ヒューマンボックス301-22 (Pixiv Fanbox)
Published:
2023-02-10 09:00:00
Imported:
2023-04
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この作品は『私立矯正学園の甘美なる罠』 https://masamibdsm.fanbox.cc/posts/4825690 と世界観と設定の一部を共有しています。
こちらが、凶悪重犯罪者護送用デパイスとして、弊社が開発したヒューマンボックス、301-22型であります。
対弾・対爆性能を初期試製品より約2倍に強化。併せて内装材の衝撃吸収性能も向上させております。
また垂直に立てたうえで下部に自律型動力キャスターユニットを装着すれば、自走させての集団護送も可能となります。
本日も弊社研究室よりこちらの御社会議室まで、被験者を閉じ込めたうえで、自走にて運んでまいりました。
それでは、蓋を開けてみましょう。
現状、被験者は厳重に拘束されておりますが、これは収納および開放時の係員の安全を担保するための措置です。各種拘束具がなくても、ヒューマンボックスにいったん収納されてしまえば、閉じ込められた者は身じろぎすらできません。
さらに、このようにネックコルセットを装着して頸椎を保護しておけば、自走集団護送時の予期せぬ事故にも安全を確保できます。
頭部前方には学生アルバイト被験者の身分証を収納しておりますが、この部分は用途に応じて違う形の収納スペースを設定することも可能です。
こちらのヒューマンボックス301-22型、1基あたりの単価は資料に記載したとおり。
20基以上の発注で、別途見積もりにて割引きさせていただきます。
なにかほかにご質問があれば――。
若者が実際に犯罪に手を染める前には、必ず予兆がある。
その予兆を敏感に察知し、矯正教育を施すことで、凶悪犯になることを未然に防ぐ。
そのことを目的に今年、矯正学園制度が開始された。
対象年齢は、18歳から22歳。
既存の刑罰や矯正の措置と違い、その者を監督する立場の人物、学生なら担任教師や教官、社会人なら上司の判断により、矯正学園送りを決定できるのだ。
もちろん、表向きは司法の手続きを踏むことになっている。だが、公的機関による本人への尋問はなく、処分は書面のみで為される。それが収容後提出されたものだとしても、書類上の不備や内容によほど疑わしい点がないかぎり、管理者の決定が覆されることはない。
そんな制度が始まってすぐ、ひとつの問題が露呈した。
それは、矯正学園送りが決定されたあと、施設まで護送する手段。
決定は絶対で、拒否することは認められていないが、対象者のなかには抗おうとする者もいた。
とはいえ、矯正学園はあくまで民間施設である。それは、決定を下した側も同じ。
既存の刑罰や矯正のための施設と違い、強制力を持っていない。民間の業務である以上、法的にも実力的にも強制力のある公的機関の助けを借りるわけにもいかない。
逮捕・捕縛には特別の資格を持つ警備員を雇えばいいが、護送の手段は各矯正学園が用意しなければならない。
そのために開発されたのが、ヒューマンボックスだ。
「ヒューマンボックスの、プレゼン用被験者になって頂戴」
私こと平賀由依《ひらが ゆい》が、大学時代の先輩、加野恭子《かの きょうこ》さんに告げられたのは、昨日のことだった。
「お願い、貴女にしか頼めないのよ」
恭子さんがそう言うのは、私と彼女が特別な関係にあるから。
それは、ただの女どうしの恋人関係ではない。特殊な性癖、いわゆるSMをベースとした主従関係。
その関係のなかで、恭子さんがもっとも好んだのが、厳重な完全拘束プレイだ。
それに馴らされた私でなければ、ヒューマンボックスの被験者は務まらない。
長時間身じろぎすらできない厳重拘束下で真の暗闇の中に閉じ込められたら、人はパニック状態に陥ることがある。
万が一、プレゼン中にそうなれば、ヒューマンボックスは危険な護送道具だという印象を、顧客に与えてしまう。
「その点、貴女なら安心して閉じ込められるの」
そう頼み込まれて――いや、恭子さんの調教を受ける身としては、頼まれなくても命じられるだけで――私はヒューマンボックスのプレゼンテーション用被験者になった。
「それじゃ、予備拘束をしていくわね」
恭子さんに言われたときすでに、私はいくつかの拘束具を装着されていた。
顔には、ハーネス式のボールギャグ。
ただし、口に押し込められた球は、プレイ用の穴空き樹脂球ではない。口中に収まりきらないほど大きいゴム球が使用された、発声を抑制するための箝口具である。
そのボールギャグのハーネスの一部を隠すように、ネックコルセット。
鎖骨のあたりから前側は顎の下半分、後ろ側は後頭部の盆の窪近くまでを覆い、首の動きを著しく制限するそれは、リードをつなぐための金具も設えられている。
足には、つま先立ちを強制するバレエヒールのブーツ。
慣れないと歩行はおろか立っていることすら困難なそれもまた、拘束具と言っていいだろう。
さらに、両手のミトン。グーに握った形に手を固定するそれは、手首部分のベルトに南京錠をかけられている。
この手の拘束具のせいで、絶対に自力で拘束を解けない状態に、私は陥らされていた。
そして、プレゼン用衣装として着用を求められた、ハイカットの競泳水着の下に穿く貞操帯も、また拘束具のひとつ。
厳重に施錠されたステンレス鋼製のそれは、私の女の子の部分を密封し、見ることも触れることもできなくしている。
私が貞操帯の存在を強く意識したとき、恭子さんが拘束用ミトンを嵌められた私の手を背中に回した。
そして、手首部分に設えられている金属製リングどうしを、南京錠でつないでしまう。
それだけで後手拘束から逃れられなくなった私の上半身に、黒革のベルトがかけられる。
胸の上側、それから下側、2本のベルトと乳房を挟んで絞り出すように、二の腕もろとも。お腹、柔らかい肉に食い込ませられながら、肘の少し下あたりで腕ごと。
きつく、厳しく。でも血流を阻害したり神経を圧迫したりしないよう、位置と強さを調整しながら締めあげられる。
もう、上半身は固められたように動かせない。
まだ拘束されていない足も、バレエヒールのおかげで走ったり飛び跳ねたりはできない。
そんな状態で、用意されていたヒューマンボックスの前に連れてこられた。
一見すると、金属製のスーツケースのような形状。
だが中央部にプリントされた文字と、そのすぐ上の収容者確認用覗き窓で、それがただのスーツケースでないとわかる。
そして蓋が開けられると、箱の枠いっぱいに敷き詰められた内装材があきらかとなり、一般的なスーツケースとの違いが明確になった。
衝撃吸収と体圧分散の性能に優れたそれは、私の体格体型に合わせて切り欠かれている。
(ここに、私は……)
嵌め込まれ、閉じ込められるのだ。
そう考え、コクリと喉を鳴らしながら、内装材の切り欠きの端に立たされる。
天井に設えられた小型のホイスト(電動のクレーン)のフックを、左腕のあたりで胸のベルトに引っかけられる。それで、バランスを崩しても倒れたりしなくなった。
そうして安全を確保したところで、脚にも革ベルトがかけられ始めた。
太ももで2箇所。さらに、すねと足首。合計4本のベルトで、脚をひとつにまとめて縛られてしまった。
もう、1歩も動けない。胸のベルトをホイストで吊られていなくても、今の私には切り欠きの段差が、超えられない大きな壁。
どのみちヒューマンボックスに閉じ込められてしまえば絶対に脱出不可能なのに、これほど厳重に拘束するのは、恭子さんが拘束フェチのSだから。
私が厳重な予備拘束を当然のこととして受け入れるのは、恭子さんに調教された拘束フェチのMだから。
あらためてそうと自覚したところで、恭子さんがホイストを操作した。
モーターが唸る音と同時に、吊りのワイヤーが緩んでいく。緩みに合わせて、私の身体が横たえられる。
そして、身体を折りたたんだ状態で内装材の凹みに収められてから、ホイストのフックが外された。
「うふふ……」
顔の前にあるはずの四角い切り欠きに私の身分証――実のところ、それは高校時代の写真を使い、架空の学校名が記載された模造品だ――を嵌め込んだあと、薄く嗤って恭子さんがヒューマンボックスの蓋に手をかけ、ゆっくりと閉じていく。
身体の左側にも内装材が触れた直後、かすかに金具どうしが噛み合う音。
だが、まだ完全に閉じ込められたわけではない。顔の横の覗き窓が、まだ開かれているからだ。
恭子さんが、そこから私の横顔を覗き込む。
ネックコルセットのせいで首は回せないから、視線だけで見ると、愛しい女主人《ドミナ》の目には妖しい光が宿っていた。
「それじゃ、しばらくお別れよ」
その言葉のあと、覗き窓も閉じられる。
そこには呼吸孔が穿たれているから、閉じられてもヒューマンボックスの中が真の暗闇にはなるわけではない。
だが蓋の裏側にも内装材が貼られているせいで、外を見ることはできない。
ただ、ぼんやりとした明かりと、かすかに音が聞こえるだけ。
かろうじて確保されている聴覚で、恭子さんが人を呼ぶ声が聞こえた。
その助けを借りて、ヒューボックスが起こされる。起こしたヒューマンボックスを持ちあげられ、動力キャスターユニットに載せられる。
そうして私はヒューマンボックスの被験体として、矯正学園の収容者と同じように、何処かへと護送されていった。
ヒューマンボックスに閉じ込められたまま、動力キャスターユニットに載せられて運ばれる。
ときおりボックスごと揺れるのは、小さな段差を超えたときか。
衝撃吸収と体圧分散の性能に優れた内装材のおかげで、不快な揺れはない。ただし、キャスターユニットにサスペンションが装備されていないのとタイヤが小径なせいで、それなりの振動はある。
とはいえそれは、あえてそうしてあるのだろう。
ヒューマンボックスは、矯正学園の収容者を護送するための装置なのだ。快適である必要はないし、むしろ護送される身の上になったことを、当人が自覚できたほうがいい。
そして護送中の身を自覚させられることは、恭子さんに調教され拘束フェチのMとして躾けられた私にとっては、別の効果があった。
拘束具で厳重に拘束されたうえで、ヒューマンボックスに閉じ込められ、身じろぎすらできない。
そんな完全拘束下で、私は護送されていく。
研究室で収納された直後より、呼吸孔の隙間から漏れてくる明かりが強くなった。同時に、そこからかすかに街の喧騒も聞こえ始めた。
研究所から、屋外に出たのだ。
私を閉じ込め自走するヒューマンボックスが、衆目に曝されているのだ。
最新型の護送装置が、広く一般に認知されているわけではない。
だが、金属製の箱には、この装置の名称が明記されている。
そのワードで検索すれば、ヒューマンボックスが矯正学園収容者用護送装置であることはすぐわかる。中に閉じ込められているのは、凶悪犯予備軍の収容者であると判断されるだろう。
そうと認識してから、硬く頑丈な金属とぶ厚い内装材ごしに、厳重拘束の身に通行人の視線を意識するようになった。
姿を見られているわけではないのに、厳重拘束市中引き回し晒し刑を執行されているような感覚に陥った。
そこから、身体の奥のほうが、火照り始めた。
貞操帯で封印されたオンナの肉に、昂ぶりを覚え始めた。
恭子さんの手で厳重な完全拘束に囚われ、妖しく輝く瞳で見つめられたときの、いつもの拘束フェチのMとしての反応。
それが、ヒューマンボックスの中でも始まった。
だがいつもなら、火照り昂ぶる肉を慰めてくれる恭子さんは箱の外。
厳重に拘束され閉じ込められた身では、自分で自分を慰めることもできない。
いや、もし拘束されていなくても、閉じ込められていなくても、それは不可能だ。
私のオンナの肉は、貞操帯で完全に封印されているのだから。
火照りと昂ぶり、それがもたらす疼きを抱えたまま、私は運ばれていく。
ヒューボックスに閉じ込められて、護送されていく。
「んふ、んふ、んふ……」
鼻から漏れる吐息も、熱を帯びてきた。
「んふ、んぅ、んん……」
熱のみならず、甘みも混じり始めた。
火照る、火照る。肉が火照る。
熱い、熱い。身体が熱い。
だが、どうすることもできない。
火照りを冷ますこともできず、これ以上高まることも叶わず、囚われの身を護送されるだけ。
至近距離で内装材を見ているしかない目が潤む。
頭がぼうっとしてきたのは、肉の火照りと昂ぶりのせいか。それとも、呼吸孔から取り込める空気が足りていないのか。
わからない。
思考能力が低下して、ものごとを深く考えられない。
いつしか、動力キャスターユニットの振動は止まっていた。立てられていたヒューマンボックスが、再び横たえられていた。
そして聴こえてくる、恭子さんの声。
そうだ、目的地に着いたのだ。そこで、恭子さんのプレゼンテーションが始まったのだ。
そうと気づいたところで、ヒューマンボックスの蓋が開かれ、火照り昂ぶる私の姿が、ほんとうに衆目に曝された。
(了)