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ポニー学園物語 10.ポニーの刻印 「はふぁ……んっ、んっ……」  肩から腕にかけて繰り返し鋭い針を刺され、私は痛みにうめく。 「はふっ……ひはひ(痛い)、ひはひひょぉ(痛いよぉ)……」  しかし、リブレス呼吸制御マスクの内側に仕込まれたボールギャグのせいで、私の声は言葉にならない。 「はひっ……はっ、はっ……」  柔肌に針を刺される痛みに苦悶しても、拘束架に固定された身体を動かすことはできない。  ポニーブーツの脚を大きく開かされ、足首と太ももを鋼鉄のパイプで固定され、下半身は微動だにしない。  もともと首とお腹のコルセットとアームバインダーで拘束されていた上半身も、コルセットに繋がれた鎖とリブレス呼吸制御マスクを拘束架に縫い付ける金具のせいで、まったく動かせない。  そんな状態で全身に汗を噴き出しながら、酸素が薄くゴム臭い空気を取り込み、肩口に刺される針の痛みに苦悶することしか、私には許されていない。 「はふっ……んう、んんっ……」  はじめより、体温が上がっている。呼吸が乱れている。そのせいで、呼吸制御の息苦しさは増している。 「はうっ……ふっ、んふっ……」  マスク内側のボールギャグから噴き出す大量の涎がマスクを満たしてしまわないのは、どこかに排出専用のバルブが取り付けられているのだろう。  おかげで密着するマスクのなかで、自分自身の涎で溺れてしまう事態だけは避けられている。 「はふぅ……はっ、ぁはっ……」  チクリ、チクリ。鋭い痛み。 「はうっ……うっ、ううぅ……」  注射されるときの痛みが延々と続くといえば、私の苦痛がおわかりいただけるだろうか。 「ううっ……くぅ、ぁうぅ……」  いつ終わるともわからない苦痛に、口中に押し込められた樹脂製の穴開き球を噛み締めて耐える。  針の痛みと藤島調教師の宣告。 『ポニーの刻印をミワ号の身に刻む』  ふたつの意味を考えると、人生経験が少ない私でも、今なにをされているか理解できる。  私はけっして消せない刻印を、ポニーの身分を示すタトゥーを、肩に彫られているのだ。  その刻印を刻まれてしまえば、二度とふつうの女の子には戻れなくなる。この先なにがあっても、私がポニーの身分から解放されることはない。  でも、嫌じゃなかった。 『おまえは永遠に私のポニー。そのことを知らしめるため』  藤島調教師は、そうも言った。だから、どこの誰とも知らない人に売られても、私は肩の刻印を見るたび、藤島調教師を思い出せる。永遠に、藤島調教師のポニーであると自覚できる。  そう思うことで、私の精神は針の痛みすら、幸福感に変換する。  そのうえ、藤島調教師に与えられ、私の中で生き続ける暗示。 『私はもう、藤島調教師が課すことには、なんでも感じてしまう』  そのせいで、私の肉体は針の痛みをも、快感に変換する。 「あふっ……はふ、はふぁ……」  痛みを幸福感と快感に変換しながら、私は昂ぶっていく。  それには、呼吸を制御されていることも関与しているのだろう。絶妙な息苦しさがもたらすごく軽い酸欠で、快感を阻害されることなく思考を単純化され、幸福感と快感に集中させられているに違いない。  いや、呼吸制御の苦しさすら、藤島調教師が与えてくれたものとして、快感に直結しているのだ。  チクリ、チクリ。鋭い痛みはまだまだ続く。  チクリ、チクリ。その痛みを感じるたび、ポニーの紋章が刻印されていく。 「あふぅ……んんっ、あぅん……」  紋章が形を成していくほどに、私の吐息に艶が混じる。 「はふぁ……かっはっ、ああッ!」  身体がこわばった。  一瞬、意識が飛んだ。  直後、脱力した身体を、拘束架に支えられた。  小さな絶頂。低い低い性の頂。私は、軽くイッてしまった。  でも、拘束架に縫いつけられ、倒れることもできない。倒れて身体を休ませることもできない。 「かっふっ……はふぁ、あっ……」  そして小さな絶頂の余韻が治りきらないうちに、刻印が再開される。 「ほふぇはい(お願い)……ふふぉひ(少し)……」  休ませてください。  言葉にならない懇願が聞き入れられるわけもなく。いや、仮に喋れていても、休息など与えられるわけがない。  これは懲罰であり、拷問であり、処刑。藤島調教師が課すことにはなんでも感じてしまう私が勝手に快感を得て、勝手にイッているだけなのだから。  後戻りできないポニーの刻印を刻まれる痛みでイッてしまう私を、藤島調教師はどう思っているのだろうか。  軽蔑されていないだろうか。嫌われていないだろうか。 (いえ……)  藤島調教師は、そんなことで私を嫌ったりしない。  今なら、そう信じることができる。  彼女は私がそんなポニーだと知ったうえで、刻印を与えてくれているのだ。  藤島調教師が与えてくれる刻印の、鋭い痛みはまだまだ続く。  チクリ、チクリ。 「はひっ……はっ、あっ……」  頭が朦朧としてくるのは、呼吸を制御されているせいか。  それとも鍼の痛みで体温が上がっているからか。  あるいは痛みから変換された快感ゆえか。  はたまた快感ゆえにたどり着いた、小さな絶頂の余韻なのか。  わからない。わからない。  わからないが、それでいい。  チクリ、チクリ。 「はひゃ……はっ、ふぁ……」  痛みと痛みがもたらす快感に喘ぎながら、藤島調教師のポニーである刻印を刻まれていく。  この先誰かに買われ、所有される身になっても、刻まれた紋章を見るたび、私は藤島調教師のポニーなんだと思える。  藤島調教師が刻んでくれた刻印があるかぎり、私は永遠に彼女のポニーであり続けられる。  そう思えるだけで――。 「はっふぁ……はぅあぁあんッ!」  また、イッてしまった。  さっきより少しだけ、高い頂きにたどり着いた。  そしてこのたびも、肌を指し続ける針は止まらない。  制限された呼吸と、痛みから変換された快感と、快感がもたらした絶頂の余韻がもたらす恍惚感も終わらない。  苦しい、苦しい。  チクリ、チクリ。  痛い、痛い。  気持ちいい。  苦しい、苦しい。  チクリ、チクリ。  苦しいのに、痛いのに、気持ちいい。  チクリ、チクリ。  苦しいのが、痛いのが、気持ちいい。  チクリ、チクリ。  苦しい、痛い、気持ちいい、気持ちいい。  苦しい、気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい、痛い、気持ちいい、気持ちいい、苦しい、気持ちいい、気持ち――。  もう、わからない。  すべての感覚が渾然一体となり、苦しいのか、痛いのか、気持ちいいのか、自分でもわからない。 「はっあっ、あふぁあアぁんッ!」  またイッた。  今まででいちばん高い頂き。いちばん大きな悦び。いちばん甘美な幸福感。  それらに包まれていると、藤島調教師がようやく手を止め、口を開いた。 「できたわ。これで、ミワ号は永遠に私のポニー」 「はふぁ……はひ(はい)ぃ……ふぇんふぇい(先生)……」  その言葉に、私はジンジンと熱を持つような痛みと、絶頂の恍惚感のなかで、夢心地で答えた。 「これでミワ号はポニーとして生きていくしかない身体にされたわけだけど……」  全頭マスクの小さな穴ごしの視界のなかで、嗜虐的な笑みを浮かべて、藤島調教師が告げた。 「はひ(はい)ぃ、ふぇんふぇい(先生)……」  その言葉にも、私は恍惚として答えた。  事態が飲み込めていないわけじゃない。  ポニーの身分を示すタトゥーを彫られたことの意味は、理解できている。 『ミワ号、おまえは永遠に私のポニー。そのことを知らしめるため、ポニーの刻印をミワ号の身に刻む』  そう。私は永遠に藤島調教師のポニー。  誰に買われても、どこで飼われても、精神は藤島調教師以外には支配されない、彼女のポニー。  その思いをより強くしてくれるために、藤島調教師はさらなる残酷な処置を用意してくれていた。 「ピアス……」  露出させられたままの乳房の先端で、ぷっくり膨れて屹立した乳首を、藤島調教師がつまんだ。 「ここに、乳首にピアスを着けてあげる。タトゥーと違って不可逆な処置というわけじゃないけど、遮眼帯(ブリンカー)を着けていても視界に入るし、歩くごとに揺れて感じるから、存在感はタトゥー以上よ」  そしてそう言うと、拳銃を小型化したような器具を取り出した。 「これが、穴開け用の器具。もちろん身体に、それも超敏感な場所に穴を開けるわけだから、相応の痛みはある。そのためピアスの施術を行う医院などでは、局所麻酔を使うこともあるんだけど……」  そこで、藤島調教師の瞳に、妖しい光が宿った。 「私は、麻酔なしでミワ号の乳首にピアスを着けたい。ミワ号はどう? おまえが望むなら、麻酔してあげてもいいのよ?」  私の答えは決まっていた。 『私は、麻酔なしでミワ号の乳首にピアスを着けたい』  言葉の前半部分が、すべてだった。  この世でもっとも優先されるべきは、藤島調教師の意思。この世でもっとも後回しにされるべきは、私の意思。  ポニーは調教師に絶対服従という馬飼野女子学園の掟を超えて、ふたりの――いやひとりと1頭の関係において、それは私のなかで絶対的な掟になっていた。 「麻酔、したほうがいい?」  だから、私は動かせない首を、プルプルと震わせる程度に横に振る。 「麻酔、しないほうがいい?」  だから、私は強い意志を込め、ピクンと震えるように首を縦に振って答える。 「ふぁひ(はい)」 「そう、嬉しいわ」  応えて、藤島調教師が器具の先端で私の乳首を挟み込んだ。 「……ッ!?」  その針――針というより筒と呼ぶべき太さ――を見て、漏れそうになった悲鳴を呑み込む。  これは、私自身が望んだことなのだ。自ら麻酔なしの処置を望んだ私が、悲鳴などあげられるわけが――。  バチン!  はじめ感じたのは、そんな感じの衝撃だった。  一瞬遅れて、生まれてから今まで感じたことのないほどの激痛に襲われた。 「ふヒギィいいいいいッ!?」  抑えようとしても、いや抑えようと思うことすらできず、断末魔のような悲鳴をあげてしまう。 「ひはひ(痛い)ひはひィいいいッ!」  しがし叫んだ言葉は、言葉にならなかった。拘束架に縫いつけられた身体は、震わす程度にしか動かせなかった。 「ふひっ、ひっひっ……」  あまりの激痛に息を荒げ、でも呼吸制御下の口や鼻からは充分な酸素を取り込めず、苦しさで痛みが紛れかけたところで、穴を穿たれたばかりの乳首で、作業する気配。  そして、反対側の乳首でも――。  バチン! 「ふヒギィいいいッ!? ひはひ(痛い)ひはひィいいいッ!」  声のかぎりに叫び、全頭マスクの奥でギュッと目を閉じ、激痛に耐える。  いや、耐えているわけではなかった。耐えきれず、ただ悶絶しているだけだった。  そして耐え難い激痛が、ジンジンと熱を持った痛みに変わったところで、藤島調教師の声。 「ふたつとも綺麗に着いたわ。御覧なさい」  そう言われ、ゆっくりと目を開ける。 「ほんとうは施術直後は負担の軽いピアスを着けるんだけど……ミワ号にはこっちのほうが似合うわ」  全頭マスクの小さな穴ごしに見た私の乳首は、ピカピカ光る金色の金属環で貫かれていた。 「ふっ、ひっ……!?」  その残酷な光景に一瞬目を剥く。  藤島調教師の腕がいいのか、それとも道具が優れていたのか。おそらくその両方で、出血はあまりない。  そのせいもあって、先端を金属環で穿たれた乳首に現実感はなかった。  しかし、今もジクジクと疼く乳首の痛みは本物だ。そして狭く、暗く、ぼやけた視界に映る光景も、作りものなどではない。  間違いなく、私は乳首にピアスを着けられた。 (もう、戻れない……)  その光景を見て、私は実感した。  タトゥーを彫られても漠然としか思えなかった、二度と這い上がれないポニー堕ちの実感を、ひしひし感じた。  それほどまでに、両の乳首を穿ち貫く金属環には、視覚的な破壊力がある。 (私は、永遠に先生のポニー)  乳首のピアスと肩のタトゥーがあるかぎり、そう思い続けられる。  そのことが、今は嬉しい。  みじめで哀れなポニーの暮らしのなかでも感じられる、至上の幸せ。  その幸福感に打ち震えると、乳首のピアスも揺れる。  揺れたピアスの振動が、ジクジクとした痛みのなかに、快感を生む。  それを与えてくれるのが、藤島調教師のピアスだと思うと、快感が増幅される。 『遮眼帯(ブリンカー)を着けていても視界に入るし、歩くごとに揺れて感じるから、存在感はタトゥー以上』  まさに、そのとおりになるのだろう。  離れていても、ポニーとして歩くたび、藤島調教師が与えてくれる快感に酔えるのだろう。 (嬉しい、嬉しい、嬉しい……)  その喜びに包まれて、痛みから変換された快感と、ピアスが生む快楽のなかで――。 「あっふぁ……はひっ、はっあっ……ふひッグぅううッ!」  私はまた、イッてしまった。

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