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pixiv側へ掲載した「性別スイッチ」の関連話です。

菜月ちゃんの男側人格が主役ですが、殆どのシーンは菜月ちゃん状態で進みます。


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 俺の名前は夏輝(なつき)。

 今の時代、人類は性別を切り替える事で眠らなくなり、24時間行動するようになったんだ。

 だから当然俺にももう1つの性別があって、その子は菜月って子なんだ。


 実は俺、女の子側の人格と漢字が違うだけで、名前自体は同じなんだ。

 もしかしたらこれも、俺が「第三のタイプ」である運命に関係しているのかもしれない。


 世間では知られていないが、実は現代人の極一部には第三のタイプが存在する。

 どれ程居るのかは分からない、でも実際に俺がそうなのだから。

 そういうタイプの話を聞いた事がないので、俺が勝手に第三のタイプと呼んでいる。


「こんばんは、菜月ー! 生理大丈夫ー?」

「こんばんは……友夜ちゃん、いきなりその話はやめて」

「えー、別にいいじゃないー。女の子同士だし」


 今日も俺の体は女の子の菜月として、夜の小学校へ向かって行く。

 友夜ちゃんは相変わらずだな、乙女の秘密が筒抜けだからって菜月が何度も嫌がってるのに。

 菜月の気持ちを全く考えようともしないようだ。


「あたし、菜月の事が心配なんだもの」

「それはありがたいけど……でも、男の子の方に知られたくないもの」

「大丈夫よ、菜月は共存タイプじゃないんでしょ?」

「そうだけど……友夜ちゃんの男の子側に筒抜けだから」

「菜月、前も言ったけどそういうの、あたし自身が拒否されてるみたいで何か嫌」


 友夜ちゃんは結構拘りと言うか、少し頑固な所があるんだよな。

 第三のタイプの俺なら菜月の力になれるが、でも菜月は多分そんな事望んでないよな。


「そんな事言われたって……」

「男側の人格もあたしはあたしだから。菜月、もし次拒否するような事言ったら絶交するからね」


 あーあ……こんな事言われちゃ、多分菜月は何も言い返せないだろうな。

 仕方ない、さすがに俺も見てられないし力を貸すとしようか。


「友夜ちゃん、もし友夜ちゃんが逆の立場だったら?」

「へ? 菜月、いきなり何?」

「だから逆の立場だったらどうするの? 生理の事言われて、仮に知らない人の男の人格にお話が筒抜けだったら」

「別にあたしは気にしないわよ。今の時代、誰だって男女みたいなものでしょ」

「じゃあ一人でエッチした事や、そのまま失禁しちゃった事が、知らない人の男人格に筒抜けだったとしても?」


 すると、友夜ちゃんは一気に青ざめた表情をした。


「ちょっと、何で失禁の事を知って……」

「私、適当に言ったんだけどね。図星だった?」


 と、菜月は言ってるけど俺には分かっちゃうんだよなぁ。


「ね、嫌でしょ? 同じ事なんだよ。だから、もう筒抜け状態でこういう話はしないで?」

「……分かったわよ。菜月の気持ち、少し分かったわ」


 ふー、一応どうにかなったみたいだな。


「でもそんなに真剣な顔で言わなくたって」

「ごめん、友夜ちゃん……私、ちょっと言い過ぎちゃったかも」

「うーん、まあいいけどさ」


 どうやら菜月は少し動揺しているようだ。

 こんなキツい言葉を言うつもりはなかったのに、友達に言ってしまったら驚くだろうな。


 そう、俺の第三のタイプは「干渉タイプ」だ。

 普通の人はもう一方の性別の記憶が夢のように分かるタイプ、性別ごとに人格が切り離されているタイプの2つ。

 一般的な言い方では前者が「共存タイプ」で、後者が「共存ではないタイプ」だ。


 菜月は自分の事を「共存ではないタイプ」と思い込んでいる。

 しかし菜月が知らないだけで、実は俺は極一部に当てはまる干渉タイプだ。

 干渉タイプは文字通り、もう1つの性別人格に対して干渉できる。


(私、あんな事言うつもりなかったのに……)


 菜月、ごめんな。俺が菜月にあのように言わせたんだ。

 菜月の人格に干渉して、俺が友夜ちゃんに対して立場が逆だったら、と言う言葉を言わせたんだ。

 俺が一時的に菜月の意識を操るようなものだけど、元々同じ体で一心同体みたいなものだ。


 言うならば体などの主導権は菜月だけど、内側から俺がいくらでも干渉できると言う事だ。


 一心同体だから俺が干渉しても、菜月は操られている感覚には陥らない。

 自分が発してしまった言葉なんだ、と思い込んでしまう。


(でもどうして私、友夜ちゃんに失禁だなんて言葉を……知らない筈なのに)


 日中の俺が友夜ちゃんの男側に干渉を起こしちゃったんだよな。

 他人に対しての干渉は意識操作ではなく、ある程度の記憶を読み取れるようなんだ。


(あ、ちょっと生理痛が酷いな……今日一晩、大丈夫かな)


 菜月が生理痛を気にすると、俺も同じ痛みを感じる。

 女の子だし菜月には絶対言えないけど、干渉タイプは感覚も共有しているんだ。

 菜月とは同じ体で一心同体だし、生理の痛みを感じれば俺にも伝わっちゃうんだ。


 それにしても菜月、生理なりたてみたいでほんとにまだ痛みになれてないようだ。

 女の子ってこんな痛みを抱えて生きてるんだな……大変だよな。



「こんばんはー菜月ちゃん! ねえねえ、今日の夕方の魔法少女アニメだけど」

「はいはいその話はいいから。菜月は共存タイプじゃないんだから。だから菜月に話し掛けないで?」

「友夜ちゃん、そういう意地悪言わないの……」


 いつも菜月は柔らかく言うけど、今回は俺が「意地悪」と言う言葉を言わせてみた。

 友夜ちゃんもちょっと酷過ぎると思うんだよな、自分の事は気にしないのに他人にはとやかく言って。


「別にあたし、意地悪なんか言ってないわよ」

「だったら話し掛けないで、なんて言わないで? 私、別に彼方(かなた)君とお話するの、嫌じゃないよ」

「だってこんな男女と話すなんて。菜月は女の子なんだもの。こんな女みたいな男と話してたらおかしくなっちゃう」


 そう言われて彼方は顔を下げてしまった。

 この二人、日中の人格同士は仲良いのにな。何で逆の人格になるとこうも仲が悪くなるのやら。

 まあその事は当人同士も知らないだろうけどな、干渉タイプだから俺はたまたま両面の人格を知ってるだけで。


 他人への記憶干渉を起こしてしまう事で、別人格側の特徴と名前を知る事ができる。

 だから俺は二人の別人格を知る事ができたんだ。


 さて、友夜ちゃんは少し懲らしめた方がいいかな。

 菜月の嫌がる事ばかり言うし、大分菜月が困ってるものな。


「ねえ友夜ちゃん、それって彼方君に対する否定だよね。彼方君を拒否する事と同じだよ?」

「あたし、否定も拒否もしてない。本当の事を言っただけ」

「じゃあ私、友夜ちゃんと絶交するよ。それを分かってくれないような子なんて、友達じゃない」


 それを聞くと友夜ちゃんは……。


「……何よ! あたしが悪いって言うの!? それなら友達なんてこっちから願い下げよ!」


 友夜ちゃんは怒って席へ行ってしまった。

 ちょっと菜月に酷い事言わせちゃったけど、友夜ちゃんにはこれくらい言わないとダメだろう。

 それに菜月は彼方と仲良くしたい、って思ってるんだもの。


「菜月ちゃん、僕の為にありがとう。でも……ちょっと言い過ぎじゃ」

「うん、言い過ぎた。何でこんなに言い過ぎたか分からない、こんな筈じゃなかったのに」


 菜月の目からは涙が零れ落ちていた。

 感覚を共有しているし、菜月が泣くと俺まで悲しい気持ちになってしまう。

 あれ、俺……菜月を悲しませた? こんな事する筈じゃなかったのに。


 やっぱり俺、菜月には干渉しないで大人しくしている方がいいのかな。



「おはよう、夏輝君」

「晴樹(はるき)、おはようさん」


 日中、俺は夏輝の体で学校へ向かう。

 声を掛けてきた晴樹は、友夜ちゃんの男側の人格なんだ。


「ねえねえ、僕、最近ちょっと困ってるんだ」

「うん、どした? 言ってみな?」

「女の子側の聞いてはいけないような話が筒抜けで……何だか、凄く恥ずかしくなっちゃうんだ」


 俺なんか筒抜けどころか痛みまで共有してるぞ。

 でも干渉タイプなんて世間に知られてないし、そんな事言ったところで信じてもらえないよな。


「そっか、でもいいんじゃないの?」

「え、何でいいの?」

「女の子の事を知る勉強だと思えばいいじゃん。それに晴樹、気になる子居るんだろ?」

「いや、遥(はるか)ちゃんは別に気になるって程じゃ……」

「普段話してる態度見てればバレバレだっての。遥ちゃんの事、好きなんだろ?」


 どうやら図星のようで、晴樹は顔を赤くしてる。

 ちなみに遥ちゃんは彼方の別人格だ。お互い夜の人格では険悪だって知らないだろうけどな。


「遥ちゃんとはただのお友達で……」

「そっか、ただのお友達か。へえー」

「うん、それ以上の何でもないよ」

「ま、そういう事にしといてやるか」

「だからそういう事も何も……」


 晴樹は友夜ちゃんの逆人格とは思えない程、大人しめな性格だ。

 友夜ちゃんが良く男側もあたしはあたし、と言ってるけどな。

 同じ体に2つの人格があるだけで、俺にはとても友夜ちゃんと一心同体だなんて思えない。


 共存タイプと言っても、聞いた話では夢みたいな感覚で記憶が残るようだ。

 だから記憶も完全ではなく、嘗て人類が睡眠を取って夢を見ていた時のように、割りと曖昧な事もある。

 友夜ちゃんは共存タイプだけど普段の言動を聞く限り、どうやら男側の人格を把握してないようだ。


 それなのによく「あたしはあたし」と言えるなぁ、と思ってしまう。

 まあ俺と菜月も同じようなものか、性格がかなり異なるって部分はね。



「晴樹ー、おはよー! 今日も会いたかったよー!」

「お、おはよう、遥ちゃん。元気だね」

「遥ちゃん、おはよ」


 教室へ入ると彼方の女の子側の人格、遥ちゃんが挨拶してきた。


「夏輝、今日もまた晴樹と一緒なんだ?」

「まあ同じ通学路だからな」

「いいなー、あたしも同じ通学路だったら良かったのにー」


 彼方の女の子側の遥ちゃんは、彼方と比べると結構明るい。

 女の子で明るいと言う事もあり、クラスのムードメーカー的な存在だ。

 そして言動を聞く限り、どうも遥ちゃんも晴樹の事を気にしてるっぽいんだよな。


「同じだったら良かったのかな」

「うんうん! あたしと晴樹、毎日一緒に登下校だったら素敵だったよねー」

「僕、遥ちゃんと登下校なんて恥ずかしいよ」

「えー、何で? あたしの事、嫌い?」

「嫌いじゃないけど……僕、女の子と一緒だと恥ずかしくなっちゃう」


 晴樹は内気な奴だ。遥ちゃんがぐいぐい来ると縮こまってしまう。

 本当に友夜ちゃんの別人格なのか、と思ってしまう程ギャップが凄い。


「晴樹はもっと女の子慣れしないとな」

「一応共存タイプだから、夢のような感覚で別人格の記憶は少しあるけど。あ、そういえば別人格が誰かと喧嘩してたような」


 ごめん、それ俺のせい。

 晴樹はきっと、友夜ちゃんが菜月と喧嘩した事を言ってるんだろうな。


「えー、そうなんだー? あたし、じゃないよね?」

「記憶も曖昧だからね、はっきりは分からないよ。それに、夜の遥ちゃんが誰なのかは知らないから」

「そうだよね、顔が分かったとしても誰がどの別人格なのか、言われない限り知る手段なんてないものね」


 干渉タイプで知る手段を持っている俺って、やっぱり希少な存在なんだな。

 まあ知らない方が気楽でいられた事もあるかもしれないけど。


「きっとあたし達、別人格でも凄い仲良しだよね!?」

「うーん、どうなんだろう」

「そこは知らなくてもいいから肯定してよー!」

「そんな事言われても……」

「あたしの別人格も、もっと晴樹と仲良くなれたらいいのになー」


 まあこんな感じで、逆人格には逆人格同士の日常があるんだ。



 だけどそれが真夜中の学校になると……。


「あんたのせいで菜月と絶交しちゃったんだから! どうしてくれんのよ!」

「僕に言われたって……」

「菜月に気安く話し掛けるからでしょ! あんたが居なければ菜月と絶交になんてならなかったんだから!」


 どうしてこうなるかな、友夜ちゃんと絶交中の菜月は口を挟めず心配そうに見てる。

 でも俺がやってしまった事だし責任を取って……いや、余計な事はしない方が良いのかも。

 また俺が干渉すると事態をややこしくするかもしれない。


 俺が干渉するんじゃダメだ、きちんと菜月の意思を尊重しないとな。菜月を大事にしたいもの。


「1時間目から体育だしそろそろ着替えないと。女の子は男と違って着替えが大変だからね!?」


 友夜ちゃんは体育の準備を始める為に、彼方に嫌味のような言い方をして着替えに向かった。

 別に朝の準備と違って服を脱いで着るだけだし、体育の着替え程度なら男女も大差ないんだけどな。

 生理事情を挟む場合は大変だけど、着替えは関係ないよな。


「彼方君、ごめんね。友夜ちゃんの件」

「いいよ、僕は気にしてないよ。もう友夜ちゃんに色々言われるのは慣れてるし……ただ、菜月ちゃんが心配」

「私が心配って、絶交を言っちゃった事?」

「うん、僕の為に友夜ちゃんにキツく言ってくれたのはね、正直嬉しかった。でも、それで悲しんでほしくはないもん」

「私も言い過ぎたとは思ってる。どうにか仲直りしたいけどどうしよう……」


 どうも彼方は菜月の事、好きっぽいんだよな。

 別人格になると好意の方向も変わるみたいで、本当に同じ人物なのかと思ってしまう。

 実際は同じ体を共有してるだけの別人格にすぎないのかな。


 菜月は友夜ちゃんと仲直りしたい、と思っているようだ。

 どうにかなるか分からないけど、菜月を信じて大人しく見守ってみよう。



 体育の時間、今日は体力作りで校庭をぐるぐる走るようだ。


「菜月ちゃん、大丈夫? 何だか調子悪そう」

「大丈夫だよ。心配掛けてごめんね」

「もしかして絶交の件、引きずってる?」

「ううん、違うの……」


 菜月が調子悪いのは恐らく生理だろうな。

 本当に女の子の体って不便だよな、俺は男側の人格で良かったとつくづく思う。


 あ、でも感覚を共有してるからそうも言ってられないかな。


 一斉に生徒達が走り出し、体育の授業が始まった。

 しかし校庭を走り出すと、突然菜月の調子がおかしくなり……。


「痛たたた……」


 菜月はお腹を撫でながら走ってる。おいおい、大丈夫か?

 体育、無理しないで見学した方がいいんじゃないのかな。

 俺にも痛みが伝わってくるけど、その痛みはとても鈍い感じで何とも言い難いものだった。


 まるでお腹をエグられるかのような痛みで……。


『バタッ』


 え、バタッって何だ? 菜月? マジかよ……菜月、倒れちゃったのか!?

 倒れる程の痛みなのか!? 確かに俺も凄くエグい痛みを感じたが……。


「菜月ちゃん、大丈夫!?」

「菜月! どうしたの!?」


 彼方と友夜ちゃんが一斉に菜月の元へ駆け寄ってきた。

 でも菜月は無理して気を失ってしまったようで、全く動く気配が無い。

 どうするか、菜月は生理なりたてだしこんな状況初めてだぞ……。


 もしかしたら……干渉タイプの俺なら、菜月の代わりにどうにかできるだろうか。


「う、うーん……」

「あ、菜月! 心配したんだから! 何があったの!?」

「菜月ちゃん! 大丈夫なの!?」

「ごめん、ちょっと眩暈がしちゃってね」

「菜月、保健室行こ。今すぐ休まないと」

「でも私、友夜ちゃんに絶交だなんて酷い事言っちゃったのに」

「今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ! 菜月の体の方が大事でしょ!?」


 そう言って友夜ちゃんは菜月の手を引っ張り、保健室へ連れて行く。


「彼方! 先生に菜月の事伝えといて! あたし、保健室へ連れて行くから!」

「う、うん、分かった! 友夜ちゃん、菜月ちゃんを宜しくね」


 菜月の事は彼方が伝えてくれるようだ。



「で、眩暈ってアレだよね? 生理なのに無理した?」

「うん、そうみたい。菜月がね」

「え、菜月がって……ちょっと待って。それどういう事?」


 あ、やば……ついうっかり口を滑らせてしまった。

 俺が試しに菜月の体を動かそうとしてみたら、乗っ取る事ができたんだ。

 だから今はまだ菜月の意識は戻らず、菜月の体は完全に俺の意思で動いている。


 こんな事できるなら女の子でエッチし放題だけど、今はそんな事考えてる場合じゃないよな。


「あー……友夜ちゃんって、多分誤魔化してもダメそうだよね。分かった、全部話すよ。実は……」


 菜月の男側の俺が干渉タイプである事、絶交の件は俺が菜月に働き掛けた事、今は俺が菜月を動かしている事などを話した。


「そっか、そういう事だったんだ。じゃあ絶交って、菜月の本心じゃなかったんだ。あ、あんたも菜月なんだっけ?」

「まあ漢字は違うけど名前は同じだな。それにしても友夜ちゃん、色々菜月にキツ過ぎると思うぞ」

「ごめん、反省してる……絶交言われる程だったんだって、内心かなりショック受けてた」

「まあ俺も言い過ぎた。悪かったな」

「でもあんたが言ってくれなければ、ずっと気付かず菜月にキツくしてたかもしれない……」


 どうやら友夜ちゃんは、絶交の事を大分引きずってたようだ。

 反省しているようで、もう菜月に対してキツく物を言う事も無くなるかな?


「ところで干渉タイプって言ったよね? それって日中のあたし達の事も分かるんでしょ?」

「うん、バッチリ全部知ってる」

「日中のあたしって、菜月と言うかあんたとは仲良しなの?」

「仲は良い方だと思うけど。でも男の人格の友夜ちゃんには、俺以上に仲の良い人が居るよ」

「え、そうなの? 確かにそれっぽい人が居るような気がするけど、それが菜月じゃないなら一体……」


 教えようとすれば彼方の別人格、と教える事もできる。

 でも教えたところで何かが変わるとも限らないし、教えていいものなのかな?


「しかし友夜ちゃん、俺の事は気持ち悪くないの?」

「え、何でよ?」

「彼方には散々男女であーだこーだ言ってたじゃん」

「そうだけど……たとえ別人格でも菜月は菜月だし。今の姿で別人格が出てきたのは驚いたけどさ」

「ならさ、彼方とも仲良くできるんじゃない? 多分、険悪なままだと男側の人格が悲しむと思うぞ」

「え、それって一体どういう意味よ……」

「さあな? 自分で考えてみな?」


 俺は友夜ちゃんに対して少し意地悪な言い方をしてみた。


「でも生理の件があたしの男の人格に筒抜けだったどころか、菜月の男側が痛みまで共有してたとはね。痛み、大丈夫なの?」

「一応今は治まってるみたい。菜月が無理して体に負担掛けたのが原因だろうな。だから大人しくしてれば大丈夫だろ」

「そっか、ならば良かった。ところで菜月の意識、戻りそうなの?」

「俺が体全体の主導権を握っちゃったけど、そのうち戻るんじゃないの?」

「どうなるか分からないで菜月の体を乗っ取ったの?」

「乗っ取ったなんて人聞き悪いぞ。別人格も一心同体なんだよな? 菜月は菜月、そうだよな?」

「ま、まあそれもそっか……菜月の人格が戻るならそれでいいわよ」


 俺もこんな事は初めてだから、どうなるかは分からないが……あ、でも大丈夫そうだ。


「友夜ちゃん、心配してくれてありがと。私、もう大丈夫だよ」

「菜月!? 菜月なの!? 意識戻ったの!?」

「うん、菜月だよ。私が干渉タイプだなんて知らなかった。ビックリしちゃった」

「菜月、あたしとのやり取り全部聴こえてたの?」

「聴こえてたよ。全部会話が頭の中に入ってきてたよ」


 なるほどな、菜月の意識が覚醒すると主導権は元に戻るみたいだな。

 それと俺が主導権を握っている間は、一応頭の中に会話だけは入ってくるんだな。

 共存タイプみたいに夢みたいな感じなのかな? それともはっきり鮮明に入ってくるのかな?


「男の子の私には感謝しなくちゃ。私を大事に想って色々支えてくれてたみたいだし」

「まあ男側の人格のおかげで、結果的にあたしも菜月の気持ち、良く分かったかもしれないし……うん、感謝しなくちゃかな」

「でも私が干渉タイプなら、逆に日中男の子の時に私から干渉もできるのかな?」


 菜月がやろうとしなかっただけで、多分できるんじゃないか?


「どうなんだろうね。もしかしたら気付いてないだけで、意外と他にも干渉タイプって居たりするのかも」

「私、全然気付かなかったもん。その可能性はあるかも……」


 まあ確かにな、気付いてないだけな奴も案外居るかもな?


「そういえばさっき、男の子の私が言ってたよね。彼方君と険悪なままだと男の子側が悲しむって」

「あー、言ってたね。良く分からないけど」

「多分それ、日中の人格同士が凄く仲良しって意味だと思う」

「はあ!? あたしがあの男女の彼方なんかと!? 考えられないんですけど!?」

「でも友夜ちゃん、私の事は男の子の人格が出ても受け入れられたじゃん。ならば彼方君とも、仲良くできると思うんだ」


 菜月は自分の意思で、友夜ちゃんに色々と言うようになったな。

 何だか急に立派になった感じがするよ。


「まあ確かにね……でも、だからって何で彼方と仲良くなんて」

「私、皆で仲良くしたい。二人が揉めてるのを見るの、嫌だもん。これ、私の本心だよ」

「菜月……分かったわよ。これからは彼方とも仲良くしてみるよ」


 結果的に菜月にとって良い方向へ行ったみたいだ。

 俺が菜月の主導権を握った時はどうなるかと思ったけど、丸く収まったようだな。



「あの、彼方……さっきはありがと、先生に伝えてくれて。菜月はもう大丈夫だよ」

「そっか、良かったー。友夜ちゃんもありがと。あ、ごめんね、また気安くちゃんだなんて……」

「いいよ、これからは気安く友夜ちゃんって呼んで」

「え……? う、うん。友夜ちゃん」


 こっちの人格も関係が良好になったと知ったら、きっと晴樹と遥も喜ぶだろうな。

 まあ二人共お互いに夜の人格が険悪だった、だなんて知らないだろうけど。

 でも仲良くしてくれるに越した事はないもんな、菜月が1番望んでた事だもの。


 性別や性格は違っても、同じ体を共有してるんだ。

 間違いなく菜月と俺は一心同体、一生切っても切れない関係だ。


 菜月とは今後もずっと、良いパートナーで居たい。


(これからも宜しくな、菜月)

「え? う、うん? 宜しく?」

「どうしたの? 菜月」

「今、頭の中で誰かに話し掛けられて……きっと男の子の人格かな? 干渉タイプって言ってたし」

「そうかもね、さっきまであたしが話してたあいつかもね」

「え、菜月ちゃんは干渉タイプだったの?」

「うん? 彼方君は干渉タイプって知ってるの?」


 お、もしかしてこれって……。


「それってなーに?」


 ……何だ、実は彼方も干渉タイプだったってわけじゃないのか。

 まあこの前屋上で話してた時、共存タイプみたいな事言ってたもんな。

 それで夢を見ているような状態でーって言ってたっけ、明らかに共存タイプっぽいものな。


 これでもし遥側が干渉タイプだったりしたらビックリ、だけどな。

 でもさすがにそんな事は無い……いや、待てよ?

 遥は別人格ももっと晴樹と仲良くなれたらいいのになって、何だか意味深な事を言ってたよな?


 まるで、別人格同士の事情をはっきりと知っているかのような……。


「そろそろ授業始まるし、席に戻るね」

「うん、じゃあまた後で」

「菜月ちゃん、友夜ちゃん、また後でねー」


 それにしても三人が仲良くなってくれて本当に良かった。

 菜月も俺がきっかけで少しでも良い方向へ行けたなら、それは嬉しい事だよな。


 これからも菜月の事、ずっと見守ってるからな。

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