちが落ち着いてきた感じでね。女の子としての気持ち、少しずつ分かるようになってきたみたい」

「うん……でも、それは私の知っているお兄ちゃんじゃないって思った」


 私は素直に思った事を伝えました。


「今は女の子だからね。もう男の子の時の僕とは違うのかも」

「私、何だか今までのお兄ちゃんが、私の好きだったお兄ちゃんが居なくなっちゃう気がして……」

「大丈夫、僕はきちんとここに居るよ。それに美緒ちゃん、お姉ちゃんの僕の事も好きなんだよね?」

「うん、好き……でも、お兄ちゃんの時の好きとは違うの。多分私の好きはラブじゃなくて、ライクだと思う」

「じゃあ僕が美緒ちゃんをラブになればいいかな?」

「違う、そうじゃないの……私、やっぱりお兄ちゃんだった頃のお兄ちゃんが好き。お兄ちゃん、元に戻って……」


 必死に訴える私の目には、微量の涙が浮かんでて……。


「はい、美緒ちゃん、ハンカチ。涙、出てるよ」

「ありがとう……でもお兄ちゃん、普段鈍感だから絶対こんな事しないよね……」

「うん、そうかもね。今はやっぱり、男の子の時と気持ちや感じ方が違うのかもしれないね」

「お兄ちゃんだけどお兄ちゃんじゃない……今のお姉ちゃんは私、やっぱり受け入れられないかもしれない……」

「美緒ちゃん……ごめんね、僕が女の子になっちゃったばかりに」


 違うの、お兄ちゃんを困らせる為にそんな事言ってるんじゃないの……。

 なのに私、結果的にお兄ちゃんを困らせちゃってる。


「ごめんね、お兄ちゃん……お兄ちゃんは何も悪くないの」

「でも可愛い妹を悲しませるなんて、お兄ちゃん失格かな。僕もできれば男の子に戻りたいけど」

「どうすれば男の子に戻れるんだろう……」

「美緒ちゃん、試しに理緒ちゃんにキスしてみればー?」


 と、こんな時にまた旭ちゃんがやって来ました……。


「何しに来たのよ?」

「いやー、お昼を一緒に食べようと二人を捜していたんだけどさー。もしかしてあたし、またお邪魔虫さんだったかな?」

「お兄ちゃんと大事な話をしてたのよ……」

「うん、全部聞いてたよー?」

「……うん、どうせそんな事だろうと思ったよ」


 どうやら旭ちゃんは私達が話を始める時から、もう屋上へ来ていたみたい。


「でも美緒ちゃん、ようやく素直になれたねー。やっぱりお兄ちゃんの理緒ちゃんが好きなんだねー」

「なっ!? そ、そうよ! 悪い!?」

「うん、悪いかもねー? だってそしたらあたし達、結婚できなくなっちゃうもんー」

「当たり前でしょ! お兄ちゃんに戻ったら男同士なんだし! 結婚できるわけないでしょーが!」

「でも今の美緒ちゃん達も女の子同士だものねー。今朝の美緒ちゃん、同じ事言ってたよねー?」


 確かにブーメランだけど……でも、旭ちゃんに取られたくなかったんだもの。

 だから私、女の子のお兄ちゃんでも好きって言っちゃったんだもん。


「……分かってるでしょ、私がそう言った理由」

「まあ何となくは分かるかなー? それで美緒ちゃん、理緒ちゃんにキスはするのー?」

「なっ!? 何でそうなるのよ!?」

「僕、いいよ。美緒ちゃんとだったらキスしても」

「お兄ちゃんも旭ちゃんの前で変な事言わないでー!」

「変なんかじゃないよ。大好きな人とキスして何がおかしいの?」

「え、だってお兄ちゃんは……」


 お兄ちゃんは……私の事、好きなの?


「大切な妹を悲しませちゃったんだもの。僕、美緒ちゃんの事大好きだよ。だからキスくらい、全然構わないよ」

「……お兄ちゃんのバカ。人前で恥ずかしい事、平気な顔して言わないで」

「僕だって恥ずかしいよ。でも、これが今の僕にできる精一杯の愛情表現かな」


 愛情表現……うん、私、少し勘違いしていたかもしれない。

 たとえ女の子になっても、お兄ちゃんのこういう優しさはやっぱりお兄ちゃんなんだ。

 でもどうせ好きになるなら、元のお兄ちゃんの方がいい……それだけの事だよね。


「おー、お二人さんお熱いねー。あたし、帰った方がいいかなー?」

「大丈夫だよ。旭ちゃんも一緒にお昼食べよう」

「えー! お兄ちゃんってば! そこは旭ちゃんを追い返してくれたっていいじゃない!」

「旭ちゃんだって、僕達の大事なお友達だから」

「それはそうだけどさー! 空気ってもんがあるでしょー!」


 ……やっぱり所詮、お兄ちゃんはお兄ちゃんだよね。



「あたし、トイレ行ってくるねー」

「行ってらっしゃい。ちゃんと男の方へ入るんだよー」

「美緒ちゃん、あたしは女の子だってばー」


 あんたは男でしょうが……でも更衣室もトイレも普通に女子側なんだよね。

 果たして学校側公認なのやら、知らないだけなのやら……まあそこはもうどうでもいいかな。


「お腹いっぱいになったら何だか眠くなっちゃった」

「お兄ちゃん、少し眠る? 私、時間になったら起こしてあげるよ」

「うん、ありがとう。じゃあ少し寝ようかな」


 私の言葉に安心したようで、お兄ちゃんは屋上のコンクリートの上で横になりました。


「わー、もう眠っちゃった……お兄ちゃん、よっぽど疲れてたのかな。何だかこうやって寝そべってるの、今朝の私みたい」


 女の子になって、色々疲れる事も多かったかもしれないね。

 お兄ちゃんにしては私に優しくしてくれたり、色々頑張ったものね。

 うんうん、お兄ちゃんは偉いよ。偉いお兄ちゃんに何かお礼でもしたいな……。


「……ちゅっ」


 私はそーっと、お兄ちゃんの唇に……。


「……しちゃった。お兄ちゃんにキス、しちゃった」


 旭ちゃんにあんな事を言われたからなのかな、ずっとキスが頭から離れなかった。

 女の子の姿でもお兄ちゃんはお兄ちゃんだもん、やっぱり私はお兄ちゃんの事が大好き。

 そしてこの気持ちはきっと、これからもずーっと一生変わらないと思う。



 なのに、なのに……。


「お兄ちゃん! 旭ちゃんからもっと離れてよー!」

「でも旭ちゃんとは結婚の約束をしてるから」

「昨日も言ったでしょ! 世の中には破ってもいい約束だってあると思うの!」

「まあまあ美緒ちゃん。良かったじゃん、理緒ちゃんが男の子に戻ってさー」

「それはそうだけどー……これでいい筈なのに、前と結局何も変わりないじゃんー!」


 私がキスをした次の日、お兄ちゃんは目を覚ますと男に戻っていました。

 男に戻ったのは私がキスをしたからなのか、私の愛のパワーなのか、それとも違う理由なのか。

 結局はっきりとした理由は分からないままだけど……でも、お兄ちゃんはこうして戻って来てくれました。


 お兄ちゃんはたった二日間だったけど、きっと女の子として貴重な体験をしたと思う。

 女の子として私の気持ちも分かってくれるようになっただろうし。


 と、思ったんだけどね……お兄ちゃんに期待した私がバカだったのかな。


「お兄ちゃんったら、男に戻った途端性格まで前と同じに戻っちゃったじゃん!」

「でも美緒ちゃん、この方が僕らしいんじゃないかな?」

「確かにお兄ちゃんらしいけどさ、でもそれで旭ちゃんと結婚だなんて許さないんだから!」

「まーでもあたし、もしかしたら美緒ちゃんには負けちゃうかもねー?」

「え、それってどういう意味……はっ!?」


 もしかして旭ちゃん、見てた?

 私がお兄ちゃんにキスする所、見てたって事なの?

 旭ちゃんがこういう事を言うって、きっとそういう意味に違いないよね……?


「……私、もうお嫁に行けない」

「大丈夫だよ、美緒ちゃん。そしたら僕がもらってあげるから」

「もう! お兄ちゃんったらまたからかって……へ?」


 今、お兄ちゃん、何て言ったの?


「キスまでしてくれたんだもの。僕、美緒ちゃんとも結婚するよ」

「え、嘘、嬉しい……って、ちょっと待って!? 私とも、って何!? それにお兄ちゃん、私がキスした事知ってたの!?」

「僕、旭ちゃんと美緒ちゃん、両方と結婚するよ。これで丸く収まるよね」

「良かったねー美緒ちゃん。お兄ちゃん、結婚してくれるってさー」

「良いわけないでしょー!」


 やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんのようで……少しでも本気にした私がバカでした。

 でもその反面、いつものお兄ちゃんで何だかホッとしたのでした。

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