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pixiv側へ掲載した「妹.exe」の関連話です。

作中で選ばれなかった、もう1つの選択肢によるTS要素がメインとなるお話です。


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「何か面白いゲームないかなぁ」


 僕はゲーム実況動画にも飽きてしまい、最近は自らフリーゲームを開拓するようになっていた。

 色々とリンクを辿っていると、何やら可愛い女の子のイラストが目に付いた。


「何かのゲームっぽい? 試しにクリックしてみようかな」


 クリックすると海外サイトに飛ばされてしまい、ゲームのDLページへと辿り着いた。


「何々? 妹.exe?」


 ギャルゲーみたいな物の類かな?

 僕は普段あまりこういうゲームってやらないけど、気付けばDLページで笑顔を浮かべている女の子の絵に惹かれていた。


「どうせフリーゲームだろうし、試しに落としてみようかな」


 早速「妹.exe (Ver.1.01)」のデータを落とした。

 落としてすぐに起動してみると、タイトル画面で僕の惹かれたあの子が迎えてくれた。


「この子ほんとに可愛い。へー、さとちゃんって言うんだ」


 右下に小さい四角枠で簡単な紹介が書かれていた。

 愛称はさとちゃんでお人形さんのような天真爛漫な中学1年生。

 お兄ちゃんラブなショートツインテール娘のようだ。


 僕はわくわくしながらスタートを選び、早速ゲームを始めてみた。



「お兄ちゃん、起きてー。学校遅れちゃうよー」


 ゲームが始まると早速さとちゃんが登場して、お兄ちゃんを起こそうとしている。


「凄い、きちんとボイスが付いてるんだ。しかも1枚絵のCGまであるって何だか感動だなぁ」


 最近のフリーゲームって凄いんだね。

 あまりこの手のゲームはやらなかったから知らないけど、今はフリーゲームでもこれで普通なのかな?


「ねえ起きてってばー。お兄ちゃーん」


 さとちゃんが一生懸命お兄ちゃんをゆさゆさとしている、何だか見ていてとても癒される。


「お兄ちゃんってばー」


 お兄ちゃん、そろそろ起きるのかな?


「あ、お兄ちゃんおはよー」


 1枚絵から立ち絵に切り替わると、さとちゃんは満面の笑みでお兄ちゃんに挨拶する。

 あれ、でも何かがおかしい……お兄ちゃん、何処に居るのだろう。

 何処を見てもお兄ちゃんらしきキャラは見当たらないし、ずっとさとちゃんが一人で喋り続けてる。


「何だろうこのゲーム、さとちゃんの独り言ゲーム?」


 うーん、最後までやってみないと分からないかもだし……とりあえず最後までプレイしてみよう。



 結局1日の夜のシーンまでプレイするも、お兄ちゃんは居ないままゲームが進んだ。

 途中お兄ちゃんの腕を掴んで、満面の笑みを浮かべるさとちゃんの1枚絵があった。

 でも明らかにさとちゃんはお兄ちゃんの腕なんて掴んでいなかった。


 何だろうこのゲーム、何だか少し不気味な感じさえしてきた。


「お兄ちゃん、ちょっといい?」


 ゲームを進めると、パジャマ姿のさとちゃんがお兄ちゃんの部屋へやって来る。

 あれ、気のせいかな……何だか今、直接さとちゃんに話し掛けられてるかのように錯覚してしまった。


 お兄ちゃんが居ない分、僕自身がお兄ちゃんであるかのように思ってしまったからかな。


「実はあたし、ずっとお兄ちゃんに前から言いたかった事があるの」


 前から言いたかった事? 何だろう。

 さとちゃん、何だか声が少しか弱くなっている。


「あのね、あたしね、実は妹がほしいんだー。お兄ちゃんも妹って可愛いと思うでしょ? この気持ち、お兄ちゃんならきっと分かってくれるよね?」


 ほうほう、さとちゃんは妹がほしいんだ。

 あ、このゲームで初めての選択肢が出てきた。

 選択肢は「ほしい」と「ほしくない」の二択だけど、さとちゃんがはっきりと「ほしい」って言ってるんだ。


 ならば素直に「ほしい」を選ぶ事にしよう。


「分かってくれるんだね。勇気を出してお兄ちゃんに話してみて良かったよ」


 さとちゃんは胸を撫で下ろし、凄くホッとした可愛い表情を浮かべた。


「でもね、あたしにはママもパパも居ないの。生憎、妹を作ってもらえないんだ」


 さとちゃんって両親が居ない子だったんだ、何か重い設定でもあるのかな?


「だけど、お兄ちゃんが協力してくれれば、きっと妹も作れると思うの」


 えーと、つまりそれってお兄ちゃんと繋がるって事?

 まさかさとちゃんが産むって言うの?

 あ、でもゲームだし現実じゃないから案外在り得る事なのかな。


「だからね、椎名(しいな)君に妹になってほしいんだ」

「え、今さとちゃん何て言った!? 何で僕の名前を……」

「こっちへおいで、あたしの可愛いしいちゃん!」


 何がどうなってるの!? 急にパソコンの画面も激しく光り出すし、さとちゃんは僕に直接話し掛けてくる感じだし……。

 それに、何だか急激に意識が遠のいていく……。



「おはよ、しいちゃん♪」

「あれ、僕は一体……え!? 何、この声」


 誰かに声を掛けられて気が付くと、僕の声はとても高い物に変わっていた。


「さとちゃん!?」

「どうしたの? しいちゃん、驚いた顔しちゃって」


 驚くに決まってる、ゲームキャラのさとちゃんが僕の目の前に居るんだ。

 絵で描かれたような感じではなく、これは間違いなく本物の人間だ……本物のさとちゃんだ。


「何この体!? 僕に何が起こってるの!?」


 体を見ると膨らみ掛けで小さいながらも胸がある事に気付き、僕は可愛いパジャマを着ていた。

 それに股間がスースーしてこの感覚は……無い、間違いなく男としてあるべき物が無い!


「しいちゃん、大丈夫?」

「さとちゃん、あのね! 僕ね、違うんだ! 僕、しいちゃんじゃなくて椎名って男で……!」

「え? しいちゃんはしいちゃんだよね? あたしの可愛い妹のしいちゃんだよ」

「違うんだ! 僕はさっきまで確かに椎名と言う男で! さとちゃんの事だってゲーム画面で見ていて……」

「さっきまで? なるほど、しいちゃんったら夢でも見てたのかなー」


 え……そんな筈は無い。僕の男としての今までの人生が、全部夢だっただなんて在り得ない。

 むしろ仮に夢だったとしたら、間違いなく今起こっている出来事の方が夢っぽい。


「そう、夢だ、きっとこれは夢なんだ……」

「しいちゃん? もしもーし? うーん、大丈夫かなー?」


 僕は自分自身に夢だ、とずっと言い聞かせた。

 しかし僕の意思に反して、覚める気配もなく時間が進んで行く……。


「ま、いっか。きっとそのうち落ち着くよね? しいちゃん、お兄ちゃん起こしに行こ?」

「え、ちょっと待って、だから僕は……!」


 さとちゃんに強引に手を引かれ、僕はお兄ちゃんの部屋へ連れて行かれてしまった。



「お兄ちゃん、起きてー。学校遅れちゃうよー」

「え!? これは一体……」


 ゲームでは居なかった筈のお兄ちゃん。

 しかし僕はここに居るお兄ちゃんの姿を見てビックリしてしまった。


「僕が居る……何で!?」


 元の姿の僕が、何故かさとちゃんのお兄ちゃんと言う事になっている。

 でも僕はここに居るのに。どうしてもう1人僕が存在しているの!?


 あれ、でも僕って今、女の子になっているよね……しいちゃんだっけ?

 それってつまり、僕は本当はしいちゃんだったって事?


 僕は一体……誰、なの?


「お兄ちゃんってばー。ほら、しいちゃんも起こすの手伝ってー」

「え? う、うん」


 何だか良く分からないけど、僕はしいちゃんとしてお兄ちゃんを起こすしかないみたい……。


「えーと、起きて?」

「しいちゃん、もっとちゃんと起こさないと起きてくれないよー」

「えーっと……でもどうすれば」


 このお兄ちゃんは僕と同じなのかな?

 だとしたら僕を起こすのに最も有効なやり方は……。


「もう朝の8時過ぎてるよー、遅刻だよー」

「え、本当に!?」


 僕がそう言うと元の僕……お兄ちゃんは、慌てて目覚まし時計を確認した。


「何だ、まだ時間前じゃん……おはよ、さとちゃん、しいちゃん」

「お兄ちゃんおはよー」

「お、おはよう……」


 何がどうなっているのか分からない、でも1つだけ確実に分かった事がある。


 どうも感覚的に、これは夢なんかじゃないみたい。

 僕はゲームの世界へ取り込まれてしまっている、そして不在だったお兄ちゃんが僕だった事になっている。

 何がどうなってこうなったのかは分からない、でも現にこうなってしまっている。


 僕はこのゲーム世界の登場人物、しいちゃんと言う子になってしまった。

 さとちゃんが言うに、僕は彼女の妹なのだろう。


「あ、妹.exeって……妹がほしいって……まさか、そういう事!?」


 僕の中で全てが繋がった気がした。

 このゲームに隠されていた真の意味が分かってしまった気がする。


「しいちゃん、何良く分からない事言ってるの? ご飯にするから手伝ってー」

「う、うん。何をすればいいかな?」


 今の僕はしいちゃん、さとちゃんの妹として振舞うしかないようだ……。

 このさとちゃんが何者なのか、本当の僕の正体を知っているのか、それは僕にも分からない。

 でも今はさとちゃんを困らせないように、この世界のしいちゃんとして合わせておく方が良さそうだ。


「あ、さとちゃん……僕、おトイレ」

「うん、先に行っておいで」


 急に尿意を感じ、僕はトイレへ行ったまではよかったが……。



「わー、本当に女の子の体だー……」


 初めて見る女の子の大事な部分が、まさか自分自身になるだなんて。

 いや、正確には自分自身なんだけど自分自身とは違うような……。


「おしっこ出てる、出てるー……!」


 男の子の時の感覚とは違い、何だか一気に出るのが気持ちいい。

 それにしてもしいちゃんって誰なんだろう?

 僕の名前を元に「しいちゃん」と言う愛称ができたのかな?


 あとこの子は元々この世界に存在していた子なのか、それとも僕がこの世界へ引き込まれた事で生み出された子なのか……。

 もし万が一既に存在していた子だったら、僕が意識を乗っ取っているのだろうし何だか申し訳ないな。


「えと、トイレットペーパーでそーっと拭けばいいのかな」


 僕は当然、女の子として用を足すなんて初めてだ。

 思った以上に大事な部分を見て驚いたり異常な興奮はしなかった。

 どちらかと言うと、それ以上に戸惑いの感情の方が大き過ぎるからなのかも。


「これで拭けたのかな……?」


 ちゃんとできているのかちょっと心配になりつつも、僕はトイレを済ませてさとちゃんの元へと戻る。



「しいちゃん、お兄ちゃんは今着替えてるからね」

「うん、僕は何を手伝えばいいのかな」

「じゃあ調味料の準備と、ご飯をよそるのをお願いできるかな? おかずはあたしが作るからね」


 調味料と言われても……何処に何が置いてあって、何の調味料を用意すればいいのか分からない。

 あれ、でも何だか台所内を見渡すと……自然と、僕の視界に目に付く部分がある。


「えーと、これかな?」


 僕は自然と目に付いた戸棚を開き、そこにあった塩コショウを取り出した。


「ありがと、しいちゃん。じゃあ次はご飯をお願いね」


 えーと食器は……辺りを見渡すと、3つの茶碗が目に付いた。

 きっとこれによそるのだろうね、どのぐらいよそればいいのかな?


「えーと、このくらい?」


 僕は自分の中で思った通りにご飯をよそってみた。


「しいちゃん、ありがと。ご飯の量もバッチリだねー」


 何だかまるでしいちゃんの体が行動を覚えているかのように、僕は自然とこなす事ができた。


「美味しそうな匂いだ。今日も2人で作ったの?」

「うん、ほとんどあたしだけどね。でもしいちゃんもお手伝いしてくれたよ」

「できる姉妹が居て本当に良かった。いつも助かってるよ」


 この世界の僕は、最初から2人と暮らしていたみたい。

 もしかしてしいちゃんって子は、最初から存在していたのかな?


「お兄ちゃん、おいしい? 今日も頑張って朝ご飯作ったんだよ」

「うん、すっごく美味しいよ」

「しいちゃんもどう?」

「うん、美味しい。さとちゃんってお料理が上手なんだね」

「えへへ、嬉しいなー」


 そして僕達は3人で朝食を食べ進める。


「ごちそうさまー! じゃああたし、しいちゃんと一緒に洗い物しちゃうねー」

「うん、いつもありがとう」


 そう言ってお兄ちゃんは自分の部屋へ戻って行った。


「じゃあしいちゃん、洗い物済ませちゃおっか」

「うん、分かった」


 僕はさとちゃんと協力して洗い物を進めた。



 僕が増えた事で多少の違いはあったけど、その後の1日は大体ゲームと同じに進んで行った。

 そして夜を迎えたけど……そういえば、夜の例のシーンはどうなっているのだろう。


「しいちゃん、あたし、ちょっとお兄ちゃんに相談があるんだ。お兄ちゃんのお部屋、行ってくるね」

「うん、さとちゃん」


 あ、やっぱりあの事を話しに行くみたいだね。

 話の内容がどうなっているかちょっと気になるし、廊下でお話を聞いてみようかな?


「お兄ちゃん、ちょっといい?」

「うん、いいけど。さとちゃん、どうした?」


 あれ、何だかお兄ちゃんの声……知らない声。

 元の僕の声じゃ無くなってる気がする、どういう事?


「実はあたし、ずっとお兄ちゃんに前から言いたかった事があるの」

「うん、何でも言ってみな?」


 お兄ちゃんがきちんと居る事と、僕が聞いている事以外はゲームと変わりないみたい?


「あのね、あたしね、実は妹がほしいんだー。お兄ちゃんも妹って可愛いと思うでしょ? この気持ち、お兄ちゃんならきっと分かってくれるよね?」


 ゲームと同じ事を言っている?

 だって既にもう、僕がこの世界に来てさとちゃんの妹になっているのに。


 一体これはどういう事なのだろう?


 さとちゃんの問い掛けの後、お兄ちゃんがなんて答えるのか廊下で聞き耳を立てていた僕。

 すると、お兄ちゃんはさとちゃんに対してこう答えたんだ。


「うん、分かるぜ、妹って可愛いよな。何人居ても困らないし、もう1人ほしいものだな」

「え、本当に!? お兄ちゃんならばきっと分かってくれると思ったんだー!」


 えっと、これはどういう事だろう……少なくとも、僕の知っている展開とは違う。


「ねえしいちゃん、聞いた?」

「わっ!?」


 突然ドアがガタンと開き、さとちゃんはまるで僕が居るのを分かっていたかのように言ってきた。


「お兄ちゃん、妹が"もっとほしい"って。やったねしいちゃん、家族が増えるよ!」

「え、さとちゃん、一体どういう事……あれ?」


 部屋の中からチラッと見えたお兄ちゃんの顔は、嘗ての僕の顔ではなかった。

 知らない顔だ……もしかして、これが次のお兄ちゃんって事?


 そうか、そういう事だったんだ……何で今までお兄ちゃんが元の僕だったのか分かった。


 この世界では、ゲームのプレイヤーが新しいお兄ちゃんになるんだね。

 ゲームをしている時は見えなかったけど、僕達の世界では「プレイヤー」の事をお兄ちゃんとして認識できる。

 だからさとちゃん、あの時まるで僕に直接話し掛けてくるかのように……。


「ねえしいちゃん、せっかくだから教えてあげるね」

「え、何?」

「あたしはこの役目を背負ってるの。この言葉をお兄ちゃんに言う為だけに、ここに居るんだ」

「え? どういう事なの?」

「あたしはね、妹がほしくて毎日お兄ちゃんに言うの。そしたら、しいちゃんに出会えたんだ」

「出会えた? じゃあしいちゃんの存在って……」

「この事はね、2人だけのヒミツだよ。お兄ちゃんにも言っちゃダメだからね?」


 なるほどね……今部屋に居るお兄ちゃんが、きっと何処かで画面越しに僕達を見ているんだ。

 そして、さとちゃんによって「次の犠牲者」となるんだね。


「じゃあしいちゃん、ちょっと待っててね。また、お兄ちゃんとお話してくるから」

「うん、分かった。さとちゃん」

「ねえお兄ちゃん、じゃあお兄ちゃんが妹になってよ。こっちへおいで!」


 きっと明日には、もう1人妹が増えているのだろう。

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