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UMの着ぐるみを着て5分、既に汗だくで面の中はとんでもないことになっていた。 自分の汗がなんとももどかしい。汗が目に入って沁みてもぬぐうことができない。鼻の頭に汗がツーっとまるで筆で撫で上げるように滴るのは、慣れているとはいえかなり不快。そんなことがUMの中で頻繁に起こるのだ。 汗が噴き出てくる。ふかもこの着ぐるみなら、着ぐるみ自体が汗をある程度吸うが、UMはほとんど吸わない。顔全体はFRPのような硬質プラスチックで構成されているのでなおのこと。 そんな汗は顎にどんどんたまっていく。顔を振った瞬間に遠心力で、顎にたまった汗が口や目などのスリットから勢いよく飛び出してくるなんてことが夏場のショー中によくあるが、こんなにも汗をかいて、そして溜まるものなのだと、この経験から切実なまでに実感したところだった。 UMのスーツというのは、新品以外は基本的にどこかに穴が開いている。それは、アクションを重ね、酷使してきたことによる劣化で、面とスーツとの境界面や、膝、肘の折り曲げる部分にはごくわずかに穴が開いている。 その穴から中の人の皮膚が見えることはないものの、その穴を埋めるためにゴム製の瞬間接着剤などで穴埋めするメンテナンス作業も、ショー事務所の役割だ。(その接着剤のニオイが面の中や怪獣倉庫内に残ることはしばしばある話。) だが、その接着剤の威力というのも、限界があるもので、修復した穴あるいは修理していない見落とした穴がUMスーツのどこかに開いているもので、その穴から汗がポタポタと滴ることは、夏場だけでなく冬場でも良く見られる光景だ。 夏場は悲惨であることは言うまでもない。目や口からも汗が噴き出すが、スーツの開いた小さな穴からも汗が吹きこぼれるため、ショー後の舞台や撮影後のアスファルトは、たいてい汗で濡れていることが多い。 また、それでも外に漏れなかった汗が行きつく先は、ブーツの中だ。あらゆる汗が、UMの皮ブーツの中にたまっていく。靴下をはいているなら、その靴下が絞れてしまうほどびしょびしょになるのは当然で、ブーツの中は、まるで水が入り込んでしまった長靴のようである。ブーツの側面についたファスナーからじわじわと漏れ出た汗は、アスファルトに流れ落ちる。ブーツの色が赤なものだから、ブーツから染み出てくる汗の色は赤く変色していることもあって、地面のコンクリが白色だと、まるで地面に血が流れているような光景になってしまう。以前に、撮影会中に、地面がブーツから漏れ出た流血のような赤色の汗で濡れてしまったことがあり、かなり親御さんたちから配されたことがあるのは、今となっては笑い話だ。 そう、それがUMスーツだ。 そんなスーツに5分だけでもいるだけで、中は汗まみれで蒸れて非常に暑い空間になってしまうのだ。 結局、今日は5分間、UMに変身して、そのあとはお開きとなった。 着ている最中に興奮してしまってアソコを大きくしてしまったらどうしようと考えていたが、やはり着ぐるみの中に密閉されているときは興奮している暇なんてない。暑さと緊張と集中で興奮には程遠い状態になる。UMスーツで大きくしてしまったら、間違いなくくっきりと主張してしまう。そんな懸念が無いことは自分の体で実証済みなことは、人前に出るときには少々心強く思うこともあった。 やっぱり一番興奮するときは、着ぐるみを来た日の夜。PCで自分の着たUMの写真やショーの様子を見ては、中の具合を妄想し自分に置き換えて、そして抜いてしまう。この事実はこの瞬間に日記を書いている今でも変わりなしだ。 が、この日は憧れのUMに変身できたということも含めて、1度には飽き足らず3回もはててしまった事実は今でも鮮明に覚えている。 そして、UMを着て人前に登場する当日。 試着があってからのこの3日間は1か月の長さとさほど変わらない感覚だった。とにかくとにかくとにかく待ちわびた3日間であった。 私の変身するUMは当日決められたが、試着したUMではなく、目の穴が丸タイプではなく、横に細長いタイプの、いわゆる平成のUMのものだった。∞と書けばわかるものかな。ビジュアルも非常にカッコイイ。 ちなみに∞のUM、視界は昭和のものに比べてまぁまぁ良好。おまけに、昭和のUMよりもスーツ生地が柔らかくて幾分か動きやすい。が、暑さには差異は無い。 人前に出るとこいうことで、今回は試着と比べ物にならないほど汗をかく。そういって渡されたアイテムがいろいろと衝撃的だった。ここまで汗対策を施すのかと驚きと興味が強くあったことを今でも忘れない。 まず、どうしても汗はかいてしまうものなので、それを止めることはできない。 汗の量は半端ではないので、インナーに吸わせて少しでも外に出ないようにすることも不可能。となると、あとは、出てきた汗を物理的に外に出ないようにするしか方法が無い。 UMの皮手袋をする前に、手術に使われるゴム手袋をする。これで手から出る汗を外に逃がしてしまうことを防ぐ。手は思った以上に汗をかくパーツで、いつもふかもこの着ぐるみを来た場合だと、中に軍手をしていたとしても、本体がぐしょぐしょに濡れてしまうくらいだ。 手が恐ろしくふやけて蒸れてとんでもないことになるのは、UMスーツを着る前から容易に想像がついたものだった。 インナーにはキシリトール入りのスポーツインナーが推奨され、そんなインナーを社員さんから貸してくれた。確かに、着た感じは常にすーすーしているようにも感じる。そんな驚きよりも、貸してくれたインナーがあまりにも汗臭くてそちらに意識がそがれてしまった。キシリトールの清涼な効果はこの汗臭さにかき消されて、ただただ不快で仕方なかった。 足には、スノボで履くような肉厚の靴下を着用する。さすがに、足にゴム製の靴下を・・・というわけにはいかず。 こちらはとにかく汗を吸わせて外に飛び出ないようにするしか方法が無いらしく、分厚い靴下をはいて何とかするしかないそうだ。 この靴下だけでも暑いというのに・・・足の中が激しく蒸れあがってしまうことも、この時点で容易に想像がついた。 顔の部分には面下をつける。余談であるが、面下を身に着けることなくUMに変身するスーツアクターが多くいる事実は結構衝撃だった。当たり前のように面下を身に着けるものだと思っていたけども。理由は未だによくわかっていない。 最後、極めつけは…面のちょうど顎のくぼみ部分に、なんと女性用の生理用品を2つほど仕込みなさいとの指示があった。 ナプキンを顎に仕込む。実はこれは非常に画期的で、顔から流れ落ちた汗はかなり大量で、顎にたまってしまうことはしょっちゅうある。その汗をかなり吸収することができるので、まさにうってつけなのだ。 ちなみに、ナプキンを仕込まず、顎に大量の汗がたまってしまうと、口からドバドバと汗が流れ落ちてしまう。見栄えも良くないし、大人から見ると哀愁を感じてしまう要素のようなので、できるだけ漏れ出ないようにする。 汗が飛び出すことに関しては、見栄えもそうだけども、クレーム案件になることもしばしばある。 汗がスーツの着色で変色することがあることは先ほど述べたが、その着色した汗がお客さんの衣類に付着するとコレが相当厄介なことになるのは容易に想像できるだろう。こういうトラブルがたまにあるので、それを回避するためにも涙ぐましい努力がショー事務所に求められるのだ。 そんな汗対策を仕込んだ身で、いざUMに変身する。 足から腕までUMに変身し、残るは頭を入れ込むだけという状態になって、登場する場所まで移動した。 途中、裏方のスタッフ(ショー関係者じゃない)人たちに、「わぁー夢が壊れたー」だの「中の人見るの初めてだ!」と言われたが、なんとも言えない快感というか、ゾワっとしたことを今でも覚えている。 着ぐるみの中の人、スーツアクター、普通に暮らしていたら絶対に経験できない仕事にかかわることができている。それもあこがれていた仕事。着ぐるみを見るだけでワクワクの止まらなかった幼いころの記憶がよみがえってきて、なんとも言えない感動と満足感を、こんなささいな言葉で感じるなんて、、、と自分に驚きつつも、UMに変身するために現場に向かっていった。 さて、現場に到着。そのまま係員が着付けを手伝い、準備が完了。無事に∞のUMに変身できた。 予め練習してきたポーズを決める。やはり、首を横に向くのは生地の特性上かなり力を入れないと難しい。。。着込んでから1分、すでに暑いと感じ始めていた。 目の前のカーテンが開けられた。ついにUMはお客さんにいる世界に飛び込んだ。 係員が誘導する。誘導するまでずっと握手を求められる。常にカッコイイカッコイイの嵐だった。 握手会のポジションについた。大人子供関係なく、来場するお客さんに握手していく。来場するお客さんはほとんどがUMのファンで、大人子供関係なく、皆満足そうな笑顔とエールをしてくれる。 流れ作業でドンドン握手をしていき、たまにしゃがんではポーズを決める。写真は立ち止まらずにならOKらしく、私も機敏にポーズと握手を交互に繰り返していった。 そんな中でかなり感動する出来事があった。 「わぁ!ホンモノと握手しちゃった」 と小学生4年生くらいの男の子からの一言。 着ぐるみ役者はあくまで演者。ホンモノである役に息を吹き込む役割を担う者である以上、絶対に“本物”にはなり得ない。それは着ぐるみ役者全員が知っている事実。ニセモノとまでは言いすぎだが、ホンモノではない以上、本物と思わせるための努力は、すさまじいものがある。スーツアクターは、本物に近づくために、本物を超えるんじゃないかという努力で、本物を会得していく。 なので、そこそこのプロが演じているであろうキャラクターたちを見かけたら「本物だ!」と投げかけてみてみよう。中の人は百発百中で大喜びするはずだ。 私も例外なく、大喜びだった。かなり感動した。大した演技をしているわけではなかったので、あくまで外見だけで“本物だ”と言われたのはわかっていたが、それでも、ものすごくワクワクしたのを今でも覚えている。 大人たちも、まるで童心に帰ったかのような、屈託のない笑顔で接してくれる。UMがいかに偉大な存在なのかを実感した。 UMに変身することがこんなにも感動的なものとは思わず、ただただ握手会の時間が楽しく、時間が過ぎるのが早かった。着ぐるみの魔力にどっぷりと憑りつかれていた。 が、途中から一気にキツさが出てくる。20分もしゃがんでは立ちの繰り返しと握手、即座に決めるポーズの連続で、体力と水分がほとんど外に抜けてしまっていた。 ゴム手袋内にたまった大量の汗がぐじゅぐじゅとしていてなんとも気持ち悪い。 そして、思わぬ暑さを感じるのが、ちょうどほほ骨あたり。ここは目の電飾がある付近で、その部分が結構な温度まで上がる。もちろんやけどするほど温度は上がらないけども。そこそこの熱があったので、顔全体が汗まみれになるために貢献していたものだと思う。 ちなみに、電飾系のバッテリーはすべて胸板内に収納されている。なので、胸板付近も若干の熱を帯びることがあるが、常に汗だく状態で中は灼熱なので、暑苦しさを感じることは全くなかった。 激しい暑さに、呼吸と心拍数はかなり早かった。UMのスリットから、結構な汗やヨダレが噴き出していたと思う。実際、子供たちから「このUM、口に液体ついてる~!」「汗かいてるー!」なんて言われた。 汗対策を施しても、どうしても液体が外に飛び出してしまう。それくらい、UMスーツは汗を吸わなくて暑いものなのだ。 こうして初めてのUMグリが終了する。 私は、会場にいる人たちに堂々としたバイバイを送り、カーテンの後ろに消えていった。 すぐさま頭を外すのだが・・・係員に後頭部のファスナーを上から下に下げてもらった。汗びっしょりになって、なかなか外に出られない。 グイっと力を入れて、そして頭をUMスーツから抜いた。 おびただしいほどの汗がビシャっと外に飛び散ったと思う。顎に入っていたナプキンは限界まで水分を吸っている。 そんな状態で楽屋まで戻るのだが、汗だらけの面下姿で裏とはいえ人とすれ違うのは結構恥ずかしい。 早々に楽屋に戻り、まずはMUスーツを脱いでいった。 ゴム手袋にたまった汗は尋常じゃなく、水風船とまではいかないが、かなりの汗を蓄えていた。バスタオルに汗を吸わせながら、丁寧にゴム手袋を外していく。そうでもしないと、周囲に自分の汗をまき散らしてしまうことになる。ここらがUM着脱の特殊なマナーというか、暗黙の了解といえる。 手は思い切りふやけて、全身はまるでお風呂上りのようにほてっている。当然、UMスーツは汗でぐっしょりである。 UMのブーツを脱ぐと、特に汗は溜まってはいなかったが、汗で変色の激しい分厚い靴下が顔を見せてきた。絞ったら間違いなく大量の汗が出てくることが容易に想像がつくほどの変色。案の定、洗面所で絞ったらそれなりに汗が絞り出てきた。 すべてのUMスーツを脱ぎ終わると、次に顎に張り付いたナプキンを捨てに行った。こちらも握るとおびただしいほどの汗が絞り出てきた。 ウェットスーツのように、脱ぎ終わるとUMスーツは全て裏側になり、そのままハンガーにかけてつるしておく。足元からポタポタと汗が滴る。加えて、UMの面の内側をタオルで拭き、次のグリに備える。 1回のUMの変身でこれほどの汗と体力を持っていく。冗談でも盛っている話でもなく、本当の話である。是非全国のUMを見たときは労っていただきたい限りだ。 今日の仕事はこのグリを先ほどの1回を含めて4回こなす。 汗でびしゃびしゃのUMスーツに身を通すのはなんとも不快極まりないし、汗で全く滑らないため、着付けにかなり難航する。 この時、無理に引っ張ったりねじれて着つけたりしてしまうと、破損につながってしまう。慎重にかつ大胆に気つけなくてはいけない難しさがあるUM。 社員さんと係員の慣れたサポートによって、倒れることもなく安全に全四回、UMに変身しきった。 当然だが、帰り道はヘロヘロで体力はからっぽ。水分ばかり接種していたせいで水腹で若干気持ち悪かったが、ハンバーガーを苦なく5個平らげてしまうくらいにカロリーも消費していた。 体臭は結構ヤバかったとおもう。UMスーツの汗臭さに加えて、貸してくれたキシリトール入りのインナーで、相当のレベルに仕上がっていたと思う。 家に戻り速攻でお風呂に駆け込んだのは言うまでもないが、こんなにも体力を消費したのにも関わらず、すぐに寝ることなく、毎度お約束のことは欠かさなかった。それも2回。。 ⑤着ぐるみアクターのキャリアを積む UMになった日の帰り際、社員さんから来月のシフトについて聞かれた。ショースタッフは必ずしも着ぐるみばかり着ているわけではない。着ぐるみが登場しないイベントの取り仕切りや準備・設営なんかもこなす。 私は全力で着ぐるみの仕事に従事したいところがあるのだが・・・そう贅沢は言っていられないので、ちょくちょく着ぐるみの仕事の合間に、普通のイベントのシフトも入れていく。 そんな中、着ぐるみの仕事として紹介されたのが、スポーツ系マスコットの仕事。 誰もが知っているサッカーのマスコットだ。 愛嬌のあるずんぐりとした体形にはかなり人気があるキャラクターだ。見たところかなり歩きにくさと動きにくさがあるようにも感じるが。。。 仕事としては大型ショッピングセンターでサッカーのイベントがあるらしく、その時に壇上に登場する+握手会をこなすという内容。 ショーと異なり、グリイベント系の着ぐるみは楽しい。 動画サイトを見ながら、キャラクターの動きを練習する。が、練習するほど難しいキャラじゃないため、下準備はそこまで苦労しなかった思い出がある。 さて、当日。 入りは9時に現地集合。ショー事務所の社員さんに案内されながら搬入口から楽屋まで案内されていった。 楽屋に到着。部屋の前には「〇〇くん控室」と書かれた紙が貼ってあった。着ぐるみを生き物として扱ってくれるような、こういった扱いは大歓迎モノだ。グっと来るものがある。 そんな思いをしながら、楽屋に入った。 え!!? と、結構な衝撃を受けたことは今でも忘れない。 つづく

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