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前編 囚われた女騎士  王国暦○○○年5の月、王国西方の辺境に、蛮族が侵入した。  これに対し、国境防衛の辺境騎士団は奮戦。軽微な損害を出しつつ撃退した。  西方辺境における事件についての王国正史の記述は、たったこれだけである。  辺境への蛮族の侵入はこのたびが最初ではなかったし、小規模な略奪行為は、日常茶飯事だ。遠く離れた王都の正史編纂者にとっては、その程度の些事だったのだろう。  ただし、当事者にとっては、一大事であった。  特に、正史において『軽微な損害』とされた被害者のひとり、辺境女騎士ニーナ・クレストにとっては――。 「ん、ぁ……」  低くうめいて、ニーナは目覚めた。 「ぉうあ(ここは)……?」  どこなのか、わからない。  そして、吐き出した声は言葉にならない。  目を開けても、なにも見えない。  身をよじると、ジャラリと重い鎖の音。  怠い身体を起こすため、手を身体の前に回そうとして、背中の高い位置で手首を束ねられた状態から動かせないことに気づいた。  腕が麻痺して言うことを聞かないわけではない。身体の下敷きになっていた右腕には痺れを覚えているが、動かそうとすることはできる。 「ぉえあ(これは)……」  縛られているのだ。  それも紐のようなものではなく、二の腕と手首に枷を嵌められ、後手に拘束されている。  そうと気づいたところで、少しずつ頭が覚醒してきた。 「ぁあぃあ(私は)……」  侵入してきた蛮族との戦いに敗れ、囚われたのだ。 「あぇあ(あれは)……」  しばしば国境を侵し、略奪を繰り返してきた、フェステール族だった。  フェステール族は、男ではなく女が戦闘を受け持つ、武闘派の部族だ。かつてはニーナたち辺境騎士団が護る地域を根城にしていたが、王国により追い出され、当地は平定された。  とはいえ、国境の外では、いまだ強い勢力を誇っている。  なにごとにも武が優先される戦闘部族だけに、戦いで武功を挙げた女は、王国の中級貴族に匹敵する贅沢な暮らしをしていると伝えられている。  そんなフェステール族が、辺境騎士団を守備に残し王国軍本隊が引き上げたあと、略奪を目的にたびたび侵入するようになった。  富裕な市民の金品や冬季の食糧、若い娘などを奪うことを目的にしたそれは、もはや定例行事と言ってもいい。  だが、今回の侵入は、なにかが違った。  市民への略奪ではなく、ニーナたち辺境騎士団と戦うこと自体を目的にしていたように思える。 (とはいえ……)  今は侵入の理由を詮索している場合ではない。脱出、あるいは反攻のためにも、わが身の状態を確認することが先決だ。  拘束されているのは、腕だけではない。  太ももにも枷を嵌められ、脚を大きく開くことはできない。  足に圧迫感を覚えるのは、ブーツ状の装具を着けられているのか。すねから足の甲にかけて、まっすぐ伸ばした状態で固定されているのは、それのせいだろう。  口には棒のような轡を噛まされ、吐き出せなくされている。喋れないのは、そのためだ。顔の下半分が濡れているのは、口を閉じられないせいで涎が溢れていたのだ。  目を開けているのに視界が暗闇に閉ざされているのは、目隠しをされているのだろう。  顔と頭に締めつけられる感覚があるのは、それらを固定するベルトがかけられているのか。  そのうえ、首も枷に囚われ、それを鎖でどこかにつながれている。先ほど耳障りな音を立てたのは、その鎖だ。  いや、おそらくそれは、首だけに嵌められたものではなく、胸を締めつける装具と一体になっているのだろう。  さらに前はおへその下あたり、横は腰骨の出っぱりの上端にかかるように、幅広のベルトを締め込まれているようだ。  ベルトがそんな中途半端な位置から動かないのは、腰骨に引っかかってずり落ちないから。加えて、お股に通された縦のベルトのせいで、ウエスト方向にずり上がることもない。  その縦のベルトは、ただ股間に這わされているわけでは――。  そこで、ニーナの身体感覚が完全に戻った。  同時に、お尻に猛烈な違和感を覚えた。 「……!?」  肛門を、なにかにこじ開けられている感覚。  そして肛門を占拠する異物は、いきんでも微動だにしない。 「ぁんぇおぉ(なんてこと)……」  肛門に異物を挿入され、股間のベルトで押さえられている。 (いえ、違う……)  異物を挿入されているのは、肛門だけではない。  お尻のものより小さいせいですぐには気づかなかったが、女の子の大切な場所にも異物の存在を感じる、さらにその少し上、おしっこの穴にも、細いなにかが挿入されている。  そうと気づいて、戦慄した。  戦慄するだけではなく、恐慌に陥った。 「おぅいえ(どうして)ッ!?」  こんなことになっているのか。 「ぃああ(いやあ)ッ! ぃああッ!」  おしっこの穴や肛門に、いつのまにか異物を挿入されていたなんて。  女の子の――もちろん、女騎士にとっても――大切な処女を、知らないうちに異物によって奪われていたなんて。 「ぉんあぉ(そんなの)、ぃああ(いやあ)アッ!」  声が言葉にならないことも忘れ、叫んだときである。 「目覚めたようだな」  あらぬ方向から、声をかけられた。 「あぃおぉ(何者)……!?」  誰何《すいか》の声はやはり言葉にならず、反射的に身を起こそうとしても、すぐには起きあがれなかった。 「元気なようでなにより、ニーナ・クレスト。いや、私に囚われ、奴隷に堕ちた今は、奴隷15号と呼ぶべきだが」 「あ(な)……おぇいあぉ(奴隷だと)?」  不自由な声で訊き返した刹那、首枷の鎖をつかんで引きずり起こされた。 「ン、う……ッ!?」  首が絞まり、苦悶した直後、目隠しがむしり取られた。 「ウッ!?」  暗闇に馴らされた目を眩い光が差し、反射的に目を閉じる。 「くくく……眩しくて目を開けられないのかい? 憎い敵を前にして、王国の元騎士さまは脆弱だねえ」  嘲るように言われ、眩さに耐えて目を開け、声の主に視線を向ける。  そこにいたのは、フェステール族の特徴でもある、褐色の肌と黄金の瞳を持つ、筋肉質な女だった 「ぉ、ぉあぇあ(おまえは……)」  たしか、一騎討ちを挑んできた魔法剣士だ。  剣では互角以上に戦ってみせたニーナだが、あらかじめしかけられていた睡眠魔法のトラップにより、気を失なって捕らえられた。 「いい目だよ、15号。まだ奴隷ではなく、騎士の目だ。だが……」  唇の端を吊り上げて嗤い、扇情的な衣装を身にまとった女がニーナの胸に視線を移した」 「これを見ても、そんな目ができるかな?」  女の目と言葉につられて視線を落とし、ニーナはわが身に施された、さらなる残酷な処置を目の当たりにした。 「ぅ、えっ……?」  そこには上下をベルトで締められ、絞り出されたふたつの乳房。 「ぉ、ぉんあ(そ、そんな)……」  乳房が露出させられていたことに、ニーナが愕然としたわけではない。その程度のことは、股間に受けた処置に気づいたとき、すでに覚悟していた。 「あんぇおぉ(なんてこと)……」  肉体的にも精神的にも騎士として鍛えられているはずのニーナに言葉を失なわせたのは、両の乳房の頂、乳首の惨状。  そこには肉を穿ち貫いて、金属製のピアスが取りつけられていた。  あまつさえ、ふたつのピアスを鎖でつながれていた。 「あぇ(なぜ)、ぉうぃえ(どうして)……)  その言葉にならない声を聞き取ったのか。あるいは奴隷がこう言うときなにを言うか、経験からわかっているのか。あるいは、あらかじめ告げると決めていたのか。  理由はわからないが、女がニーナの疑問に答えた。 「私は自分が所有する奴隷に、それを嵌めることにしている」  つまり、鎖つき乳首ピアスは、女が所有する奴隷の証というわけだ。 「ぁあぁ……」  奴隷のピアスを嵌められたのだと知り、呆然と口から吐息と涎を漏らす。  すると女が、ニーナの二の腕の肩に近い位置に手をかざした。  そして、フェステール語でなにごとかつぶやく。  すると、女の手に燐光の魔法陣が生まれた。  その魔法陣が、ニーナの皮膚に触れる。  触れて、密着する。  やがて燐光が消え、女が手を離すと、ニーナの腕には文字が刻印されていた。  王国共通言語の数字で15、そしてその下に、奴隷。 「ぅえ……ッ!?」  それニーナは目を剥いた。 「自分で読めるよう、フェステール語ではなくおまえたちの文字で魔法刻印した」  つまり、ここから脱出して王国領まで逃げのびられたとしても、刻印を見られたら奴隷に堕とされたことが知られるというわけだ。  おまけに――。 「魔法刻印は、それを施した術者か、同じ属性の上級術者にしか解除できない……王国の騎士さまなら、その意味はわかるだろう?」  わかっている。  魔法の心得がないニーナには、女の魔法の属性がわからない。属性を探るためには、鑑定能力を持つ魔法士に依頼しなければならない。そのうえで、刻印を消すには、女と同属性かつ上級の術者の手を借りる必要がある。  それまでに、何人の人に奴隷の刻印を見られるだろう。  上級術者を求めて、どれほどの時間さまよわなくてはならないだろう。  そのあいだに、騎士団関係者に刻印を見られたら、もう騎士を続けられない。  長期間理由も告げずに騎士団を離れたら、解雇されてしまう。  いや、解雇だけでは済まないかもしれない。無断離脱とみなされ、叛逆者として指名手配される恐れもある。 (いずれにせよ……)  もう、戻る場所はない。  ニーナがそうと悟り、絶望したことを察したのだろう。  唇の端を吊り上げ、女が立ち上がった。 「私の名はガブリエラ。私を呼ぶときは、ガブリエラさま、あるいはご主人さまと呼べ。もっとも、おまえの口が人の言葉を発する機会は、二度と訪れないだろうが」  そしてそう告げ、ニーナを閉じ込める檻をあとにした。  視線を落とすと、鎖つきピアスを嵌められた乳首。  いたたまれず視線を横に移動させると、腕には奴隷の魔法刻印。 「ぅうぅ……」  くるおしくうめき、顔を上げると、わが身を閉じ込める檻。  大きな窓から陽光が差し込む部屋の中央に置かれた、四方を鉄の格子で囲われたそれは、縦横はニーナの身長より少し短く、高さは頭ひとつぶん高い程度。  高さだけが高いのは、ニーナに配慮されたわけではないだろう。おそらく、彼女よりいくらか背が高い、ガブリエラに合わされているのだ。  その鉄格子のニーナの目線の高さくらいの位置に設えられた金属製リングに、うなじのあたりに接続された鎖の反対側の端が、カラビナと呼ばれるバネ式の金具を介してつながれている。  さらに鉄格子の開口部の扉には閂《かんぬき》がかけられているものの、施錠はされていない。  ニーナは後手に拘束されているが、指は使える。だから、そこまで行けば、閂を外して扉を開けられる。  しかし、胸から上をきつく締めあげる装具を鎖で鉄格子につながれているから、檻の外には出られない。  カラビナ金具は指で押すだけで外せるが、首の後ろにも、鉄格子の目線の高さにも手は届かない。  騎士として鍛えられたニーナなら、跳び上がれは鉄格子のカラビナには一瞬触れられるだろう。  だがその一瞬で、金具を外すのは至難の技。それにそこまで跳躍すれば、檻の天井で頭を打つに違いない。  加えて、足に履かされた異形のブーツだ。  馬の蹄を象っているようにも見えるその装具の中で、ニーナの足はすねから甲まで一直線に伸ばした形で固定されている。  もし立ち上がっても、つま先立ちを強いられるだろう。  そんな状態で、跳躍できるのか。そもそも、立ち上がれるのか。太ももに嵌められた枷どうしを金具でつながれ、ギリギリ歩行できる程度にしか脚を開けないのに。 「ウぅ……」  脱走を諦め、檻の床に敷きつめられた干草に膝をついてうめく。  ふだんのニーナなら、いや囚われの身になっていても、目覚めて覚醒した状態の彼女なら、脱走を諦めなかっただろう。  だが、今は絶望していた。  ガブリエラに施された残酷な処置により、完全に望みを断たれていた。  こうなったとき、騎士が取るべき道はひとつである。  生きて虜囚の辱めを受けず。辱めを受けるくらいなら、自ら命を絶つ。  とはいえ、厳重に拘束されたうえ、口にも轡を噛まされていては、自決することもできない。  ただ、無力な状態に蔑められた身で、檻の中でうずくまっているしかない。 「うぁぅ……」  再びくるおしくうめき、閉じられない口から涎を溢したところで、異物を挿入された媚肉が、ジュンと熱い液体を吐き出した。 「お、ぉえあ(こ、これは)……」  女が性的に昂ぶったときの反応だ。  騎士として性的な行為いっさいを遠ざけてきたニーナだが、その程度のことは知識として知っている。 「え、ぇお(で、でも)……」  どうして、自分は昂ぶってしまったのか。  実のところ、それは膣内の超敏感な粘膜に、挿入された異物――その正体が金属製ディルドであることを、ニーナは知らない――が密着しているからである。  純粋な生体反応として、粘膜を護るために、粘液が分泌されているのだ。  とはいえ、そこまでの知識はニーナにはない。  聞きかじっただけの拙い知識を元に、媚肉が濡れるイコール性的に昂ぶった状態と認識している。  さらに、きつく締めまれたベルトにより、硬いディルドが微動だにしないことだ。  対して、それを包むニーナの肉は柔らかい。それに全身の筋肉は連動しているから、身体のどこかを動かすたび、膣の肉もわずかに動く。  生体反応で分泌された粘液で、ヌルヌルに潤滑された状態で。  その刺激が、ごく緩い快感を生んでいた。  そしてニーナは、やはり拙い知識から、自らが快感を得ていると自覚している。 「ぉういぇ(どうして)……」  こんなみじめな状況で、自分は快感を得てしまうのか。  破瓜のあとは、耐えがたい痛みがあるはずなのに、それすらないままに――。  そこで、腕に魔法刻印を彫られたときのことを思い出した。 (あのとき、私は……)  痛みを感じなかった。 (いえ、それだけじゃない……)  眠らされているあいだ、乳首にピアスホールを開けられたときも、痛みで覚醒しなかった。  肛門や小水の穴に異物を挿入されたら痛いはずなのに、そこあるには違和感だけ。 (それは、つまり……)  ガブリエラが、神経系の魔法で痛みを遮断していた、いや、今も遮断しているから。 (そして、おそらく……いえ、きっと……)  自分が快感を覚えてしまうのも、彼女の神経系魔法のせいに違いない。  ニーナがそうであってほしいという願望めいた答えを想像から導き出したところで、木の桶を手にした娘が現われた。  肌の色がフェステール族に共通する褐色ではなく、むしろニーナより白いのは、彼女もまた略奪行で攫われてきた王国民に違いない。  その腕には、数字が9の奴隷の魔法刻印。乳首には、ニーナと同じピアス。  ただしニーナと違い、拘束はされていない。口に轡を噛まされていない。乳首ピアスの鎖は細く装飾的なものだし、股間のベルトとそれを留める腰のベルトはずっと簡素。足に履いているのは、異形のブーツではなくサンダルだ。  同じ奴隷なのに、装具が違うのはなぜだろう。  騎士と一般の娘では、身体能力が違う。鍛えられた肉体を持ち、徒手空拳で戦う技術も身につけたニーナは、9の娘と違い拘束していなければ危険と考えられているのかもしれない。 (でも……)  魔法が使えるガブリエラは、ニーナより強い。剣を手にしていない状況なら、その差はさらに大きいだろう。  それに力は弱くても、拘束されていなければ、隙を見て逃げ出すことくらいはできる。 (数字が9ということは、ずいぶん前に奴隷にされている……奴隷の刻印で心を折られたうえに、長い奴隷暮らしのなかで従順になったから?)  一瞬そう考えたが、たぶん違う。 『もっとも、おまえの口が人の言葉を発する機会は、二度と訪れないだろうが』  立ち去る際、ガブリエラが言い残した言葉。  それは、もしニーナが従順になっても、轡を外さないという意味だ。手が自由になれば自力で外せるから、拘束も解かないということだ。  なのに、9の娘は拘束されていない。 (それは、つまり……)  奴隷としての属性、言い換えれば使役する目的が違うということだろうか。  ニーナがそこまで考えたところで、娘が檻の中に入ってきた。 「水」  無表情のまま、抑揚のない声で王国共通言語で娘が告げる。 「顔を上に向けて」  意図がわからずただその顔を見ていると、娘がニーナの背後に回り込み、桶を床の干草の上に置いた。 「ご主人さまから、15号は頑丈だから多少乱暴に扱ってもいいと言われている」  そう言うと、ニーナの髪をつかんだ。 「ぁ、うッ!?」  強引に顔を上に向けられ、思わず苦悶したところで、娘が桶の中の柄杓を手に取った。  そして柄杓の水を、轡を噛まされたニーナの口にかける。  かけられた水の半分以上は、口には入らず顎から胸に落ちた。  だが、残りは口中に侵入してくる。 「あッ……!?」  突然の狼藉に驚きつつも、口中に注ぎ込まれた水を、なんとか飲み下すことができた。 「ぁ、かッ……あぃおぅう(なにをする)……ッ」  言いかけたところで、2杯め。 「あッ、あッ……」  気管に水が入らないよう、必死で飲み下すと、すぐに3杯め。 「あッ、か、あ……」  休む間もなく4杯め。  まるで、水責めの拷問だ。  苦しい、苦しい。  さらに、膂力でも剣技でもはるかに劣る娘に、いいように責められるくるおしさ。騎士たる自分が、平民の手で水責め拷問を課される屈辱。  その苦痛とくるおしい屈辱、水の冷たさが、緩い快感がもたらす肉の火照りを冷ます。  5杯め、6杯め。  苦しい、苦しすぎる。 (で、でも……この苦しみは……)  きっと、罰なのだ。  ガブリエラたちフェステール族の略奪を許し、娘が攫われ奴隷にされることを防げなかった辺境騎士団の代表として、ニーナは罰を受けているのだ。  そんな考えに囚われながら、7杯め、8杯め。  回数を数えていられなくなり、お腹が水で満たされる苦しさも加わったところで、ようやく桶の水が尽きた。  そして来たときと同じように、娘が無表情のまま桶を手に檻を出ていくと、ニーナは再び拘束の身を放置された。  水責め拷問のような水分補給のあと、どれほどの時間が経っただろう。  厳重拘束のまま、檻の床に敷かれた干草の上でうずくまっているしかないニーナに、新たな試練が訪れていた。  それは、排泄欲求。  じっとしていても汗をかくほどには暑くない季節、お腹いっぱいになるまで飲まされた水は、じき小水に変わる。  そのため、ニーナの膀胱はもうパンパンだ。  とはいえ、檻の中で漏らすわけにはいかない。  ガブリエラか9の娘を呼ぼうにも、口に噛まされた轡のせいで言葉は声にならない。 「ぅう……」  うずくまったまま、猛烈な尿意に耐える。  いや、それはもはや、尿意と言って済むほど生やさしいものではなかった。  少しでも気を緩めたら、決壊しそうなほど切迫していた。  座っているだけではいたたまれなくなり、少しでも気を紛らわそうと、不自由な身体で立ち上がる。  だが、はかされた異形のブーツにより、ニーナの足はすねから甲がまっすぐになる形で固められている。いわば、踵のない超ハイヒールブーツを履かされたような状態。  それだけでも不安定なのに、敷かれた干草は柔らかく、しかもまっ平らではない。  幼い頃から騎士修行に明け暮れ、晴れて騎士になってからも、配属された辺境騎士団では通常のハイヒールを履く機会もなかったニーナにとっては――。 「ぅあッ!?」  案の定バランスを崩しかけ、転倒しそうになった。  鍛えられた体幹と卓越した身体能力でもってかろうじて踏みとどまるが、膀胱の出口を引き締める力が一瞬緩んだ。 (しまった……!?)  決壊することへの焦り、恐れ。  しかし、なにも起こらなかった。 「ぅえ(えっ)……?」  わけがわからず、呆然として背後の鉄格子にもたれる。  そこで、水分補給の際こぼれた水で干草が湿っていたせいで、不安定なブーツの足がズルリと滑った。 「……ッ!?」  拘束された身では、体勢を立て直す術《すべ》もなく、そのままドスンと尻もちをついてしまう。  直後、肛門に猛烈な衝撃。 「ン、が……あッ!?」  目を剥いて悶絶しながら、ねじ込まれた異物が床にぶつかり、肛門を抉ったのだと気づく。  だが、その耐えがたい苦痛のなかでも、小水は一滴たりとも漏れなかった。 「ン、ぅう……」  苦悶しながら、漏らさずに済んだことに安堵する。 「ぅう……ッ!?」  苦痛が引いていくにつれ、ことの重大さに気づく。  膀胱を決壊させて当然の状況だったのに、一滴も漏れていない。 (それは、裏を返せば……)  出そうとしても、出すことができない。  それはきっと、尿道の異物のせいだ。それが、小水が漏れないよう栓をしているのだ。  股間ベルトを外して、栓を抜いてもらわなければ、排泄できない。  そうと気づいて、戦慄を覚えた。 (いつまで、私は……)  猛烈な排泄欲求に、耐えなくてはならないのか。 (そのうえ……)  問題は耐えに耐えたあと、排泄を許されたときだ。  この状態だと、栓抜かれた瞬間に決壊してしまう。それがガブリエラか9の娘かはわからないが、小水を漏らす場面を見られてしまう。 (いえ、それだけじゃない……)  おそらく肛門の異物も、尿道のものと目的は同じ。  大きいほうもギリギリまで耐えさせられるのだとしたら、その瞬間も人目に曝すことになる。 (そ、それだけは……)  絶対に、嫌だ。  加えて、抜いた栓は元に戻される。  眠らされてではなく、このたびは意識があるまま。  今の自分は、ガブリエラの神経系魔法で痛みを感じない状態、異物挿入の肉体的苦痛は覚えないだろうが、精神的な苦痛は――。 「……ッ!?」  そこで、ハッとした。 (ほんとうに、神経系の魔法をかけられているのなら……)  バランスを崩して尻もちをついたとき、どうして異物に肛門を抉られて悶絶したのか。  そもそも、なぜ小水を排泄できないことに苦悶しているのか。 (それは……)  痛みを遮断する魔法なんて、かけられていないということ。  施術するときにはかけられていたのだろうが、今はもう効果は切れている。 (つまり、私は……)  尿道と肛門を押し拡げて異物を挿入された状態で、いっさい痛みを感じていない。膣内の異物による破瓜の痛みも、その余韻すら残っていない。 (それに、おそらく……)  緩い快感を生む神経系魔法も、ほんとうはかけられていないのだ。  実のところ、ガブリエラが施術時に痛みを遮断する魔法をかけたのは、魔法刻印とピアス貫通のときのみ。  その傷を回復魔法で治療したあとは、痛覚遮断の魔法は使っていない。  3つの穴へに異物を挿入するとき、彼女が使ったのは、筋肉を弛緩させる魔法。  肛門は括約筋を弛緩させれば、拳でも挿入できるほどに拡がる。尿道はそこまで広がらないが、膀胱の出口に栓をする程度の太さなら、手技に慣れた者なら痛みを感じさせずに挿入できる。  さらにガブリエラは、膣には挿入と同時に回復魔法を使用した。  それで、破瓜の痛みもないのだ。  そして快楽を邪魔する苦痛がなかったから、ニーナは肉の刺激とオンナの本能がもたらす快感を覚えた。  とはいえ、ニーナはそのことを知らない。  ガブリエラは計算ずくでしたことだが、ニーナはそうと教えられていない。  知らず教えられないまま、耐えがたい苦痛のなかで愕然としたところで、ガブリエラが9の娘を連れて現われた。

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