小説 ポニー学園物語 9.脱走の罪と罰 (Pixiv Fanbox)
Published:
2018-06-20 08:46:21
Edited:
2022-02-01 02:07:00
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ポニー学園物語
9.脱走の罪と罰
(ここまでみごとに、私と貴龍園長が用意した『反抗のきっかけ』に引っかかるとはね……)
地面にへたり込んで震えるミワ号を見下ろし、藤島調教師は心のなかでため息をついた。
サト号は、けっして並みの調教では素直にならず、手を焼いたオーナーが学園に預けたといういわくつきのポニーなどではなかった。
彼女はポニー調教こそ受けていないものの、性奴隷としての調教を徹底的に施された、貴龍園長の私有奴隷だった。
そんな彼女にポニー調教を受けさせるにあたり、貴龍園長が言い含めてひと芝居打たせたというわけだ。
その罠に、ミワ号はあっけなく落ちた。
それはおそらく、ミワ号の素直な性格のせいでもあるのだろう。あまりにも素直で純粋であるゆえ、サト号の言葉を疑うことができず、彼女の言葉に乗せられ、脱走を企てるなどという大それた行動に出た。
それはある意味、藤島調教師の計画どおりであった。
『明晰な頭脳で反抗しても無駄だと、反抗しないほうが身のためと察し、反抗する気持ちすら抱こうとしない。このままでは、一度も私に反抗しないまま、ポニーとして完成されてしまうでしょう』
『自らの意思で、信念にもとづいて、あるいは熟慮の結果反抗し、その反抗心を完膚なきまでに潰された経験がないまま完成されてしまったポニーは、制圧する能力のある調教師の手を離れたあと反抗心を抱いたとき、それを抑えることができなくなるのです』
素直な性格ゆえそうなりかけていたミワ号は、素直すぎるためにサト号に乗せられて、最大級の反抗をした。
あとはいったん生まれた反抗心を徹底的に砕き、心の底から支配者に隷属する精神を植えつけるだけ。
そうすれば、ミワ号はポニーとして完璧な――。
(ほんとうに、それでいいの?)
そこで、藤島調教師のなかのもうひとりの自分が、頭のなかで彼女にささやいた。
そう、一方で藤島調教師は、心のどこかでミワ号が作られた『きっかけ』に乗らないことを期待していた。
(ほんとうに、このままでミワ号の調教を修了させてもいいの?)
とはいえ、自分は調教師だ。担当したポニーを完璧に調教し、新たなオーナーに引きわたすのが仕事だ。
(でも、そうしないこともできる。あなたは、そのための方法も知っている)
そうだ、たしかに知っている。
もしミワ号が『きっかけ』に乗らず、素直すぎるポニーのまま調教を修了してしまったら、そうしてもいいと思っていた。
でも、ミワ号は乗せられてしまった。
だが――。
しかし――。
いえ――。
どうすべきか迷いながらも、藤島調教師は牧童のひとりに命じた。
「地下懲罰房に、拘束架を用意しなさい」
今しがた逃げてきた道を、藤島調教師に手綱を引かれて歩く。
カッ、カッ、カッ……。
ポニーブーツの底に取り付けられた蹄鉄の音を響かせて。
その歩きかたは、基本に忠実なポニーの歩法。その速度は、身に染みついたウォークのペース。
そう、私の身体は、ポニーの作法に馴染んでいた。
脱走するときはすり足で歩けても、藤島調教師に手綱を取られた瞬間、自然とポニーの歩法で、ポニーのペースで歩いていた。
そんな私が、脱走しようと企てたのが、間違いだったのかもしれない。
ポニーの作法が身に染みてしまった私には、ポニーとして生きていくしか道はなかったのかもしれない。
調教修了までの残された時間、藤島調教師と良好な関係を続け、蜜月の期間を過ごせばよかったのかもしれない。
それなのに、サト号の言葉に乗せられて、私は脱走してしまった。
とはいえ、そのことでサト号を恨む気持ちはない。
たしかに彼女は私を脱走に誘ったが、けっして強制したわけではない。私は自分の意思で、サト号と脱走することを選んだのだ。
本来、いちばん裏切ってはいけない女性(ひと)を裏切って。
『地下懲罰房に、拘束架を用意しなさい』
牧童に命じて以来、藤島調教師はいっさい口を開かない。
おそらく、彼女は裏切った私に対し、静かに怒っている。同時に私が裏切ったことを、深く悲しんでいる。
藤島調教師の秘めたる苦悩を知らない私は、そのことを深く後悔する。
その後悔が、私をさらに落ちこませる。
そしてどれほど落ちこもうとも、私のポニー基本歩法は崩れない。ウォークのペースも変わらない。
そのことで、あらためてわが身がポニーに堕ちきったことを思い知らされ、さらに後悔。
おそらくこれから私は、かつて与えられたことのない、厳しい懲罰を受けるだろう。
それは、もはや罰ではなく、拷問なのかもしれない。拷問すら超えて、処刑なのかもしれない。
(でも……)
それが罰であれ、拷問であれ、処刑であれ、私は甘んじて受けると覚悟していた。
(いえ……)
ただ、受け入れるだけじゃない。
それで罪を赦され、残された時間を藤島調教師と過ごせるなら、その罰も、拷問も、処刑も、私にとって甘美なものになる。
藤島調教師が与えてくれるどんな苦痛も、私にとってはスイートペイン(甘美な痛み)。
そう思いながら、コンクリート造の学園本部棟に裏口から連れ込まれる。
暗い廊下を蹄鉄の音を響かせながら歩き、地下懲罰房行き専用のエレベーターへ。
専用のキーでパネルの蓋を開けてボタンを操作し、地下に降りると、みっつ並んだ鉄扉のうち、真ん中のものを開ける。
するとそこに、私の処刑台――懲罰用拘束架が設えられていた。
その形、一見すると80センチほどの間隔で立てられた、2本の鋼鉄の柱。床から天井まで達するその柱どうしをつなぐように、柱本体の半分ほどの太さの横棒が3本。そして真ん中といちばん上の横棒の中間付近から、鎖が2本垂れている。
藤島調教師はその拘束架の前に私を立たせると、まず2本の鎖をコルセットに設えられた金属リングにつないだ。
アームバインダーで両腕を拘束されたままの私は、それだけで拘束架から離れられなくなった。
もちろん、それだけで拘束が終わるわけではない。
それから藤島調教師は無言のまま私の足を蹴り、2本の柱の感覚より少し狭い程度に足を開かせると、柱や横棒と同じ素材のU字形パイプを取り出した。
そしてU字の窪んだ部分を私の足首に嵌め、いちばん下の横棒にネジで固定され、肩幅よりはるかに広く開いた脚を閉じられなくされた。
それでも、拘束は終わらない。
脚を大きく開いたため低くなった腰の位置に合わせ、コルセットにつないだ鎖の長さを調整。ピンと張った状態で留め直すと、太ももの真ん中あたりもU字のパイプで横棒に固定された。
もう、下半身は揺する程度にも動かせない。もともとアームバインダーとふたつのコルセットで上半身の自由はほとんどなかったから、身体の自由の大半を奪われてしまった。
そこで藤島調教師が、フェイスハーネスを外しにかかる。
ハミが付いたままフェイスハーネス本体のベルトを解かれる。金属製のハミが、口から抜き取られる。
「ぁう……」
ゴポリと涎が溢れ、その糸を吸い取ろうととして上手くいかないのは、いつもと同じ。しかしこのたびは、軽口を叩き合うことはなかった。
そして、なにかを深く思考しているかのように表情を消した藤島が取り出したのは、口と鼻の部分が開口し、目にあたる部分に小さな穴が左右3つずつ穿たれた革の全頭マスク。
私のポニーテールを解き、藤島調教師が無言で、無表情のまま全頭マスクを被せにかかる。
どんな罰でも、拷問でも、処刑でも、甘んじて受け入れると覚悟している私は、黙ってマスクを装着される。
後頭部の編み上げを締められるたび、マスクの革がみっちりと顔に貼りつく。頭をギチッと締めつける。
とはいえ、口と鼻は開口しているから、呼吸は苦しくなかった。目の位置に合わせて穿たれた小さな穴のおかげで、かろうじて視界は確保されていた。
その狭く、暗く、ぼやけた視界のなかで私の目が捉えたものは、最後の装具。
それは、複雑な形状の固定用のベルトが設えられた、鼻と口を覆うマスク。
内側に無数の穴が穿たれた樹脂製の球、外側にホースを介してラグビーボールを小ぶりにしたような袋が取り付けられたマスクを見せつけながら、藤島調教師がここに来て初めて口を開いた。
「ボールギャグ付きリブレス呼吸制御マスク……」
とはいえ、その声にいつもの親しみはない。それどころか、突き放すような冷たさすら感じる。
その声に、あらためて自分が犯してしまった過ちの罪深さを思い知ったところで、マスクを顔に近づけられる。
「口を開けなさい」
その言葉に従うと、マスクの内側に設えられていた穴開き球が、口中に侵入してきた。
「んっ、かっ……ふ」
口中の球の収まりを直したところで、鼻と口を覆うようにマスクを押し当てられた。
とたんに鼻腔に広がるゴムの匂い。とはいえ、まだ呼吸制御と言えるほどの息苦しさはない。ただ、ラグビーボール状の袋の先端に設えられたノズルから、ゴム袋とゴムホースを通して空気を吸い込んでいるだけ。
それは、後頭部でベルトを締められ、マスクを固定されても変わらなかった。頭頂部を通って後頭部に達する縦のベルトを締められても、縦ベルトがずれないように額のベルトを締められても、それは同じだった。
ただ意外だったのは、リブレスバッグ付き呼吸制御マスクが、拘束具も兼ねていたことだった。
カチリ。
縦ベルトの頭頂部付近に設えられていた金属製リングを、金具で拘束架の最上段の横棒につながれると、頭を前後左右に動かすことすらできなくなった。
もう、私にはいっさいの身体的自由はない。
そして――。
「んっ……!?」
藤島調教師がマスクに接続されたラグビーボール状の袋の先端のノズルを操作すると、急に息苦しくなった。
「んんっ……!?」
息を吸い込むと、袋が萎む。
「んっ、ふぅ……」
息を吐き出すと、逆に袋が膨れる。
「はふぁは(まさか)……?」
マスクの奥でくぐもった声をあげると、藤島調教師が嗜虐的な瞳の光を取り戻して、口を開いた。
「リブレス呼吸制御マスク……その名前の意味、わかったかしら?」
わかった。否応なく、わからされた。
私は今、ラグビーボール状のゴム袋の中に吐き出した呼気を、そのまま再び吸わされているのだ。
「もちろんリブレスバッグ内で完全循環させるだけだと、すぐに酸欠に陥る。だからバッグ先端の外気導入ノズルの径を調整して、ミワ号が生きていくのに最低限必要な酸素濃度をキープしているわけ。もし、ここからわずかでもノズルの径を絞れば……」
そうするとどうなるか。言われなくてもわかっていた。
じきに吸い込める空気のなかの酸素濃度が足りなくなり、私は酸欠になってしまう。
つまり――。
「ミワ号は今、私に生殺与奪の全権を握られているわけ」
「あぁ……」
嗜虐的な光をたたえた瞳で見つめて言われ、私の口から出たのは、悲鳴ではなかった。
「はふぁ……」
私の口がゴム製のマスクの奥で穴開き球ごしに吐き出したのは、自分でも驚くほど甘みを帯びた吐息だった。
『もう、私が課すことなら、調教でもエッチなことでも、なんでも感じちゃう?』
それは、剃毛処置を受けたときの、藤島調教師の言葉。
(私はもう、藤島調教師が課すことには、なんでも感じてしまう)
その言葉と巧みな誘導により、私はそう思い込まされていた。
そしてその暗示は、今も生きている。生きていて、私を支配している。
おそらく今、ノズルの径をもう一段絞られて緩やかな処刑が行われても、そのなかで私は感じてしまうだろう。藤島調教師の手で逝かされる悦びに、性的にイッてしまうかもしれない。
自分でそう予見できるほどに、私の精神は藤島調教師に支配されている。
「んんぅ……」
リブレスバッグが萎む。
「んふぅ……」
リブレスバッグが膨らむ。
「んんぅ……んふぅ……」
苦しい。苦しい。
でも、この苦しさも、藤島調教師が与えてくれるもの。
そう思うだけで、私の肉体は昂ぶる。精神は幸福感で満たされる。
「んふぅん……ふぇんふぇい(先生)ぃ……ほっふぉ(もっと)……」
昂ぶり、満たされて、口中の穴開き球のせいで不明瞭になった声で、さらなる苦しみを求めてしまう。
そして藤島調教師は、私の望みを叶えてくれる。ふつうの女の子なら耐えられないほどの、肉体的精神的苦痛を与えてくれる。
嗜虐的な光をたたえた瞳を細め、妖しいほほ笑みを取り戻し、私を――。
(ミワ号、なんて子……)
目の前の愛らしいポニーを担当するようになって何度めかの驚きを、藤島調教師はこのたびも感じていた。
(ミワ号は、私が課すことなら、なんでも感じてしまう)
もちろんそう仕向けたのは、藤島調教師自身だ。
とはいえ、仕向けたからといって、すべてのポニーがそうなるわけではない。むしろそこまでの境地に達するポニーは、きわめて少ない。
マゾの本性を持つポニーでなければ、そこにたどり着くことはできないのだ。
マゾ、あるいはM。それは巷で思われているように、単に痛めつけられて悦ぶ性質のことではない。
マゾ、Mとは支配されていることに、支配されていると感じることに、悦びを見いだす性質。痛み、苦痛で悦ぶという現象は、その行為で支配されていることを実感するがゆえのことにすぎない。
そしてマゾのポニーにとって、支配される相手が誰でもいいというわけではない。
ミワ号がマゾの本性を持ち、かつその性質を開発したのが藤島調教師だったから、彼女はマゾポニーの花を大きく開かせた。
同時に、逆もまた真なり。
サディストの性質を自覚している藤島調教師も、どんなポニー調教にも悦びを見いだすわけではない。たいていのポニーは、仕事として淡々と調教するだけだ。
調教するだけで自然と嗜虐的な表情を浮かべてしまうようなポニーは、ミワ号が初めてと言っていい。
おそらく、藤島調教師とミワ号は、奇跡的と言えるレベルで相性がいい。
ミワ号が素直すぎるポニーになりかけたのも、彼女の性格や経歴だけのせいではなく、ほんとうはそのためだったのだ。
藤島調教師は今、はっきりと悟った。
ほかの調教師では、ミワ号はこれほどポニーの才能を開花させなかっただろう。
ほかのポニーでは、藤島調教師はこれほど調教の悦びを見いだせなかっただろう。
(私ほど、ミワ号を満たす調教師はいない。ミワ号ほど、私を満たすポニーはいない。だとしたら……!)
藤島調教師は迷いをふっ切り、心を決め、ミワ号に宣告した。
「ミワ号、おまえは永遠に私のポニー。そのことを知らしめるため、ポニーの刻印をミワ号の身に刻む」