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②着ぐるみ頻度を上げる 着ぐるみの求人はごく限られている。着ぐるみ着られるという文句の求人はあるが、いざシフトに入ろうとしても、着ぐるみではないイベント系の仕事がほとんどだ。 5社くらい派遣の会社に登録した。いずれも着ぐるみ関連のところだが、最終的に着ぐるみの仕事を効率よく経験できたのは、初めに登録した派遣会社のみ。他はイベント設営色が強くて着ぐるみなんて仕事は極少だった。 ・・・そういえば。。。着ぐるみのショーチームってどうやって入るんだろ・・・。 着ぐるみの初体験から3か月くらいたった時、そんな考えが浮かび、登録実行に移した。キャラショーを経験することになる2週間くらい前の話だ。 私の住んでいるところから幸い、1時間ぐらいかけて移動すればキャラショーを管理している会社が4~5社くらいあった。どこの事務所に応募すればいいんだろう。 ふかもこ系着ぐるみは既に制覇したつもりになっていた。残り、経験したことが無い世界・・・それはもう、特撮の世界しかこの時は思いつかなかった。 ウルトラマン、仮面ライダー、戦隊ヒーロー、、、あぁ、こういうのを経験するためには、普通の派遣業務じゃ仕事は回ってこない。意を決し挑戦してみよう。そう思った。 運動神経は、悪くも無ければ良くもない。バク転、空中キックは当然できない、そんな中でも出来るんだろうか・・・。そんな不安もあったが、着ぐるみ欲というのはもはや止められない状況であった。 早速、ショーチーム事務所ホームページのフォームに則って、応募した。 次の日、メールボックスを開くと、面接の日取りについて記載があった。履歴書と共に事務所に来てくれとのこと。 面接の当日。案内されたのは、マンションを事務所にした場所。面接してくれた人は、いかにもスポーツマンといったガタイにイケメンの男性だった。 ここのショーチームのこと。練習中はバイト代が出ないこと。朝が始発になることがある、そんな注意事項を受けた。身長体重を細かく聞かれ、何かスポーツやっていたか、そんな質問があり、別に着ぐるみのキャリアや志望理由なんかは聞かれなかった。早速なんだけども、2週間後にショーが入っている。そこに出てみないか?とのことだった。 いきなりのことで、ハイお願いしますとは行かず、一旦スケジュールを確認してくるのでと言って、その場を後にした。 慢性的な人手不足。今にして思えば、募集さえすれば、それなりの若さとガッツがあれば採用されるような業界であることに、当時は思いもしなかった。 そのせいか、バイトの採用が決まったときは非常に嬉しかったことが今でもハッキリと覚えている。 採用が決まった。 ただ、面接中、非常に気になっていたことが2点。 一つは、面接部屋には、沢山の手袋が干してあった。ウルトラマンや仮面ライダー、おまけに、ふかもこ着ぐるみの手袋もあった。気になりすぎてチラチラと見ていたことはバレていたかもしれないが、こんな簡単に着ぐるみに近づけてしまう環境に、興奮が抑えられず、かなりギンギンに剃り立っていた。面接中ずっと。帰り際も少し大きくしていたところがバレたのではないかと、若干心残りでもあった。 もう一点は、隣の部屋から怒号がずっと聞こえていたこと。面接の時はそこまで意に返さないようにしていた(そもそも、着ぐるみが沢山ある環境に興奮していてそれどころでは無かったが・・・)。ショーチーム事務所自体が閉ざされた世界で、かつ体育会系の集団でもある。パワハラは結構あったと思う。慢性的な人手不足である点がここにも反映されているように感じる。 2週間後のショーについては、スケジュール的にOKだったため、次の日OKの返事をしたら早速リハーサルの連絡がショーの音源と共にメールで送られてきた。 ③着ぐるみショー初体験 無給のリハ。無給の練習。リハーサルするためだけに、1時間ぐらいかけて移動する。無給で。キャラクターショーを本当に好きじゃないと続かない理由がココにあるんだなとすぐに悟った私。お金ではなく経験と割り切って当時は張り切って演じていたが、今になって思えば、やりがい搾取とも言われかねない位、結構大変だったと思う。すべてにお金を付けてしまうのは卑しい話かもしれないが、夢だけじゃ飯は食っていけない。学生のアルバイトならOKだけども、これが主でやりくりするような人だったと思うと・・・っと、やめようこんな切ない話は。 そして、私にとっての人生初のショーとして演じる役は、戦隊モノのザコキャラ。 ショッカーのような位置づけのキャラだ。登場シーンはそんなに多くは無いが、殺陣として結構覚えることが多い。 初めての練習。私はドキドキしながら、18時の薄暗くなった事務所近くの公園に集合した。 「あー君が〇〇くんね。あーハイハイ、完璧スポーツ出来る感じの子じゃないか!ヨロシク!」 そう言ってきたのは男性社員のAさん。私よりも2個上の真面目系な風貌の先輩だった。残念ながら私はスポーツ万能ではない。この後の練習でがっかりさせてしまうのだろうか・・・。 ほかにも自己紹介があった。30歳ぐらいの小太りの男性B、高校生の女性C、高校生の男性Dの、私を入れて5人が今回のショーで演じるメンバーだ。 高校生が2人もいるのか・・・。アルバイトは高校生からできるとはいえ、幼さもあるようなこの2人が既に着ぐるみのスールアクター・アクトレスとして活躍しているのかと思うと驚いた。しかもCさんは3年目のベテラン。高校1年生からこの世界に飛び込みたくて演技を磨いているそうな。非常に小柄であっても、怪獣から戦隊系、ウルトラ系、ゆるキャラまで幅広く演じられる子だった。今回、振付師として私にアレコレ教えてくれたものCさんだった。もちろん、社員のAさんの指導もあったものだが。 一方のBを見て、なんだか恥ずかしい気分になったのは否めない。今回主役を演じるBだが、こんな太り方をする人が主役を張れるのかと非常に驚いた次第。戦隊系の衣装なんて来たら赤ダルマのようになるんじゃないかと思ってしまった。 Dさんは、今回が2回目のショー登板で、まぁ私と似たような感じだった。 まずはショー音源に合わせてレッスン開始。社員のAさんと女子高生Cさんがアレコレ殺陣について指導してくれた。 ・・・なんか恥ずかしい。 着ぐるみを身に付けていない状態での、大げさなリアクション。オーバーな挙動、どういう顔をして演技すればよいのか分からなくなる。。。 私は役者に向いてない。そんな風に一瞬で悟った。 慣れないせいであろうが、学芸会含めて、舞台で何かを演じるなんてことは幼稚園の発表会以来の話で、今すぐヤレと言われて出来るようなものじゃなかった。 自分を殺して別の生き物のことを、着ぐるみも何も身に付けていない素の状態で演じなくちゃいけない、この何とも言えない恥ずかしさ、あぁ俳優さんって凄いんだなと感じた。 公園ではショーチームのほかに高校生?のような学生がたむろしてブランコで遊んでいる。そんな彼らに見られながらの練習。クスクス笑われているのも分かった。音源はヒーローショーそのもの。大の大人が、ヒーローショーの音源に全力で演技をしている。・・・恥ずかしさが加速していく。 ショーチームに入るということは、こういうことがあって当然だろ、そんな風に頭に思っていたのだが、いざ自分がその環境に加わると状況はそう安いものじゃなかった。 ・・・ナーバスだなぁ。今すぐ帰りたい。そんな風に何度も何度も思った。 着ぐるみはグリーティングに限る。舞台稽古して音源に合わせて演技をするのは自分には合わない。そうも思った。 若かりし頃の妙で無意味なプライドと恥ずかしさで、この日の練習は常に緊張しっぱなしだった。ただ、AさんとCさんの指導のお蔭と、何故か振付の覚える速さに定評があり、その日の練習のうちにおおよその動きはマスター出来た。 合同練習はそれっきり。この練習だけで覚えきれなかったり、間違って覚えたりしたら本番どうなるんだよ・・・。そう思いつつも、とりあえず本番まで1週間ちかくある。 ノートに書いたステップや殺陣を家でひっそりと親にバレないように練習した。断然家での練習の方が効率的だったことは言うまでもない。 そして、人生初のキャラクターショーの日。 朝5時起床。事務所には7時集合で、現地までハイエースに乗って移動。朝が弱い私にとってそこそこの地獄だ。 5人プラス後ろの荷台にショーブツ(ショーで使用する着ぐるみ)を積み込んで、いざ出発。 そして現場のハウジングセンターに到着。既に建てられてある着替え用のテントの中に、各々ショーブツの入った大きな布袋をもって入る。長いテーブルが置かれて、パイプ椅子も数脚ある程度、下には青ビニールが敷かれていて、靴を脱いでそこで着替える。 私の役はというと、全身タイツに、腕や足周りに装飾品、面を被って完成、と非常に簡素。暑くなくはないが、ふかもこの着ぐるみ比べたら余裕だった。面は顔の部分が赤い膜で覆われた段ボールを被るかのよう。視界は極めて良好だが、中の人が分かってしまうくらい広く取られている。なんとも恥ずかしい。 極めつけは、全身タイツということで、もっこりが激しく目立ってしまうというところ。あまりにも恥ずかしい・・・。顔を覆われていなかったら絶対外に出られない位恥ずかしい。着ぐるみで良かったと思う反面、大きな視界から中が見えてしまうためさほど隠れ効果は無いものと思われるが・・。 他の人たちも着替えていく。仕切りは無く女性だろうが男性だろうが関係ナシに同じ空間で着替えていく。一応、女性は巻き巻きタオルでうまい具合に着替えていく。狭くて風の通りの悪いテント内は、出来るだけ広い空間になるように作られていて、女性や男性と分け隔てる余裕なんて無い。これもショーチームあるあるで、女性も最初は恥ずかしいが、2~3回ショーをこなすと男女の空間内で着替えることはそんなに苦じゃなくなる。 着ぐるみのマスクオフ、汗だくになった中の人、それも女性。いつもなら非常に興奮するものではあるけれども、緊張感のせいで全く興奮なんて出来ない。もちろん自分自身も着ぐるみの中に包まれて興奮するなんてことは無かった。 それにしても、小太り男性のB。主役レッドの着ぐるみを身に付けているが・・・はちきれんばかりにパツパツで・・・スマートな主役のヒーローとはかけ離れたシルエットに、少しばかりでなく結構引いた。 んー・・・人手不足の業界とはいえ、流石にその人選は無いだろ・・・と。 この業界は人手不足。ピッタリな人選をと、そうはいっていられない。太っている人がシュっとしたヒーローキャラを演じたり、男性が女性キャラを演じたりすることは割とあること。 こんな太った主役を観客は何と思うのだろうか。少なくとも私だったら痛々しくて見ていられないし、クライアントだったらクレームを入れかねない。 それでも人手不足。この業界の大変さが伺えてしまう。 そんな主役を横目で見つつ、ザコキャラに身を包んだ私は、司会のお姉さんの合図で、ハウジングの一角に設けられた簡易ステージの上に登場する。 主役ヒーロー:小太り男性のB サブヒーロー:社員男性のA ヒロイン枠:高校生の女性C ボスキャラ:高校生の男性D ザコキャラ:私と高校生女性C(兼務) こんな構成だ。 そんなわけで、いざショー開始!梅雨の入った6月上旬のことだ。 凄まじい緊張。トチったらどうしよう。ってか、こんなもっこりな格好、恥ずかしい。。。顔が隠れているだけマシか。 ザコキャラ悪役の私は、司会のお姉さんが呼びだすヒーローに変わって飛び出してくる。 私は、司会のお姉さんの声を頼りに、人生で初めてのショーの舞台に飛び出していった! ヒーローが出てくると思ってばかりいた子供たちは、ザコキャラとボスキャラの登場にギャン泣き。叫びながら親に抱き着いている。女の子に至っては全力で泣き叫んでいる子が何人もいた。 ・・・なんだか、快感だな・・・やっぱり着ぐるみってスゴイや・・・ グリーティングでもそう。周りの子供たちは、本当に信じているかどうかは分からないけどもライオンさん、ゾウさん、ワンちゃんとして接してくれる。そして何よりも子供たちのリアクションが斬新でとてつもなく可愛い。が、小学生高学年から中学生にかけての子供、そして民度の低い大人は非常にタチが悪い。とにかく正体を暴こうと必死に攻撃を仕掛けてくる。 でも、ショーにはそれが無い。中に人が入っているなんて百も承知な人たちも、正体を暴きたいと思っている悪漢たちも、みな大人しくショーを楽しんでいる。 一方的に応援してくれる、怖がってくれる、自分の演じるキャラクターに反応してくれている・・・! ド緊張の中で演技しながらも、その快感に酔いしれた。純粋に楽しいと感じた。 と、実際そんな楽しさを満喫している場合ではない。会場を煽るだけ煽って、登場してきたヒーローたちに一瞬で撃退されてテントの中にハケていく。 私は新人と言うことで、出番の少ないザコキャラのみだが、女子高生Cさんは私と同じような役に加えてヒロインも演じる。 その忙しさはテントの中ではっきりと良く分かった。 早着替えである。ヒロインの衣装をサッと脱がせ、ザコキャラの衣装を着せていく。ヒーローの衣装なため、生地は薄い。それでも、激しいアクションが続けば髪の毛がぐっしょりと濡れるほど汗びっしょりだ。 衣装の着付けを私が担う。苦しそうな息をしながらハケてきたヒロインのマスクを外し、少しドリンクを含むと、一気にサテンのような生地で出来た着ぐるみを脱いでいく。途中、腕や足が引っかかるため、サポートしてあげる私。 次に、予めショーの始まる前にセットされていたザコキャラの衣装を準備する。 衣装を脱がせるのは簡単だが、汗まみれになった体にタイツのような衣装を着付けていくのは非常に大変だ。 汗だくの女子高生にタイツを着付けていく。時間との勝負と緊張感のせいで全く興奮もしないし、そういった雰囲気にすらならない。着ぐるみフェチな私でも、この雰囲気では全く興奮できなかった。 着ぐるみのしみついた匂いは何とも汗くさいもので、コレを女子高生が着ていいものなのかとつい思ってしまうが、そんな思いがある私よりもよっぽどプロ意識の高いCさんは、あっという間に着替えが終わって面をかぶり、私と一緒に出ていくタイミングを待った。 2回目の登場の時にCさんと共に演技をする。そこでもやられて、テントにハケて、再びヒロインの衣装に着付けていく。今度は私が着付けるのではなく、ボスキャラのDさんが手伝う。 そしてクライマックス、ボスキャラと共にヒーローヒロインに蹂躙される私。子供たちの声援がヒーローヒロインに注がれている。 無事に何事もなくショーは終了した。私も含めて全員過呼吸なんじゃないかと思うくらい激しい息遣い。そして、面を脱ぐと全員が汗びっしょりで真っ赤であった。蒸し暑いテント内が汗臭いニオイで充満するのが良く分かった。周囲に置いてあるスポドリをがぶ飲みしつつ、休憩に入った。衣装から普段着に淡々と着替えてトイレ休憩や昼飯を撮ることになる。 と、こんな感じのショーが2回1日で行われて、終了する。この日はスケジュールの関係で握手会は午前午後共に無しの現場だった。(握手会が無いのは結構珍しいことで、この先ずっと握手会が無いなんて現場には遭遇しなかった。) 2回目のショーも終了し、無事に退散となる。 「初めてのショーにしては上出来だな!でも、この演技のところが・・・」 テントの片付けも終わり、いざ帰るという間際の休憩時間。会場にセットされていたビデオカメラをみて反省会を行うのが恒例イベントのようだ。 タイミングのズレや怖がらせ方、もう少しダイナミックに演技した方が良い等、理不尽な物言いも無く、的確にアドバイスしてくれた社員男性のAさん。 反省会と言いつつもざっくばらんにワイワイと意見交換をする場のような印象を受けた。 中々楽しいチームだなぁ。体育会系のように頭ごなしに怒鳴ったり、根性論で押し通したりするような場面は無くて、割と理路整然とアクション・演技の要素を説明してくれた社員Aさん。私は相当デキる人なんだろうなという印象をしっかり刻んだ。 一方、中年太りしたBさんにはあまり好感触とは行かなかった。 私への指導同様、Bさんへ修正ポイントを教えていた正社員のAさん。そんな指導を全く聞く素振りも無ければ、俺はこうした方が良かった、これじゃあんまり意味無いから俺はこうしたんだと、指導に対して言い訳や反論ばかりだった。 後に聞くと、小太りのBさんは、この手のアルバイトにハマっているらしく、ショーチームを2社くらい掛け持ちしているフリーターとのこと。着ぐるみ歴、ショー歴は長く、変にプライドがこびりついているご様子。社員さんからも扱いにくい存在のようだ。ただ、事務所だけの稼ぎだけじゃツライらしくて、他にも飲食のバイトを1つ行っているそうだ。 プロ意識を持っているBさんだが、他人からの意見に聞く耳を持たない姿勢は、仮にこの仕事を離れることがあった場合に相当苦労することになるんだろうなと、心の中で大きなお世話を発していた自分がいた。 何と言うかね、好きでフリーターしているならいいけども、好きを仕事にして飯を食っていくことで色んなことを犠牲にしすぎなんじゃないか、そんな風にBさんを見て思った次第だが、こういう夢を見てハマって仕事する人もいるんだなと、なんだか社会の縮図と言うか、着ぐるみ業界の闇のような部分を見てしまったように感じた。 やりがい搾取。決して高い給料じゃない中で、それでも結構な充実感を得られてしまうショーの現場。私は学生でアルバイトする身だから良いが、コレを主の稼ぎ柱にしてしまうのはなんだかマズいんじゃないかと思った、そんな初めてのショー現場での経験だった。 余談だが、クタクタに疲れ切って家に帰ってきたけども、女子高生の着ぐるみを早着替えさせた出来事や、自分自身がザコキャラに変身して愉悦に浸ったことを思い出して、布団の中で2回ヌいてしまったことは誰にも言えない秘密な話である。 ④ウル〇ラマンに変身する キャラショー初体験から1週間後、今度はショーではなく握手会のイベントがあるからシフト入れないかとの話があった。6月中旬、10日後のイベントだ。 急な案件だったが、変身するキャラを聞いて無理やり予定を開けて、シフトに入ることにした。 そのキャラは、皆の憧れウ〇トラマン(以下UM)だ。 UMの着ぐるみを着ることが出来る。ついに願っていたことがやって来た…。 事前にサイズ調整があるとのことで、現場入りの3日前くらいに事務所集合の連絡があった。学校も終わってその足で事務所によることにした。 サイズ調整、UMの着ぐるみは基本的にウェットスーツを改造したような造りになっている。手足は分離しているが、頭は胴体と繋がった一体型である。おまけに、UMの視界の穴は非常に小さい。頭の部分に何枚のスポンジを入れれば、視界の穴と自分の目が合うのかを事前に確認しておくというのがサイズ調整の目的のようだった。 そしてサイズ調整の日。試着の日。初めてUMに変身する日だ。 まず社員さんに怪獣倉庫に連れていかれた。ゴム臭と汗臭い部室のようなニオイと、接着剤のような溶剤臭が織り交ざった、カオス度な香りが充満する空間。 その中に、握手会で使うUMがあった。帰って来たUMのブツだった。 ごく短時間のフィッティングであるが着替えを持ってくるように言われていたので、着ぐるみ下のインナーに着替える。 そして、UMを社員さんに手伝ってもらいながら着付けていく。 まずは足。普通にツナギを着るように足を入れようとしたところで、社員さんから指導が入った。どうやらそのスタイルでは着ることすらできないそうな。 足首を通すことは少しコツがいる。予め足首を通したうえで、そのままズリズリと腰の上まで上げていく。シワになってはいけないので、グイグイっと相当な力を入れてUMのスーツを上に上げていく。 この時点で正直しんどい。。次に袖を通していくが、コレもウェットスーツのようなもので袖を通すだけでも重労働。 胸のところには簡易バッテリーが入っていて、胸と目にある電飾を光らせる。配線には十分気を付けないと、簡単にコードが断線してしまうそうな感じ。 あと、全身の締め付けが半端では無かった。腕と足がウェットスーツならではの厚みのせいで動かしにくくなる。こんな状況で殺陣する役者さんは一体何者なんだと思ってしまう。 次に頭を被る。胸にある電飾コードが、マスク内の目の部分に繋がっている。丁度目を光らせるためのギミックなのだが、そのコードが邪魔にならないように持って、そのままグイと力を入れて頭を入れていく。 汗くさい・・・。面の中は汗臭いニオイと着ぐるみ特有の素材のニオイがした。 社員さんはUMの背中にある、割とゴツめの金属ファスナーを下から上へ上げたことで、私は完全にUMの中に密閉された。 ・・・何と言うか、中に入って思った第一印象は圧迫感がすごいという点だ。汗くさいニオイなんてなんのそのといった具合に、圧迫感の印象は強かった。 耳は潰れるように圧迫される。さらに目の下の頬の部分にUMの光る眼が来るため、その部分も結構な圧迫を受ける。閉所恐怖症の人は確実に無理だろうな。。 あ、あと、先ほども説明したが、ウェットスーツ自体にそれなりに厚みがあるせいで、首を横に向けるだけでも物凄く重労働に感じたのも強い印象だった。 体の向きにつられて首も合わせて動いてしまう。首だけを体の向きと違う方向に向けることがこんなにも大変なのかと実感した。まるで真正面以外を向こうとすると、バネによって補正されてしまうかのような強さだ。 面下を付けずにUMの頭を被ったが、まぁ被れなくないが、髪が何本も抜けてしまうくらいギチギチで大変な思いをした。次回からはきちんと面下を準備してもらおうと思った。 次に…強い印象として残っているのは視界のこと。全く見えない・・・というわけではなく、寧ろ逆だった。 被る前まで、あんなに小さな視界で大丈夫なのか、実際はあの穴以外からどこかからか見ているんじゃないか、そうも思っていた。 実際、あの穴からしか視界は無いのだが、あれだけ小さい穴なのに目の位置とピッタリ合わせるとそこまで狭い視界であるように感じない。寧ろ、ふかもこ着ぐるみやゆるキャラの方が、よほど視界が厳しいものが多い。 内側の頭の部分にスポンジを2つ予め加えておいたが、どうやらそれでパッチリのようだ。ピッタリと、視界の穴と目の位置が合っている。UMはそこまで視界が悪いわけではないと、この時の気づきとして今でもしっかり覚えている。 あと、呼吸。わずかに刻まれた横のスリット。こんな細い隙間からでは苦しいんじゃないかと思うが、コレも全く苦しくない。スリットと口までの距離が近いためだろう。この視界、呼吸ならアクションしてもそこまで問題にならないだろう、そんな風に感じた。 試着をするだけの日であったが、着付けを手伝ってくれた社員さんは、何故か気分が乗ってきてしまい、少しポーズやキック、パンチ等のアクションの練習をすることになった。 UMの着ぐるみを着て5分、既に汗だくで面の中はとんでもないことになっていた。 つづく

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