第三のタイプ(可逆TS)【全年齢】 (Pixiv Fanbox)
Content
pixiv側へ掲載した「性別スイッチ」の関連話です。
菜月ちゃんの男側人格が主役ですが、殆どのシーンは菜月ちゃん状態で進みます。
-------------------------------------------------------------------------------------------
俺の名前は夏輝(なつき)。
今の時代、人類は性別を切り替える事で眠らなくなり、24時間行動するようになったんだ。
だから当然俺にももう1つの性別があって、その子は菜月って子なんだ。
実は俺、女の子側の人格と漢字が違うだけで、名前自体は同じなんだ。
もしかしたらこれも、俺が「第三のタイプ」である運命に関係しているのかもしれない。
世間では知られていないが、実は現代人の極一部には第三のタイプが存在する。
どれ程居るのかは分からない、でも実際に俺がそうなのだから。
そういうタイプの話を聞いた事がないので、俺が勝手に第三のタイプと呼んでいる。
「こんばんは、菜月ー! 生理大丈夫ー?」
「こんばんは……友夜ちゃん、いきなりその話はやめて」
「えー、別にいいじゃないー。女の子同士だし」
今日も俺の体は女の子の菜月として、夜の小学校へ向かって行く。
友夜ちゃんは相変わらずだな、乙女の秘密が筒抜けだからって菜月が何度も嫌がってるのに。
菜月の気持ちを全く考えようともしないようだ。
「あたし、菜月の事が心配なんだもの」
「それはありがたいけど……でも、男の子の方に知られたくないもの」
「大丈夫よ、菜月は共存タイプじゃないんでしょ?」
「そうだけど……友夜ちゃんの男の子側に筒抜けだから」
「菜月、前も言ったけどそういうの、あたし自身が拒否されてるみたいで何か嫌」
友夜ちゃんは結構拘りと言うか、少し頑固な所があるんだよな。
第三のタイプの俺なら菜月の力になれるが、でも菜月は多分そんな事望んでないよな。
「そんな事言われたって……」
「男側の人格もあたしはあたしだから。菜月、もし次拒否するような事言ったら絶交するからね」
あーあ……こんな事言われちゃ、多分菜月は何も言い返せないだろうな。
仕方ない、さすがに俺も見てられないし力を貸すとしようか。
「友夜ちゃん、もし友夜ちゃんが逆の立場だったら?」
「へ? 菜月、いきなり何?」
「だから逆の立場だったらどうするの? 生理の事言われて、仮に知らない人の男の人格にお話が筒抜けだったら」
「別にあたしは気にしないわよ。今の時代、誰だって男女みたいなものでしょ」
「じゃあ一人でエッチした事や、そのまま失禁しちゃった事が、知らない人の男人格に筒抜けだったとしても?」
すると、友夜ちゃんは一気に青ざめた表情をした。
「ちょっと、何で失禁の事を知って……」
「私、適当に言ったんだけどね。図星だった?」
と、菜月は言ってるけど俺には分かっちゃうんだよなぁ。
「ね、嫌でしょ? 同じ事なんだよ。だから、もう筒抜け状態でこういう話はしないで?」
「……分かったわよ。菜月の気持ち、少し分かったわ」
ふー、一応どうにかなったみたいだな。
「でもそんなに真剣な顔で言わなくたって」
「ごめん、友夜ちゃん……私、ちょっと言い過ぎちゃったかも」
「うーん、まあいいけどさ」
どうやら菜月は少し動揺しているようだ。
こんなキツい言葉を言うつもりはなかったのに、友達に言ってしまったら驚くだろうな。
そう、俺の第三のタイプは「干渉タイプ」だ。
普通の人はもう一方の性別の記憶が夢のように分かるタイプ、性別ごとに人格が切り離されているタイプの2つ。
一般的な言い方では前者が「共存タイプ」で、後者が「共存ではないタイプ」だ。
菜月は自分の事を「共存ではないタイプ」と思い込んでいる。
しかし菜月が知らないだけで、実は俺は極一部に当てはまる干渉タイプだ。
干渉タイプは文字通り、もう1つの性別人格に対して干渉できる。
(私、あんな事言うつもりなかったのに……)
菜月、ごめんな。俺が菜月にあのように言わせたんだ。
菜月の人格に干渉して、俺が友夜ちゃんに対して立場が逆だったら、と言う言葉を言わせたんだ。
俺が一時的に菜月の意識を操るようなものだけど、元々同じ体で一心同体みたいなものだ。
言うならば体などの主導権は菜月だけど、内側から俺がいくらでも干渉できると言う事だ。
一心同体だから俺が干渉しても、菜月は操られている感覚には陥らない。
自分が発してしまった言葉なんだ、と思い込んでしまう。
(でもどうして私、友夜ちゃんに失禁だなんて言葉を……知らない筈なのに)
日中の俺が友夜ちゃんの男側に干渉を起こしちゃったんだよな。
他人に対しての干渉は意識操作ではなく、ある程度の記憶を読み取れるようなんだ。
(あ、ちょっと生理痛が酷いな……今日一晩、大丈夫かな)
菜月が生理痛を気にすると、俺も同じ痛みを感じる。
女の子だし菜月には絶対言えないけど、干渉タイプは感覚も共有しているんだ。
菜月とは同じ体で一心同体だし、生理の痛みを感じれば俺にも伝わっちゃうんだ。
それにしても菜月、生理なりたてみたいでほんとにまだ痛みになれてないようだ。
女の子ってこんな痛みを抱えて生きてるんだな……大変だよな。
「こんばんはー菜月ちゃん! ねえねえ、今日の夕方の魔法少女アニメだけど」
「はいはいその話はいいから。菜月は共存タイプじゃないんだから。だから菜月に話し掛けないで?」
「友夜ちゃん、そういう意地悪言わないの……」
いつも菜月は柔らかく言うけど、今回は俺が「意地悪」と言う言葉を言わせてみた。
友夜ちゃんもちょっと酷過ぎると思うんだよな、自分の事は気にしないのに他人にはとやかく言って。
「別にあたし、意地悪なんか言ってないわよ」
「だったら話し掛けないで、なんて言わないで? 私、別に彼方(かなた)君とお話するの、嫌じゃないよ」
「だってこんな男女と話すなんて。菜月は女の子なんだもの。こんな女みたいな男と話してたらおかしくなっちゃう」
そう言われて彼方は顔を下げてしまった。
この二人、日中の人格同士は仲良いのにな。何で逆の人格になるとこうも仲が悪くなるのやら。
まあその事は当人同士も知らないだろうけどな、干渉タイプだから俺はたまたま両面の人格を知ってるだけで。
他人への記憶干渉を起こしてしまう事で、別人格側の特徴と名前を知る事ができる。
だから俺は二人の別人格を知る事ができたんだ。
さて、友夜ちゃんは少し懲らしめた方がいいかな。
菜月の嫌がる事ばかり言うし、大分菜月が困ってるものな。
「ねえ友夜ちゃん、それって彼方君に対する否定だよね。彼方君を拒否する事と同じだよ?」
「あたし、否定も拒否もしてない。本当の事を言っただけ」
「じゃあ私、友夜ちゃんと絶交するよ。それを分かってくれないような子なんて、友達じゃない」
それを聞くと友夜ちゃんは……。
「……何よ! あたしが悪いって言うの!? それなら友達なんてこっちから願い下げよ!」
友夜ちゃんは怒って席へ行ってしまった。
ちょっと菜月に酷い事言わせちゃったけど、友夜ちゃんにはこれくらい言わないとダメだろう。
それに菜月は彼方と仲良くしたい、って思ってるんだもの。
「菜月ちゃん、僕の為にありがとう。でも……ちょっと言い過ぎじゃ」
「うん、言い過ぎた。何でこんなに言い過ぎたか分からない、こんな筈じゃなかったのに」
菜月の目からは涙が零れ落ちていた。
感覚を共有しているし、菜月が泣くと俺まで悲しい気持ちになってしまう。
あれ、俺……菜月を悲しませた? こんな事する筈じゃなかったのに。
やっぱり俺、菜月には干渉しないで大人しくしている方がいいのかな。
「おはよう、夏輝君」
「晴樹(はるき)、おはようさん」
日中、俺は夏輝の体で学校へ向かう。
声を掛けてきた晴樹は、友夜ちゃんの男側の人格なんだ。
「ねえねえ、僕、最近ちょっと困ってるんだ」
「うん、どした? 言ってみな?」
「女の子側の聞いてはいけないような話が筒抜けで……何だか、凄く恥ずかしくなっちゃうんだ」
俺なんか筒抜けどころか痛みまで共有してるぞ。
でも干渉タイプなんて世間に知られてないし、そんな事言ったところで信じてもらえないよな。
「そっか、でもいいんじゃないの?」
「え、何でいいの?」
「女の子の事を知る勉強だと思えばいいじゃん。それに晴樹、気になる子居るんだろ?」
「いや、遥(はるか)ちゃんは別に気になるって程じゃ……」
「普段話してる態度見てればバレバレだっての。遥ちゃんの事、好きなんだろ?」
どうやら図星のようで、晴樹は顔を赤くしてる。
ちなみに遥ちゃんは彼方の別人格だ。お互い夜の人格では険悪だって知らないだろうけどな。
「遥ちゃんとはただのお友達で……」
「そっか、ただのお友達か。へえー」
「うん、それ以上の何でもないよ」
「ま、そういう事にしといてやるか」
「だからそういう事も何も……」
晴樹は友夜ちゃんの逆人格とは思えない程、大人しめな性格だ。
友夜ちゃんが良く男側もあたしはあたし、と言ってるけどな。
同じ体に2つの人格があるだけで、俺にはとても友夜ちゃんと一心同体だなんて思えない。
共存タイプと言っても、聞いた話では夢みたいな感覚で記憶が残るようだ。
だから記憶も完全ではなく、嘗て人類が睡眠を取って夢を見ていた時のように、割りと曖昧な事もある。
友夜ちゃんは共存タイプだけど普段の言動を聞く限り、どうやら男側の人格を把握してないようだ。
それなのによく「あたしはあたし」と言えるなぁ、と思ってしまう。
まあ俺と菜月も同じようなものか、性格がかなり異なるって部分はね。
「晴樹ー、おはよー! 今日も会いたかったよー!」
「お、おはよう、遥ちゃん。元気だね」
「遥ちゃん、おはよ」
教室へ入ると彼方の女の子側の人格、遥ちゃんが挨拶してきた。
「夏輝、今日もまた晴樹と一緒なんだ?」
「まあ同じ通学路だからな」
「いいなー、あたしも同じ通学路だったら良かったのにー」
彼方の女の子側の遥ちゃんは、彼方と比べると結構明るい。
女の子で明るいと言う事もあり、クラスのムードメーカー的な存在だ。
そして言動を聞く限り、どうも遥ちゃんも晴樹の事を気にしてるっぽいんだよな。
「同じだったら良かったのかな」
「うんうん! あたしと晴樹、毎日一緒に登下校だったら素敵だったよねー」
「僕、遥ちゃんと登下校なんて恥ずかしいよ」
「えー、何で? あたしの事、嫌い?」
「嫌いじゃないけど……僕、女の子と一緒だと恥ずかしくなっちゃう」
晴樹は内気な奴だ。遥ちゃんがぐいぐい来ると縮こまってしまう。
本当に友夜ちゃんの別人格なのか、と思ってしまう程ギャップが凄い。
「晴樹はもっと女の子慣れしないとな」
「一応共存タイプだから、夢のような感覚で別人格の記憶は少しあるけど。あ、そういえば別人格が誰かと喧嘩してたような」
ごめん、それ俺のせい。
晴樹はきっと、友夜ちゃんが菜月と喧嘩した事を言ってるんだろうな。
「えー、そうなんだー? あたし、じゃないよね?」
「記憶も曖昧だからね、はっきりは分からないよ。それに、夜の遥ちゃんが誰なのかは知らないから」
「そうだよね、顔が分かったとしても誰がどの別人格なのか、言われない限り知る手段なんてないものね」
干渉タイプで知る手段を持っている俺って、やっぱり希少な存在なんだな。
まあ知らない方が気楽でいられた事もあるかもしれないけど。
「きっとあたし達、別人格でも凄い仲良しだよね!?」
「うーん、どうなんだろう」
「そこは知らなくてもいいから肯定してよー!」
「そんな事言われても……」
「あたしの別人格も、もっと晴樹と仲良くなれたらいいのになー」
まあこんな感じで、逆人格には逆人格同士の日常があるんだ。
だけどそれが真夜中の学校になると……。
「あんたのせいで菜月と絶交しちゃったんだから! どうしてくれんのよ!」
「僕に言われたって……」
「菜月に気安く話し掛けるからでしょ! あんたが居なければ菜月と絶交になんてならなかったんだから!」
どうしてこうなるかな、友夜ちゃんと絶交中の菜月は口を挟めず心配そうに見てる。
でも俺がやってしまった事だし責任を取って……いや、余計な事はしない方が良いのかも。
また俺が干渉すると事態をややこしくするかもしれない。
俺が干渉するんじゃダメだ、きちんと菜月の意思を尊重しないとな。菜月を大事にしたいもの。
「1時間目から体育だしそろそろ着替えないと。女の子は男と違って着替えが大変だからね!?」
友夜ちゃんは体育の準備を始める為に、彼方に嫌味のような言い方をして着替えに向かった。
別に朝の準備と違って服を脱いで着るだけだし、体育の着替え程度なら男女も大差ないんだけどな。
生理事情を挟む場合は大変だけど、着替えは関係ないよな。
「彼方君、ごめんね。友夜ちゃんの件」
「いいよ、僕は気にしてないよ。もう友夜ちゃんに色々言われるのは慣れてるし……ただ、菜月ちゃんが心配」
「私が心配って、絶交を言っちゃった事?」
「うん、僕の為に友夜ちゃんにキツく言ってくれたのはね、正直嬉しかった。でも、それで悲しんでほしくはないもん」
「私も言い過ぎたとは思ってる。どうにか仲直りしたいけどどうしよう……」
どうも彼方は菜月の事、好きっぽいんだよな。
別人格になると好意の方向も変わるみたいで、本当に同じ人物なのかと思ってしまう。
実際は同じ体を共有してるだけの別人格にすぎないのかな。
菜月は友夜ちゃんと仲直りしたい、と思っているようだ。
どうにかなるか分からないけど、菜月を信じて大人しく見守ってみよう。
体育の時間、今日は体力作りで校庭をぐるぐる走るようだ。
「菜月ちゃん、大丈夫? 何だか調子悪そう」
「大丈夫だよ。心配掛けてごめんね」
「もしかして絶交の件、引きずってる?」
「ううん、違うの……」
菜月が調子悪いのは恐らく生理だろうな。
本当に女の子の体って不便だよな、俺は男側の人格で良かったとつくづく思う。
あ、でも感覚を共有してるからそうも言ってられないかな。
一斉に生徒達が走り出し、体育の授業が始まった。
しかし校庭を走り出すと、突然菜月の調子がおかしくなり……。
「痛たたた……」
菜月はお腹を撫でながら走ってる。おいおい、大丈夫か?
体育、無理しないで見学した方がいいんじゃないのかな。
俺にも痛みが伝わってくるけど、その痛みはとても鈍い感じで何とも言い難いものだった。
まるでお腹をエグられるかのような痛みで……。
『バタッ』
え、バタッって何だ? 菜月? マジかよ……菜月、倒れちゃったのか!?
倒れる程の痛みなのか!? 確かに俺も凄くエグい痛みを感じたが……。
「菜月ちゃん、大丈夫!?」
「菜月! どうしたの!?」
彼方と友夜ちゃんが一斉に菜月の元へ駆け寄ってきた。
でも菜月は無理して気を失ってしまったようで、全く動く気配が無い。
どうするか、菜月は生理なりたてだしこんな状況初めてだぞ……。
もしかしたら……干渉タイプの俺なら、菜月の代わりにどうにかできるだろうか。
「う、うーん……」
「あ、菜月! 心配したんだから! 何があったの!?」
「菜月ちゃん! 大丈夫なの!?」
「ごめん、ちょっと眩暈がしちゃってね」
「菜月、保健室行こ。今すぐ休まないと」
「でも私、友夜ちゃんに絶交だなんて酷い事言っちゃったのに」
「今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ! 菜月の体の方が大事でしょ!?」
そう言って友夜ちゃんは菜月の手を引っ張り、保健室へ連れて行く。
「彼方! 先生に菜月の事伝えといて! あたし、保健室へ連れて行くから!」
「う、うん、分かった! 友夜ちゃん、菜月ちゃんを宜しくね」
菜月の事は彼方が伝えてくれるようだ。
「で、眩暈ってアレだよね? 生理なのに無理した?」
「うん、そうみたい。菜月がね」
「え、菜月がって……ちょっと待って。それどういう事?」
あ、やば……ついうっかり口を滑らせてしまった。
俺が試しに菜月の体を動かそうとしてみたら、乗っ取る事ができたんだ。
だから今はまだ菜月の意識は戻らず、菜月の体は完全に俺の意思で動いている。
こんな事できるなら女の子でエッチし放題だけど、今はそんな事考えてる場合じゃないよな。
「あー……友夜ちゃんって、多分誤魔化してもダメそうだよね。分かった、全部話すよ。実は……」
菜月の男側の俺が干渉タイプである事、絶交の件は俺が菜月に働き掛けた事、今は俺が菜月を動かしている事などを話した。
「そっか、そういう事だったんだ。じゃあ絶交って、菜月の本心じゃなかったんだ。あ、あんたも菜月なんだっけ?」
「まあ漢字は違うけど名前は同じだな。それにしても友夜ちゃん、色々菜月にキツ過ぎると思うぞ」
「ごめん、反省してる……絶交言われる程だったんだって、内心かなりショック受けてた」
「まあ俺も言い過ぎた。悪かったな」
「でもあんたが言ってくれなければ、ずっと気付かず菜月にキツくしてたかもしれない……」
どうやら友夜ちゃんは、絶交の事を大分引きずってたようだ。
反省しているようで、もう菜月に対してキツく物を言う事も無くなるかな?
「ところで干渉タイプって言ったよね? それって日中のあたし達の事も分かるんでしょ?」
「うん、バッチリ全部知ってる」
「日中のあたしって、菜月と言うかあんたとは仲良しなの?」
「仲は良い方だと思うけど。でも男の人格の友夜ちゃんには、俺以上に仲の良い人が居るよ」
「え、そうなの? 確かにそれっぽい人が居るような気がするけど、それが菜月じゃないなら一体……」
教えようとすれば彼方の別人格、と教える事もできる。
でも教えたところで何かが変わるとも限らないし、教えていいものなのかな?
「しかし友夜ちゃん、俺の事は気持ち悪くないの?」
「え、何でよ?」
「彼方には散々男女であーだこーだ言ってたじゃん」
「そうだけど……たとえ別人格でも菜月は菜月だし。今の姿で別人格が出てきたのは驚いたけどさ」
「ならさ、彼方とも仲良くできるんじゃない? 多分、険悪なままだと男側の人格が悲しむと思うぞ」
「え、それって一体どういう意味よ……」
「さあな? 自分で考えてみな?」
俺は友夜ちゃんに対して少し意地悪な言い方をしてみた。
「でも生理の件があたしの男の人格に筒抜けだったどころか、菜月の男側が痛みまで共有してたとはね。痛み、大丈夫なの?」
「一応今は治まってるみたい。菜月が無理して体に負担掛けたのが原因だろうな。だから大人しくしてれば大丈夫だろ」
「そっか、ならば良かった。ところで菜月の意識、戻りそうなの?」
「俺が体全体の主導権を握っちゃったけど、そのうち戻るんじゃないの?」
「どうなるか分からないで菜月の体を乗っ取ったの?」
「乗っ取ったなんて人聞き悪いぞ。別人格も一心同体なんだよな? 菜月は菜月、そうだよな?」
「ま、まあそれもそっか……菜月の人格が戻るならそれでいいわよ」
俺もこんな事は初めてだから、どうなるかは分からないが……あ、でも大丈夫そうだ。
「友夜ちゃん、心配してくれてありがと。私、もう大丈夫だよ」
「菜月!? 菜月なの!? 意識戻ったの!?」
「うん、菜月だよ。私が干渉タイプだなんて知らなかった。ビックリしちゃった」
「菜月、あたしとのやり取り全部聴こえてたの?」
「聴こえてたよ。全部会話が頭の中に入ってきてたよ」
なるほどな、菜月の意識が覚醒すると主導権は元に戻るみたいだな。
それと俺が主導権を握っている間は、一応頭の中に会話だけは入ってくるんだな。
共存タイプみたいに夢みたいな感じなのかな? それともはっきり鮮明に入ってくるのかな?
「男の子の私には感謝しなくちゃ。私を大事に想って色々支えてくれてたみたいだし」
「まあ男側の人格のおかげで、結果的にあたしも菜月の気持ち、良く分かったかもしれないし……うん、感謝しなくちゃかな」
「でも私が干渉タイプなら、逆に日中男の子の時に私から干渉もできるのかな?」
菜月がやろうとしなかっただけで、多分できるんじゃないか?
「どうなんだろうね。もしかしたら気付いてないだけで、意外と他にも干渉タイプって居たりするのかも」
「私、全然気付かなかったもん。その可能性はあるかも……」
まあ確かにな、気付いてないだけな奴も案外居るかもな?
「そういえばさっき、男の子の私が言ってたよね。彼方君と険悪なままだと男の子側が悲しむって」
「あー、言ってたね。良く分からないけど」
「多分それ、日中の人格同士が凄く仲良しって意味だと思う」
「はあ!? あたしがあの男女の彼方なんかと!? 考えられないんですけど!?」
「でも友夜ちゃん、私の事は男の子の人格が出ても受け入れられたじゃん。ならば彼方君とも、仲良くできると思うんだ」
菜月は自分の意思で、友夜ちゃんに色々と言うようになったな。
何だか急に立派になった感じがするよ。
「まあ確かにね……でも、だからって何で彼方と仲良くなんて」
「私、皆で仲良くしたい。二人が揉めてるのを見るの、嫌だもん。これ、私の本心だよ」
「菜月……分かったわよ。これからは彼方とも仲良くしてみるよ」
結果的に菜月にとって良い方向へ行ったみたいだ。
俺が菜月の主導権を握った時はどうなるかと思ったけど、丸く収まったようだな。
「あの、彼方……さっきはありがと、先生に伝えてくれて。菜月はもう大丈夫だよ」
「そっか、良かったー。友夜ちゃんもありがと。あ、ごめんね、また気安くちゃんだなんて……」
「いいよ、これからは気安く友夜ちゃんって呼んで」
「え……? う、うん。友夜ちゃん」
こっちの人格も関係が良好になったと知ったら、きっと晴樹と遥も喜ぶだろうな。
まあ二人共お互いに夜の人格が険悪だった、だなんて知らないだろうけど。
でも仲良くしてくれるに越した事はないもんな、菜月が1番望んでた事だもの。
性別や性格は違っても、同じ体を共有してるんだ。
間違いなく菜月と俺は一心同体、一生切っても切れない関係だ。
菜月とは今後もずっと、良いパートナーで居たい。
(これからも宜しくな、菜月)
「え? う、うん? 宜しく?」
「どうしたの? 菜月」
「今、頭の中で誰かに話し掛けられて……きっと男の子の人格かな? 干渉タイプって言ってたし」
「そうかもね、さっきまであたしが話してたあいつかもね」
「え、菜月ちゃんは干渉タイプだったの?」
「うん? 彼方君は干渉タイプって知ってるの?」
お、もしかしてこれって……。
「それってなーに?」
……何だ、実は彼方も干渉タイプだったってわけじゃないのか。
まあこの前屋上で話してた時、共存タイプみたいな事言ってたもんな。
それで夢を見ているような状態でーって言ってたっけ、明らかに共存タイプっぽいものな。
これでもし遥側が干渉タイプだったりしたらビックリ、だけどな。
でもさすがにそんな事は無い……いや、待てよ?
遥は別人格ももっと晴樹と仲良くなれたらいいのになって、何だか意味深な事を言ってたよな?
まるで、別人格同士の事情をはっきりと知っているかのような……。
「そろそろ授業始まるし、席に戻るね」
「うん、じゃあまた後で」
「菜月ちゃん、友夜ちゃん、また後でねー」
それにしても三人が仲良くなってくれて本当に良かった。
菜月も俺がきっかけで少しでも良い方向へ行けたなら、それは嬉しい事だよな。
これからも菜月の事、ずっと見守ってるからな。